カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

商人 シエスタ・パンドラと魔法





 「あんた、今更なんのようだい? 
  ようやく魔法使う気になったのかい『脳筋』」




 シエスタ・パンドラ、
 『テラ・グラウンド』、
 始まりと終わりの村アイテールにいる『3商人』のうちの一人、
 その風体は髪は黒色、
 その髪は長くポニーテール、
 前髪は双方向に顔をなぞるように、
 顎下に並行になるくらいまでの長さ、
 肌は茶色で襟の大きいシャツを着こみ、
 そのシャツの下は旭と同程度か、
 それ以上なのかそれ以下なのかわからない程大きな胸を
 ビギニ水着のような鉄の鎧というか胸当てというか
 とにかくそのような物で包み、
 黒いズボンと茶色のブーツの20代後半から30代前半の容姿の強気なお姉さん。


 始まりと終わりの村『アイテール』の一角、
 崖にポツンとある壁に陣取り露天の形で商人として商いを営んでいる、
 わざわざ白い袋に商品を入れ持ち歩く姿をよく見かけるので
 別名『アイテールのサンタクロース』という二つ名まである、
 龍人よりこの世界に滞在している期間は長くはないが、
 かなりの古参でもある。




「俺は未だに『法力』は初期値のままだ、買っても使えねぇ」




「あんた…使うだけなら『1』あげるだけでしょ…本当に『脳筋』だね」




 呆れ顔で龍人の脳筋っぷりを憐れむシエスタ、




「それでなんだい、実はわたしに惚れてたとか言い出すんじゃないだろうね?」




「まぁ確かに、お前はいい女だと俺は思うが、
 お前がその豊満なおっぱいをさらけ出し、差し出して
 『龍人様、どうぞお揉みになって』
 というのなら揉んでやるのもやぶさかじゃ無い、
 それなら俺は一向に構わんそ、
 いいのか揉むぞ、早く脱ぐんだ」




 龍人はそう言いながら両手を前に卑猥に躍動させる。




「はぁ…、相変わらずおっぱい好きだねあんた。
 で、そこのお嬢さんだね、
 最近『脳筋』に白い痴女の女ができたとかなんとか聞いたけど」




「な、『白い痴女』? 『脳筋の女』? 誰ですかそんなこと言ったのッ」




 旭は顔を真赤にして身を乗り出し犯人は誰かと問う、




「誰って、複数人からそんな話を聞いたよ、
 真っ白い卑猥な格好した栗色の髪のおっぱいのでかいうら若き痴女が
 『脳筋』をたらしこんだってね」




「なっ」




 旭は周りのちらほらいる生者に目をやり脅しをかける、
 そそくさとその生者達は散り散りにどこかへ行ってしまった。




「シエスタ、それは完璧な誤情報だな、
 こいつ、おっぱい揉ませてくれないんだ……」




 肩を落としながら目を閉じ、
 龍人はとても悲しそうな表情でシエスタに
 旭がおっぱいを揉ませてもらえない悲しみを訴える、




「も、揉ませるわけないでしょッ、私のおっぱいタダじゃないんだからねッ」




「は~~~、『脳筋』が『痴女』のおっぱい揉む揉まないはどうでもいいんだけどね。
 結局あんたらなにしにきたんだい?
 冷やかしなら帰っておくれよ、
 それと夫婦漫才なら他所でやっておくれ」




「だから『痴女』じゃありませんって、この服可愛くありません? 
 あんなダサい初期装備じゃそれだけで
 あっという間に亡者ですよシエスタさんっ。


 それと夫婦漫才なんてしてませんっ」




 旭はそう言うと両手を腰に当て胸を張ってそのデザインを誇らしげにアピールした、




「まぁそのへんはどうでもいいからいい加減要件だけ言ってくれるかい? 
 疲れてきたよあたしゃ」


 シエスタは大きなため息の後にそう言った、




「は、そうだった、私が魔法買いに来たんです、
 魔晶石…『伝承石』?
 っていうの、お願いします、」




旭もその言葉に本来の目的を思い出した。




「そうかい、1個400アニマ、
 魔法は3種各5種、全部買うのかい?」




「これから『灼熱の黒鉄城』に行くんで、
 涼しそうな氷がいっぱい出るのがいいです、
 水に氷入れたいし、レピオスにも入れても大丈夫なのかな?」




「魔法は本来そういう使い方するものじゃないんだけどね…。
 まあいい、2番目の『氷魔法』
 『すべての罪に突き刺さる氷の雨』がいいだろうね、
 魔法を放った者の周りに沢山の氷の雨を降らせる魔法だよ」




 攻撃に使わない用途での『伝承石』購入に
 少しシエスタは呆れた表情をしたがそこは商売人、
 すぐさま使用用途に応じた商品を旭に提示した。




「じゃ、それもらえます、はい、400アニマ」




 旭はそう言うと左手に所持しているアニマを顕現させ、シエスタに手を差し出した、


「確かに、」


 シエスタはその旭の手に触れ、
 彼女の視野に『400アニマの譲渡申請があります』というのを確認し
 アニマの譲渡を受理し完了する。




「ほらよ、受け取りな、」




 白い大きな袋の中をシエスタはまさぐると、
 青い宝石のようなものを旭に差し出し、旭もそれを受理し受け取る、




「これが、『伝承石』」




 青い伝承石は正六角柱で縦に長い、
 面積の少ない方の上下に六角錐が付いた宝石で、
 大きさは縦に10cm、横と奥行きは4cm、
 一つなら手で持ちやすいサイズである。




「正式名称『ミルドクリスタル』、
 『始まりの狩人と亡者の森』を越え
 『ヴァルディリス城』に入らず外壁に沿って歩くと道があり、
 その先にある『詩姫うたひめほこら』の道中、
 洞窟の壁に出現する謎の透明な宝石。
 どこぞの誰かが、いや魔女アリデリーナが魔法を習得し、
 尚且つこの『伝承石』に魔法を入れ、
 他者に伝承できることを発見してからあっという間に
 魔法はこの世界の攻撃手段の一つとなった。
 そして、わたしもこれを軸に売ることで日々のアニマを稼いでいる、
 まぁ雑魚を狩るのもいいんだけどね、
 これはわたしの性分さ」




「お強そうですもんね、なんとなく」




 元気そうな姉さん肌、旭が見る限り、
 いや、客観的に見ても比較的明るく、
 どこか攻撃的にも見えるその風体はそう印象づけるには十分ではある。


「まぁ、そこの『脳筋』には嫌でも劣るがね」


 シエスタは右手の親指で旭の右隣にいる龍人を指刺した、


「おい、買い物はすんだだろ、もう行くぞ、『朝ガキ』、」


 龍人は青いとはいい難い真っ黒い小汚いマントを靡かせて『リディアの港』の方へ歩き出す、




「あっまたっ、いい加減名前で呼びなさいよ、龍人っ」


「ちょっとくらいいだろ龍人、わたしゃまだこのお嬢ちゃんの名前も聞いてないよ」


「…少しだけだぞ」




 龍人は振り返り右手で頭を掻いてそう言った、




「そうでしたね、失礼しました、
 私、朝凪 旭です、これからよろしくお願いします。」


 旭は丁寧に栗色の長い髪を少し揺らしながらお辞儀をして自己紹介した。




「シエスタ・パンドラだよ、よろしく、旭」




 シエスタは手を差し出し旭もそれに答える、




「はい、パンドラさん」
「シエスタでいいよ、それと、」


 シエスタは握手をしながら顔を近づけ旭の耳元に口先を持って行った。




「?」
「【『脳筋』を頼んだよ、あたしが見るに、すこし雰囲気が変わったように見える。
 まぁ私の勘違いかも知れないが、最悪、龍人が好きならそのおっぱいで誘惑しちゃえよ、
 旭】」






「なっ、なッ、そんなんじゃないですっ、ただの師匠と弟子ですっ、誤解ですっ」






 旭は、握手していた手を離し、両手をブンブンさせて全力で否定する。




「そうなのかい、傍目から見たら結構お似合いだけどね」


「?」
 慌てる旭を少し離れた場所で訝しげに見つめる龍人、




「ないですっ、こんな意地悪で熊みたいに体格よくて、
 天邪鬼で、意地悪で、現世での歳も倍近く違うんですよっ、
 まったくシエスタさんからかわないでくださいっ」




 旭は龍人に目もくれず頬を赤らめたまま
 右手の薬指で適当に龍人のいる方角を指差しながらそう力説した。




「まぁまだ出会ったばかりなんだろう?
 それにしてはもうよく知ってるじゃないか脳筋のこと、
 ともかく仲良くやんなよ」




 シエスタはドウドウとたしなめるように両手で旭をなだめる、




「まぁからかうのはこれくらいにして、
 『伝承石』や、魔法系武器武具が欲しくなったらおいで、
 もちろん買い取りもね、あたしの気分が良かったらおまけしてやるよ」


「はい、お世話になりましたシエスタさん、また来ますねっ」




 そう言うと旭は再びお辞儀して龍人の方へ小走りに走っていった。
 シエスタはいい忘れていたことを思い出し、
 口に右手を添えて大声で旭に伝わるように言った、




「いい忘れてたけど、『ミルドクリスタル』は魔法の種類によって色がつく、
 青は氷、他は龍人に聞きなっ」




「はい、ありがとうございました~」




 旭は小走りながら振り返り可愛らしく手を振りそう言うと、
 前を行く龍人を追いかけていった。




「ちょっと待ちなさいよっ、龍人~~っ」










「ほんとうに、『脳筋』を頼んだよ、旭 」








 シエスタは、龍人と旭が去った後、
 哀愁ただよう表情で、そう独り言を呟いた。


 その瞳は、炎のような、赤色せきしょくのサンストーン。





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