憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

驚異の慎ましさ



「ぶわーーかめェ! 狙い通りに魔法陣に入りやがって!」


「ぐっ……ぬぬぬぬ……!!」


『……へ? 魔法陣? そんなのいつ仕掛けてたんですか?』


「あ? んなもん、最初からだよ」


『最初って……、もしかしてあのくるって回った時ですか?』


「ああ、あの時に仕掛けてさせてもらった。そこからは追い込み漁の要領だ。いかにその魔法陣に追い込むかって話だったんだが……、あっけないほど余裕だったな。おっさんってほんとにシノさんの師匠か? 迂闊すぎませんかね?」


『や、やめてあげてくださいよ、タカシさん!』


「さてさて、おっさん。どうだ、逃げられねえだろ? 名前の通り、それは炎の牢屋だ。俺が出そうとしない限り、おっさんはそこで永遠に燃え続ける。骨になって、灰になって蒸発しても、オレが止めない限りはずっとだ。わかったらさっさと、門を開いて――」




 一刀斎は立ち上る火柱の中で、スッと手のひらをタカシに向けた。




「な、なんだ?」


『もしかして師匠さん、魔法使えるんじゃ……』


「くそっ、まじか! じゃあもっと逃げられねえように、牢の火力を上げ――」


「止めておけ」


「あ?」


「止めておくんだな」


「な、なんでだよ。なんでこの状況で、おまえがオレに指図してんだよ!」


「今すぐ止めろ。これ以上やると、死人が出る。これは――警告だ」


「は……はぁ? オレが、おまえに殺されるってのか? この状況で? ふざけんじゃ――」


「勘違いするなよ小娘ェ!!」


「ッ!?」


「いいか、このまま続けたら……死ぬのは、この俺だ」


「やーやーこーしいわ!」




 タカシは全身で思いきりツッコむと、さらに獄炎の牢の火力を上げた。




「ぐうおおおおおおおおお!? あっっっっっっちぃぃぃぃぃぃ! やめろ、やめろって嬢ちゃん! 死ぬ! 焼け死ぬ! まじで死ぬから!!」


「いっぺん死ね! 本物の番人なら、もっかい戻ってこれるだろ! だからいっぺん死んで戻ってこい! そんでもっかい殺してやる!」


「無理だッての! ンなの、職権乱用でそれこそ首斬られるわ! いろんな意味で!」


『タカシさん……、そろそろ……』


「ハァ……ハァ……ちっ」




 タカシが指を鳴らすと、一刀斎の周りの炎が一瞬で消え去った。




「あちちちち……、ったくよ、最近のガキどもは加減ってモンを知らねえ」


「うるせーよ、おまえだって殺す気で来てただろうが!」


「そりゃそうさ。自分より格上のヤツと殺り合うンだぜ? 本気出さねーと実力を計るどころか、こっちが殺されちまわーな」


『か、格上? この人、シノさんの師匠だった人ですよね?』


「どーせ、斬り合った感じから察するに、いまはシノさんのほうが強いんだろうけどな。おおかた団子屋とかいう世俗に浮かされてたんだろ。餅は餅屋に、団子は団子屋に、殺し合いは剣士に。それが筋だろ」


「言うねェ。あんまりボロクソに言ってくれると、パリーンっていっちゃうぜ? パリーンって。おっさんこう見えて、ガラスハートの持ち主だからな? ……つってもま、今だったら純粋に姫のほうが強いってのはあるわな。もうおっさんじゃ、あの姫さんにゃ勝てねえよ」


『ま、まじなんですね……。いまの見てても、一刀斎さん、相当強い部類だと思うんですけど……』


「いや、実際かなり強いよ。それでもオレの足元には及ばねえけどな。でも、それと同時にシノさんの足元にも及ばねえ」


『え? ……じゃあ、シノさんってタカシさんと同じくらい強いんですか?』


「どうなんだろうな、あの人が本気を出してるとこ見たことねえし……というか、あの調子じゃ、これからも見ることはなさそうだけどな……」


『そう……だったんですね……タカシさんってそんなに強かったんだ……』


「そっちかよ! オレを褒めろよ!」


『よいこよいこ』


「……バカにしてんな?」


「ハッハッハッハッハ! そんなに貶されたら流石に、へこむ!!」


「さあ、もういいだろ。門の場所を教えてくれ、おっさん」


「ん? ああ、門ならもうあるぜ、嬢ちゃん」




 一刀斎はそう言うと、自分の足元を指さした。
 タカシが先ほど魔法陣を仕掛けていた場所――そこに雪と、雪解け水にまみれた門が埋まっていた・・・・・・
 それはとても大きな――それでいて、相当に頑丈そうな造りの大門だった。




「おま……おっさん、最初からこれを狙ってたのか……?」


「まァな。嬢ちゃんの感じからして、魔法を使うタイプってのはわかってたからな。あとはうまく挑発して誘導させてやれば、この通りだよ」


「……ルーシー、前言撤回だ。このおっさんかなりやる――」


「……ふぅぅ……たまたま足元に門があってよかったぜ……これでなんとか面目が保てたな」


「うおおおおい! おっさん! 聞こえてんだよ! きーこーえーてーんーだーよー! ……ルーシー、前言撤回の撤回だ。あのおっさん、ただの刀を振りまわすヤバいおっさんだ」


『ええ……最悪じゃないですか……』


「まあ、ともかく、ここからさきは今以上に用心するこったな。おっさん以上に性格に難ありのやつがいるからよ」


「わかった。……て、ん? ああ、そいつらにはもう会ったよ」


?」


「あれ? ちがったか?」


「……まあいいや、おっさんの仕事は終わったからな。帰って団子粉でもコネくり回しとくわ」


「お、おう……まあ、がんばって……とと、せめて門開けてけよ」


「おっと、そうだったな。忘れてたぜ。つい必死になっちまってな」


「そうだ。あと、サキを見てねえか?」


「サキ……誰だいそりゃ?」


「ああ、なんかこう短髪っつーか、ボブで胸とかデカいんだけど……て、外見言ってもしょうがないか。この山でオレ以外のやつを見なかったか?」


「いいや? 見てねえな。そいつぁ嬢ちゃんのツレかい?」


「ツレっていうか、部下っていうか……、まあ、知らないならいいか」


「いやいや、それでおっさんが『はいそうですか』って無視できるわけねえだろ。その娘が来るまで、ここは開けねえぜ?」


「あ? なんでだよ」


「なんでもかんでも人に尋ねるのは感心しねえな、若人よ。たまにはおつむヒネってよーっく考えてみな? 端緒ヒントはおっさんの職業だぁな」


「……もしかして、門番はひとりひとりに試練を課さなければいけない、的な?」


「お、近ェな。正解は、団子屋は巨乳に吸い寄せられるってことだ」


「近くねえし! おもいっきりおまえの、一個人としての趣味趣向じゃねえか!」


「甘い、甘ェな! いいか嬢ちゃん、団子屋はな。いかに娘っ子の乳の感触に近づけるかが、腕の見せ所なのよ。団子粉の質、水の量、こねるときの力加減、時間。全てがかみ合って、そこではじめて極上の乳ができるんだよ!」


「団子じゃねえのかよ……」


「いや、俺たちゃ団子屋はな、団子をつくってるんじゃあねェんだ……、乳を創造してンだよ! 乳を作るその過程! その過程に団子がある! そしてその団子がたまたま食えるから、店で出してンだよ! いいか、おまえら客が団子だって思って食ってるあの丸っこいいプルプルしたやつぁな……、乳、なンだよ……!」


『サイッテー……タカシさん、こんな変態放っておいてサキさんを探しに――』


「お、おお……、おっさん。すげェや。あんたが……あんたこそがプロってやつだよ……」


『タカシさん!?』


「感服したぜ。人間そこまで、乳に情熱を傾けることができんだな……!」


『え、なに感動してんですか? 軽蔑さえすれど、感動する部分なんてなかったですよね?』


「バカヤロイ!! 感動する場面ばかりだろうが! むしろ感動の塊だったろうが!」


『えぇ……』


「……いやなに、そこまでに至る道のりを考えてしまってな……、さぞや想像を絶する孤独な戦いだったに違いない」


「おお! 嬢ちゃん、女のあんたが分かってくれるってのかい?」


「ああ、わかる。わかるぜ、おっさん! おっさんはこれからもその道をひた走れ!」


「おうよ、ありがとうな、嬢ちゃん! ……おお!? 来た! 来たぞ! インスピレーションが湧いてきやがったぜ! 次のテーマは『慎ましさ』だ」


「そ、そいつはいったい――」




 不意に一刀斎はの手が伸び、タカシの控えめな胸部をふにふにとまさぐった。
 タカシは呆気にとられたような顔で、しばらくその様子を眺めていたが――


 ドガン!!


 骨と骨とが激しく激突する音。
 タカシはその握りこぶしで、一刀斎の前頭葉をへこませた。




「な、なにを……!? 賛同してくれたんじゃ……」


「それはそれ。これはこれ。変態野郎にはゲンコツ。まあ、これで済んでよかったと思えよおっさん。時と場合によっては裁判ものだからな」


「そ、そんな……ガク……」


「だいたい、なんなんだよ慎ましさって。ちゃんと成長してきてるよな?」


「わー! わー! やめてくださいよ! なにやってんですか! だから、軽々しく触らないで! あーもう! 殴れるならわたしも殴ってやりたいです!」


「さて、じゃあサキを探しに――」


『あ、あれ? タカシさん、前から歩いてきてるのって――』


「サキ……だな」

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