憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

龍空へ



 トバ城――というよりも、その残骸。
 月夜に映し出される天守閣はもはや、屋根の部分を残すのみとなっていた。
 トバ皇はそこで、その頂にて、どっしりと腕組みをして立っていた。
 背後の大きくかけた月が、トバ皇の表情に陰を落としている。
 タカシ、サキ、シノ、テシの四人は、これに向かい合うようにして、地べたに座っていた。




「――して、此度の顛末を聞く限りだと、どうやら余の城をこのような瓦礫の山にしたのは、龍媒された神龍ということだったな。ルルーシーよ」


「はい。気がついたら・・・・・・城が熔けていまして……、自分が気づいた頃にはもう……やつらを必死に止めようとはしたのですが……、力及ばず……! 無念に他なりません!」


「ふむ、ここはおまえの無事を喜ぶべきだな。運がいいのか悪いのか……、兎にも角にも、あの中からよく生き残った。誉めて遣わす」


「おお、ありがたき幸せ」


『……よくもぬけぬけとそんな嘘がつけますよね。今回は奇跡的に被害者がいなかったからよかったものの、それでも他国の城なんですからね? そんな考えなしにバンバンバンバン失われた魔法っての撃ってたら、いつか後悔しますよ。わかってるんですか?」


「……エストリアの城なら良いって聞こえるな、それだと」


『な、ちがいますよ! なんでそうやってすぐ、人の揚げ足を取ろうとするんですか! この妖怪揚げ足取り!』


「無視無視。――それと、重ねて申し訳ありません、皇よ。白天の宝石、奪還に失敗しました。これでこちらから龍空に行くのは絶望的かと」


「白天の宝石……? なぜ部外者であるルルーシーがそれを知っている?」


「お……っと」




 タカシは唖然とした顔で、テシの顔を見た。
 テシは苦虫を嚙み潰したような顔になると、皇に向き直った。




原来如此なるほど。情報源は貴様か、与力の少女」


「も、申し訳ないのじゃ、皇よ。口が滑ってしまって……つい……」


「フフフハハハハハ! なるほどなるほど、そういうことか。うむ、仕方がなかろう。そういう事情であれば、こちらとしても、これ以上追及することはせぬ。面をあげよ、気にするな」


「あ、ありがとうございます……じゃ」


「だが、与力の少女よ。貴様のところには、二度と重要な情報が行かぬと心しておけ」


「うう……、やはりそうなるのじゃな……」


「お父さん、それはあたしが強引に口を割らせたからなの。いっちゃんを責めないであげて」


「我が娘よ。余と二人きりの時にそういう口調はいいのだが、さすがに……こういう場ではもうすこし、分別あるというかなんというかな……おまえももうわかるであろう? もうすこし弁えた口調があるだろう」


「は?」


「はっはっは! なんでもありません。……この件は不問とする。喜べ与力の少女よ」


「あ、あんまり手放しでは喜べないのじゃが……、この場合はどちらに礼を言えばいいんじゃろうか」


「もちろん、余だよ!!」


「あ、ありがとうございます……トバ皇……?」


「よい! さて……白天の宝石がないとなると、やはり当初の作戦のままでいかねばならぬのだろうな。後手後手に回るのは不本意ではあるが、確実にあの龍共を対処していけば問題はないだろう」


「あ、国宝の意味について知っておられたのですね」


「いや、つい先ほど聞いた。まさか国宝にかような使い道があろうとはな。あやつめ、隠していたのはこのことだったか……」


「あやつ……?」


「なに、そこな夢魔サキュバスの親父のことだ」


「お、なになにー? パパがどうかしたの?」


「ぱ――パパ……!? おい貴様、我が娘と年のころはそう変わらぬように見受けられるが……?」


「どうなんだろ? 同世代ではあるけど、サキちゃんのほうがちょっと年下かもね。よくわかんないけど」


「…………」


 トバ皇は期待のこもった眼差しでシノを見る。


「いやいや、あたしはそういうの呼び方はないから」


「う、うん、知ってた。……では、軽くだが、作戦について温習しておく――」


「問題ありません。この雨ヶ崎紫乃――誠心誠意全身全霊を以て、鳥羽国の為、此の龍殺しの剣を振るいましょう」


「すごく嬉しい。けど、親としてはなんとなく複雑な気分……」


「言うとる場合ですか……」


「さしあたっては、シノにロンガ、そしてルルーシーの三人を主軸に据え、対龍作戦を組み立てていく。各々命令系統の円滑化の為――」


「皇よ、すこし、自分からよろしいでしょうか?」


「……アレだな。余は最近よく発言を遮られるな。どうなっとんだマジで。威厳とか、感じない?」


「え? あ、じゃあちょっと自重しておきます……」


「よいよい、冗談だ。なんだ、ルルーシーよ。申してみよ」


「その……、自分が龍空へ赴き、アイツらを根絶やしにするというのはどうでしょう」


「さて、城の修繕費はエストリアの大猩猩ゴリラに請求するとして、これから龍共と戦争するのにあたって拠点がないというのは、兵の士気に必ず影響してくるな。どうしたものか……簡易的な要塞を仮設をするのもいいが、それではやはり――」


「き、聞いてください!」


「いいかルルーシーよ。それができるのなら、おまえを作戦に組み立てたりはしない。白天の宝石がなき今、そのような、妄言甚だしい発言はただちに取り下げて然るべき――いや、待てよ」


「どうかなさいましたか?」


「ふむ、おまえの言う通りだ。ルルーシーよ、おまえには遊撃部隊を編成し、龍空をかき乱す役割を与える」


「ほ、ほんとですか?」


「なに、おまえが考えなしに、迂闊な発言をする人種ではないことくらい余にもわかる」


「で、では?」


「許す。許可しよう。ただし、こちらとしてもこれに関し、一切の責任を持たないこととする。これはつまり、おまえが死のうが蒸発しようが、関与しない、ということだ。それでよいな?」


「ちょっと、お父さん」
「皇よ、なにを考えておられるのじゃ」


「――はい。それで十分です」


「よろしい、その覚悟、しかと受け取った。……では、その策とやらを話せ」


「え?」


「関与しないとは言ったが、関知しないとは言っておらぬ。こちらとしても、おまえがどのように、あの憎き爬虫類共をかく乱するか、気になるのでな」


「……じつは――」




 タカシは皇相手に語った。
 自分が神龍三姉妹に誘われたこと、そしてその際に聞いた白天の宝石がただの通行証にすぎない事、そして、龍の爪を託されたこと。
 だが、タカシは言わなくてもいい情報――つまり、自分にとって不利になる情報は一切話さなかった。




「――というわけです」


「ふむ、妙な話ではあるが――その手に持っている禍々しい爪が証拠というわけか。どうだ、シノ? それは本物か?」


「はい、間違いないかと」


「さすがドラゴンスレイヤー……わかるもんなんですね」


「ううん、適当」


「うおい! 皇よ、自分で言っておいてなんですが――」


「いや、最早それが、本物の龍の爪であってもなくても、どうでもよい」


「えぇ……」


「あいわかった。ときにルルーシーよ。貴様は何処からその門に行くのか、わかっておるのだろうな」


「龍空というからには、やはり空からですか?」


「呆れたものだ。前言を撤回する。おまえはときに考えなしに突っ込むバカのようだ。……まったく、おまえを見ていると、あの忌々しい勇者様を思い出す。なぜだろうな」


「す、すみません」


「よいか、ルルーシーよ。龍空――つまり、天界への入り口はこの地上にある」


「地、地上に、ですか?」


「地上、というのは些か語弊があるやもしれぬな……、ふむ、言い換えよう。山だ」


「山……ですか……そこに、天に繋がる階段のようなものが……」


「いま思い出したが、勇者の奴も其処へ赴いていたことを失念していた。その山は此処より遥か北にある」


「ではそこへいけば、宝石無しでも天界へ行けると……?」


「そうだ。いや、そうだとおもう・・・。なにせ、実際に行ったことがないものでな。確証がない。ここで奴の話を聞ければよかったのだが、幸いにもここに奴はおらん」


「幸いにもって……」


「さらに、其処はこの人間界、地上世界とは違い、時間の概念というやつも、曖昧模糊としているのだそうだ。勇者が天界に行って帰ってきたのは時間にしてほんの数分。ゆえに、あのときはあいつが何をしていたかわからなかったが……、なるほど、そういうことだったのか。ただ……」


「ただ……?」


「あのときのあやつは、白天の宝石を持っていたな」


「そ、そうだったんですね……」


「前回とは勝手が違うということだ。なにせ、貴様は所謂向こうにとって異分子イレギュラーなのだからな。十二分に留意せよ」


「はい。それはもう、十分に」


「よいよい。では、早々に出立の準備をするがいい」


「もう、ですか?」


「無論だ。今まさに、この刻に攻め込まれてもおかしくない状況なのだ。そのような中、このように悠々と話しているだけでもすでに愚策。先手を取れるのであれば、これを取らぬ理由がなかろう。その分、ルルーシーには期待しておる。関与はせぬが、応援くらいはしてやろう」


「ありがとうございます」


「よいよい、畏まるな。では、庭にある音速飛行ジェット機に乗るがよい」


「はい、わかりまし――へ?」

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