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カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

エルディオン戦、決着





「はぁッはぁッはぁッ」




 どれほど戦っているのだろうか、
 旭は既に全てのレピオス瓶を使いきってしまった状態。
 一回分の回復ならばあと僅かで回復する、そんな状態。


 それでも9割ほど、
 体力の多い忘却の騎士エルディオンの体力を削ったのは大したもの…
 いや、『異常』、『異端』、彼女は『異質』、
 そう呼んだほうが正しいかもしれない、




「やあぁぁぁッッッッ」




 動きを見切った旭が『忘却の騎士エルディオン』の脇腹に一撃を加える、
 そして離れる、




「!?」




 自身の体力が9割を切ったところで
 『忘却の騎士エルディオン』は盾の装備を外し収納し、
 剣横にし左手で魔法による炎を付与する、
 『エンチャント』である。




「おいッ、気をつけろ、そいつの突きは防御不可、
 喰らえば体ごと持ち上げられて火が体をめぐり死ぬぞ」




 流石の龍人もアドバイスをする、それほどに危険、
 王を再び守れなかった想い、
 この地にまだ言葉を使える状態で留まり続ける執念、
 初見では、情報なしでは、ある意味、そのオーラに呑まれ、
 不可避の一撃と化す、外部からの知識で知っていたとしても、
 それでも初見では、厳しい。


 『忘却の騎士エルディオン』、
 ここ近辺の敵の難易度とはあまりにかけ離れたBOSSゆえに攻略者は少ない、
 「今日いるかな」と龍人は心配したが、
 彼がBOSSとしてこの地に根付いてから、
 彼が倒された回数は数えるほどしかない。
 手に入るアニマと討伐するためのリスクとの釣り合いが
 恐ろしいほどにとれないのが原因である。


 複数人で徒党を組んで攻撃した場合は体力が多少増大し、
 アニマの量も多少増えはするが取り分は分割されるため、
 死の危険性を考えるとより安全なBOSS、
 雑魚モンスターを皆選択する。
 『カオスアニマ』を集め、『転生』しようなどと思う者は本当に数少ない。
 この世界に留まろうとしたなら、
 初期さえ死なず乗り切り世界に適応できれば
 それほど大変ではないということでもある。
 旭は留まるだけなら現時点では生き残れるだろう、
 しかし目指すは『転生』、
 故に彼女を、旭を、ここに連れてきたのである。 


 
 かつての友を、現時点でほふれるのなら、あるいは、




  お前は本当に目指しているのか?
  『転生』などという、
  困難で、
  殆どの者が目指していない『奇跡』を。


  もしそうなら、
  それが『本気』なら、
  『本物』なら『示して』みろよ、
  『超えて』みせろよ、


  あいつの執念程度、
  BOSSとなって、
  攻撃手段が限られているアイツ程度、
  この初期に、乗り越えてみせろ、


  『朝ガキ』、いや…














    
       『朝凪 旭』
















「ッッッ(くるッ)」




 龍人が心のなかで旭の名を口にした瞬間、
 忘却の騎士エルディオンは両手持ちになり
 左肩は前に、
 左足は前に、
 右に腕を引き、
 剣を引き、
 腰を落とす、
 相手の隙を伺い、
 狙いを定めて、
 敵を殺気で包み込み脅してからの途轍もない殺意を込めた突きの一撃、


 その一撃に、『名前』は、ない。


 彼の生者時代を覚えているものは龍人やヴァルディリス王を含め数人、
 誰も知らぬ騎士の果て、
 末路が生んだ名も無き一撃、


 ――それが放たれた。


 忘却の騎士エルディオンの剣先が、
 旭に突き刺さろうとする寸前、
 旭は『生死の狭間』にいた。
 現世での彼女の死の原因、それは今はわからない。
 それでも彼女の意志は『本物』だったのだろう、
 『生死の狭間』、
 そんな『絶望』を感じた瞬間、
 彼女は確かに『恐怖』し、
 だが同時に、不敵に『笑った』のだ。




「ッッッ(『今度』は、負けない、負けてやるもんかっ)」




 栗色の髪の先端を切られながらそう思う旭、
 寸前で避けることに成功した旭は、
 その隙を見逃さない、
 連撃を食らわせ、再び距離を取り、
 追加された突きの攻撃ももう『知った』。


 後はこれがゲームで追加された攻撃がこれだけなら後は消化試合、
 だがこれはゲームではない、
 一つ一つの攻撃を冷静に先程と同じように躱せるわけではない、
 そして追加された攻撃がそれだけではない、
 『両手持ちになった』、
 ということは攻撃パターンが変わる、
 『忘却の騎士エルディオン』は回転し大剣を振り下ろす攻撃を繰り出してきた、
 3連続の炎を纏った大剣の高速回転斬り、
 その迫力は、ここまでの消耗を考えるとあまりに酷、
 しかし、旭は避ける、躱す、


 『忘却の騎士エルディオン』のこの状態での攻撃、
 腕を引き、溜めてからの必殺の一刺し、
 回転3連撃、ダッシュしての単発の突き、
 全ての攻撃の後に単発の左から溜めてからの横薙ぎ、である。
 旭はこれを把握し、
 残り1割だった忘却の騎士エルディオンの体力は順調に削られ、
 残り数撃となったところでそれは起こった。




「(あと4回? で死ぬ? 倒せるっ、)」




 それは、『焦り』が生んだ『勘違い』、
 これまでの戦いですり減った旭の『精神』が創りだした『感触違い』、
 正確には、あと『5回』。
 エルディオンの隙に一撃を放ち、
 その『感触』でそう判断した旭は止まらない、
 そう、『ゴリ押し』である。


 だが、体力のシークバーが見えないこの『テラ・グラウンド』で、
 ゲームではない『感触』だよりのこの世界で、
 『それ』は敵が複数いる場合一刻も早く数を減らしたい時、
 倒しきれると思った時、
 BOSSならば確実にやれると踏んだ時、
 スタミナを全て消費し、
 ペナルティ覚悟の行為、
 よほど追い詰められていないかぎり『タブー』である行為。
 次の攻撃の機会までの回避行動と近づくためのダッシュ、
 斧による攻撃によるスタミナ消費、
 斧の攻撃モーションのスタミナ消費は5、
 通常の判断は一撃か二撃で離脱、
 だが理論上はに2撃目の後もう二発打てる、彼女の選択は3連撃、そして、もう一撃、




「ッッあのバカッ、」




 スタミナを使いきった旭はあの不可避の突きを避けられるスタミナがない、
 スタミナが回復しても、
 ゲージを越え使いきった場合スタミナが半分回復するか、
 ダメージを食らうまで回避行動は取れない、
 あの突きはただの移動では逃れられない、




  だからこそ――これは当然の帰結きけつ―――、




    ―――忘却の騎士エルディオンの大剣は、朝凪 旭の胸を貫いた






「「「ああぁぁぁあぁッッッ」」」




 旭は痛みのため、呻き声をあげる。
 炎がエンチャントされた『大剣イクシオン』は旭の胸を貫き、
 体ごと掲げ上げられた。
 だが、炎が旭の体を焦がす追加ダメージの前に龍人は
 『忘却の騎士エルディオン』を大剣ヴォル・ファングにて迎撃し、粉砕した。




「かはッッはぁッはぁッはぁっはぁッッ」




 『忘却の騎士エルディオン』の剣から開放され
 地面に叩きつけられる形にはなったが旭は絶命を免れた。
 『絶命』と言っても、死んだ場合、
 『始まりと終りの村、アイテールの大聖堂』で多少の記憶と、
 多少の人間の姿を失い、
 それまで集めたアニマは飛散というペナルティはあるが、
 これほどのまでの戦いを見るに旭は今すぐ、本当の意味で死ぬわけではない。






「ごめんっ、はぁはぁっ、龍人っ、私っ、私ッ、」








「…いい、お前はよくやった。今日はここまでだ」






 まだ昼過ぎの太陽が、日差しが、
 ただそびえ立つ、ガルデアの塔を照らし、影を作る、






 青い空と白い雲は、何も語らない。







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