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カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

楽しかったです





「さて、行きましょう」


「おう」


「ああ」


 件の3人組、『理道』を名乗る男、旭の追う相手、
 確かに、旭は運良くその瞳でその存在を捉えている。
 発見した場所はリディアの港と『仄暗い野盗達の楽園』を結ぶ街道、
 黄土色の地面と、木々があり、その木々の反対の壁、
 4メートルはある崖と木々たちの中に彼女は居る。




「(見つけた)」




 たが、高鳴る鼓動とは裏腹に、慎重になる旭、
 流石に3体1では勝機が全く無い、
 そんなことはしたくない、と旭はそこは冷静だった。
 龍人のおかげだろう。彼の顔を思い出し罪悪感が押し寄せる。




「(でも今は、これが私の今したい行動、
 『勘』だから、その身勝手な『勘』に龍人は巻き込みたくない)」


 
 そう罪悪感と龍人のことを払拭すると、
 理道を含めた3人組の後を尾行する、
 どこかで一人になる時があるはずだと決意を新たにした。
 長期戦を覚悟した旭だったが意外にもその時は早々に訪れる。




「昨日も話しましたが、僕は今日野盗の王と話があるので、
 あなた達は別行動でお願いします。気にせずアニマ稼ぎに勤しんでください」


「ああ、わかってる」




「(二手に別れた?)」




 理道ではない他の二人組はリディアの港方面に向かい歩いていった。
 理道はこのまま単身『仄暗い野盗達の楽園』に向かうようだ。
 そこの野盗の一人なのだろうか、
 『仄暗い野盗達の楽園』までは龍人が言うにはそこそこ長い、
 亡者がたまに出る程度の街道が続くらしい、
 「これは千載一遇のチャンスだ」、と旭は感じた。


 『闇衣の柱石』それを手に持ち、
 使用を念じることにより地面に魔法陣のようなものが出現し、
 一時的に『闇衣を纏う者』となり、生者を襲えるようになる、
 例外としてアイテールと始まりの狩人と亡者の森を結ぶ街道は、
 理由は定かではないが生者で襲うことも可能ではある。
 『闇衣の柱石』とは逆の性質を持つ『光の衣の柱石』は、
 まだ記憶がある生者同士で互いにその石を手に登録する、
 その後使用すると、登録してある生者2人を選び
 行くかどうかは受け手側の任意だが同意した者は光の衣を纏い、
 使った対象の近くに召喚されるようになっている。


 闇衣で生者を襲うのはデメリットが多い、
 その対象が『ぼっち』なら対等に戦えるが、
 この世界で『ぼっち』を貫いているのは正直『龍人』くらいなものだからだ。
 『光衣の柱石』を使われたら最後、死は必然だろう、
 徒党を組んでいるのなら話は別だが、旭はそれすら覚悟のうちだった。
 『光衣の柱石』で召喚されるまでの時間は龍人に聞いていた。
 およそ3分、その間に、ほふりさればいい、
 『光の衣の柱石』を使った場合、
 召喚されたい対象が死んでしまえば光衣の霊できた者達は元の場所に還される、
 そういうルールだ。
 どれだけ防具を、装備を固めても、
 対人同士の与えるダメージは個体差はさほどない、
 理道の体力が3000程なら重量武器なら普通6、7撃、
 中量武器なら10、11回、
 軽量武器の場合は17回程だ。
 背後を取れれば半分で済む可能性もある。
 だが回数当てることが必須であるが故、
 これは分の悪い賭けであることに変わりはない。
 向こうは経験豊富な熟練の自称300年の生者、
 しかしそれでも決意が揺るがぬ旭は、もう躊躇なく迷いなく、
 龍人の顔が浮かぶわけでもない、
 ただ、目的は一つ、『闇の衣の柱石』を使用した。




「(いくッッ)」




 心のなかでそう叫んだ旭は一目散に距離を詰める、
 右手には使い慣れた『堅牢な斧』、
 旭曰く『本当はロングソードがカッコイイが今はこれが1番戦っていてバランスが良い』、
 使用耐久値も有り、装備重量もそこそこ、なにより使い慣れた武器だ、
 左手に表示されてはいないが装備重量を考え中盾『鉄の中盾』、




「(両手持ちで背後からの一撃、それが理想、だがそうは行かないだろう、
 大丈夫、『覚悟』はできているッッ)」




「? なんです」




 足元は普通の硬さの黄土色の地面、忍び寄ることは可能だったかもしれない。
 しかし相手は熟練の生者、
 いらぬ期待を持つくらいなら高鳴る鼓動を止めず、
 歩む、走る足を、足音を静かにするよりただまっすぐに相手に近づく、
 だがせめて『心』だけは冷静たれと、旭はそれだけは心がける。
 臨戦態勢に入った『理道』を見るや旭は冷静に両手持ちを片手持ちに切り替え、
 鉄の小盾を左に構える。


 相対す、黒き衣を纏う『旭』と、生者、『理道』。


 『理道』の武器は、右手に『毒が溢れるロングソード』
 左手に先程は展開していなかった『ただのロングソード』二刀流である、
 旭は所有はしていないが龍人に見せてもらい正確な能力値を知っている武具である。




「いい度胸じゃないですか、私を『理道正知りどうまさちか』を知ってのことかな?」




 『理道正知りどうまさちか』男は言った、
 確かにそう言い放った、
 彼まだ知らないのだろう、
 気づいてもいないのだろう。
 彼女は『今』彼のフルネームを知った、


 彼は彼女の顔すら覚えていないのだろうか、


 彼は、そう―――








   「(『私』を――、『殺した男』)」








「おやおや、だんまりですか、まあいいでしょう。
 久々に喧嘩売られてわたしは嬉しいです。
 ご褒美に『光の衣の柱石』は使わないでおいてあげますよ。
 だが、覚悟してくださいね、女、」




「(『私』は『あんた』を許さない)」




 その瞳は復讐に燃える、双眸そうぼう、まっすぐに理道を見つめ続ける。
 時間はない、『光の衣の柱石』を使わないと宣言したとはいえ、朝、
 この街道を通る生者はいるだろう。
 そうなった場合、闇の衣を纏う旭を快く思うものは居ないだろう。
 ここを通る生者それは野盗の王に集う野盗、
 理道の仲間である可能性は高い、そして旭の見方である可能性はゼロ。




  どちらにせよ事情を知らない生者は
  理道正知に協力する可能性が高い。
  それすらも拒む可能性もあるけど、そこに期待は持ちたくない、
  私は『この男』に期待はしたくはない――。




 その『名前』も旭の怒りに拍車をかけた。
 鼻につくのも致し方無い、
 『正しき理屈』を通すほど、
 『正しき』を『知っている』ようには思えない、
 現世でそんな名前を正しく全うできなかった男が、
 この世界でも変わっていないのは明白だからだ。
 そのくせ龍人に『この世界にきて300年』と、
 嘘を言わないあたりも鼻につく、
 そんな所で『筋』を通すのなら、通せるのなら、
 なぜ人を襲い、殺すなどしたのだろう、腹立たしい、
 それが旭の今の気持ちだろう。




「「オオォォォッッッ」」




 声を上げ、右手の斧を持つ手に力を込めて、理道正知に襲いかかる旭、




「中々やるようですね、悪くない、」




 余裕で理道は、回避行動を取り続けながら余裕の発言をしてくる、
 『満6日』対『約300年』、濃密な経験を積んでいるとはいえ、
 経験の差はやはり大きい。




「だが、甘いですよっ、それじゃッ」




「!?」




 右手に持つ毒のロングソードを寸前で避けきり、
 左手のただのロングソードの横薙ぎも旭は髪の先端を切られながらも華麗に避ける。




「シッッッ(もらったっ)」




 旭の斧は、確かに理道の体に届いた、『感触』も、ある、
 理道の体は確かに斬撃性と打撃性を併せ持つ斧のダメージを確実に与えていた、
 少し仰け反ってもいる、この様子ならもう一発は必ず入る、




「おおっ痛いっ、痛いっ、」




「誰かっ、誰か助けてッ、殺されちゃいますッッ」




 二撃入ったことにより、理道の体力はまだ8割、
 流石に熟練の生者、まだ余裕はある。
 ところがあろうことか、背を向け敗走し始める、
 後ろからの『バックハンマー』、
 後ろから『蹴り』などで背中を押し地面に叩きつけ、
 武器を打ち付け致命の一撃と同程度の致命傷を与える事が可能。
 攻撃を決めれば5割を恐らく切る、
 後一巡先程行なった攻撃を繰り返せば丁度理道を殺すだけのダメージを与えられる。




「死ねっ理道ぉぉッッッ」




 このままこいつがこの程度なら殺れる、
 旭は声を上げながら『蹴り』、
 この世界の『システム』がそれを認め理道の背中を押し、
 地面にうつ伏せにひれ伏せさせた。
 旭は振りかぶる、両手に持ち替えた『堅牢の斧』を、
 意味もなく力いっぱい握りしめ振り下ろそうとしたその瞬間、
 擬似的にではあるが現世で殺された復讐の一端を果たすと思われた刹那、




「なーんてね、」




 理道が地面にひれ伏しながらも、笑みを見せた瞬間、
 旭は突如背中に激痛が走り、
 理道と同じではないが、クラブ系攻撃による『ダウン』状態になる、




「!?」




 あと少しで『バックハンマー』が入り、
 そこに旭の斧が理道の背中に致命傷を追わせ、
 追撃を続ければあと僅かでこの男を、
 理道正知を一度旭の手で殺し返すことができたはずだ、
 しかしそれは成されなかった。




「どう…して、」




 当然の疑問が旭には生じる、そして口にもでる。
 ひれ伏しながら横目を空にやると
 そこには先程別行動を取ったはずの二人組の男達が顔を覗かせていた。
 武器は、クラブ系なのが辛うじて認識できた、


 理道正知は語り出す、起き上がり話しだす、得意気に、嫌味混じりに、




「あれ程までに殺気を振りまいておいて、察せないほど『勘』は鈍ってはいませんよ」


「私はね、いちいち昨日話したことを朝、確認などしません、おわかりですか?」




「――なっ、」




 旭は驚く、確かに殺気まみれだったはいえ、
 そんなアニメや漫画のようなことができるのかと、
 現実でも出来得たのかそれはわからない、
 しかし、ここは『テラ・グラウンド』、相手は長きに渡り、
 300年以上この世界にいる者、
 そのぐらいの芸当はある意味想像、
 想定しておくべきだったのかもしれない、
 旭の脳裏には龍人が殺された相手も殺気を感じ、
 返り討ちにされたということを思い出していた。




「(殺気を読む? あんな与太話、こいつも使えるっていうの?)」




「あれは、狙ってる誰かが、いる、気がついた時、
 もしくは『予感』がある時に行なう、僕の常套手段です」
「すっかりしっかりぽっきり引っかかってくれて、途中、
 爆笑しそうなのをこらえるのが大変でした。
 多少の傷みであんな面白いことできるなんて最高でしたよ、
 ふふふふ、安心してください、
 野盗はどれほどのクズでも受け入れてくれますから、
 私がイカれてるのは皆承知です、野盗には野盗のルールがありますしね、
 文句があるならカオスアニマを賭けて戦う、
 それ以外の手段はご法度ですから。心配なさらないでくださいね?」




 理道は喋りながら思い出し、
 思い出し笑いをしているようだ。確かに演技掛かっていた、
 気づくべきだった、昨日までの『勘』なら、恐らくは、
 しかし、怒りは、確実に旭の『勘』を鈍らせていた。


「「き、きさまぁぁぁぁッッッッ」」




 旭の咆哮はあまりにも哀れに周囲に響き渡る。
「ん??? どこかで見た顔だなぁ、
 どこだったか、『現世』ですかね? もう300年以上前の話ですから……」


 左手を薬指をくの字に曲げ唇の下に当てて自身の記憶を探る理道。
 何処か楽しげに思考を邏らせウンウン唸っている、




「私は、朝凪 旭っ、覚えてないとは言わせないわよッ」




 その理道正知の思考時間も『無礼』で、『失礼』に感じる旭は、
 我慢できない、許せない、故に自身の名を声高に語る、




「…朝凪、旭?」




 理道は更に左肘を右手で抱え、自身の脳内で旭の名前を検索にかける、




「ああっ思い出しました、ああ、ああ、ああ、
 あの僕が『強姦』して差し上げようとしたのに
 やたらに抵抗した女子高生の旭さんですか、
 思い出しました旭さん、『処女』のまま死ねてよかったですね、
 あ、わたし、『死姦』の趣味はないですから『安心』してください」




 腑に落ちたように答えがわかった理道は、
 はしゃぐように左手に右手の腹をポンポンと打ち付けながら
 『死姦はしてないからよかったね、安心してね、テヘペロ』と
 旭を『天然的』に『天才的』に煽る。




「「外道がぁぁぁぁぁぁッッッッ」」




 吠える旭を物ともせずマイペースで理道は続ける。
「まぁ話はわかりました、なるほど、この世界では、
 長時間中期間の拘束は許されないルールですから、
 まぁ、また来る『気力』と『記憶』が維持できるならまたおいでください、
 『理道正知』は君の復讐を『心』から歓迎します。『君』にはその『資格』がありますから、」




 理道正知の言うとおり他の二人にクラブで腕やら胴体やらを押さえつけられていたがその拘束は解かれる、立ち上がる、しかし囲まれている、それはもう死、
「それでは、さようなら、良い目覚めを、これはもう『処女』じゃないね?
 僕が奪った『処女』だから、だから怖くはないですよね?
 『二回目の死』、かな? また『僕』でよかったね、
 いってらっしゃい『朝凪 旭さん』」




 理道正知は嫌らしく、憎たらしく、嘲り、煽り、様々なものを混ぜた言葉を送った。




「「くそぉぉぉッッッッ」」


「「理道ォォォォッッッッッッ」」




 旭の最後の声が、辺りにこだまする。
 果敢にも理道目掛けて攻撃を繰り出すも背後からの二人の攻撃にやられ、
 そして最後、理道に苦し紛れに出た攻撃をパリーされ、
 尻餅をつかされ、致命の一撃を貰った、




「「がぁぁッッッッ」」




 絶命の声が響く、
 しばらくして理道は地面に突き刺さった
 『毒が溢れるロングソード』を引き抜き理道正知は呟いた。




「ばいばい、旭さん、楽しかったです」




 そこにもう旭の姿はなかった。
 風は吹く、理道の男としては長い髪を少し揺らした。







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