憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-
白天の宝石
「くっ、そいつをオレに近づけるな……!」
トバ城客間、ロンガの部屋。
部屋は和室を無理やり洋風にしたような部屋になっており、畳の上には簡素なベッドが置かれていた。
ベッドにはタカシ、シノ、テシの三人が詰めて座っており、あぶれたサキはちょこんとロンガの横にいた。
ロンガはサキから距離を置こうとするが、サキはそれを面白がってか、すこしずつ、じりじりと近づいていっていた。
「ぷぷぷ、エストリア最強騎士さんともあろうお方が、ディーティーみたいな反応してるよ。てか、ぶっちゃけディーティーっしょ。ロンガっち」
「くっ、ロンガっち……だと……?」
「やめろサキ。失礼だろ」
「やー、だってさっきからなーんかソワソワしてっしさ。ま、可愛い女の子四人も集まってるしね。しゃーないか。ディーティーさんには刺激が強いんじゃないかなってね」
「やめろっつったろ。シノさんの二の舞になりたいのか」
シノは耳まで真っ赤にしながら、ベッドの上でただじっと俯いていた。
「シノさん、酔いは覚めましたか?」
「わ、わざわざ訊かないで……」
「だーいじょうぶだってば。サキちゃんシラフだし。てかサキちゃん、ザルだしね。いくら飲んでも酔わないんだぜ?」
「……まあ、おまえに限って言えば常に酔っ払ってる感じだもんな」
「ふぁー! なにそれ、ひどっ! ……けど感じちゃうっ」
「アホか」
「ふっ、こんなところで和むな。まずはオレの話を聞け」
「そ、そうでしたね。それで、神龍というのは?」
「最初に断っておく。神龍に関してはオレも詳しいわけじゃない。しかし、この現状については少なくとも、おまえたちより詳しいだけだ。それを踏まえたうえで話を聞け」
「わ、わかりました……」
「…………」
沈黙。
ロンガの部屋内に、空白の時間が出来上がる。
シノを除いた女子三人が、怪訝そうに互いに顔を見合わせた。
ロンガは無表情で腕組みをしながら、胡坐をかいている。
「あの?」
「くっ、何から話せばいいのか……、全くわからん」
「は?」
「すまないが、そちらから質問してくれないか」
「えっと……?」
「答えられるものなら、答える。答えられない、もしくは知らないものだったらそう言う」
「め、めんどくさ……じゃあ、一番訊きたいことを訊きますね。……神龍――つまりドーラのところに行きたいんですけど……。あいつ、いきなりどこかへ消えて……、それに、気配を探ろうとしても全く感知できなくて……」
『え? タカシさん、そんなことできるんですか?』
「ああ……、ていうか山賊のアジトで捕まった時、ヘンリーを監視してた時のアレだよ」
『ふぅん、でもそれじゃあ、なんでドーラちゃんが付いてきてたことに気づかなかったんですか?』
「言ったろ。大雑把な状態しかわからねえって」
『ああ……、そういう事だったんですね……。でも、その反応がないってのはどういうことなんですか?』
「そいつがあり得ないくらい遠くにいるか、もしくは死んだか、だ」
『ちょ、ちょっと、あんまりそんな不吉なこと言わないでくださいよ』
「狙って言ってんじゃねえよ。オレはただ、効果を説明しただけだ」
「ふっ……もう、いいか?」
「あ、はい、なんかすみません……」
「ロンガっち、気にしなくていいよ。ルーちゃんは独り言が多い系女子だから。気にするほうが野暮ってもんだよ」
「なんて不名誉な括りにぶっこんでくるんだ。せめてもうちょい言い方をプラスな方向に持っていってくれ。なんかこう……なんかあるだろ」
「うーん、……電波受信系バイオレンス女子?」
「独り言系でお願いできますか」
「ふっ、おまえらと話していると、話がまったく前に進まんな……」
「あ、ごめんなさい。今度こそ大丈夫です」
「神龍の……おまえの強敵の場所についてだったな」
「うざ……。はい」
「まどろっこしいから結論から言おう。オレたち人間がその場所に行くことは不可能だ」
「……へ?」
「ああ、無理だ。ただし、生きている限りはな」
「す、すみません。言っている意味がちょっとわかんなくて……」
「ふっ、やはり情報不足か。……くっ、説明してやるか」
「イラッ」
「いいか、この世界はオレたちが住んでいる地上世界と、その他にも世界があるんだ」
「そ、それは一体……?」
「天界だ」
「天界って……」
「そう、そこにいるサキの父君が以前、魔王討伐時に行ったことがある世界だ」
「えっと……?」
「あ、ロンガっち、ルーちゃん知らないんだよ。パパたちの話」
「くっ、なんということだ。あの冒険譚をか……!」
「ごめんなさい。……やっぱり有名なんですよね?」
「ふっ、まあいいさ。だがイチから話してやるのも時間がかかる。だから、かいつまんで要点だけ話してやろう。地上世界にもいくつかの国が分かれている通り、天界にも国――というよりも、区分が大きく分けて三つに分けられている。神々が住んでいる神界、神龍たちが住んでいる龍空、そして生前、悪人ではなかった人間が集まる天国。それぞれは絶対的に不可侵で、それぞれはそれぞれとは決して干渉しない。勇者はそこへ、とある理由から訪れたことがある。詳しくは今度出版予定の、勇者譚にて記されている。ちなみに、現在はトバでも予約可能だ」
「わ、わかりましたから……プロモーションしないでください。……ということはオレたち、生きている人間がその龍空にいくのは――」
「ああ、そうだ。死ななければいけない」
タカシが生唾を飲み込む。
「うわぁ……まじ? ……でも、あれ? サキちゃんのパパ生きてんじゃん。あれって幽霊ってやつ?」
「ああ、ここからが本題だ。じつは天界へ行く方法はなくはないんだ」
「あ、あるんですか!? ……でもさっき、シノさんのお父――トバ皇は知らないと」
「それもそうだ。実際天界へ行ったのはサキの父君、ただひとりだけなのだからな」
「サキのパパだけ?」
「そうだ。じつはこれは言わないでおこうと思ったんだが、サキの両親はいま、世界を旅されているのだろ」
「うん。けっこう長い間、旅に出てるね。新婚旅行ができなかったからって言ってた」
「その途中、ここ、トバにも寄っていたんだ」
「へぇ、そうなんだ? 元気だった?」
「ふっ、そうだな。お二人ともご健在だった。そしてその折、この話を聞いたのだ。つまりこの話はサキ、おまえの父君からの経験談だ」
「でも、なんでパパはロンガっちにそんな話をしたんだろ?」
「――これはオレの推測だが、おまえの父君、勇者殿はこの状況を予想していたのだと思う」
「予想? ドーちゃんがトバに来て、神龍としての記憶を取り戻して、世界を滅ぼそうとしてること?」
「いや、そこまで具体的なことではないだろうが……でも、大まかなところとしては、そういうことだろう」
「まじ? じゃあパパは世界がやばい状況かも知れないのに、それを放っておいてるっていうこと?」
「あくまで、オレの予想だ。あまり曲解するな」
「……それで、サキの父親はどうやって天界へ行ったんですか?」
「天界と地上世界の間には境界がある。いわゆる門のような存在だ」
「門……ですか? ということは、その門を開ければ……?」
「ああ。だが、事はそう簡単にはいかん。こういった類の門というものには必ず門番がいる。天界と地上世界をつなぐ門も然りだ」
「んじゃあさ、その門番をぶっ倒したらいいんじゃん?」
「いや、その必要はない。というよりも、ぶっ倒してしまったら生者と死者の境が消え、世界が混沌としてしまう。それを管理するのも門番の仕事、というわけだ」
「ではどうすれば……?」
「通させてもらえばいい」
「そ、そんなに簡単に通してもらえるんですか?」
「ふっ、そうだ。簡単だな……。ただし、通行証を持っていれば、の話だ」
「通行証……ですか」
「ああ、それがあれば問題なく通してもらえるだろう」
「では、その通行証はどこで?」
「白天の宝石――たしか、トバの国宝だったな」
「シノ……さんは半分放心状態だし、テシはその宝石について、なんか知ってるか?」
「もちろん知っておるぞ。ロンガ殿の言う通り、白天の宝石はトバの国宝じゃ。しかし……」
「な、なんだよ」
「じつは最近、その宝玉が盗まれてしまっての……」
「ぬ、盗まれたぁ!?」
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