ゲーマーでモブキャラ扱いの俺が何故かヒーローになった話。

怪盗80

第3話:英雄の誕生

「えっと…コレが何?世界を救う希望?」

「はい、そうですが何か?」

「いやいやいや、マジで?」

「はい、マジです。」

アタッシュケースの中に嵌め込まれた鈍い銀色の光を放つ柄を今一度見るもただの柄…。
ファンタジーゲームによくあるような柄でもないし、まず刀身がない。
特徴的な物と言えば十字の装飾と、その場所に何かを嵌め込む穴がある事。その片方と握るグリップ部分が網目状の模様で装飾されていると見て分かるだけでもただの鉄の塊だ。
それに風見と名乗るこの人は何か不満でもあるのかと思っているのか首を傾げている。

「煉様はこれを使ってこの世界を脅かす者達と戦い世界を救って頂きたいのです」

「いやいやwそんなw俺はまだ中学3年生だぞwそれにその話が本当の事なのかも分からないしそんなあやふやな事信じられませんよw」

突然世界を救ってくださいとか理不尽な事を言われたって、
「はいそうですか」
なんて簡単に言える訳ない、それにこの事が嘘で拉致とかの可能性もありえる。
そんな事を考えながら笑いが止まらない俺。

「煉の言う通りだぞ!それに、そんな事をけ…」

勇人が口を開ける前に風見は勇人の口を塞いで次に言う言葉を言わせなかった。
その速さは到底人間ではあり得なく人間を辞めていると言えば正しい。

「勇人様、この事をもしも家族などに言ったら…お分かりですね」

「は、はい…」

口を塞ぐのと同時に勇人の喉元に指を当ててすぐに喉を押し込めれるのだろう。

「これ以上の話は車の中でお話ししましょう送迎の車を用意しています」

ポケットからスマートフォンを取り出して会計に向かう風見に少しながら畏怖を覚えた。
あの速さで動けるならば風見さんが代わりにあの柄を使って世界を救えばいいのではと思いながら風見さんについて行った。
下手に抵抗したらやばい事なのは分かっているからだ。

「では、煉様こちらの車で送迎いたします。勇人様も是非お乗りください」

ハンバーガーショップの目の前には黒色のリムジンが止まっておりその光景は俺達の街ではあり得ない光景だろう。
リムジンに乗り込むと理不尽な程の広さにワイングラスや缶ジュースなどが置いてある。
だが全ての缶ジュースがコーラやサイダーしかないのはリムジンの所有者の好きな物だろう。

「あの…さっきの話って…」

「はい、本当の事です。本当の事でなかったらこのようにコンタクトしてませんよ」

「でも、あんな突然言われたって信じるとでも…」

「分かっています、ですが貴方に乱暴な事はしたくありません」

車の運転手がモニターで何かを操作しているところを見るとモニターに自分の家の住所などが記載されていた。
そこまで調べていたとなると引いてしまった。

「わかった…だけど俺は絶対にこんな事はしたくない、もう一回聞くけどアンタはそのケースを渡すだけの役割なのか?」

「いいえ、私はアタッシュケースの中にある物を煉様に渡し説明をすると言う事も含まれております」

申し訳なさそうに頭を下げる風見さんに俺達は何も言えなくなっていた。
そりゃそうだ、風見はただこのアタッシュケースを渡すことと説明をする事だけのいわば仲介役の様なものだ。

「なら、なんで俺じゃなきゃいけないんだ?」

「それは貴方が一番適合率が高かったからです」

「と言うと?」

適合率などの言葉が出てきたからもう理解するために頭をフル回転させて詳しく説明を聞いた。

「先日インターネット世界に『battle the break』と言うゲームプログラムを放しました。このゲームプログラムはゲームと言いつつ本当はあのデバイスを使える適合者を見つける為のプログラムに過ぎません。
その適合者を見つけ次第住所などの情報をコピーし、こちらへ転送され、今こうして居るのです」

「んで、俺がそのプログラムで探し出された適合者って事?」

大まかに分かった事をまとめて自分の脳に刻み込んだ。
全てを話した風見は重荷が下りた様に車に置いてあったコーラ缶を開けるとコップに注いで俺達に渡した。

「どうぞ、春風美琴様が最近気に入ったコーラです。毒などは入ってないので安心してください」

「サンキ…」(キィィィィィッ!!)

勇人がコーラが注がれたコップを受け取ろうとした時に車が突然急ブレーキをかけた。
そのせいでコップに注がれていたコーラが勇人の顔に満遍なく掛かった。
運転手は慌てた様子で風見に状況を伝えると外に出て行った。

「ウギァァァァァ!!!目がァ!!目にコーラがァ!!!」

「勇人!!!」

「いや、すみません…何故か道路で立ち止まっている人がいた様で確認させに行かせました」

すぐに勇人に笑いかける風見だが…。
タオルでも何でもいいから渡してやれよ…。
自分のバックからハンカチを取り出して目を押さえて悶絶している勇人に渡す。

「それよりも、ハンバーガーショップで言ってた敵?ってなんなんだよ」

まだ聞いていなかった世界を脅かす者について聞こうとするとゆったりと手前の扉が開いた。

「それはネェ…私達みたいに…デバイスを悪用する人の事カナァ♪」

扉から見えたのは運転手なら良かった。
そこにいたのはマスクをしフードを被って顔を隠していた声的には女の子だろう。フードの奥から見える目は青く光っている様に見えた。

「煉様、勇人様、逃げてください、ここは私が時間を稼ぎますので…この電話で電話を…」

「ンー、諦めなヨ、妨害電波を流しているんだから電話はできないヨ?」

絶望を植え付けられた。
逃げる事が出来たとしても電話を掛けて味方してくれる人が来てくれなきゃ意味がない。
そう絶望していたところで風見が自信に満ちた顔で話し出した。

「安心をしてください、この電話は妨害電波は効かないので安全に電話できます」

「エエッ!!どうしてそんな酷いことスルの!!アッ!逃げるなァ!!」

そう言うとフードの女は石を投げつけて携帯電話を壊した。
とんでもないコントロール…。
でも…このフードを被った人…馬鹿なのか?
逃げるなと言われて逃げない正直者がどこかいると思っているのか…。
反対側の扉から二人とも全力で逃げていく。
逃げる際、念の為にアタッシュケースを持っていった。
もしかしたらコレを目的にして来たなら何処かへ捨ててしまえばいい話だ。
そんな事を考えながら数分くらい走っていると俺の家近くまで来た。

「はぁ…はぁ…こ、ここまで来たら…」

「そうだな、あいつだって人間なんだ、1時間くらいバレねぇだろ」

息を切らしながら自分の家の玄関を開けるとそこには先程逃がしてくれた風見が何故かスーツ姿のまま亀甲縛りで縛られていた。
見た所大きな怪我などはなく、そのまま戦闘もせずに縛られたのだろう。
何故この様な縛り方なのかは分からないが…。
奥にあるリビングの電気が点いていたので恐る恐る見るとそこにはフードの女が晩飯を作っていた。
しかも俺の冷蔵庫から勝手に。

「アッ、やっと来てくれたー遅いヨー」

「いや、なんでお前ここにいるんだよ…風見さんが時間稼ぎしたはずなのに…」

「ンー、それよりも…勇人クンには退場してほしいナァ〜」

フードの女は手を振りかぶって腰辺りにある柄を握り込んだ。
握り込まれた柄はさっき見た柄とは違い長かった。

「さぁ、キミのデバイスを出してくれれば何もしないヨ?」

一言の言葉を発したら柄から今までなかった刃と言えばいいか禍々しい大鎌が握られていた。
黒を基調とした刃には所々ヒビが入っておりそこから赤い燐光が浮き出ていた。
フードの女は俺の手に握られたアタッシュケースを指差すとこちらへと歩みだした。
勇人は怖がり立ち上がって逃げる事すら出来なくなっていた。

「おい!勇人!!行くぞ!!」

「あ、あぁ」

自分の家から無我夢中で逃げだして近くの河川敷へと追い詰められた。
ブンブンと鎌を振り回すフードの女はマスクの下で笑っているのだろう。
なんて情けない、こんな人生の終わり方ってアリなのかよ…。
ふと、手に握られたアタッシュケースを見た。
もしも、コレを渡したら俺達は助かるんじゃないか?
そんな馬鹿な考えが頭の中で駆け回っている時にフードの女は呆れた様にこちらへと歩きだす。

「あのさぁ…キミのデバイスさえ渡してくれれば何もしないって言ってるのにナンデ渡さないの?」

「なんでって…、お前が!なんでこんな風に恐怖を植えつけてくるんだよ!てか、デバイスってなんだよ!このアタッシュケースの中に入ってる物か?」

「いちいち、質問ばっかり…面倒ダナぁ…」

「くそッ…離せよ…」

「やめっ!ツッ…」

俺達はジャリッと音を鳴らして後退るとフードの女は呆れた様にため息を吐くと勇人を握っている大鎌で向こうへと引き寄せた。
その時に引き寄せる時に守ろうとした俺の右腕からは血が流れていた。

「モゥ、いいや、とりあえずそのアタッシュケースの中にあるデバイスを渡したら勇人君とキミにも危害を加えないから…早く渡しテ、ワタシ、ソーユー危ないのあまりしたくないカラさ」

諦めた様に膝をついて絶望する俺はまた地面に落ちたアタッシュケースに目を逸らした。

「煉!早く逃げてくれ…それは大切な…」

だんだんと周りの声も聞こえなくなって来た。
今までの普通の日常がなんでこんな、非日常になってんだよ…。
俺はどうして友人の一人も助けれないんだ…。
自分の心の中で自問自答を繰り返す。
助けれる可能性が1パーセントはあるのに…何を怖がってんだよ…。
頭の中で駆け回っていた一つの答えがすぐさま出た。
大きく息を吸い込み立ち上がった。
アタッシュケースからデバイス(ただの柄)を取り出して垂れ下がった右手で強く握り込む。

「…」

流れ出ている血が銀色の鈍い光を放つ柄に垂れている。
そして何かを振り切った様に息を吐き、デバイスを強く、強く握りしめる。
柄を握った瞬間に頭の中に駆け巡った言葉を口に出した。

「起動!!!」

その言葉を発した時、手に付着した血が銀色の柄に吸収されるように消えてなくなり、紅く色付いた結晶の様な物が両刃の剣となっていた。
結晶の刀身は綺麗な平面ではなく所々薄くなったり、厚くなったりと凸凹しており見て明らかに不恰好。
柄の方にも片側だけ厚く結晶が付いており鍔の様な形にも見えた。
その光景に勇人はもちろんフードの女も目を驚かせていた。

「勝負だ…このサイコパス野郎…」

「サイコパスって酷いヨー♪ワタシだってちゃんと名前があるのにー!」

フードの女は勇人を押し退けて大鎌を構え直した。
よく分からないけどいつもより体が軽くなっていた。
多分だが、ドーパミンやらが頭の中で分泌されているのだろう。
そんな不思議な興奮状態でフードの女へと走り出した。

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