カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

古竜 リオレイルケイル





 『神に至れぬ古竜の巣』、
 ヴァルディリス城からしか行けないステージ、
 長らく閉ざされていた場所、
 竜達の墓場、
 一節によると恐竜たちの魂の形、
 それが、『竜』、と言われている。
 というかこの世界の『人』にとっての始まりの場所にいる案内役の老婆、
 ビギニングがそう最初に伝えている以上それは事実である。
 人が等しく全て『ススキの海』こと『芒のほこら』から始まるように、
 竜にとっての『芒の祠』、それが『神に至れぬ古竜の巣』なのだ。


 薄黄土色の大地に、草木など殆ど無い、
 多少の緑は確認できるものの枯れ果てた大地、
 浄化され消えていった竜たちが残した竜の骨や、
 飛行タイプの竜がどこからか集めてきた枯れ藁、
 かつてこの地を訪れた人が作ったのか
 それとも最初からこの世界が『提示』し存在したのか、
 後から世界が必要と判断し作り出したのかロープ台、つり橋、などがある、
 先ほどの『からくり』も世界に『提示』されたものかもしれない、




「「こわっこわっなにこれッッw、なにこれぇぇぇぇぇぇッッ」」




「着地を間違えて大聖堂行きする奴も昔見かけたからな、
 現実の警官とかなら二階級特進するかもだがここじゃ記憶を失うだけだ。
 落下死のペナルティはだいぶ緩和されるらしいが気をつけろよっ、
 ともかく最後まで手を離すなッッ
 おおおおぉぉぉッッッッ、


 それにしてもなつかしぃぃぃぃッッッ」




 本来なら『現実』なら縄を伝って滑り落ちるなどできないがここは『地獄』、
 『カルマ』、『テラ・グラウンド』、
 このような特殊な移動手段は大抵この世界から『提示』されているものだ、


 『提示』、ステージを成立させるためにこの世界が創りだした物。
 ステージ自体もだいたい『提示』によって作られる。
 ガルデアの塔や、ヴァルディリス城は人が作り出したものだが、
 『提示』によってステージになることに変わりはない、
 『この世界の無意識的決定行為』というべきだろうか。
 移動手段がないなら漂うアニマ、『霊子』が『提示』に応じ、様々な形で答えてくれる。




「やばいっあッあッ落ちるッ落ちちゃうぅぅッッ」


「なにやってんだ旭っ」




 着地した勢い余って崖から落ちそうになる旭を落ちる寸前でなんとか掴み龍人が助ける。




「ふぅぅぅぅぅ助かったぁぁ」


「助かったじゃねぇ…だからそのな、暴力反対」




「…助けてもらってあれだけど、
 両手で上から手を入れておっぱい鷲掴みにする必要はないと思うなぁ、
 あの一瞬でそんな余裕あったんだなぁ、
 さすが変態アイ○ツおじさんだなぁ、旭、ちょっと感心しちゃったよ〈ハート〉」




「すまん」




 すまん、と言いつつも男の性なのか、それともただ龍人が変態なのか、
 せっかくなら、と揉み続ける龍人がいた。




「痛ってぇぇぇッッ殴るこたぁないだろうよっ」




 右手でおもいっきり龍人の頭部に拳を入れる旭、ダメージはないが痛みはある、




「まったく油断も隙もあったもんじゃないっ」




「まぁ、ちょっとしたアクシデントもあったが、
 この先がここの唯一のBOSS、古竜リオレイルケイルがいる」




 どでかいタンコブを作りながらもシリアス顔で仕切りなおす龍人、
 この辺は流石である(なにがだ)




「それにしても、素材なかったね」




「そうだな、まぁここはBOSSのところにも複数ドロップゾーンはある、
 そこに期待するしかないな、」




「準備はいいか」


「望む所よ」




 それぞれ武器をしっかりと手に持ち、気を引き締める。




「と言っても、戦ったことが俺はない、全くのノーデータだ、
 まぁ戦闘にならない可能性も高い」




「えっ? なんで?」




「……しゃべる竜と戦う気が湧かなかった、
 ただそれだけだ。それに話すと話がわかるやつでな…、
 やめとくって行ったら『おお、そうか、達者でな』と、見送ってもくれた」




「気合入れて損した…っていうかそれBOSSなの?
 ふつー霧のゲートみたいの越えた先がBOSSじゃない」




「………そういやそうだな、いや…でも…どうだったかなぁ??
 だいぶ前の話だからなぁ」




 この巣の頂上、そこにいる、鎮座する、紅い竜、
 口には立派な牙、大きい翼、立派な鱗、その巨躯、大きい、
 横に40メートル程度、
 頭を地面につけ座っている状態で縦に10メートルはある、
 奥行きはわからない、ともかくそんなところだろうか、
 初めて目にする竜に旭は生唾をゴクリと飲む、
 そしてその紅い竜は龍人達が話しかけるまでもなく首を起こし向こうから話しかけてきた、




「ああ、懐かしいな、人が生者が来ること自体もだが、
 なんだったか、あれはいつだったか、ああ、なにか
 竜に関した名前だった、た、たつ、竜夫? だったか?」




 パチンと指を鳴らしその間違った解答へ反応する龍人、




「おっしいなぁ、龍人だ、吾妻龍人」




「ああ、そうか、そういう名前だったな、何千年ぶりだ、いや万年か?
 いやどうっだったか、年はとりたくないなぁ……、
 おっと初顔も居るようだな、一応事項紹介しておこうか、わし、リオレイルケイル」


 
 大きく頷きながら竜、古竜リオレイルケイルは合点する。




「年も糞もあるかよ、それに少しはBOSSらしくしろよ」




「BOSS? ああ、そうだったかな? いや、違うんじゃないかな?」




「ああ? 違うのかよっ(まじかよ)」




「考えても見ろ戦うこともなく立ち去れるBOSSがいるか? 
 それにわし、飛んでいけるし、
 BOSSって一定の場所に基本縛られるものじゃないかな?
 いや違ったかな? BOSSってそもそも煙みたいな扉超えるものだよね?
 超えてないよね? そういうことだろう」




「(やっぱり…)」




 旭は予想があたって少し嬉しそうである。




「(そうだったのか…)」




 龍人は年取ったのかなぁみたいなリアクションである。
 左手で首の後ろ側をナデナデしている。




「まぁどうでもいいかな? 
 ここはおまえさん達『人』にとってススキの海みたいなものだよ、祠だったかな?
 どっちでもいいかなぁ? 
 竜も人も、獣も等しくここに集まる、
 始まる場所が違い、ここが『竜』、恐竜だった魂が始まる場所、
 ただそれだけだ、そこにBOSS居たか?」




「…いねえな」




「聞いてなかったがお前たち竜の『目的』は何なんだ」




「我々のルールはお主達よりは『複雑』ではないだろうが、
 最高の目的は一緒だ、記憶を持ったままの『転生』、
 恐竜と獣には転生はできんが『人』に転生できる」




「初耳だな、」




「そりゃ初めて言ったからな」




「一人称はどうしようかな、俺かな?
 わたくしめか、拙者、いやどうだろう、わっち?
 う~んわらわこれもないなぁ、それがし
 うーん、スタンダードに『わし』でいいかなぁ、まぁその辺は臨機応変に適当で行くかな。」




「なにこの竜、饒舌じょうぜつだね」




「まぁわしが人の言葉を喋れるのは人のアニマを大量に奪ってきたからだ、
 昔はそりゃ『転生』を目指して戦ったわ、
 挑んでくる生者を炎で黒焦げにしてアニマを奪い、頑張ったわ、ハッハッハッ、
 まぁ時には徒党を組まれて負けることもあったがな、
 今となってはいい思い出だな」




「今はもう『転生』に気がないのか?」




「だって、来ないんだもんなぁ、人、獣も、暇しちゃったんだよなぁ、
 飛ぶのもめんどくさいし、この辺みんな転生を目指さない竜ばかりだし、
 カオスアニマ賭けて戦う奴いないんだよねぇ。
 そもそも最近じゃ竜もほんとうに少なくなってきててなぁ、
 大体みんな骨になっちゃうよね、ていうかなっちゃったよね」




「…なるほど、しかしどうでもいいが少しキャラクターを固定しろよ」




「わかった。龍人、お前はたしか目指していたな、
 『転生』、まだ目指しているのか?」




「ああ、だから来た、素材が欲しくてな、『新種』を強化できるやつを」




「ふむ『新種』…か、そういえば最近夜、いや夜中か、
 この辺りで光る石だか骨だか出るようになったな、もしかしたらそれやもしれぬ、」




「夜中か、情報助かる」




「まぁ泊まりがけでゆっくりしていけ、
 ひさしぶりの話せる客人、無碍むげにする気はない」




「お言葉に甘えさせてもらうぜ」




「ところでそこの初顔のお嬢さんは?」




 突如として旭に会話の矛先をふる古竜、旭は自己紹介をする。




「自己紹介遅れました、私は、旭、朝凪 旭、よろしく、えーとリオレイルさん」




「リオでいいよ、旭のお嬢さん」




 その長い首を巨大な頭を口先を龍人の耳元にまで伸ばす古竜リオレリルケイル、龍人の耳元で『囁く』、




「【しっかしりっぱなおっぱいさんじゃないか、龍人はもう揉んだのかな?
 やっぱり人間に転生できるならカオスアニマ欲しいかもなぁ、どうしよっかなぁ】」




「あのなぁリオ、お前の小声、『全方位』に『全』聞こえなんだがな」




 右手で額を抱えた龍人はやさしく古竜リオレイルケイルに現状を通達する、








     「「な、なんだとぉぉぉッッ」」








 龍人の耳元に会った口先は、高く高く上空に昇り、そう驚愕の雄叫びを上げる。




「男って…本当おっぱい好きなのね…(なんか私が悪い気がしてきた…)」




 肩を落とし、竜の男の性を実感した旭は、
 呆れ顔をさらしつつも若干ではあるが、『男』を理解する。





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