憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

神龍の目覚め



 トバ国城下町――団子屋。
 その店の主人が、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。
 原因はドーラだった。
 ドーラはそこで数えきれないほどの団子を、ものすごい勢いで消費していた。
 真っ赤な唐笠の下で、もっちゃもっちゃと団子を咀嚼する姿はまさにハムスター。
 両頬はパンパンに張り詰めているが、四、五回咀嚼すると、それらは全て胃の中へと流れていった。




ふはいふはいうまいうまい! もっほもっへひへもっともってきて!」


「あのなあ、嬢ちゃん。いくら姫さんにお代はつけとけっつってもな、限度ってもんがあらーな」


ふふふぁいふぁーうるさいなー


「それにな、たとえ姫さんと仲が良いとはいえ、人様に迷惑かけるもンじゃねえぞ? 親しき中にも礼儀ありってな」


「……んぐ、もぐもぐ……ごっくん……わかった」


「お、なんだい聞き分けがいいねぃ。……それにもう、どのみちうちには団子は残ってねえしな。これ以上食いたいんなら、べつのところへ行きな。もちろん、自分の銭でな」


「そこいったら、なんかくえるのか!?」


「そうさなぁ……、銭さえありゃあな。けど嬢ちゃん、どうせ銭なんか――」


「よし、じゃあそこへいこう。じゃあなおっさん。うまかったぞ! ありがとな!」


「お、美味かったか……。へへっ、毎度ありー……って、おいおい嬢ちゃん嬢ちゃん」


「なんだ? もしかしておっさん、まだダンゴかくしてるのか?」


「もうねえよ。……嬢ちゃん、あれだろ? 異国から来たんだろ?」


「イコク?」


「外国からってことだよ」


「おお、おっさんよくわかったな。あたしはエストリアってところからきたんだ」


「なぁに、トバにゃそんなに団子を珍しがって食うやつぁいねえからな。それにしても、エストリアときたかい。そりゃまあ……ずいぶん遠くから来たもんだな」


「まあな。ルーシーにみつからずにここまでくるのは、たいへんだったからな」


「ほうほう。ルーシーってやつのことはよくわかんねえがよ……、嬢ちゃん、どうしてまたこんなトバなんかに来たんだい? たしかにトバじゃ良い鉱石が掘れるが……、嬢ちゃんにゃ石っころなんて食えねえモン、興味ねンだろ? 他は……技術目当てってわけでもなさそうだしな。おっちゃんにでも会いに来たかい?」


「そんなわけないだろ。だいたい、おっさんが誰か知らないし」


「……そうかい」


「理由はな、なりゆきってやつなんだ」


「ほぉ、こいつぁおでれーた。その年で成り行きで旅するたぁ、なかなかの大物じゃねえの」


「ふっふっふ、そうだろそうだろ。もっとほめてもいいんだぞ?」


「そうだ、成り行きついでにどうだい? このままトバ観光でもしゃれ込むかい?」


「かんこう? おっさんといっしょにか?」


「はっはっは! おじさんとじゃ嫌かい」


「うーん、べつにいいけど……」


「そうかいそうかい。だけどおじさんにゃ……、やらなきゃなんねえ仕事があるからな……」


「ム。なら、なんでさそったんだ」


「誘ってはいねえさ。提案だよ提案。観光したらどうだいってな。……それに、こういうのは一期一会って言うだろ?」


「むー、わからんぞ」


「あー、つまりだ。もうトバには来ねえかもしンねえから、今のうちにトバを堪能しておけってこったな」


「なんで?」


「なんでってそりゃ……思い出作りとかじゃねえか? それに、せっかく外国まで来ておいて、特になんもしねえって、なんかもったいなくねえか?」


「ふぅん、ビンボーショーなんだな、おっさんは。あたしはきにしないぞ」


「なっ!? ……ハッハッハ! 言うじゃねえか、お嬢ちゃん。だよな、外国に来てまで、無理してあれこれする必要はねえわな! 自分のやりたいようにやりゃあいンだよ! こりゃ一本食わされたな!」


「ふっふっふ、まいったか」


「参った参った。おっちゃん感服だわ。トバの名物を見てほしかったんだがなぁ……、そんなこと言われたら、もうなんも言えねえわ」


「メーブツ? なんだそれ?」


「うん? 気になるかい?」


「きくだけきいてやる」


「おう、よく聞いとけ、『昔々あるところに神龍――』」


「なんだ、それはながいのか」


「おいおい嬢ちゃん、静かに聞けねえのかい……」


「もっと、みじかくしてくれ」


「そうさなぁ……、ここからもうちょっと行ったところに、広場があンだよ。そんでな、そこの広場には『神龍像』っつーモンがあってだな」


「りゅー……、ドラゴンか」


「そうだ。なかなかすげえ像なんだが……、これが最近、光を放ちだしてな。より神々しさが増したっつーか、なんつーか……」


「おお! ピカピカひかってるのか!?」


「うーん、ありゃあピカピカっつーよりも、ボヤボヤだな」


「なんだそれ……べつにそんなのみたくないぞ」


「まあでも、暇だったらでいいからよ」


「ふーん、ま、ヒマだったらな」


「なんだ、まるっきり興味がなさそうって感じでもなそうだな」


「まあな。なんてったってリューだからな! しんぱしーをかんじるんだ!」


「おう。事情はよく分からんが……、じゃあな、嬢ちゃん。達者でやれよ」


「うん! じゃあな! ずっと、めをつむってる・・・・・・・おっちゃん!」




 そう言うと、ドーラは今度こそ団小屋を後にした。









 皇の命を受けたタカシ一行は、馬型の機械を使わずに、徒歩で城下町を目指していた。
 タカシは未だに船酔いから回復していないサキを背負っており、アヤメは「急に用事が入った」とだけ言い残すと、風のように消えていった。




「つか、なんで光る像なんて見に行かないとダメなんだよ、めんどくせー。セルフライトアップしてるんだから、それを観光名所にしたらいいじゃねえか」


『まあまあ、これも皇の信用を勝ち取るための先行投資ですよ。ここに長いこと住むかもしれないんですから、それなりの信用は必要になってきますってば。ここは辛抱ですよ』


「なあ……おまえ、なんか最近まじでおかしいな。ほんとにルーシーか?」


『はぁー? なに言ってんですか? わたしですよ、わーたーし。ルーシーですよー! かわいいかわいいルーシーちゃんですよー!』


「うん、たしかにあほなルーシーだ。……うーん、長時間ヒトダマ化している弊害か……、はたまた、良くない影響を与えている人物がいるのか……」


『それ、自分で言ってて心当たりないんですか?』


「ぬぁい!! ……てか、テシたちまで付いてくる案件か? 仕事はいいのかよ?」


「心配ないのじゃ。町奉行とはいっても、このトバではそんなに頻繁に事件が起こったりすることがないからの。……それに、おねえちゃんを案内するのも仕事のうちじゃからな。存分に楽しむがよいぞ!」


「ふーん、平和なんだな、トバって」


「そうなのじゃ。じゃから最近、お上から人数の整理をせよとの通達を受けてな。なにせ、こういった組織を動かしてるのは国民から吸い上げている税金じゃからの。大して働きもしない町奉行なんぞ、置物の代わりにもならん」


「いや、置物の代わりくらいにはなるだろ……。って、そこらへんの問題もエストリアと似てるんだな……、エストリアの場合は限りなく待遇が悪いってことなんだけど……。そういえばトバの皇とエストリア国王、なんだか知り合いみたいな口ぶりだったけど、なんなんだ? 同盟国ってのは知ってるけど……、あの物言いはなんかそれ以上だったよな」


「んむ? それじゃな――」


「あれ? ああ、聞いたことない? あたしのお父さんと、エストリア国王と……、サキちゃんのお父さんの話」


「え? なんでここで、サキの父親が出るんですか?」


「御一行だったからね。勇者様の」


「え?」


「あ、ほんとに知らないんだ。……結構昔の話なんだけど、魔王がまだいた頃にうちのお父さん、エストリア国王、サキちゃんのお父さん、それともうひとりの人でパーティを組んでたらしいんだよね。で、結局そのパーティが魔王倒しちゃって、お父さんが国に戻ったら王様として担がれちゃったって話」


「そ、そうだったんですか……、ということは――」


「うん。あたしたち親子がこんな・・・性格なのは、そういう理由からだねぇ。まあ、あたしは姫として生まれたんだけど、お父さんの影響からか、昔っから堅苦しいのは苦手でさ」


「では、エストリア国王も……?」


「ううん、エストリア国王はその家系だよ。れっきとした、純然たる、純血の王家の血筋を受け継いだ人だよ」


「……それだったら、シノさんの性格云々は関係ないんじゃ……」


「ははは……、でも、お父さんが言うには、昔のエストリア国王って、あんな性格じゃなかったらしいよ? いまと違ってすごい寡黙で、何考えてるかわからない人だったんだって」


「あ、あの、ちゃらんぽらんな王がですか!?」


「ビックリするよね。……ちょっと笑っちゃうけどさ」


「そ、想像ができない……」


「そこらへんもどうやら、サキちゃんのお父さんである勇者様が大きく関わってるんだって」


「そうだったんですか……、なんだか前よりもすこしだけ興味がわいてきたかもしれません」


「へえ、サキちゃんのお父さんに?」


「はい。勇者なんて滅多に――」


「ダメだよ。ルーちゃんはサキちゃんのだから。相手がパパでも簡単に渡さないからぁ……あむ」




 サキはそう言うと、タカシの耳を背後からはむはむと甘噛みした。
 テシとアヤメは「あ、動いた」と同時に呟く。




「んっ……くそ! サキおまえ! 起きてるんだったら、さっさと降りろっての!」


「うーん、もうちょいルーちゃんの背中を感じていたいのだが?」


「それは許されないんだが?」


「ふぅん、しょうがないから降りるんだが?」


「なんだこのやりとり!」




 タカシはそう吐き捨てると、背中のサキを強引に地面に降ろした。




「あのさ……ところで、どこ、ここ?」


「そっからかよ。どんだけ寝てたんだおまえ」


「おねえちゃんと、……えーっと、サキ殿?」


「うん。サキちゃんはサキちゃんです。……で、ルーちゃん、このかわいい小動物は?」


「しょ、小動物……。と、とりあえず、立って話すのもなんじゃろうし、この近くに師匠が趣味でやってる団子屋があるのじゃ。そこで改めて自己紹介がてら、話でもするかの」


「お、いいねー気が利くじゃん……で、ダンゴヤって何?」

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