憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

適当なウソをついたらすぐに見破られた。



 エストリアから遥か東の、そのまた東。
 そこにはシノの故郷があった。
 国の名は鳥羽トバ
 小さな島国であり、民はそこでひっそりと、しかし豊かに暮らしていた。
 雨ヶ崎紫乃アマガサキシノも例外ではなく、彼女はそこで伸び伸びと何不自由なく過ごしていた。
 そしてそんなある日、シノはこう言った。




「海外へ行きたい」と




 生まれついて好奇心が強かったシノは、すぐに行動に移した。
 やがてエストリアにたどり着いた彼女は、その国に次第に惹かれていく。
 そこで彼女は永住することを決意したのであった。




「こうしてシノはエストリアの騎士となって、永遠に――」


「ちょ、ちょちょっと待ってください。なんですか、その紙芝居は」


「わかりやすいかなって」


「……いや、紙芝居はいいんですよ、この際はね。問題はその話が、すげえ嘘くせーってことなんですよ。一話分ひっぱっておいてなんなんですか、それは! 読者が離れたらどうするんですか! 紙芝居だけに!」


「いやぁ、やっぱあたしの半生を、いきなりベラベラと語るのもひいちゃうかなーって。それにあたし、自分語りとかあんまり得意じゃないしさ」


「だったら最初っからやるなって話でしょ」


「正直、すまんかった」


「……て、どこまで話してましたっけ?」


「まだ、なにも話してなかったね」


「ですね。わかってて聞きました」


「皮肉かぁ。手厳しいなぁ、ルーシーちゃんは。そんなこと言われると……こ、興奮するでしょうが!」




 シノはそう言うと、タカシに抱きつこうとする。
 タカシはシノの額をおさえ、近寄らせないようにした。




「……なんか、包み隠さなくなってきましたね。性癖」


「ハァ、ハァ……ふぅ……話を戻そう」


「たしか自分に、話があるとかなんとかでしたよね」


「そうそれ、ビックリしちゃったよあたし。決闘場でのことなんだけど、どこであんな魔法を習得したの?」


「あれは……そうですね、スパルタという原液を全く薄めずに、スパルタという名の培養液に沈めて、煮詰めて煮沸した気体を瓶に詰めて、海に流したような人物に教えられました」


「つまり、教えるくれる気はないってこと?」


「……どう受け取ってもらっても結構ですよ」


「そっか……、ぶっちゃけるとね。あたし、ルーシーちゃんを監視するようにって、王命を受けたんだ」


「……え?」


「高度な自己修復魔法、相手の動きを先読みする眼、加えてその可愛らしい顔!」


「……顔は関係あるんですか?」


「犯罪的だよ。その顔はサキちゃんよりも、あたしを狂わせるんだ」




 シノは着物の裾から紙を一枚取り出すと、それを読み上げた。




「えーっと、どうして今まで雑兵なんかにいたの?」


「え? それは……」


「なんで青銅騎士を目指したの?」


「えっと……」


「白銀騎士以上になりたいとか思ってたりする?」


「すみません、その質問量を一気に処理しきれません」


「ほいじゃあ、一番聞きたかったこと訊くね」


「あ、はい」


「絶大な権力を持ってみたい?」


「それは、ないです……。できればこのまま、一定水準以上の生活を保てたらな、て」


「ほむほむ……力はあるが、権力を欲さず……と」




 シノは毛筆でサラサラと紙に記入していった。




「よし、こんなもんかな」


「あの、それは……?」


「ん? 調書だよ。それとなく探って来いって」


「ずいぶんと直接的だった気がしますが……」


「だって、あたしはルーシーちゃん信じてるし。べつにコソコソやる必要は感じられなくてねー」


「あの……なんでそんなに簡単に信じられるんですか」


「簡単じゃないよー。前にも言ったかもしれないけど、人の眼を見れば大体わかっちゃうんだ。あとは、女のカンってやつ?」


「すごく抽象的ですね」


「あははー、根拠はないからねー。それに、クラネくんじゃなくて、あたしに命じたってことは、王様もそんなにガッチガチじゃないってことなんだとおもうよ。たぶん誰かからの進言で、仕方なくって感じじゃないかな?」


「クラネ、くんですか?」


「あれ? 知らない? あたしと同じ聖虹騎士のクラネくん」


「すみません……」


「ふぅん、あとちょっと気付いたんだけどさ、ルーシーちゃんてエストリアのことについて、ちょっと疎いときあるよね。それはなんでかな?」


「そ、それは……今まで生きている中で、あまり必要に感じてこなかったんじゃないですかね……? それで、その……これからはそういうことも勉強していこうかな、て」


「それはすごくウソっぽいなあ……」


「う……」


「まあいいよ。これは個人的な質問だからさ、気にしないで。それで、クラネくんのことだったよね? 彼はね、アサシンって言って……、うんやめておこう」


「ど、どうしたんですか?」


「いやぁ、本人に会えば嫌でもどんな人かわかっちゃうからね。それに……」


「それに?」


「ルーシーちゃんとクラネくん……、なんか似てる気がするんだ」


「は、はぁ……」


「うーん、こんなもんかな? ルーシーちゃんどうする?」
「なにがですか?」


「自分の部屋で寝るか、それとも、あたしと同じ布団で寝ちゃう?」


「え……ええ!?」


「ベッドと違って、布団も寝心地いいんだよ? なにせここ、畳あるし」


「え、遠慮しておきます。ドーラのことも気にかかりますし……」


「あ、そうそう。もうひとつ言いたいことがあったんだった! 大丈夫?」


「はい、なんですか?」


「ドーラちゃんね、ちょっと気をつけたほうがいいかもね」


「それってどういう……?」


「なんていうんだろ。ドラゴンって種族はね、普段は大人しいけどとても狂暴で、自分たち以外の種族を見つけたら、攻撃を仕掛けてくるほどなんだ。今はほとんど見ないけど、昔はドラゴンスレイヤーって職業まであったくらい危険視されてたんだよ。だから保護云々って暗黙の条約は、あたしたち側を守る条約でもあるんだ」


「でも、ドーラは……」


「そう。すごく穏やかで、ルーシーちゃんの話を聞く限りだと、ルーシーちゃんが攻撃しても、反撃してこなかったほどなんだよね?」


「はい。泣きながら、うずくまってました」


「それはやっぱり、ドーラちゃんが言ってた、記憶喪失とも関係があるかもしれない」


「ということは……」


「うん。もしかしたら、記憶を取り戻したら、この国にとって厄介な存在になるかもしれない。あるいは……べつの理由も考えられるんだけど、これはまあ、あり得ないことだからいいんだけどさ」


「あり得ないこと……ですか?」


「うん。ドラゴンの中にも、上位の存在があってね。それは神龍ゴッデスドラゴンって呼ばれる種族なんだ」


「ではもしかして、ドーラはその神龍の可能性も……?」


「ない! ……とは言い切れないところもあるんだ。それくらい個体数が確認されてないドラゴンなんだよね……」


「それにしても、難儀な種族ですね。ドラゴンというのも」


「うん、可哀想ではあるよね。あたしたち人間はいまでこそ、多種多様な魔族たちと関わり合いを持ってるけど、ドラゴンはずっと独りだったんだ。そして、これからも……」


「ドーラ……」


「……なんか湿っぽくなっちゃったね。うん! 今度こそ話はそれだけ、ドーラちゃんはルーシーちゃんがきちんと保護してあげてね」


「はい、わかりました」


「約束だよ?」


「はい、約束ですね」









 部屋に戻ったタカシは、ベッドに潜り込んで目を瞑ったところで、
「なあ、ルーシー」
 と、ドーラに背中越しに声をかけられた。




「どうしたんだ、ドーラ。寝付けないのか?」


「ルーシーはあたしがいるとメーワクか?」


「……なんだ、さっきの話聞いてたのか?」


「………………」




 ドーラはタカシの問いかけに沈黙した。




「聞いてたんだな」


「……うん」


「ま、迷惑っていえば、迷惑だな」


『ちょ、タカシさん!?』


「やっぱり……」


「大食らいで、うるさくて、そのくせちょっと叱ったらすぐ泣くしな」


「うう……」


「でも、それ以上に、おまえといると楽しいんだ」




 タカシが振り返り、ドーラの目をまっすぐに見つめた。




「え?」


「付き合い自体はそんなに長くはないけど、なんだかおまえの前では素になれるっていうか……とりあえず、オレが言いたいことはだな! さっきのことは気にすんなってことだ!」


「ルーシー……」


「おまえがたとえ記憶を取り戻して狂暴になっても、オレが止めてやる。おまえが記憶を取り戻して孤独を欲して、どこかへ行ったとしても、連れ戻してやる。……そういう約束だったからな」


「……ふふ、そうだ。そういうヤクソクだったな。よくおぼえてたなルーシー! ほめてやるぞ!」


「うるせえな、もう寝ろ!」


「……ありがとう、ルーシー」


「……うるせえな、もう寝ろ」

コメント

  • くあ

    なんか急に感動シーンが、、、

    0
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