カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

おじさんと(元)女子高生 休憩する



「あったか~い」


 すっかり日も暮れ、辺りは閑散とし、
 風で揺れて擦れ合う葉の音と焚き木のパチパチという音くらいしかしていない。
 ここは『始まりの狩人と亡者の森』の一角である。
 龍人は白に近い薄灰色のコップを手にしている。
 そのコップから湯気立つ謎の飲み物を一口飲み終えた龍人は言う、




「一応、一日目乗り切ったな、褒めたくはないが明日もその調子でやれよ、
 子離れが早くなりそうで俺が助かる」




 同じく謎の液体の入った薄灰色のコップを両手で可愛く持ちながら旭は口を開く、




「素直に褒めてくれていいと思うけどなー、オーガ初めて倒した時みたいに、
 ナチュラルな龍人の言葉が欲しいなぁ~、
 旭ちょっとときめいちゃったのになぁ~、ちらっちらっ」




 目をパチクリさせながら
 『おいおいそんだけかよ、もっとナチュラルに私を褒めろよ龍人』、と旭は催促する、




「(なにが、ちらっちらっだ)ガキが何言ってやがる」




 まるでゴミを見るような目で旭をにらみながらそう答える龍人を旭は気にせずに続ける、




「それはそれでいいんだけど、ご飯時になる前にすこしお腹は減るけど
 ご飯時になるとお腹が空いたのすぐ復活するし、
 水分補給もいらないみたいだけど、なんでお茶みたいの飲むの?」


「良い質問だな、たしかにその通りだ。だがな、人は人の『所作』、ルーチン、
 まぁ日々誰もが行っていた行為をすることによって、記憶の流失、
 摩耗をある程度意図的に遅らせることができる」




 龍人は自分の手に持つコップに浮かぶ暖かなお茶に映る自身を見つめながらそう言う、


「記憶って、死なないかぎり失わないんじゃないの?」


 旭の質問に龍人は続けて答える、語る。


「…と、俺は信じている、
 『生者の水筒』という水を供給する初期装備もあるしな。
 それに人は忘れる、
 この世界に来た時、始まりのババアに会うまで自分の名前を忘れるように、
 ここは魂の浄化の世界『テラ・グラウンド』、
 隙があれば死ななくとも徐々に記憶が剥がれてボケて亡者かまっとうして浄化さ」


「ふーん」


「人は現世でもそもそも忘れる生き物だろ、
 この世界に長くいるつもりなら、いやでも現世の記憶領域は剥がれちまう。
 まぁこれは言いすぎか、現世を知りながら、現世を忘れちまう気がするんだよ。
 他の連中はどうかしらんがな。
 『転生』を目指すならこれは大事だと俺の『勘』は囁き続けている、
 だから俺はずっと続けているよ。もうこの世界にきて、
 テラ・グラウンドに来て『何年』たったかは数えてないがな、」


「今日戦ったオーガも、名も無き亡者も、
 俺達が絶えず垂れ流す無意識的記憶のかけらがあいつらを形どっていると考えている。
 もちろん大半は死んでいった生者の記憶、散っていったアニマの霊子が、
 核となる部分に集まりあいつらを形取ってはいるんだろうがな、」


「…そうなのかぁ」


「まぁ俺の『想定』でしかない、この世界はわかってないことがあまりにも多い、
 現世もある意味そうだったろ? その割合は違うかもしれんが少なくとも、
 現世よりはこっちのほうがわかってないことが多すぎる、用心に越したことはない。
 『転生』を目指すならな尚更だ、『勘』は信じ疑うものだ、常にな、
 違うかもしれないし、そうじゃないのかもしれない、
 『答え』は常に感じて信じて疑えだ、
 正しく言うなら『疑って信じろ』、いや両方かな?」


「『勘』、か、信じて疑え…まあそうかも、気がついたら手遅れってのはやだし」


 龍人はアイテムストレージを開きアイテムを取り出す、白色の円柱、上が直径8センチ、下が直径10センチ、上の平らな部分の中心に二センチほどの突起のようなものがあり、スイッチのように見える謎の物体、この世界には少し似つかわしくない少し機会的な装置、


「こういうアイテムもある、夜7時から限定だが野宿する時、
 他の生者、亡者から襲われない、知覚できないようにする『不可視の休息』、
 レアそうだが無限に一日一回大聖堂で貰える上、亡者どもからもドロップもし、
 商人達にとっちゃあまり意味はないが捨て値で買える。
 人は夜寝るものだからな、このお茶に関してもそうだ。


 一見無意味そうで、飲まない奴もいるだろうが取引されている以上
 何らかの意味があると俺は信じたい、
 と、信じるのならおよそさっきの推察に行き着く、ということだ。
 まぁこれは結構生者の間では浸透していることではあるが疑うならやめて構わない、
 しかし辞める理由は特に無い、味を感じるものは現状これくらいしか無いし、
 気分転換には確実になってるからな」


 龍人はそう言うとコップに入ったお茶をすべて飲み干す、


「なるほどね、まぁ私は好き、美味しい味を感じるもの、『土』が最後の味なんて嫌だもん」


 先程沸かした湯を白いタオルに付け物陰で体中を吹いた旭だが、
 龍人は旭の頬についていた土を思い出し、旭の頬を見つめる、
 『身体を拭いているところを覗けなかったのは残念だが、確かに、土の味はいやだな』と、
 ちなみに白いタオルも大聖堂で支給してくれる、精製方法は不明である。


「…そうだな、ともかく、今日はこれを呑んだら休め、


 夜明け前に起きて、また戦闘だ。暗がりの戦いも経験しておくべきだ」


「はーい」


 そう返事をすると旭は自身の薄灰色のコップに入るお茶を勢い良く飲み干した。



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