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カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

黒鉄の騎士長オルガルド戦





「で、休憩終わったらどうするの」




『リディアの港』での休憩もほどほどに、
 水を飲み終えた旭は胡座をかきながら次はどうするのか龍人に尋ねる。
「さっき出入り口前でUターンしたろ? 
 あの少し先がBOSSでな、
 後はいつもどおり頑張れ、俺はここで海を眺めてる」




「え、こないの?」




 龍人の行かない宣言に旭は驚きの声を上げる。




「いつまでも俺が一緒に入ってたんじゃ
 BOSSの体力が上がるやつは上がるが緊張感が薄れるだろ、
 『灼熱の黒鉄城』のBOSSの一人、『黒鉄の騎士長オルガルド』も
 エルディオンと同等のもともと体力が多いやつだ、
 一人でやってこい、
 俺が稼げるわけでもないのにもう行きたくないってのもあるがな」




「…正直ね、気持ちはわかるわ。
 なら龍人はそこで『海を眺める達観おじさん』でもやってなさい、
 私が華麗に『黒鉄の騎士長オルガルド』倒してくるわ」


 
 旭は立ち上がり、
 背伸びをして肩のストレッチなどをする、時より胸が卑猥に揺れる、
 何度も揺れる。
 龍人は視線をチラッチラッともせずガン見する。
 おっぱいが揺れる度その挙動を追う、上下する、
 まるでそれは猫、猫じゃらしを提示された猫である。
 どうでもいいことでもある。
 描写する必要性はあったのかと問われる覚悟もある。




「おう、行って来い、俺は『海を眺める渋目の達観おじさん』やっとくよ」




「はいはい、よし、じゃっ行ってくるっ」




「おう、頑張ってこい」




 旭はそう言い龍人の激励を受け取ると元気に灼熱の黒鉄城にむかって走っていった。




「…しかしまぁ、あいつは発育が良すぎるな、目に毒だ」




 先程のストレッチと、
 休憩時と一緒に攻略した『灼熱の黒鉄城』で
 戦う時の旭のおっぱいを思い出しながら龍人はそう声に出して呟いた。


「♪~~♪(なんだかんだで龍人は私のこと結構期待してくれてるんだよなぁ~、
『頑張ってこい』だって~♪)」


 旭は鼻歌交じりに走りながら先程道中のモンスターを全て駆逐した為、
 BOSS前の部屋の前まで安易に到着する。


 BOSSの部屋の間で旭は装備を整える、
 龍人曰くBOSSステージは温度は通常なので
 わざわざ変態水着スタイルで斧を担いで戦いを挑まなくてもいいらしい。


 装備を整えた旭は白い霧に手をかけ、
 BOSSゾーンに入る、
 そこにいるは黒色の鎧を纏う漆黒の戦士、
 『黒鉄の騎士長オルガルド』、
 黒と呼ぶにはいささか語弊があるが
 『忘却の騎士エルディオンの銀色を少なくとも4、5倍濃くした
 濃いグレーの鎧を全身に纏うBOSS。


 黒い壁、灰色の地面、
 黒い壁には道中にも配置されていた『永久のロウソク』が部屋を明るくしている。
 リディアの港の街灯の光もこれである。




「(油断してるわけじゃないけど、でも負ける気はしてない、
 来なよ、『黒鉄の騎士長オルガルド』)」




 旭は手に持つ『堅牢な斧』と、
 新たに購入した大盾『鉄の大盾』を少し強く握りこんだ。 




 『黒鉄の騎士長オルガルド』、
 灼熱の黒鉄城のBOSS、
 かつて『黒鉄王グランアルバ』に使えたこの黒鉄城最強の騎士、
 『忘却の騎士エルディオン』より前、
 ガルデア王がいた時代よりも前、
 『黒鉄王グランアルバ王』の玉座に向かう道中のこの一室に肉体を捧げ、
 霊体となった。
 全身黒光る鎧を纏い、
 盾は持たず、両刀使い、
 重量の重く長い大剣と、
 出の早いロングソードを駆使し、
 BOSSの中ではかなり多いスタミナを有し、
 連続攻撃を仕掛けてくるかなり厄介なBOSSである。


 攻撃パターンは基本左手に持つロングソードでの牽制、
 その牽制からのもう一度ロングソードでの牽制、
 そして右に持つ『大剣ベルサルド』を横に払ってくる、
 基本的にロングソード攻撃は盾で受け、
 大振りの大剣攻撃は回避で避ける。というのが基本である。
 他にもロングソードの単発の牽制、
 右手に持つ大剣での単発の横払い、
 大剣の背後への牽制、
 ダッシュジャンプ振り下ろし攻撃などがある。




「なるほどっ」




 旭は後転し栗色の髪をなびかせながら相手の攻撃を理解する、
 理解の声を上げる、
 その表情は恐怖感じながらも楽しさに溢れている、まだ、6日目だというのに、


 旭は守備的に強固になった大盾により安全に
 いつも通り以上に攻撃パターンを確かめてからの確実な戦いをしている。
 どこで攻撃を仕掛け、どこは無理をしてはいけないのか、
 数分で大体の把握を終える。




「(狙う攻撃はロングソードでの牽制二回からの右の大剣の横払い攻撃、そして単発の横払い)」
 再び後方に回避しながら、旭はそう考えをまとめる。あとは実行するだけだろう。




「(来たっ牽制、牽制、回避っ)」




 『大盾』でのガード、中盾とは違い、
 『大盾』は重量武器の攻撃を中盾などと比べて少ないスタミナ消費でガードすることが可能になる。
 大剣や大鎚に対してもガードするなら非常に有効な盾である通称『ガン盾』である。
 もちろん『シールドブローン』されれば弾かれる。


 『大盾』には『パリー』がなく、
 代わりに『シールドブローン』がある、別名『シールドクラッシュ』。
 『大盾』の重量に物を言わせ相手の盾に大盾を押し出すように当て、
 スタミナを削り取る、
 ガードしていなければ普通にそれなりのダメージを相手は負う、
 ただし多少溜めモーションから繰り出され、
 出した直後の多少の硬直もあるので読まれればそれもまたピンチとなるが
 駆け引きの要になるモーションでもある。


 大盾のガードは、大剣などの重量武器の攻撃に対しても結局の所
 スタミナ消費が激しいのであくまで軽い攻撃を安定して受けるための護身用、
 いざという時に大剣攻撃を安定してガードするために主に使用される。
 ちなみに旭の装備重量的にギリギリである、


 この状態での大剣の装備、大型のクラブの装備は旭はできない、
 装備したとしても通常の回避は尻餅をつきながら無様に遅く
 通常の半分も回避無敵時間もない『クソ回避』になってしまうのである。
 旭は牽制の2撃を大盾で受け3撃目の大剣の攻撃を冷静に左に躱す、




「ここッ」




 旭はそう声を発しながら騎士長オルガルドに『堅牢な斧』一撃を喰らわせる、
 『感触』は上々だが、
 龍人の言葉の通り体力値は高いことを『感触』により実感、察する。
 だが、後はスタミナ管理を怠らず体力を削り、
 エンチャント等攻撃パターンの変化まで削るだけである。しかし、




「ッッッ危ないッ」




 牽制二回からの右の大剣による豪快な薙ぎ払い、
 実はその後左に行った大剣をそのまま為のモーションに入り『折り返し』がある、
 普通の生者なら初見ならば貰うのは必然だったが、
 旭はこれを直前で『危ない』と言葉にしながら避けることに成功する。




「ふ~~~~(そっか、こっちの対応見て追加攻撃もあるよね、
 エルディオンもそうだったし、エルディオンより折り返しが早い、
 気をつけないと、
 すぐに見切った気になるのは危険ね)」


 スタミナをほぼ使いきった旭は距離を取り、
 自分の甘い部分を整理し、旭は心を落ち着かせる。冷静である。




「(でもやっぱり、)」




 彼女の中でふつふつとこみ上げてくる物があった。
 強くなっているという実感だろうか、
 目標に着実に近づいているという進捗がそうさせるのだろうか、






「(負ける気はしないッッ)」






 彼女はニッと笑った。


 その刹那、『黒鉄の騎士長オルガルド』は右の大剣でジャンプ飛び込み打ち下ろし攻撃を仕掛けてくる。
 その攻撃は旭にはもう通じない、
 右に回避行動を行ない懐に飛び込む、
 そしてその隙を見逃すわけもない。
 オルガルドの鎧と旭の武器がガシュンッと衝突音を奏で着実に一撃が入る。
 幾度の、何十度の接触を繰り返し、
 完全に見切っている旭は『黒鉄の騎士長オルガルド』の体力を半分にまで削ってた。




「!?」




 『黒鉄の騎士長オルガルド』はロングソードを真横に投げ、
 壁に突き刺し武器を放棄する。
 右手に持った『大剣ベルサルド』を両手に持ち腕を上げる、
 頭上に、天高く掲げ、
 そのまま地面に左膝をつけ右膝を前に突き出し
 右足はしっかりと地面を平面に捉える、
 やや顔は俯き、
 その兜の隙間から、黒く瞳も鼻も中の様子は見えない、
 霊体だからこそもうあるはずもないが、
 だが、瞳があったであろう部分が赤色に不気味に輝く、
 すると『大剣ベルサルド』の刀身の溝部分を伝い薄黒い闇の瘴気を吹き出し始める、
 やがて『大剣ベルサルド』はその『瘴気』を『闇』をその刀身に纏い始めた。




「…ようやく、本気ってわけ、」




 その『闇の瘴気』に、その『威圧感』に負け恐れ慄いたわけでも、
 足がすくんだわけでもない、
 だが、それでも、その『瘴気』を感じ、
 そこに込められた『熱量』を感じられる『勘』を、『感』を、持つのなら、
 その『瘴気』が初めてなのならば、旭が少し、
 少しばかりの冷や汗をかいたことは別段『恥』でもなんでもない事柄である。


 その迫力は『忘却の騎士エルディオン』よりも大きく、
 その『瘴気』は禍々しく、
 そして、龍人が助けてくれるという保証は完全に無い。
 BOSS戦は基本、白い霧の壁を抜けることで生じる、
 一緒に入るのならば共闘できるが、
 同時に入らないのであれば誰の介入も受けることはできない、
 これが彼女にとって、ある意味、初めてのBOSS戦。
 手を出さないと龍人が言っても、一度は介入し、助けられてもいる、
 助けられる前ですら本当は助けてくれると、
 心の何処かで、深層心理の奥底で、無自覚な淡い期待、僅かな期待、
 それがなかったとは言えない。
 ある意味支えとなっていた部分がないのだ。
 だが、ここで多少の恐怖を『感』じないのは
 『勘』が鈍いことを証明してしまうのだから、
 これは、決して『恥』ではない。恥であってもいいが、
 この恐怖は、『転生』を目指すものとして果てしなく、限りなく『正しい』、




「(くるっ)ッッッ」




 『闇の瘴気』のエンチャントを終えた『黒鉄の騎士長オルガルド』、
 その『瘴気』は『大剣ベルサルド』にとどまらず、
 結局のところ全身に及んでいた。
 両手持ちになったからには今までのすべての攻撃を忘れる必要がある局面。
 『黒鉄の騎士長オルガルド』の仕切り直しの初手は、豪快にして単純、
 自ら間合いを詰めた『黒鉄の騎士長オルガルド』は、
 旭の前方1.5メートルに辿り着いた時、
 その鎧の体は沈み、
 『大剣ベルサルド』を両手で左横に構え少し後ろに溜める、
 右足は前に出し地面を掴む、
 そして石詰めの灰色の地面を重く踏み込んだ、




「(なに、やばい、この『感じ』ッ)」




「(後方に回避? いや、確実に盾でガード?)」




 刹那の思考の結果、旭の選択は『盾によるガード』だった。
 エンチャント後の『黒鉄の騎士長オルガルド』の選択した攻撃は、
 間合いに入ってからの溜め両手持ち回転斬り、
 豪快に斬りながら1回転する前方左右の回避を許さぬ単純にして最悪の2回攻撃、
 最良の選択は『後方への回避行動』だった。
 だが旭のとった行動は『大盾によるガード』。


 両手持ちの大剣の1回転2回攻撃、
 聞くだけでガードによるスタミナ消費を想像するのは容易い。
 旭の持つ大盾、『鉄の大盾』は物理攻撃を100%遮断し、
 各魔法、各魔術、に対し、平均的に60%の耐性のある、
 とてもバランスの取れたこの世界では主力の
 比較的序盤で手に入れることのできる大盾である。
 闇のエンチャントにより、『闇』ダメージは想定内、
 そのダメージを追うと共に、
 大盾でのガードにて3分の2のスタミナを消費させられた、
 しかしそれでは終わらない、
 そのまま『黒鉄の騎士長オルガルド』は足を上げ蹴りを繰り出す、
 『シールドブローン』、
 怒涛のスタミナ削りに旭も反応が遅れ
 見事に左手に持った大盾『鉄の大盾』は左上方に弾かれ
 全てのスタミナをゲージを振り切り消費させられる。




「ッッッ(やばいッッ)」




 旭は1.3秒程の硬直、
 『黒鉄の騎士長オルガルド』は攻撃後の硬直が0.7秒程度、
 ただスタミナをある程度消費したのだろう、
 硬直戻りの旭を攻撃、追撃にはすぐ移れない、
 しかし既に彼のスタミナ回復は始まっている、その差は、致命的である。




「ッッッ(一撃は覚悟、痛みに備えるッッ)」




 『黒鉄の騎士長オルガルド』はゆっくりと両手持ちの『大剣ベルサルド』振り上げ、
 硬直が終わり、
 ようやくスタミナ回復が始まった回避行動も取れない旭に
 後方に後ろ歩きで下がろうと歩んでいる旭を逃さぬよう追尾し振り下ろす。


 ザシュッと音を上げ、容赦のない一撃が旭に入る。
 追撃の2撃目、旭は回避行動に移れなかった為2撃目を食らう、
 その二撃の痛みはかなりの激痛、
 だがイメージしすぎなければ食らった肩口が割かれるわけでも、
 BOSSの一撃とはいえ一撃で刃物系が累積ダメージで起こせる
 二倍ダメージ状態『出血状態』になりはしなし、
 血が実際に垂れ流し垂れ流しになることもない。
 所作を抑えきれず出血のイメージが臨界点を超えれば出血することはあるが、
 基本この世界の痛みは大小あれど一瞬、
 旭は歯を食いしばり、痛みを堪えつつ冷静に距離を取る。


 人の『所作』は本来一瞬の痛みを多少長引かせもする。
 それは当然ではある。旭の痛みはまだ持続している。
 それも恥ではない当然である。


 ガードによる闇属性のダメージと、
 まともに受けた闇エンチャント大剣両手持ち振り下ろし二連撃攻撃の累積ダメージは旭の体力ゲージを絶命寸前まで追い込んでいた。旭の体力ゲージがMAX100とするなら15だろうか。
 一度、二度のガードなら耐えられる、
 三度は微妙か、
 ともかく、回復は急務である。
 旭はその中、一瞬でアイテムストレージを開き盾の装備を外し、
 身軽になる、この状況下で酷く冷静に、想定していたのだろう、
 その一連の行動は僅かな時間しかロスしなかった。




「(さっきの溜め回転攻撃、
 食らった二連撃振り下ろし攻撃の後が飲むチャンスなはず、
 だけどまだ全部の攻撃パターンを見ていないから、油断は死)」




 一瞬、旭はレピオス瓶に目をやるが、
 ここは戦場すぐに前を向き直す、
 ただやることは一つ、
 まだ見せていない未知の攻撃に注意しつつ、
 隙のできる知っている攻撃が来たら、
 避ける、距離を少し取り、
 回復手段レピオス瓶を飲む、
 たが、一見シンプルだが、それがこの世界は難しい、


 彼女は、また試されている、




「(本当にこんなBOSS一人で倒して来いって、まだ6日目だよ?
 絶対そんなレベルのBOSSじゃないっこの間のエルディオンも、
 明らかにおかしい)」


「(でも、あいつは何年も何十年も何百年も下手すりゃ何千年も、
 もっとかもしれない、
 あいつにすこしでも近づくには、
 これくらいやらないといけないのもわかるから、
 あいつが、少しでも私に期待しているのがわかるから、
 私は、その期待に応えたいと思っているから、)」


  
   この気持ちは、この気持ちは…なんだろう…、
     今の私にはわからないけど―――、




           私は、












      


       …私は応えたいよ、龍人
















 その決意の刹那、再び『黒鉄の騎士長オルガルド』は間合いを詰める、




「(どっちっそれともっ、)」




 『黒鉄の騎士長オルガルド』の彼の選択は、『両手持ち振り下ろし二連攻撃』、




「ッッッ、(避けてっ)」




 少しの間からの単発の
 『走りながら距離を詰めての両手持ち振り下ろし攻撃』、
 旭は当然回避行動を取る、




「(飲める? 飲むッ?)」




 少し後ろに下がりながらそう考えるが、
 疑問が生じたかすかな『違和感』だった、
 右腰にあるレピオス瓶を飲もうと一瞬思考するが
 決断に至る思考にはまだ至らせない、
 『違和感』がそうさせる。
 旭は回復をやめることを選択する、旭自身、
 その選択の『意味』はまだわかってはいない。


 しかし『それ』は、正解だった。


 打ち下ろした剣をそのまま右に構え一回横に薙ぎ払う攻撃、
 旭は躱す、『勘』を信じた旭の選択は正しかった。




「(今度こそっ、飲むチャンスッ?)」




 しかし、また『勘』は言う、焦るなと、未来を予見する、
 『違和感』を旭に教える、耳元で囁く、
 スタミナはわずかばかりでもあれば、
 スタミナ消費行動は可能。
 スタミナゲージを振り切った消費の攻撃は、
 生者も、亡者も、
 モンスターも、
 BOSSも可能、
 『例外』を除く代償は、スタミナ完全回復までか
 攻撃を食らうまでスタミナ消費行動を行なうことができないというペナルティ、


 『黒鉄の騎士長オルガルド』の選択は、
 『両手持ち振り下ろし攻撃』からの『横薙ぎ払い』、
 からの『溜め1回転2回攻撃』、
 旭は後方に回転し、回避を完了する。




「ッッッ(あぶないっあぶないっでもこれなら)」




 『溜め1回転2回攻撃』を回避行動をした旭はレピオス瓶を二度飲む、
 『レピオス瓶』は不思議な瓶で、神の加護を受けており、
 すべての生者が大聖堂で神の代行者から受け取る。
 使用回数を使いきらなければ使用後も、
 すぐに回復させてくれる液体が満ちる不思議な瓶である。
 確実に体力をMAXに回復する手段として連続飲みがある、
 一度目の回復の最中に選択権がある、
 別々に二回飲むより速く追えられる『テクニック』である。
 相手の攻撃の硬直と、硬直が終わってからのスタミナ回復までの隙でそれは確かに可能ではあるが、初見でそれを的確に行動に移せる旭はやはりどこか『異常』であり、『異端』ではある。だが、『転生』を望むのなら『正常』でもある。


 これがゲームなら一度のレピオス瓶で十分なのだろうが、
 記憶が人質ならば体力MAXを選択するのはむしろ当然である。
 『人の石』は貴重なのだから。




「(まだ見せてない攻撃パターンを引き出させて、着実に体力を削る、
 それだけに集中、攻撃を食らっても焦らない、
 回復は確実に、スタミナ管理を怠らない、
 確実に一撃のみで攻撃はやめる、)」


 エンチャント後の『黒鉄の騎士長オルガルド』の他の攻撃パターンは
 両手振り下ろしの左上と右上からの連続攻撃、
 もちろんその後から『溜め1回転2回攻撃』への派生があった、
 冷静に旭はそれを引き出させ、後は無理をせず、
 着実に『黒鉄の騎士長オルガルド』の体力を削っていった。




「!?」




 しかし『黒鉄の騎士長オルガルド』には、まだ見せていない攻撃があった。
 それは、『忘却の騎士エルディオン』の攻撃とほぼ同一、
 エルディオンより1回少ない回転しての高速振り下ろし追尾2回連続攻撃、
 そしてそこから速い動作からの一回転二回斬りつけ攻撃、
 縦と横の二回、容赦のない4連撃、
 旭は先程からこれ以外の攻撃を躱してはいるが、
 それは決して余裕があるわけではない。
 『殺意』も、『剣圧』も、『瘴気』も、
 常人ならば指一つ動かせず『絶命』は必死。


 旭は慣れてきているとはいえ、
 常に感じてはいる、死という『恐怖』を、
 何度も何度も、旭は、心が折れる手前に押し込まれている。
 ジェットコースターで高い位置から下に急速に落ちている時のような、
 あの感じを感じながら、
 旭を殺そうとする殺意、現実に飛び交う刃、
 それらを感じながら、死を感じながらの行動。
 『忘却の騎士エルディオン』の3回打ち下ろし攻撃も
 難なく躱しているように見えたが、
 その実、いつもギリギリ、
 今度はそれが上と横から角度を変え黒き闇の瘴気を纏いながらやって来る、
 相手を暗い暗い闇に飲み込むような、
 亡者へ誘うような、そんな4連撃。
 彼女を支える、『物』は、『者』は、一体何なのだろうか?




   …おかしいな、もう、こんなにも大きくなってる、
   心が折れそうな、私を、こんなにも支えてくれてる、
   お父さんに謝りたい気持ちも、もう超えてる、
   たった『6日』なのに、私の1番の『支え』になってる、
   あいつの『期待』が、あいつの『意地悪』が、
   嬉しくて、重くて、ムカつけど、私は、私はッ、
   あいつを、一人になんてしない、したくない―――














         したくないよッッ
















 彼女の足は、動く、恐怖を感じながらも、その中でもがく、
 回転の二回振り下ろし追尾攻撃、
 旭は二回確かに躱す、
 通常の溜め一回転二回斬りより早い溜から行なわれる2連撃も、躱す、
 旭は近づき、一撃を食らわす、
 回避にスタミナを割くため無理はできないが、
 もう一撃は確かに行ける、
 だが、彼女は行かない、それよりも、早く倒すよりも、
 彼女の選択は、『異常』、




「はぁッはぁッはぁッ、(さぁ、もっと、来なさいよ、
 その、攻撃、その恐怖に、
 もっと打ち勝てないと、あいつには追いつけないッッ)」


「(あいつが見てなくても、
 私の中のあいつが見てる、私も、私の『勘』が見てる)」


「(この私の『勘』は時に『間違ってる』、時に『合ってる』、
 だけど、違う、今この『勘』は確実に人としては『間違ってる』、
 だけど、『転生』を目指すのなら、
 これは『間違いじゃない』、それだけは、確かっ、)」


 『黒鉄の騎士長オルガルド』は旭の想いなど関係なく攻撃を仕掛けてくる、
 容赦なく、ただ、城に侵入してきた旭を排除するために、
 明確な殺意を持って、剣撃は放たれ続ける、
 それを彼女はあまつ『練習台』にする、




「ッッッ」




 集中し息を止め回避する、旭、




「はぁッ、はぁッ、はぁッ、」




 肩で息をしながら、顔を、装備を汚しても、
 それでも彼女は笑う、心地よくて笑う、
 彼に確実に近づいているという実感が、そうさせる。


 幾度と無く攻守を切り替え、戦った結果、
 旭の感じる『感触』的には後二回、
 戦い始め1時間以上は経過した戦いはようやく終わりを迎えようとしていた。


 両手の持ちの上左右からの2連撃、
 そして『溜め1回転2回攻撃』を難なく躱す旭、
 攻撃するスタミナを回復させつつ歩いて距離を縮め、
 手に持つ『堅牢な斧』で止めの二連撃を食らわせた。


 虚しくも間抜けに、追撃のもう一撃が『ブンッ』と空を切るが、
 警戒を怠らなかったという証の行動ゆえ、無意味ではない。
 スタミナは使いきったが、
 旭の眼前にはもうBOSS『黒鉄の騎士長オルガルド』は居ず、
 BOSSの名称が刻まれたアニマの結晶を残し、消え果てていた。
 旭の胸の当たりに獲得したアニマが音を立てて収集される。






「やったよ、龍人、」






 旭は、ここに居ない龍人に、自分自身が自分の中に創りだした、想定した彼に、
 息を切らしながら顔を上げながら勝利したことを告げた。





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