憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

尊い犠牲



 エウリーの働きにより浮島を脱出したタカシ、サキの二人は、龍化したアテンの背に乗り、預言者の待つ城へと急行していた。
 アテンの後方には、ちらほらと配下の龍たちが、付かず離れずでついてきていた。




「なんか、背後からエウリーの悲鳴が聞こえてくるんだけど……」


「エウリー、いいやつだったね……」


「サキ、おまえは会って半日も経ってねえけどな」


「エウリー……、て、どんなやつだったっけ?」


「ドーラ、おまえは気が遠くなるくらい一緒にいただろ」


「なんて冗談はさておき、エウリーが時間を稼いでいる……うん? あれは時間を稼いでいるというのだろうか?」


「知らねえよ! てか、あのエウリーの青ざめた顔、初めてみるんだけど、大丈夫かあいつ? 死なねえよな?」


「無論、無事だろうな。なんてったって姉妹だし。さすがに殺しはしないだろうけど……、どうなんだろ。半殺しくらいはされてるんじゃないか?」


「それって無事なのか?」


「うーん、昔からエウリーは、スノのやつに泣かされてきたからな~……。いろんな意味で。だから、大丈夫なんじゃない?」


「前後の文が噛み合ってねえな! 意味不明だわ」


「だいじょーぶだいじょぶ。あたしたちが預言者をぶっ飛ばしたらそれでしまいだから。姉妹だけに」


「うまくねえよ……」


「……しまいだけに?」


「すまん、意味が解らん」


「んもう、ふたりで盛り上がってないで、サキちゃんも混ぜて~」


「やめろ……! おまえはオレに引っ付いてくるな! 勝手に混ざってろ、龍の墓場と」


「え~? それって……、サキちゃんの記憶を失くして赤ちゃんプレイしろってこと? フゥ~、ルーちゃんマニアックぅ~」


「……もうおまえは相手するだけ時間の無駄だわ。無視するわ。……とにかく、あのふたりがあそこでじゃれてるってだけだろ。てか、よくよく考えてみると、なんだよこれ。おまえら神龍ってほんと適当だな」


「な、なにおう!? 真面目なやつもいるぞ! 真面目なやつも!」


「それ……、暗に自分を不真面目って言ってるようなもんじゃねえか。……いや、エウリーを除いた、あの三姉妹と、おまえだけだな……」


「な?」


「な? じゃねえよ! 数少ない神龍がふざけてどうするんだよ!」


「――して、これで戦況は五分といったところかな」


「いきなり真面目になんなよ……。だな、聞いてる話だと、俺(仮)と預言者を除いて全部で、八体だろ?」


「そうだったか? ……えーと、母様、あたし、スノ、エウリー、ゴーン、アリス、カーミラ、マシェーラ……うん、たしかに八体だな」


「その内訳はどうなってるんだ?」


「母様は戦うことができない。アリスとカーミラは人間界へ行って人間の殲滅……、エウリーはスノとお遊戯。ゴーンは……まあ、どっかでサボって適当に寝ているのだろう」


「じゃあ今は、城にはマシェーラってやつと、預言者だけってことか……」


「マシェーラはあたしが潰したから、あとはもう預言者だけだな」


「潰したっておまえ……ああ、そういえば聞いたな。おまえがここ龍空に帰ってきて、まっさきに潰したって。……おまえ、そんなに強かったのか」


「いや、本気でやったらそんなに簡単には勝てないよ」


「そのマシェーラとかいうやつは……本気じゃなかったのか? どういう意味だ?」


「ルーシーの隣にいる……、変態娘。マシェーラはそいつに似てるんだ」


「え? サキちゃん?」


「あー……なんとなく想像つくよ」


「嬉々としてあたしの体をねぶって来たところに、必殺の一撃をお見舞いしてやった。おもいきりいいのが入ったから、もうあいつは戦えないと思うぞ」


「一国の王女を容赦なく舐ってくる配下にも驚きだけど、それに容赦なく折檻喰らわせる王女にも驚きだわ……」


「シツレイなっ! サキちゃんはそんなことしないってば!」


「どの口が言ってんだ、どの口が……」


「え? ふふふ……んもう、ルーちゃんたら、そういう風に誘うようになったの? どの口って……もちろん、こっちの……お・ク・チ・だよ?」


「や……やめろォ! それを、近づけるなァ!」


「そんなこと言って……、ルーちゃん、興奮してる。くすくす……顔、赤いよ? か~わいい」


「ひ、ひとの背中の上で何をやってるんだ! おまえらは!」


「そ……それで、そいつは、死んで、ないのか……!?」


「あ、ああ……『我が龍生に一片の悔いなし』とか言って、運ばれていったから、大丈夫だとは思うけど……」


「ぐ……くっ、そ、そうか……!」


「……ルーシーは大丈夫なのか?」


「おま……いい加減、離れ……はな……はな……波ァッ!!」


「うぼォっほう!?」


「な、なにが起きたんだ!?」


「わ、わが夢魔サキュバスライフに……一片の……悔いなし……ガク……」


「変態娘ェェー!?」


「ハナハナ波をお見舞いしてやった。しばらくは起きないだろう。ドーラ、今のうちに城へ全速力だ」


「あ……はい」









 タカシたちが辿り着いた城は、タカシがエウリーと来たときよりも、シンと静まり返っていた。
 アテンが乗り込んできたというのに、衛兵一人現れないその城の様子にアテンは口を開いた。




「あ、あたしの強さに恐れをなしたか……!」


「ちがうだろ。さすがに一体もいなくなるのはおかしい。罠だよ」


「なんと。小賢しいな、預言者め」




アテンはスゥッと息を吸い込むと、大口を開けて、誰もいない城の中で大声をあげた。




「聞こえているかァッ!!」


「う……っ!?」


「今からぶっ飛ァァァァッす! 覚悟し――いあだ!?」


「バカか! デカい声出すなら、デカい声を出すって言え! 鼓膜破壊する気か!?」


「ご、ごめん……」


「いいよ」


「いいの?」


「……ほら、宣言するんだろ。言ってやれ!」


「今……か……ばす……で、覚悟……て……だ……さい」


「ちっさ」


「だって、ルーシー殴るし」


「おまえはもう少し加減を知れ。生まれたての赤ん坊だって、もうちょっと加減を知ってるわ」


「その例え、なんだかぎこちない」


「うるせえな。とりあえず、なんかもうぐだぐだだから奥進むぞ」


「待って、ルーシー」


「なんだよ」


「……なにか、近づいてくる」


「……!? なんだ? 預言者のやつか?」


「いや、この気配は――」


「あれあれあれ? なんでこんなところに元王女様現王女様モドキががいんの?」


「ゴーン……!」


「三女か……って、おまえ、囲い込みの作戦で、殲滅係に任命されてたんじゃねえのかよ。なんでまだ城にいるんだよ」


「よく見たら新入りも一緒じゃん。なにこれ? どうなってんの?」


「無視かよ……。こっちがどうなってんのか訊きたいんだけど……」


「いやあ、どうもこうも、出撃前に仮眠を取ろうとしたらそのまま寝ちゃってさ。慌てて出撃しようとしたところに、お二人さんが来たってわけ」


「なんてやつだ。それも慌ててって、絶対慌ててなかっただろ。頭搔いて、大きな欠伸をしながら歩いてたじゃねえか」


「たはは……、見られてたか、お恥ずかしい」


「……どこまで与えられた仕事に対して、怠慢なんだこいつは。エウリーの苦労が目に浮かぶ」


「……ム。おい、新入り。エウリー姉さんをどこにやった? 一緒じゃなかったのか?」


「エウリー? えっと、あいつは……なあ、ドーラ?」


「え、あ、うん。エウリーはいまはちょっと……いまのっぴきならない状況に身を置いているというか……むしろ、あたしたちがその状況に追い込んだというか、なんというか、龍生の岐路に立たされているというか……」


「……ふうん、なるほど。話が見えてきた。つまり、あれだろ。おまえたち、俺の敵だろ?」


「……あれ? え? そういう流れなのか? これ」


「これはどうやら、話を聞いてくれそうにもないな……ドーラ、すまないがここはおまえが囮になってくれ」


「え? なんで? あたし、この編の主人公的な立ち位置じゃないの? それなのになんで、変態女を抱えてクラウチングスタートの構えをとっているんだ?」


「すまぬ……すまぬ……」


「あっ、ちょ、まじで走って――ゴーン! その人止めて! あたしの代わりに残るから……!」


「………………」


「無視!?」


「神龍三姉妹の名において、ここは死んでも通さん!」


「いや、もう一人通っちゃってるんだけど……」

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