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カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

森でちょっとでかいのと戦ってみる

 
 あれから一時間、数体の亡者を個別に倒し、慣れてきた今は二体の亡者を同時に相手をしている。


「冷静にな、『感触』や状況によってゴリ押しする時もあっていいがな、
 退路を確保してあるなら無理はするな、」




「わかってるわよっ、ちょっと話しかけないでっ、」




「……(まぁ、若いから適応力はあるな。
 だが悪いな、俺は、俺は一人でいい、
 つるむ気は初めからねぇんだ)」




 的確に攻撃を躱し、一体目の名も無き亡者をほふりさり、
一対一に持ち込んだ旭は冷静に二体目の亡者を屠りさる、




「やった、やったよっ龍人、」




 旭は龍人に振り返り、ぱあぁぁっっと花開いたような笑顔をしながら龍人に近寄り、
 木に寄りかかっていた龍人の右腕に絡みつく、


「やめろ、くっつくんじゃない、剣だ、剣の刃が当たるっ、
 生者同士はダメージがないとはいえ少し痛いんだぞ、危ないだろッ、
 ていうかまた呼び捨てかよっ」


「さぁ次はなにっ、同時三体? それとも新しいなにかっ?」


 龍人からさっさと離れた旭は目を輝かせながら自信満々に次の課題を要求する、




「やる気だけは一人前だな、いいだろう」
「少し難しいか、より困難か…」




 龍人は右手を胸の前に、
 旭に向かって手の甲を向けながら『少し難しいか』で人差指を立てる、
 『より困難か』中指を立てる、
 その二つの指を握り込み龍人は言う、


「…後者で行こう」


 少し、いや、かなり意地悪な笑みを浮かべ、彼、吾妻龍人は朝凪 旭にそう言った。






「ちょっと、さっきと迫力とかぜんぜん違うんですけどっ」






「そりゃなオーガだ、この世界に散った、
 おそらく人の怒りや記憶、負の感情を貯めこんでできた人外だ、
 亡者より手強いぞ、以上だ、しっかりやれや」


 龍人は名も無き亡者より索敵範囲の広いオーガの為、
 少し離れた木のふもとに腰を下ろしながらそう言い放つ、




「し、しっかりってあんた、攻撃パターンとかあるでしょっ、
 ちょっとなにくつろいでんのよっ」




 無邪気に飛んでいる白い蝶に手を伸ばし、『乗っからないか?』と龍人は左手を蝶に差し出している、蝶もその好意に甘え、龍人の左手に腰を下ろす、龍人は旭に視線もやらずそのまま旭に助言をする、




「相対し、風貌から予測し、行動を観察し、対処する、一連の流れを覚えなきゃ意味ねぇだろ、」




「ぐぬぬ、正論すぎてなにもいえないぃッッ」




 あまりの正論に旭はそう言いつつ、龍人に目をやる余裕はない、
 相対すオーガから流石に目を話せない、
 先程までの名も無き亡者とは迫力が段違いだからである。
 だがまだ心の準備はできていないようだ。
 しかしオーガは攻撃を起こす、それは当然、容赦などない、ここは地獄なのだから、




「ちょっとあんた空気読みなさいよっ、心の準備できてないんだからっ」




 旭は後方に回避してオーガの拳の連撃を回避する、


「頑張れよ~」


 龍人は蝶を振り払い、木漏れ日の中雑草生い茂る緑の絨毯に左肘をつき、
 左手に頭を乗せ横になりながら旭の勇士を眺めながらくつろぐ、




「ッッッ(でかいし迫力あるし、だけど動きは鈍そう、
 この威圧感に慣れるのと攻撃パターンを把握するのが先っ)」


 オーガ、
 薄緑色の肌に頭に一本の小さな角が生えたモンスター、
 下半身にはただ巻いた布、両腕の腕の手首には白い包帯のようなものが巻かれている、
 立派な牙も有り、堀の深い顔立ち、
 その体は龍人よりも大きく2m50cmはある。
 脂肪や筋肉たっぷりのその体は相対するだけでかなりの圧を感じるだろう、
 そして殺気も含まれる、意志の弱い者なら逃げ出すか、腰が抜けて終わりだろう。
 そんな巨躯に近づきは後転し、距離をとるを繰り返す旭を見ながら龍人は想う、


「(こいつ、最初はどうなるかと思ったが)」


 龍人は目を細める、


「(これはゲームじゃない、
 ゲームのようなシステムを要してはいるが、
 回避行動を取れば、地面が土や草なら当然それが顔に、体に、つく、
 匂いもある、口に土が入り、土の味を味わうなど当たり前だ。
 当然敵の攻撃も、当たらなくとも風を感じる、殺意を感じる、死の恐怖を感じる。
 これに適応できず、何割かはこれが原因で心が折れ早々に諦める。


 だがこいつ…、
 こいつには『意志』を感じる、『なにか』、俺と、自分と似た、匂いを感じる、
 いや、性質の全く違う、対極の匂い、というべきか、)」




「「やぁぁぁぁぁッッ」」




「(まぁまだ『僅か』だがな)」


 掛け声とともに龍人の思考と同時にオーガに旭の短剣の一撃が入った、
 そしてすかさず後ろに回り込み距離を少し取る、
 次の攻撃を予測し、観測する、その姿勢に、身体を、顔を土で汚し、
 立ち向かう旭のその姿に、龍人は、少し微笑んだ。
 そして不意に想った。思わされた。一瞬遠目から見えた、旭の顔を見て、        






       まだ『僅か』だが〈悪くない、瞳だ〉






「はぁっはぁっはぁっ」


 集中しているのだろう、さすがの旭も無駄口がなくなる。
 オーガはさほど強くはないが先程まで戦っていた亡者の何倍も体力が多い、
 攻撃力も名も無き亡者より倍はある、攻撃パターンも多少起伏に富んでいる。
 両の大きな拳での連撃、大きい体を覆いかぶせるように体当りする攻撃、
 それと似たモーションで掴み持ち上げ地面に叩きつける攻撃、溜め攻撃などである。
 故に初期装備では長期戦は免れない、
 短期決着は望めない、本来なら、戦うべき相手ではない、
 初日には重すぎる相手。


「はぁッはぁッはぁッ、」


 『スタミナ』、老若男女、この地獄、
 『テラ・グラウンド』では平等に与えられる持久力、
 初期20、もちろんレベルアップにより僅かずつ伸ばすことはできるが
 増えても消費スタミナの少ない回避行動一、二回分程度である、
 数値にして25、それ以上伸ばそうとするなら
 1レベルアップした際レベルアップボーナスを
 スタミナに振り分けたとしても0,1ずつしか上がらないのでかなりの根気を要する。


 『スタミナ』は
 『攻撃』、
 『回避』、
 『ダッシュ』、
 『ガード』、
 『パリー』に使われる。


 ステータスとして存在し、数値化されている為、肉体的、身体的息切れは本来無い、
 だが、現世で人であったという事実、それは拭えない、紛れもない事実、
 だからこそ息切れをする。それは人としての『所作』、精神の持久はまた別なのだ。


 それはステータスとしては存在しない耐久値、心の体力、スタミナ。


 心の体力が減りつつも、何度もヒット・アンド・アウェイを繰り返し、
 どれほど立っただろうか、10分程度だろうか、
 彼女には長い、10分だったはずだ。
 その果て、ようやく止めの一撃になる。




「「オオォォォッッッッ」」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」




 オーガの絶叫、消失の雄叫びの中、いつの間にか立ち上がっていた龍人は旭に近づき、
 疲労困憊の旭に龍人は思わず素直に思った言葉を声にしてしまった。




「…よく、頑張ったな、」




 褒めるつもりなどなかった。龍人はそのはずだった。
 だが、いつのまにか、この少女、旭に、少し、興味を持ってしまったようだ。
 感情移入、とでも言うのだろうか。




「どうっ、やれるでしょっわたしっ、はぁっはぁっ、次はっ、なにっ、」




 膝に手をつき腰を曲げて息を整えていた旭は龍人に振り返り、
 顔を向けて声を張ってまだ行けるとアピールする。
 その表情は真剣そのもので、頬についた土のことなど何も気にしていない様子だ。
 その姿はとても美しく見える、


「…少し休憩しよう、心が摩耗しすぎている」


「そっか、休憩かぁ、そっかぁ…」
「あれ、どうしたんだろ、私、…」


 戦闘での極度の緊張が解けたのだろう、
 立ち上がろうとしたが、力なく、腰が抜け、地面に尻餅をつく旭、




「…世話のやけるやつだ、…お漏らし、してるんじゃないだろうな?」




 龍人は左手で首元を撫でながら苦笑する。




「ッッなっ! さいってぇっ! 女の子にそういうこと言う? 普通っ」




 旭の『さいってぇ』が『始まりの狩人と亡者の森』にこだました。



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