憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-
地下の天界へ
「へぇ、じゃあこのノビてるおっさんが、門番ってやつなんだ?」
「そうそう」
「ふうん、それで団子屋で、変態で、しのちーの師匠なんだ」
「元、な」
「それでそこの地面に埋まってるのが……?」
「天地分隔門」
「ほぉん……」
「興味なさそうだな」
「まーね。てかてか、サキちゃん思ったんだけどさ、その門くぐったら、死んじゃわないの?」
「え?」
「平たく言うと、あの世に行くんだよね?」
「まあ、そうだけど……確かにそうだな。おまえなんか変なトコで核心をつくな」
「えっへへー。ホメられた」
「褒めて……んのか? でも、おまえの親父さんが普通に帰ってきてるんだし、大丈夫なんじゃねえの?」
「ううん。それがね、サキちゃんのパパ、じつは死んじゃってるんだよねー」
「はあ? ……でも、いまはおまえの母親と一緒に、世界旅行の最中なんだろ?」
「うん、まあ……そうなんだけどさ……屍人って知ってるよね?」
「……おい、おまえ適当なこと言ってるだろ」
「ギクッ……!?」
「それで、引っ込みどころがつかないから、そのまま強引に話を進めようってしてるってとこだろ?」
「ギクギク……!」
「……まあ、とりあえずそういう事だ。おまえの親父さんが無事なら大丈夫だろ」
「ほんとにぃー? 怖くない? ルーちゃん、だいじょうぶなの?」
「そんなにイヤなら、ここで留守番しとくか? そこでノビてる、変態団子屋と一緒にな。言っとくけどたぶんそいつ、起き上がって、おまえの胸見たら襲い掛かってくるぞ」
『タカシさん……、またそんなウソを……。一刀斎さんて盲目じゃないですか……。』
「え? まじで?」
「まじまじ」
「それはちょっとなぁ……、この体はルーシーちゃんの為だけのものだし……」
「言っとけ……てことは、一緒に来るってことでいいんだな?」
「てかもう、それしか選択肢ないんでしょ? しょうがないよ。ルーちゃんがそこまで言うんなら、サキちゃんもついてってあげようじゃあないかね! うんうん!」
「……なんだよ。本当に嫌だったなら、そう言ってくれれば――」
「嫌なわけないじゃん」
「え」
「嫌なわけないよー。ふふ、サキちゃんは、ルーちゃんが一緒なら、どこにでも行くからって言ってなかったっけ?」
「えっと……」
「ひっどいなー、忘れてたでしょ? それかぁ……本気にしてなかった……、とか? ホントはいまだってワクワク――ううん、ドキドキしてる。ほら、触ってみて」
「や……やわらかい……」
「んもー、そういうことじゃないって、ルーちゃん。エッチなんだからぁ」
「いやいや、差し出されたらそりゃ触るだろ」
「へえ、なになに? 興味はあったんだ? こーゆーこと」
「ルーシーはないけど、オレはまあ……そりゃ……って、なに言ってんだオレ……」
「……とまあ、冗談ぽく言ってっけどさ。とにかくサキちゃんは、ルーちゃんが行くところなら、どこにでも行くからね!」
「お、おう……」
「ダメって言っても、ついてくかんなー? 覚悟、しときなよー?」
サキはそれだけを言うと、「ニシシ」と、照れ臭そうに笑ってみせた。
タカシはすこし面食らったような顔をすると、そのまま俯いて門を見た。
「も、もう、そういうのいいから……はやく行くぞ」
『ぷぷぷのぷ、なに照れちゃってんですかタカシさん。可愛い人ですね。撫でてあげましょうか?』
「テメェ……!」
『なーんて、いまはちょっと、手がないんですけどねー』
「ほらほら、早くいこーよ、ルーちゃん」
サキはそう言いながら、タカシに背中に抱き着いた。
「お、おまえはすこし離れろよ」
「ふっふーん、いやー」
「ぐっぬぬ……! 美少女同士の絡み合い……! ――尊い!」
「おまえは寝てろ!」
「いやいや、嬢ちゃん。おっさんが寝てたらだれがその門開けんだよ」
「あ、そうか。いや、でもこうやって強引に開ければ……」
「無理無理。それ開けられるの、おっさんしかいないんだぜ? 今のところはな」
「今のところはってなんだよ」
「クビになったらってことだよ。それこそ権限奪われて、ただの団子屋のおっさんになっちまわーな」
一刀斎はそうやって、ゲラゲラ笑いながら門まで近づいていくと、懐から南京錠に使うような――簡素な造りのカギを取り出した。
しかし、門には鍵穴はなく、そのカギは所在なげにフラフラと空中を彷徨っている。
「……おっさん、酔ってんのか?」
「ガッハッハッハ! まあまあ、見とけ見とけ。目に見えるモンだけがすべてじゃねンだよ。門だけにな!」
「うぜえ……」
タカシとサキの声が重なる。
しばらくして、カチャリと鍵が開く音。
やがてゴゴゴ――と、地鳴りが響いた。
山全体を揺るがしているような、大きな地鳴り。
その音とともに、門がスライドするように開いていく。
「そうら、開くぜ――」
門の中は無。
闇とも漆黒ともとれない、音すらない世界。
ただの無。
そんな世界が、タカシとサキの足元には広がっていた。
その世界を前にして、タカシとサキが息をのむ。
門は開ききったのか、その動きをピタッと止め、地鳴りも鳴らなくなった。
「ほぅら全開だ。これで行けるぜ」
「あ、ああ……、サンキューな」
「おうおう、いっちょ前に緊張してんのか?」
「多少はな」
「心配ねーッて! 嬢ちゃんならなァ! ドンと胸張って気張れや! ……そっちの巨乳の姉ちゃんも――な!」
一刀斎の魔手がサキの胸部に伸びる。
しかし、その手は寸でのところでサキの手に阻まれた。
サキは一刀斎の手をひねり上げると、それを背中に回し、ギリギリと締め上げた。
「うん、おっさんもね」
「いででででででで! なんなんだこの力……!」
「言わんこっちゃない……そういえばこいつ、あのデカいトロールを、素手でボコボコにしたことがあるんだったな」
「あれ? サキちゃんそんなことしたっけ?」
「忘れたのかよ……てか、おっさん。目見えねえのに、よくサキが巨乳だってわかったな」
「ぐぐぐ……そ、そりゃ、さっき嬢ちゃんが……言ってたから……じゃねえか。それと……オーラだよ。オーラ。巨乳娘には巨乳のオーラが……貧乳には嬢ちゃんみたいな――」
言いかけて、一刀斎の体が高く宙を舞った。
タカシは一刀斎の顎を掌底で、下から強く打ちぬいていた。
「し、しまった! 何やってんだオレ!?」
『おお! 強く念じたら、動きましたよ。私の体!』
「おまえかよ……って、どういう原理だよ」
『うーん、これぞ信念のなせる業……ですかね?』
「お道化るな。はぁ……まあいいや。門も開けてもらったし。このまま気絶してもらってたほうがいいか」
「んー? ルーちゃんは貧乳なの、気にしてるの?」
「い、いや……オレはべつに気にしてないんだけどな……」
「? へえ、そうなんだ? でも、別に気にしなくてもいいと思うけどな。それに、貧乳は貧乳でも、ちゃんと需要あるしねー」
「……だってよ?」
『余計なお世話です。それに、これはまだ発展途上なだけですから!』
「んー……まあ、たしかにな」
『ああ! ちょっと! 何思い出してんですか! この変態! 変態赤髪美少女!』
「……アンじゃないけど、そのツッコミはどうかとおもう」
「そ・れ・に、サキちゃんは、どんなルーちゃんだって、愛すからね! 胸が貧乳でも、股間からナニが生えていても……あれ? なんなら、生えてるほうが――」
「も、もういい。わかったから。……とにかく、もう行くぞ。時間がないんだよ。トバ皇も言ってただろ」
「おっとと、そうだったね。ルーちゃんの大切な友達、助けないとね」
「あのな……サキ、そのことなんだけどじつはドーラは――」
「さあさあ! はりきって行こー!」
サキがタカシの背中をドンと押す。
タカシは目を点にしながら、無の世界へと落ちていった。
サキも口を閉じ、鼻をつまむと、タカシの後を追うようにして、門に飛び込んだ。
「……ありゃりゃ、もう行っちまったのかい」
一刀斎がムクりと起き上がると、門の傍まで行き、門を見下ろした。
「うーん、こりゃクビかもしれんな、おっさん。いまのうちに団子屋頑張っとくかな……」
一刀斎はそうぽつりと呟くと、門を閉じ、その場を後にした。
門は一刀斎がいなくなると、まるで最初からそこに門などなかったかのように、消えてしまった。
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