憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-
疑問と確信
「なぜだ……なぜ見つからない。ボンクラの役立たず共め、アレがなければ公務にも支障をきたすではないか」
エストリア王都行政区。
王の執務室。
元大臣、現代理王のラグローハが部屋中の資料をひっくり返している。
ラグローハはそこにはないと知っておきながら、なにかしらの強迫観念に駆られているのか、忙しく動き回っている。
「なぜカライの王は所持していなかった……? もう燃やしてしまったか? いや、あの王の性格からすると、それはありえない。あれがどういう意味を持っているかをあいつは知っていた。つまり、あの紙の効力を知っていたということだ。そして、だからあいつは約束を破って戦争に持ってこなかった……。家も探させた。カライ国も。それでも見つからないとなると――」
コンコン。
と、執務室の扉が鳴る。
ラグローハは扉を睨みつけると
「だれだ」
と、声をかけた。
「マーノンです」
「……どうした?」
「計画書の件で、お耳に入れさせていただきたいことが……」
「……はいれ」
「失礼します」
ガチャッと扉が開き、タカシが遠慮がちに入っていた。
「なにか用かな? マーノンくん」
「…………」
タカシは無言でマーノンから奪い取った書簡を、ラグローハの前にポンと置いた。
「これは……?」
「なにをトボケているんですか……」
「…………」
ラグローハは書簡の帯をするすると解いていくと、目の前で広げてみせた。
その紙には、屍人研究の成果とその経過。
エストリアの水道インフラ整備の責任者及び提案者であるラグローハの名前が記されていた。
「これをどこで?」
「カライ国王の屋敷の侍女が……」
「あれは侍女ではない。王女だ」
「そうですか。では認められるのですか、この紙に書いてあることを」
「……はて、知らぬな。見たことがない」
「責任者の欄にラグローハさん――あなたの名前があるように見受けられるのですが。それに、ここに記載してあることが現実に起きた。水道にしてもそうです。今はもう塞いでおられるようですが、水路は王都中に張り巡らされており、それらは複雑に絡み合っていても、王都北の山へ続いている。自分の記憶が正しければ、そこには山賊のアジトがあったはずです。さらに、山賊の宝物庫には大量の魔具。あれほどの量の魔具、いち山賊風情が集められるとはとても思えません。それにも提供者がいたのでしょう」
「…………」
「それにたしか、宝物庫には大きな穴があったような……あそこを掘り進めていけば、どこへ出るのでしょうか」
「…………」
「いいですか、大臣。自分が王都にてこの紙に書いてある内容を触れ回れば、たちまち国民に火がつくでしょう。ですが、自分はそうしなかった。なぜだかわかりますか?」
「…………」
「大臣に自首してほしかったからです。大臣さんのやったことは許されません。しかし、あなたのこれまでの功績を鑑みれば、あなたは多大な貢献をこのエストリアにしている。騎士制度設立や魔石産業計画、その他もろもろの事業に着手……。そのような人を晒し上げ、つるし上げ、生首を野ざらしにしたくはないのです。どうでしょう、ここでイチから始めませんか。たしかに、戦争をはじめれば、魔石産出国であるエストリアは今以上に潤います。しかし、それでは人道に反します。人道に反せばいずれそこには綻びが出る。どうか、ご一考のほどを――大臣?」
「む……寝ておったようだ。ご高説は終わったかな? ルーシー白銀騎士」
「やろー……!」
「ふぅ……ときに、白銀の少女よ」
「なんすか」
「将棋、といものをご存知かね」
「なんですか、唐突に」
「あれはいい。シノ・アマガサキ嬢に教えてもらったが、あれはチェスとは違い、殺した駒を自らの手持ちに加えることができるのだ。と、いうことはだ、殺せば殺すほど、死体を積み重ねれば重ねるほど、こちらの兵も増えるということだ。無論、そのぶん立てられる戦略の幅も広がる」
「……それが、屍人ですか?」
「そしてそれを完全にコントロール下に置くため、その魂を浄化させケダモノの魂で上書きするのだ」
「ケダモノ……?」
『も、もしかして……! タカシさん、覚えてますか? タカシさんが山賊と対峙したとき、タカシさんに言った言葉』
「『ダメ―!』だったけ?」
『違います』
「『あかーん!』」
『言い方の問題じゃないですよ、ほら思い出してください!』
「珍しい動植物の保護だろ?」
「勤勉だ。よく知っているな。あそこのケダモノを片っ端から屍人の中に入れるのだ。保護でもしてやらんと、勝手に殺されでもして、その数を減らされてはたまらんからな。こちらは戦争やらなんやらで辟易するほどの死体をもっている。だから、もうひとつ、辟易するほどの動物共の魂も必要となってくるのだ。戦争で敵国兵士の死体を回収し、動物の魂をいれ、操る。……それだけで屈強で、従順で死なない兵士の誕生だ。とてもエコだろう」
「それが、屍人計画ですか」
『ということは、アンさんは……』
「なんとか魂を抜かれないで済んでたってことか。では、山賊との関係については……?」
「さきほどの話したとおりではないか。大半は微睡みの中で流して聞いていたがな」
「は、はぁ……」
「おまえの予想通りだ。あれらは私が送ったものだ。友好の証としてな。頭領のやつ……名前はなんだったか……まあよい。あいつがやたら、シノ・アマガサキにこだわっておったから、なにごとかと思っていたが、勘違いだったのだろう。それで無様にも返り討ちにされてしまったようだがな。しかしあれほどの数の魔具を与えてなお、勝てぬとは……所詮は山賊。その程度のやつだった、ということだろうな」
「なぜ、トバと戦争を」
「あそこで採れる鉱石などの資源がほしかったというのもあるが――」
「取引……ですか? しかし、今の口ぶりの限りではそれは大臣のついた嘘のように見受けられるのですが……」
「ふむ、話はここまでだ。つい口が滑り過ぎてしまったみたいだな。そんなに相手の話を聞くのが得意なら騎士をやめ、あのサキュバスの店で働いてみたらどうだ?」
「働きませんよ。……あなたが働いたらどうですか?」
「ふむ、私がか? それもよいかもしれんな。ジジイサキュバス。……どうだ? 流行りそうか?」
「うっぷ……キモ……、それにそんなことを真顔で言わないでください」
「そうか、残念だ……」
「なんで!?」
「しかし、じつのところ大変だったのだ。戦争ビジネスを提唱しようにも、この国にいるものは腑抜けばかり。そんなことを言えば、たちまち査問にかけられる。そんなことでは、いずれ他国に攻め込まれたとき、やがて負けてしまう。だから、私はあの日和見主義の王を失脚させ、貧弱な国民を一掃した。これから私の歴史が始まるのだ。エストリア帝国の覇道が! ……まあ、誤算としてはすこし、生き残りすぎたというところだろうがな。どうだ、いまからならまだ遅くはない。ルーシーよ、おまえは強い。いまからでも、私の手足になって、その手腕を存分に揮ってみてはどうだ」
「……む、寝てました。ご高説は終わりですか、大臣」
「ヤロー……。まあよい。……いやはや、ここまで来るのはほんとうに長かった。だが、それも今日で終わりだ。こうして、反乱分子殿がぬけぬけと最後の証拠を持ってきてくれたのだからな。それに、冥途の土産にしては、かなりいいことを聞いただろう?」
「冥途の土産……ですか」
「そうだね」
ガチャリ、とデフが執務室に入ってきた。
タカシはその予想外の来客に目を丸くしている。
「……デフさん? なぜここへ……」
「こんにちはルーシーさん。そっちこそ、こんなところでどうしたのかな?」
「質問を質問で返すなァッ! と言いたいところですが……もしかしてお二人の関係は……」
「その問いかけに意味はないだろう? 君の中で疑問はすでに確信へと変わりつつある」
「マジかよ……マジか……」
『ちょ、ちょっと、マズいですよタカシさん! 大臣さんの側近ってマーノンさんじゃなくて――』
「ああ、わかってるよ……、非常にまずい、相当にまずい。もしかすると、オレは無実の上司の命令に謀反し、顔面を陥没させた挙句、裸にひん剥いて野外に放置したのかもしれない」
『うわあ。これは……このまま、寝返ったほうが、後々に影響がないかもしれないですね。どうします? いまから大臣さんに媚びのバーゲンセールでもはじめますか? ゴマ粉砕機でも購入しますか?』
「……なんか、おまえの思考回路がだんだん、オレよりもゲスになってきたな」
『冗談ですよ。それに、これはタカシさんの影響ですよ……って、自分がゲスだって自覚はあったんですね』
「ない。オレはだれよりもジャスティスでピュアでイノセントなのだ」
『はいはい。で、この状況どうするんですか?』
「はぁ……ま、オレとおまえで約束はしただろ?」
「デフよ」
「は」
「今夜、この場所にルーシーという少女は来なかった。そして、約一名の白銀騎士が外国へ永住するらしい。――永遠にな。その手続きを済ませろ」
「仰せのままに……我が王よ」
ラグローハはそう言うと、執務室から静かに出ていった。
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