カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

ガルデアの塔、攻略





「すごい、絶景ね」




 旭は眼前に広がる人工物と自然物の織りなす情景に素直に感心する。
 最初で最後の村、
 始まりと終わりの村アイテールから行けるステージは
 ススキの祠を除くと4つ、
 その1つ、旭にとって未知のステージ、新しいステージ、


 『ガルデアの塔』である。


 海沿いに建てられた塔、塔と塔を繋ぐ橋、
 かつて存在したこの先にある『旧ガルデア城』、
 今現在の『ヴァルディリス城』を繋ぐステージである。
 各ステージの名称は無意識的に『世界』が決める、
 ステージが変わると生者の視覚の片隅に3秒ほど表示される。
 このステージのモンスターは基本『旧ガルデア王』に忠誠を誓った騎士達、
 ガルデア王無き今、『人の石』を供給をされなくなり、
 意志は無い、全身を覆う銀色の鎧を着こみ、中にはもう何も存在していない、
 肉も骨もない。


 騎士達は生前、ガルデア王の命令に従い、
 『霊体』になるべく身体をこの地に捧げ、地に根付くことにより力を増し、
 ガルデア王によって人工的に作られたこの塔を守る『守護者』として未だ存在している。
 身を捧げるほどの忠誠、『信仰力』によってその『奇跡』はなされる、


 『信仰力』、
 ステータスで言う『信仰性』は明確なステータスとして存在している。
 『今』現在信じる何かがあり、その想いが『本物』であるなら、
 その数値が高ければ高いほど、より強力な『霊体』になれる。
 身を捧げ『霊体』と化した場合、
 生者ではなくなるので専用のアイテムを使う必要なく生者を攻撃可能になる。
 霊体騎士たちがハッキリとした意識があった頃は
 ただでさえ強力な霊体騎士が徒党を組むので
 相当の腕自慢でなければ立ち寄らない場所であった。
 なぜこの塔をガルデア王が作ったのかはいつか語る時が来るかもしれない。
 来ないのかもしれない。(どっちやねん)


 ともかく『霊体』の利点の一つは空気中に漂う自然の『霊子』、
 『アニマ』を供給されるということである、
 そのためやられても復活は早い、大聖堂には行かず、根付いた地点に復活する。
 『転生』を諦め、
 一人のカリスマある主君に身を委ねるからこそ成せる『奇跡』、
 記憶の流失さえなければ半永久的にこの世界に意志を持ったまま存在することができる行為である。
 もっとも人の石は貴重なので人の石を捧げてまで意識を保とうとするのは王から見ても意志をなくすのが惜しいほどの余程の実力者だけだろう。


 『霊体』になるということは意志を無くすことすらいとぬほどの覚悟で行なわれるということ。
 彼らはガルデア王に尽くすため、そうすることを厭わなかった騎士たちなのだ。
 しかし基本『霊体』は地に根付く為、『例外』を除き移動は制限され、
 かなりの行動制限がある。彼らは意識なき今も、
 今は亡きガルデア王の命に従い続けこの塔を守り続けている。




「朝一番だ、まだ他の生者もいない、
 『こいつ』で牽制しつつ、BOSSまで倒してみろ、
 まぁ他のやつが狩ってまもなくでいない場合もあるがな」




「これ矢?」




 『こいつ』そう言いながら龍人は腰のベルトの左側に手をやり矢を何本か実体化し差し出し譲渡する、矢は基本腰のベルトの小物入れにある、使用する際正式に表示される。もちろん矢を使う時は弓を両手で扱わなければならないのは言うまでもない。
 旭は龍人から矢を数十本受け取り自身の小物入れにシステム上収める。




「そうだ。複数に囲まれた時の対処も対策も必要だが、
 基本は一人一人確実に狩ることだ、まぁ連動して襲ってくるやつも結構いるがな」




「わかった、やってみる。」




 旭はレベルアップする前に村の商人から購入した『堅牢な斧』から同様に購入した『ミドルボウ』に装備を変更する、手頃なアニマで購入できる中距離用の弓である。


 ガルデアの塔にいるのはガルデアの王の配下、『銀色の騎士』、
 その種類は大きく分けて2種類、
 細身の鎧を全身に纏った龍人程度の身長騎士、
 龍人以上の体格で鎧を纏った騎士、である。
 前者は『ロングソード』と、『槍』、
 後者は『大剣』と大きな『大きなクラブ』いわゆる『大型の棍棒』を武器としている。
 塔と塔の間にある円形の広場に
 細身のロングソードを持った銀色の騎士と、
 体格のいい大剣を持った銀色の騎士がいる。
 ここの騎士は攻撃を与えないかぎり同時に襲ってくることはない、
 だが円形のこの広場で1対1で戦った場合、騎士の攻撃か、
 それともこちらの攻撃かが当たり、2対1となり戦況を悪くする可能性がある。
 このような状況はこの世界『テラ・グラウンド』において多く存在する。
 弓矢はそういった意味で重要で、必要な、戦況を優位にするための牽制手段である。


 旭は人一人がようやく寝っ転がれる程度の幅の橋から弓を構え狙いを定める、
 矢を撃つ際、視野に必ずガイドが表示されるので、
 対象が動かず当たる距離ならばだいたい当たる。
 ともかく旭は弓を引き、狙いを定め、矢を放った。


「シッッ」


 旭の掛け声とともに放たれた矢は、
 狙い通り細身のロングソードを持った銀色の騎士に見事ヒットする、
 本来なら刺さることはないのかもしれないがきっちり刺さる。
 当然矢でも『感触』は存在する、
 銀色の騎士の体力と矢の今の威力を確認した旭は冷静に次の矢を構える、
 次はこちらに向かう動く標的、まだ銀色の騎士とは距離がある、
 これは試すべきこと、
 失敗を恐れず旭は狙いを定め相手の動きを予測しつつ再び矢を放つ、


「シッッ」


 再び矢は放たれたが銀色の騎士は回避行動でこれを躱す、
 流石に意志はなくとも元生者、といったところだろうか、


「ッッッ(来るっ)」


 旭は武器を持ち替え右手に『堅牢な斧』、
 左手に中盾『鉄の中盾』に変更する、そこに油断はない、
 狭い場所で戦うリスクもあるので旭はカルデアの塔の出入り口まで戻り
 銀色の騎士の居た広場よりやや小さいこの場所で戦うと決めたらしい。
 龍人はそれを察し、ガルデアの塔と認識される場所から離れ、距離を取る。
 旭の目の前にまで辿り着いた銀色の騎士は、
 片手に持っているロングソードでの騎士は旭を攻撃する、


「ッッッ」


 旭は攻撃を避けず盾で受けることを選択する、
 『中盾』と『小盾』との違いは物理防御力、
 小盾は70から80%、
 中盾は物によって90程度のものもあるが大体100%の物理攻撃を無効化する。
 小盾は『パリー』し易いという特徴がある、
 だが超重量武器の大剣や、大鎚などは『パリー』以外ではスタミナゲージを無慈悲に奪われた挙句、あまつダメージを追う、ガードするくらいなら回避などを試みてダメージを貰うほうが懸命だったりもする。


 『パリー』、
 武器、盾、もしくは素手で相手の武器を『パリー』
 (簡単に言うと相手の武器を弾く)し、
 タイミングよく決まると相手に尻餅をつかせ、
 そこに手に持つ武器で『致命の一撃』約2.5倍のダメージを与えられるのである。
 『パリー』はこの世界のシステムに組み込まれた『テクニック』である。
 スタミナは消費するが、
 盾を装備した状態で成功すれば小盾だろうが中盾だろうがダメージは生じない、
 BOSSの攻撃などは一部パリーできないが、
 生者同士ならばほぼすべての攻撃はパリーが可能である。
 成功すると大ダメージのチャンスを得る、
 外せば攻撃を食らうというデメリットも有る。
 武器での場合は多少のダメージと引き換えでパリーが可能である。
 素手の場合はその攻撃のダメージ覚悟ということである。


 『中盾』は『小盾』よりパリーの出が若干遅くタイミングを小盾より掴みづらいが、『シールドブローン』をしてこないモンスター相手にはかなり有効である、銀色の騎士がシールドブローンをしてくるかどうかは龍人はまだ旭に教えてはいない。


 『シールドブローン』は、盾や武器で防御態勢を取っている相手に対し、
 『蹴り』や『大盾』でプッシュすることで大きくスタミナを削る行為のことである。
 やられた相手はスタミナをかなり奪われ、
 場合によってはスタミナゲージを振り切ったペナルティによって
 連撃を食らわせるチャンスを得ることができる。


 『蹴り』、『シールドブローン』もまたこの世界に組み込まれた『テクニック』である。


 旭は銀色の騎士のロングソードによる3連撃を盾で受けきり、
 その終わりの硬直を狙い冷静に2連撃を食らわせる、
 スタミナはまだあったが相手も攻撃してくるのだ、
 盾でのガードもそれなりにスタミナを消費する、
 無理はリスクしか生まない、
 一回の接触で倒せるならばゴリ押しで構わないが、
 どれほど鍛えても龍人レベルでなければ一度の接触では倒せない以上、
 スタミナ管理というものはこの世界においてかなり重要である。
 そんなやりとりを4回ほど繰り返した旭は見事に、銀色の騎士の討伐に成功する。


 旭は休むまもなくすぐ次の行動に移した。
 体格のいい銀色の騎士、
 大剣を持った騎士に向かって小走りに歩みを始めていた。


「やッッ!」


 旭は体格のいい銀色の騎士の索敵範囲に入り、
 気合の言葉を発しながら先制攻撃をする。
 右上から左下に振り下ろす通常攻撃モーションと、
 そこから派生する左上から右下に打ち下ろす攻撃モーションである。


 動きの鈍い相手の騎士は、索敵範囲に入ったのとほぼ同時に攻撃を受けたことで
 旭をようやく認識したのか、ゆっくりと攻撃を開始する。
 大剣を持つ体格のいい銀色の騎士は手に持つ無骨な大剣を両手で持ち、
 豪快に旭のように振り回す、
 右上から左下に、左上から右下に、
 そして最後に追尾する真正面の振り下ろしの一撃、旭は最初の二つは躱し、
 最後のタイミングが良くわからないホーミングする一撃だけを
 スタミナを犠牲にガードする選択をした。
 銀色の騎士の体格のいい方の攻撃パターンはこれを基本に、
 後は単発の追尾振り下ろしと、
 基本パターンの2回目を撃ってやめるパターンのみである。


 一度見切れば経験のある生者ならばさほど苦戦する相手ではないが、
 それでも超重量の刃物と鈍器を併せ持つ大剣が、
 殺意を持って迫り来るこの戦いを、
 この世界に多少慣れたからと言って容易と称すのはいささかはばかられる。
 大剣の攻撃は重く、
 中盾では一撃程度はガードできるがスタミナを多分に消費する上、
 人の意志、
 個々の『所作』によってはスタミナゲージに関係なく攻撃をもらってしまうこともある。
 『意志』、『所作』とはそれほどまでにこの世界のシステムに直結し、
 勝敗を分ける要員の一つである。


 旭は最初の接触後、大体を把握したのか盾を構えるのを止め、
 視覚的に装備を外す、
 装備の外し方は基本2種類、
 装備はしているがいつでも簡易な呼び出し状態にし、
 視覚上は装備していないようになる状態、
 そしてステータス画面で装備自体を外し、
 装備重量を軽くする、である。


 『堅牢な斧』を両手持ちに切り替え行動を開始する。
 旭は基本向かって右周りに移動しながら『銀色の騎士』の大剣攻撃を躱し、
 3連撃と、追尾打ち下ろし攻撃の終わりのみに絞り攻撃を重ねた。
 結果7度の隙をつき、見事討ち果たす。



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