カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

商人 松原





「いらっしゃい旭ちゃん、僕の熱いラブコール、受けてくれる気になったのかな」




 ここは始まりと終わりの街『アイテール』、
 何処にでもある木で作られた適当な家である。
 外にはこの街唯一の井戸がある建物に来ている。
 井戸と言っても下に水はない、
 完全にオブジェと化している
 恐らく昔の生者が試しに掘ってみたが意味がなかった的なやつである。
 中は黄土色の茣蓙ござのようなものが敷いてあり、その下の床は木である。


 今、旭に話しかけてたのはこの村の『3商人』の一人、
 商人『松原笑馬まつばらしょうま』、
 この真っ昼間でも常時家の中で涼んでいる良い御身分の
 普通の武器防具専門の商人である。
 その風体は糸目、身長は170ほど、
 見た感じの現世での年齢は20代半ばくらい、
 髪の色は茶髪、若干黄土色よりだろうか、
 髪型はウルフカットもどき、襟足はさほど長くはない、
 利休色の、緑の彩度を落とし色の褞袍どてらのような物を着込み、
 上着は黒の長袖のTシャツ、
 白いズボンと茶色の膝下まであるブーツを履く、
 確かに商人と言われれば万人がそう思える男である。




「そんなことはどうでもいいです、松原さん、
 さっさと商品見せてください、ロングソード系のやつ」




 そんな彼をあしらいながら
 『あんたは要件のみを対応してりゃいいんだよ』とゴミを見るような目で告げる旭。




「きっつー、ひどいよ旭ちゃん、
 そういうところも魅力的で、素敵で好きなポイントなんだけど」




 へこたれる様子もなく喋りつつ何もないところから、
 彼の持つ武具を新たに敷いた純白とまではいかないが白い床布に展開させた。




「はい、いまあるうちの商品、ロングソード系の武器は、これだよ」




「うーん、まぁただのロングソードが一番無難かなぁ?
 デザイン的にも能力的にも、
 特殊効果って私嫌いなんだよねぇ…他のもやっぱり知ってるのしか…っ?」




 早速物を決めに掛かった旭だったが一つの『違和感』、『勘』の働く見栄えの武器を見つける、




「…『果てなきオーラのロングソード』? なにこれ、どうしたのこれ」




 果てなきオーラのロングソード、
 刀身が他のロングソードと違い先端が三角形ではない、長方形、
 十字の切れ込みが入っている不思議な刀身の剣である。




「確かに俺でも知らん装備だな、『新種』か?『オーラ』ってことは魔法じゃないのか?」




「手にとって見ていい?」




「はい、いいですよ」




「この装備、旦那の仰る通り新種でね、
 ただ、魔法系かどうかは全くわからんのですよ。
 『フレーバーテキスト』も何も書かれていなくて概要を確認できない、
 装備しても魔法属性も、魔術属性も、
 その他毒などの特殊属性でもない、しまいには強化できない、
 だから今までの強化された無属性、
 有属性のロングソードと比べるとどうしても
 二枚も三枚も四枚も性能が下になってしまうからね、
 売った生者も嘆いたんですよ」




「…何処どこで手に入れたって?」




「なんでも『ヴァルディリス城』のヴァルディリス王に許可をもらって、
 ガルデアのいまだ残る霊体兵やヴァルディリス王の配下だった霊体兵、
 城の一角にいるガルデアの騎士長のBOSSを一回り倒してきた、とか言ってましたね」




「なるほど、あいつ許可なんかしてくれるのか、
 しかも自分のかつての部下まで。
 つってももう浄化されて抜け殻だからな…さすがに関係ないか、しかし知らなかったな」




「余程機嫌が良かったんですかね」




 一通りの事情、説明を受けた瞬間、旭は即決する。




「私、これ買う、」


「あ?」


「へっ?」




 あまりの早い決断に龍人も『商人』松原も驚いた表情を隠せない。




「いくら? 松原さん、」




 真剣な面持ちで松原の瞳をじっと見つめる旭、




「いや、そこに値札に書いてある通りですが、
 強化できないとはいえ『新種』ですから、
 普通のロングソードの100倍以上と行きたいところですが
 現状『クソ武器』なので『ただのロングソード』の30倍の3万アニマですね」




 それでも少し吹っかけた値段設定なのか、
 売れると思っていなかったのか、
 そもそも幾らで買い取ったのか、
 商人『松原』は頬に汗を掻き、目を旭から向かって左斜め上に逸らしながら答える。
 これは恐らく相当安値で買い取ったのだろう。




「むー先に大聖堂に寄ってレベルアップしたのは失敗だったかなぁ?
 ロングソードはそんなに高くないから油断したなぁ、6千アニマしかない」




 右手で口元に手をやり人差し指をくの字にし、口下につけ、
 左手で右肘を支え考えるポーズを取る。
 しばらくウンウン唸っていると、すると答えが出たのか、
 彼女は真剣にその熟考した答えをそのまま、
 なんのオブラートに包むこともなく発言する。




「龍人。『アニマの結晶』でもアニマでもいいから、ちょうだい」




「はぁ?、お前なに言ってんだ?」




 突然の物乞ものごいに龍人は呆れた声で反応し返す。




「知ってるのよ、貯めこんでるでしょ、少しぐらい良いじゃない」




 そんなことは知っている。失礼なのは知っている、
 男は女に貢ぐもの、私の物は私の物、お前の物は私の物、買いたいときは今なんだ、


 そう言わんばかりの旭の声色に龍人はため息混じりに頭をきながら答える。




「あのなぁ、これは俺のアニマなの、
 Thisディス isイズ myマイ ANIMAアニマ わかる?」


 当然の正論、『自分で稼いだもの、俺の貯蓄、お前の貯蓄ではない、パードゥン? 
 もう一回言って見れるものなら言ってみろ、
 正当性を主張できるのなら今一度言ってみろ、私は一向に構わん』、
 龍人はそう言葉に思いを乗せる。




「…『わ・た・し』の『おっぱい』も『わ・た・し』の『もの』なんだけど」




「…くっ…なんも…なにもッ、なんもかんもッ言えねぇ……」




 先ほど有耶無耶うやむやに出来たと思っていた
 『寝ている女子高生睡眠時パイモミ案件』を持ちだされて龍人は早急に敗北を宣言する。
 確かに、タダで、そして無許可で
 女子高生の寝ている非常に柔らかいみずみずしい若肌生おっぱいは揉めない、
 決して揉めない、都条例だとか、そんなものは関係ない、そもそも揉めない、
 それでも揉みたい、崩れ落ち手を地面につきながら伏せる龍人がそこにいる。
 都条例違反者がそこにいる。そもそも現世では重犯罪である。




「お手」




 右肘に添えていた左手を龍人に差し出す旭、




「ちっわかったよ」




 龍人は立ち上がりアニマの結晶を取り出し、
 寝ている女子高生の張りのある柔らか生おっぱいを揉みまくった対価を
 渋々嫌々『万引きしたのに悪びれない万引きG面に捕まったおばちゃん』のように
 渡そうとするが旭はこれを許さない、




「ダメ、ちゃんとご飯前の犬がご主人様にするみたいにお手しながら渡して。」




 すると龍人は人が変わったように、
 かつて現世で存在したと言われる『夕方テレビ前のアイ○ツおじさん』のように
 ハァハァしながら…ではなく、犬のように振る舞いだした。




「……ワンッ」




 吠えながら旭の左手にアニマの結晶を渡した。
 しかし心のなかでせめてもの抵抗、
 『フフッヒ』とアイ○ツおじさんの意地を見せながら笑みを浮かべるが
 松原はその存在自体を、その存在を知る旭はそこまでアイ◯ツに詳しくないし、
 ただ苦笑しているようにしか見えないので誰にもそれは伝わらない。




「よろしい」




 旭はアニマの結晶をまるでゴミを見るような目で受け取り、
 とりあえず合格点を出した。
 今この松原商店には笑いを堪えている糸目の茶髪商人松原笑馬と、
 寝ている間に脳筋おじさんにおっぱいを揉まれた元女子高生朝凪 旭と
 何年この世界にいるかもわからないほど生者で、巨体の、今現在犬とかしたと化した
 女子高生睡眠パイモミ犯の元ラノベ作家アイ○ツおじさんが無残にも存在した。




「プッッなんかよくわからないですけど突っ込まないほうがッッ
 良さそうですねっ珍しいものが見れましたよっ」




 松原は笑いを抑えられずに吹き出しながらそう言った。




「松原、死にたくないなら記憶のストレージから消去しておけ、いいな」




 龍人は松原に途轍もないこの世の生き物とは思えない表情でそう脅す、




「はい、そうします(こわいこわい)」




 血の気が引いたかのような表情を見せた『商人』松原は
 このことを忘れることに今日一日を注ぎこむことになったらしい。








「まいどありー」




 そう言いながら店の出入り口から半身を乗り出し
 手を振る松原に旭も手を小さく胸元で振り返し、
 『商店』松原から出た龍人と旭は次に向かう、




「とりあえず次は鍛冶屋だ」




「うん」





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