憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

最終話 聖虹騎士ルーシー


 龍空城。
 出立するタカシとサキを見送るべく、神龍総出で、見送りに来ていた。
 国王になったアテンは相変わらず、タカシが購入した芋ジャージを着用しており、国王の証である、白い生地の滑らかなベールを、その上から羽織っていた。




「ルーシー、もう行くのか?」


「ああ、俺の故郷はあっちだからな。ま、おまえも恋しくなったら、いつでもこっち来いよ」


「うん。わかった。あたしが向こうに行ったら、ルーシーのお母さんが作った料理が食べたいな」


「わかった。そん時は連絡入れろよ?」


「……どうやって?」


「手を尽くせ」


「あ、はい」


「あの、ルーシー……だったかしら?」


「なんだ?」




 遠慮がちにタカシに声をかけたのはアリス。その横には、カーミラが立っていた。




「あの、さ、トバに帰ったら……」


「わかってる。みんなに謝っておいてほしい、だろ?」


「うん。あのときはその……、すぐに帰ってきたから、ありがとうもごめんなさいも言えなくて……ほんとはあたしも、いっしょに人間界に行きたかったんだけど……」


「大丈夫、龍空はまだ新政権が誕生したばかりだ。それも、神龍ともなると、人間界に行く暇がないくらい忙しい……だろ? わかってるよ」


「うん。ここでのごたごたが終わったら、絶対にもう一度トバに行って謝るから」


「わかったわかった。伝えとくから、そんな泣きそうな顔するなって」


「だ、だれが泣きそうな顔なのよ!」


「……私からもお願いします。私たちは人間たちに、多大な迷惑……では、済まされないことをしてしまいました。それと、一刀斎さんにも……。近いうちに、正式に龍空からの使者として――」


「わかってるわかってる。それもちゃんと伝えとくから」


「……あと、おまえも、いつでも来ていいんだぞ」




 スノがタカシに話しかけた。その顔からはすでに敵意は消え去っており、会ったときとは打って変わって、タカシに対して、優しい笑みを投げかけていた。




「あ、姉様がこんなふうに笑うなんて……!」


「なんだ、エウリー。おまえはもっと、わたしを笑わせてくれるのか?」


「い、いえいえいえ……! 滅相もない! 我はしっかり、この二人を人間界へと送り届けなければなりませんから! ほら、姉様が怒らないうちに早く……!」


 そう言うとエウリーは急いで龍化して、タカシたちに背中に乗るよう催促した。


「それ、俺が変わってもいいよ、姉さん」


「ゴーン、おまえは存分に寝ていろ」


「……と、そろそろ時間だな、世話になったよ」


「いや、それはこちらのセリフだ。感謝しているぞ、ルーシー」


 スノがタカシに向き直り、改めてタカシに感謝した。


「むーん、サキちゃんも頑張ったんだけどな~……」


「もちろん、キミにも感謝している。ありがとう、サキュバスの人」


「サキュバスの人……、なんか言い得て妙だなぁ……」


「ルーシー!!」




 タカシとサキがエウリーに乗り込もうとしたとき、アテンがタカシを呼び止めた。
 アテンは口をキュッと結んでおり、眼の端にキラキラとしたものを溜めている。
 タカシはそれに気がつくと、サキに先にエウリーに乗るように促した。




「……おいで、ドーラ」




 タカシがバッと両腕を広げると、アテンはその中へと飛び込んでいった。
「い、いままで、ありがとう……ルーシー……」
 アテンはなんとかして、震える声を絞り出した。
 タカシは何も言わず、ただアテンの頭をゆっくりと撫でた。




「さて、いつまでも国王がそんなことするもんじゃな――」




 タカシが言いかけて止める。
 タカシの視線の先、そこにいた、ほとんどの神龍が泣いていた。




「……でも、ないみたいだな。とりあえず、こっちもおまえがいて楽しかったよ。いつでも帰ってきていいから。……ま、エストリアにはいつ帰れるかわからんけどな」


「うん、うん、絶対帰る……!」


「それもそれで、ダメだろ……」




 タカシはいつまでも、名残惜しそうに抱きしめてくるアテンを、ゆっくりと引き剥がした。
 しかし、引き剥がされたアテンの鼻からは、鼻水がドロリと、タカシの鎧に付着していた。




「うげ……おいおい、俺の一張羅に鼻水の架け橋建設してんじゃねえよ……」


「ご、ごめ゛ん゛。ル゛ージー」




 アテンは泣きじゃくりながらそう言うと、ズルズルと鼻水を啜った。




「ま、まあいいけどさ……、じゃあ、今度こそ帰るわ」


「ばい゛ばい゛ル゛ージー」


「お、おう、元気でな」


「う゛ん゛」




 タカシはそう言うと、エウリーの背に飛び乗った。




「もういいの? ルーちゃん」


「ああ。……エウリー、行ってくれ」


「了解した」




 そう言うと、タカシとサキを乗せたエウリーは一瞬にして龍空上から消え去った。
 見送りに来ていた神龍たちは、しばらくその場でエウリーの軌跡を見送っていた。




「ふむ、やはりエウリーは、私と戦っていた時、手を抜いていたのか……、これはあとでキツイお仕置きが必要だな……」


「ほどほどにしておきなよ、姉さん」


「……ゴーンがそう言うのも珍しいな」


「そう?」


「ぐす……ズルズル……、よし、皆。これから忙しくなるぞ!」


 アテンが神龍たちに語りかけると、神龍たちは「はい!」と返事をしてみせた。









 人間界。トバ国。トバ城跡。
 タカシたちは、自分たちを送り届けてくれたエウリーに礼を言うと、そこら辺を散歩していたトバ皇にシノの居場所を聞き出した。
 トバ皇はシノがトバ国立大病院に収容されていると告げると、タカシたちは一目散に、シノが入院している、大病院へと向かった。
 シノは大けがを負っていたものの、奇跡的に一命は取り留めており、ベッドの上からタカシたちに弱弱しく微笑んでいた。
 タカシはこれまでに龍空で体験したことと、知ったことを、シノに話した。




「そっか。ドーラちゃんはあっちに残ったんだね。……あ、アテン様だったかな?」




「ドーラでいいですよ。あいつ、それでいいって言ってましたから」


「そっか、ふふ……、色々大変だったんだね。なんだか、前よりも疲れた顔してるよ?」


「俺は別に……それよりも、ビックリしました。シノさんが大けがをしたなんて聞かされたときは……」


「あはは……、あたしだって怪我くらいするよ。そういえば、聞いてる?」


「何をですか?」


「あれ? お父さんに会わなかった?」


「会いましたけど……あの人、国がやばい状況で、なにやってんですか?」


「散歩じゃない?」


「の、呑気ですね……」


「まあまあ、あれでもそこそこ考えてるんだと思うよ?」


「そこそこ、ですか……。あ、それよりも、話って何ですか?」


「エストリアから使者が来たんだよ」


「エストリアから……? なんで急に……?」


「王命だって。ルーシーちゃんと、さっちゃんに」


「サキちゃんにも? ……なんなんだろ?」


「王命……ですか。ちなみに内容は……?」


「『お勤めご苦労様、もう帰ってきていいよ』だって」


「おお、やったじゃんルーシー! ついに帰れるよ、サキちゃんたちの愛の巣に!」


「おまえと築いた憶えはねえわ。……にしても、タイミング良すぎじゃないですか?」


「だよねー。あのひと、こういうところ不気味だからねー」


「不気味って……、まあ、なんにせよ。帰っていいよって言われたからには、ここに残る意味はないですね。シノさんはどうするんですか?」


「うーん……、このまま一緒に帰ってもいいんだけど、こっちの医療のほうが進んでるからね。完全に治ってから帰るよ」


「そうなんですか? なんなら、俺が治癒魔法を――」


「ルーちゃん」


「なんだよ、サキ?」


 サキはタカシに近づくと、耳打ちをした。


「あれだよ、シノっちは残りたいんだよ……」


「そうなのか?」


「うん。絶対そう。故郷なんだから。ルーちゃんはもっと、そういうところ汲んであげなきゃ……」


「んー? ふたりして、なにこそこそやってるのかな?」


「あの……シノさんは、トバには残らないんですか?」


「あ、もう、ちょっとルーちゃん!?」


「あはは、残らないってば。あたし、エストリア人だし」


「それ、トバ皇が聞いたら泣きますよ……」


「ははは、そうかも……でも、ルーシーちゃんの治癒はいいや」


「聞こえてたんですね……」


「聞こえてないよ。なんとなく、内容がわかっちゃったってだけ」


「す、鋭い……」


「……それに、あたしにはまだ、エストリアでやるべきことがあるし……」


「え? なんか言いましたか?」


「え? あ、ううん。なんでもないよ。独り言。だから、治療が終わり次第、エストリアに帰るからね」


「……はい。わかりました」


「そうだ。それと、さっちゃん」


「なに?」


「あたしがいないからって、あんまりあたしのルーシーちゃんに、ちょっかいかけないでね?」


「はあ? ルーちゃんは、サキちゃんのルーちゃんなんですけど?」


「いやいや、何を言う。あたしのほうが、さっちゃんよりも古い付き合いなのさ」


「古いから~……とか関係なくね? 時間よりも濃さだから! 長持ちするより相性だから!」


「おまえは何言ってんだよ……」


「だってさー……シノっちがー……」


「ふふふ、あ、そうだ。もう準備できてるなら、港行ったら、そのまま帰れるよ」


「そうなんですか?」


「うんうん。でも、帰る前にいっちゃんと漬物ちゃんと、ロンガ君には挨拶しておいたほうがいいかもね」


「はい。わかってます。……けど、ロンガさんまだトバに残るんですね」


「まあ、早い話が駐在員だからね。聖虹騎士筆頭だとしても、それは変わらないんだよ」


「……了解です。では、シノさん。エストリアでまた会いましょうね」




 タカシはそう言って、シノに会釈すると、ふくれっ面のサキを連れて、病室から出ていった。
 その後、タカシたちはトバ皇やテシに見送られながら、船に乗り込み、本国エストリアを目指した。
 航海中は特にトラブルは起きることはなく、二週間ほどでエストリアへと到着した。
 エストリアへと到着したタカシは、早々にエストリア王に謁見の間に呼び出された。
 そこでタカシに言い渡されたのは、昇格の二文字だった。
 白銀騎士から、黄金騎士をひとつ飛ばしての、聖虹騎士への昇格。
 授かった座は、亡きデフの緑の座。
 それはタカシルーシーの年齢では、異様な早さの昇進だった。
 当然、この昇進に口を挟むものなどはおらず、タカシはエストリア国民の皆に祝福された。
 そしてここに、エストリア騎士最年少にして、最強の聖虹騎士が誕生した。

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コメント

  • 水無

    >くぁさん
    コメントありがとうございます。
    こちらの作品についてですが、当時あまり人気が伸びなかったので無理やりしめてしまったんです。本当はまだ色々と紆余曲折あったのですが、実力不足のため、中途半端のまま終わってしまいました…

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  • くあ

    いい終わり方だと思うけどルーシーの魂問題は、、、?

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