魅力値突破の『紅黒の魔女』
恋心2
ライラが煙の上がっている近くまで来ると、とある路地の入り口に十人程の人だかりが出来ていた。
「何があったんだ?!」
「突然なにかが爆発して、煙が上がったんだ。」
彼女が話掛けた野次馬の一人は、そう言って路地の奥を指差す。そこにはうっすらと煙が立ち込め、奥には赤い小さな炎が転々と燻っているのが見えた。
アランの属性は火。あの馬鹿が魔法を使ったのだろうと予測するライラ。野次馬が大きな音がしたと言っている事から、恐らく『爆発』や『炸裂』といった何らかの特性を付与したのだろう。
(普通の人間なら街中で危険な魔法を使わない。だけど、さっきの状態のアランならやりかねないね……)
これだけ目立っているのだ、あと暫くもすれば治安兵も駆けつけるだろう。
だが、ライラにはそれを待つ余裕は無かった。カレンが魔法でケガを負っている可能性もあったからだ。
彼女は冷静になるため一呼吸置き、次に頭の中で魔法を組み立てそれを実行する。
すると彼女の足元に土属性を表す黄色い単一魔法陣が展開される。少し遅れてそれに重なる特性魔法陣『吸収』と『追従』。
三重特性魔法 龍脈陣
本来発動と同時に消える魔法陣が、彼女の足元に展開され続けており、彼女の動きに合わせてそれが追従してくる。
この魔法は、魔法陣が擬似龍脈となり、大地からエネルギーを吸収し、自身の身体能力を爆発的に強化する魔法であった。
(どうか無事でいてくれカレン……)
野次馬の間を縫って、ライラは警戒をしながら、ゆっくりと煙が充満する路地に入って行く。そして少し歩くと煙により霞んだ視界の中に、人影らしきモノが見えた。
(……ひとり?)
カレンとアラン、二人がそこにいる筈なのだが、ライラには一人の人間が屈んでいるような影が見えただけだった。
恐らくその影の大きさから、それはアランだろうと警戒心を引き上げる。
(カレンは既に逃げてくれたのかもしれない)
状況を都合よく解釈しようとしたライラであったが、更に歩みを進めてその影の正体を理解した時、彼女は絶望と怒りの感情に支配される。
(殺す!コイツだけは生かしておけない!!)
影の正体。
それはアランがカレンに覆い被さっているために一つに見えたのだ。しかもカレンは店の制服を引き裂かれた半裸の状態であり、アランによって胸を揉まれながら、汚い舌を首筋に這わされている。
「キ、キサマぁぁ!! 」
腹からありったけの殺意を込めて叫ぶカレン。
その声を聞いたアランは、、そのままの体制でゆっくりと首だけを彼女に向ける。
彼はその顔に人間とは思えないほど醜悪な笑みを浮かべ、カレンの身体からゆっくりと名残惜しそうに離れて立ち上がる。
「やぁ! キヒヒ。ライラじゃないですかぁ。遅すぎましたねぇ。もうカレンは私の……おっと!」
アランが話し終わるのを待たずして、ライラは男へと突進し、身体強化された拳をその顔にめがけて放った。
武術の心得によりただでさえ強力なライラの正拳が、魔法の効果により音速の域に達する。
ドンッという音がなり動きを止めるライラ。
「チッ。アタシの突きを生身でかわすなんて一体……」
ライラは困惑する。それは放った拳がすんでのところでアランに避けられていたからだ。
先程の音は、拳が音速を超えた事による単なる衝撃音に過ぎなかった。
「生身……?
そんなせっかちだから私にカレンを奪われるんですよぉ」
カウンターを警戒してすぐに防御の姿勢を整え、アランに再度向き直るライラ。しかしアランには反撃をしてくる様子は無く、ただ余裕の表情でだらしなく立っているだけである。
そして更に、ライラはその男の足元に展開された魔法陣を見て動揺してしまう。
「なんでアンタがその魔法を……」
「なんで? 決まっているじゃないですかぁ。私が魔法の天才だからですよ!! キヒヒヒヒ!!」
学園で知ったアランの魔法属性は火のはずだった。
しかし、今足元に展開された魔法陣は、土属性特有の黄色い光を放ってたのだった。
その魔法はライラが発動しているのと同じ龍脈陣である。
ライラの正拳を避けることができたのは、アランもまた自身を身体強化していたことによるものであった。
複数属性持ちはかなり稀少な才能である。二属性の魔法を行使できる時点で、アランが天才を自称してもあながち間違いではない。
ただし、複数属性持ちに関しても禁忌により得たものだと言うことは、この時のライラはまだ知らない。そしてそれが彼女を余計に混乱させていた。
「複数属性持ちだからって、アンタには負ける気がしないよ。カレンが受けた苦痛を何倍にもして返してやる……」
動揺を隠そうと、出来るだけ冷静に話すライラだが、アランにはそれがお見通しであり、彼女に対して更に揺さぶりをかける。
「怖いですねぇ……。貴女は少し頭が悪いようだ。
こんな三重特性魔法程度の魔法なんて、誰でも使える子供のままごとですよ」
ライラにとっては三重特性魔法が現在行使できる最高ランクの魔法であった。そして、アランの口ぶりからは、より上位の魔法が使えることを窺わせる。
それは、彼女の不安を増幅するには十分な言葉であった。
「さて、私にはカレンの調教の続きがありますからね。貴女の様なゴミと戯れている暇は無いのですよ。だからそろそろ終わらせましょう。
あ、貴女がカレンと同じく泣いて懇願するならば、私の召し使い達の慰みもの程度として雇ってやっても良いですよ? キヒヒヒヒ!!」
カレンが泣いて懇願した……。その言葉だけでライラの血が沸騰する。
「殺してやる……」
彼女は再びアランに向かって突進し、今度は突きと蹴りを複数組み合わせたコンビネーションを繰り出す。
一撃目、二撃目が躱されるが、そこでアランがバランスを崩してしまう。これにより必殺の好機が生まれ、ライラは渾身の力を込めた上段蹴りを繰り出した。
ーーしかし。
本来、目の前の男の頭蓋を粉砕していたであろう彼女の右足は、アランに届く直前で停止する。それと同時に、身体が中に浮く感覚と腹部への激痛がライラを襲う。
「がはっ……」
彼女の口から赤黒い血が大量に吐き出され、地面に小さな血溜まりを作る。
「キヒヒヒヒ。如何ですか? 四重特性魔法、龍顎。なかなか気持ち良いのではないですかぁ?」
今も苦しそうに耐えず口から血を流すカレン。その彼女の身体は、地面から生えた土と石から成る大きな龍の顔に咥えられていた。
「ぐ……離せ……」
ライラが痛みに耐えながらなんとか声を絞り出すが、アランにはそれが面白くてたまらない。
「キヒヒヒ……聞こえませんねぇ。一生服従しますから助けて下さいと泣き叫べば離してやりますよぉ」
「下衆野郎……、誰がアンタに服従なんか……ぐぁっ!」
「いいんですかぁねぇ。反抗的だとこうしてどんどんと圧力を加えていきますよ? 早く許しを乞わなければアナタのお腹、ぺしゃんこに潰れちゃいますよー」
アランの言葉通り、ライラを咥える龍の顎はその力をどんどん増していく。彼女は骨が軋むのを感じながらそれでも耐え、なんとかこの状況を打開しようと考えるのだが、有効な手立てを思い付くことができない。
「服従すれば、召し使いの慰みもの程度には使ってやるって言ってるじゃないですかァ。あぁ、うちの番犬と番にさせるのも面白そうですねぇ。
ほらほら早く敗北を認めてくださいよ。キヒヒヒヒ」
圧迫により、破れた服から覗くライラの腹部は紫色に変色し始めており、もう数度に渡る吐血を繰り返していた。
そして、それが自分の内臓が潰れたことによるものであり、致命傷であることは気を失いかけているライラにも理解できた。
「もう終わりですか。もっと苦しむ姿を見せて欲しかったのですがねぇ……。最後はぺしゃんこにしてしまいましょう」
アランの顔がよりいっそうの狂気に歪み、彼はライラに止めを刺すべく土龍へと更なる魔力を送っる。そしてそれを受けた龍は、最大の力でライラの細い腰を噛み締めた。
ーーボキッ!!
薄暗い路地裏に不快な音が鳴り響く。同時にライラの体が一度あらぬ方向へ反り返ったあと、彼女の四肢はぐったりと垂れ下がってしまった。
それまでの多量の吐血により痛覚が麻痺していたにも関わらず、ライラの途切れかけていた意識は激痛により現実に引き戻される。
自身の最後を悟るライラ。
視力もほとんど失い霞む視界の中、アランの背後に横たわるはずの愛しき人の名を呟く。
「……カ……レン」
血で真っ赤に濡れた唇を微かに動かすが、絶命間際のそれは声にならなかったのだった。
「何があったんだ?!」
「突然なにかが爆発して、煙が上がったんだ。」
彼女が話掛けた野次馬の一人は、そう言って路地の奥を指差す。そこにはうっすらと煙が立ち込め、奥には赤い小さな炎が転々と燻っているのが見えた。
アランの属性は火。あの馬鹿が魔法を使ったのだろうと予測するライラ。野次馬が大きな音がしたと言っている事から、恐らく『爆発』や『炸裂』といった何らかの特性を付与したのだろう。
(普通の人間なら街中で危険な魔法を使わない。だけど、さっきの状態のアランならやりかねないね……)
これだけ目立っているのだ、あと暫くもすれば治安兵も駆けつけるだろう。
だが、ライラにはそれを待つ余裕は無かった。カレンが魔法でケガを負っている可能性もあったからだ。
彼女は冷静になるため一呼吸置き、次に頭の中で魔法を組み立てそれを実行する。
すると彼女の足元に土属性を表す黄色い単一魔法陣が展開される。少し遅れてそれに重なる特性魔法陣『吸収』と『追従』。
三重特性魔法 龍脈陣
本来発動と同時に消える魔法陣が、彼女の足元に展開され続けており、彼女の動きに合わせてそれが追従してくる。
この魔法は、魔法陣が擬似龍脈となり、大地からエネルギーを吸収し、自身の身体能力を爆発的に強化する魔法であった。
(どうか無事でいてくれカレン……)
野次馬の間を縫って、ライラは警戒をしながら、ゆっくりと煙が充満する路地に入って行く。そして少し歩くと煙により霞んだ視界の中に、人影らしきモノが見えた。
(……ひとり?)
カレンとアラン、二人がそこにいる筈なのだが、ライラには一人の人間が屈んでいるような影が見えただけだった。
恐らくその影の大きさから、それはアランだろうと警戒心を引き上げる。
(カレンは既に逃げてくれたのかもしれない)
状況を都合よく解釈しようとしたライラであったが、更に歩みを進めてその影の正体を理解した時、彼女は絶望と怒りの感情に支配される。
(殺す!コイツだけは生かしておけない!!)
影の正体。
それはアランがカレンに覆い被さっているために一つに見えたのだ。しかもカレンは店の制服を引き裂かれた半裸の状態であり、アランによって胸を揉まれながら、汚い舌を首筋に這わされている。
「キ、キサマぁぁ!! 」
腹からありったけの殺意を込めて叫ぶカレン。
その声を聞いたアランは、、そのままの体制でゆっくりと首だけを彼女に向ける。
彼はその顔に人間とは思えないほど醜悪な笑みを浮かべ、カレンの身体からゆっくりと名残惜しそうに離れて立ち上がる。
「やぁ! キヒヒ。ライラじゃないですかぁ。遅すぎましたねぇ。もうカレンは私の……おっと!」
アランが話し終わるのを待たずして、ライラは男へと突進し、身体強化された拳をその顔にめがけて放った。
武術の心得によりただでさえ強力なライラの正拳が、魔法の効果により音速の域に達する。
ドンッという音がなり動きを止めるライラ。
「チッ。アタシの突きを生身でかわすなんて一体……」
ライラは困惑する。それは放った拳がすんでのところでアランに避けられていたからだ。
先程の音は、拳が音速を超えた事による単なる衝撃音に過ぎなかった。
「生身……?
そんなせっかちだから私にカレンを奪われるんですよぉ」
カウンターを警戒してすぐに防御の姿勢を整え、アランに再度向き直るライラ。しかしアランには反撃をしてくる様子は無く、ただ余裕の表情でだらしなく立っているだけである。
そして更に、ライラはその男の足元に展開された魔法陣を見て動揺してしまう。
「なんでアンタがその魔法を……」
「なんで? 決まっているじゃないですかぁ。私が魔法の天才だからですよ!! キヒヒヒヒ!!」
学園で知ったアランの魔法属性は火のはずだった。
しかし、今足元に展開された魔法陣は、土属性特有の黄色い光を放ってたのだった。
その魔法はライラが発動しているのと同じ龍脈陣である。
ライラの正拳を避けることができたのは、アランもまた自身を身体強化していたことによるものであった。
複数属性持ちはかなり稀少な才能である。二属性の魔法を行使できる時点で、アランが天才を自称してもあながち間違いではない。
ただし、複数属性持ちに関しても禁忌により得たものだと言うことは、この時のライラはまだ知らない。そしてそれが彼女を余計に混乱させていた。
「複数属性持ちだからって、アンタには負ける気がしないよ。カレンが受けた苦痛を何倍にもして返してやる……」
動揺を隠そうと、出来るだけ冷静に話すライラだが、アランにはそれがお見通しであり、彼女に対して更に揺さぶりをかける。
「怖いですねぇ……。貴女は少し頭が悪いようだ。
こんな三重特性魔法程度の魔法なんて、誰でも使える子供のままごとですよ」
ライラにとっては三重特性魔法が現在行使できる最高ランクの魔法であった。そして、アランの口ぶりからは、より上位の魔法が使えることを窺わせる。
それは、彼女の不安を増幅するには十分な言葉であった。
「さて、私にはカレンの調教の続きがありますからね。貴女の様なゴミと戯れている暇は無いのですよ。だからそろそろ終わらせましょう。
あ、貴女がカレンと同じく泣いて懇願するならば、私の召し使い達の慰みもの程度として雇ってやっても良いですよ? キヒヒヒヒ!!」
カレンが泣いて懇願した……。その言葉だけでライラの血が沸騰する。
「殺してやる……」
彼女は再びアランに向かって突進し、今度は突きと蹴りを複数組み合わせたコンビネーションを繰り出す。
一撃目、二撃目が躱されるが、そこでアランがバランスを崩してしまう。これにより必殺の好機が生まれ、ライラは渾身の力を込めた上段蹴りを繰り出した。
ーーしかし。
本来、目の前の男の頭蓋を粉砕していたであろう彼女の右足は、アランに届く直前で停止する。それと同時に、身体が中に浮く感覚と腹部への激痛がライラを襲う。
「がはっ……」
彼女の口から赤黒い血が大量に吐き出され、地面に小さな血溜まりを作る。
「キヒヒヒヒ。如何ですか? 四重特性魔法、龍顎。なかなか気持ち良いのではないですかぁ?」
今も苦しそうに耐えず口から血を流すカレン。その彼女の身体は、地面から生えた土と石から成る大きな龍の顔に咥えられていた。
「ぐ……離せ……」
ライラが痛みに耐えながらなんとか声を絞り出すが、アランにはそれが面白くてたまらない。
「キヒヒヒ……聞こえませんねぇ。一生服従しますから助けて下さいと泣き叫べば離してやりますよぉ」
「下衆野郎……、誰がアンタに服従なんか……ぐぁっ!」
「いいんですかぁねぇ。反抗的だとこうしてどんどんと圧力を加えていきますよ? 早く許しを乞わなければアナタのお腹、ぺしゃんこに潰れちゃいますよー」
アランの言葉通り、ライラを咥える龍の顎はその力をどんどん増していく。彼女は骨が軋むのを感じながらそれでも耐え、なんとかこの状況を打開しようと考えるのだが、有効な手立てを思い付くことができない。
「服従すれば、召し使いの慰みもの程度には使ってやるって言ってるじゃないですかァ。あぁ、うちの番犬と番にさせるのも面白そうですねぇ。
ほらほら早く敗北を認めてくださいよ。キヒヒヒヒ」
圧迫により、破れた服から覗くライラの腹部は紫色に変色し始めており、もう数度に渡る吐血を繰り返していた。
そして、それが自分の内臓が潰れたことによるものであり、致命傷であることは気を失いかけているライラにも理解できた。
「もう終わりですか。もっと苦しむ姿を見せて欲しかったのですがねぇ……。最後はぺしゃんこにしてしまいましょう」
アランの顔がよりいっそうの狂気に歪み、彼はライラに止めを刺すべく土龍へと更なる魔力を送っる。そしてそれを受けた龍は、最大の力でライラの細い腰を噛み締めた。
ーーボキッ!!
薄暗い路地裏に不快な音が鳴り響く。同時にライラの体が一度あらぬ方向へ反り返ったあと、彼女の四肢はぐったりと垂れ下がってしまった。
それまでの多量の吐血により痛覚が麻痺していたにも関わらず、ライラの途切れかけていた意識は激痛により現実に引き戻される。
自身の最後を悟るライラ。
視力もほとんど失い霞む視界の中、アランの背後に横たわるはずの愛しき人の名を呟く。
「……カ……レン」
血で真っ赤に濡れた唇を微かに動かすが、絶命間際のそれは声にならなかったのだった。
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