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カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

おじさんとばばぁ、この世界について

 ススキが大量に生い茂る崖、くまなく生い茂る崖、
 いや、正確には洞窟内にあるススキが生い茂る崖だろうか、
 薄暗く、しかし天井が一部吹き抜けで差し込む光がある。月がある。
 月明かりと思われる光が差し込む白いススキが白いことは分かる程度には明るい、
 『彼』こと、吾妻龍人はそこの中心に仰臥ぎょうが
 大の字になってススキを豪快に押しつぶしていた。


「…どこだ、『ここ』は、」


 『彼』こと吾妻龍人は、あれからごく普通に成人し、社会人になり、結婚、子供も生まれ、人生前半の順風満帆ではなかった反動なのか、彼は順風満帆に人生を笑顔で生きるまでになっていた。
 そしてその風体は190センチを超える、屈強にしか見えないシルエットの肉体になっていた。
 街で見かけたら、その巨躯でありながら顔に2つの傷もあり、
 一瞬目をやりはするが近寄りがたい、そんな男になっていた。


 彼が意識を取り戻し、目覚めたのは一面ススキの海、円状の崖、その中心、
 そしてそこから伸びる一本の道。
 彼はその巨躯をゆったりと起こし立ち上がり、
 キョロキョロと顔を左右に動かし辺りを見渡す、
 状況把握が追いついていない様子である。


「とりあえず、移動してみるしかないか」


 吾妻龍人はそう自分に言い聞かせるように言葉を発しススキの海を歩き、意味泳ぎ始めた。
 ススキを歩き始めた吾妻龍人の服装はピッタリと肌にフィットした黒いTシャツに薄青いデニム地のズボンの大男。


 ススキの生い茂る円状の崖から伸びる黄土色の地面の一本の道をしばらく歩き続けると月明かりが丁度照らす、小さな煙突のあるレンガ造りの緑のナツヅタがいい具合に生い茂る家を見つけた。
 インターホンを探すが一向に見当たらない、しばらくすると彼は木で作られた年期の入った味のある玄関扉を仕方なくノックする、


「誰だい?」


 扉の向こうから微かに女性、年老いた女性の声がした。


「夜分に申し訳ない、気がついたらこの近辺に倒れていて、状況を把握したい、話を聞きたいんだが、俺は、俺の名は、」




「…俺は…誰だ…?」




 彼はようやくそのことに気づく、自身の名前を思い出せない吾妻龍人は、扉の前で困惑する。自分は誰なのかと、その最中、扉の中、このレンガ造りの家の主であろう老婆は言う、


「わかっているよ、わかっている、とにかく中に…中に入りなさい」


 老婆は事情を知っているのか龍人を中へ誘う、


「失礼…する」


 自身が誰だかわからないという状況がそうさせたのか、巨躯をゆっくり動かし恐る恐る扉を開けると、そこには声の主、紅いフードを被った白髪のしわくちゃの老婆が椅子に座り一人佇んでいた。


「ぶしつけで申し訳ないが、あなたは知っているのか? 俺は誰なんだ、ここはどこなんだ」
 やや興奮した面持ちで尋ねる龍人に老婆は応じる。


「落ち着きなさい、全部話すよ、私は、その為にいるのだから」


 そうたしなめられると龍人は深呼吸をして酸素を吐き出すと、


「…頼む」


 龍人は素直にお願いを口にした。


「少し長くなるしね、そこの椅子に…腰掛けてお聞き、」
「この椅子…か?」


 紅いフードの老婆の提案に龍人の脳裏にクエッションマークが点くのは当然である。
 その対象の椅子が少々こじんまりしすぎているのである。
 その結果を早期に予期した龍人は両手で椅子をどかし、老婆の真正面に胡座あぐらくことにする。


「なるほど、なるほど、確かにその椅子には座れないね、座れたとしても、とても話を聞く姿勢にはなれそうにないね、たしかにそうだった。ああ、確かに私が悪かったよ」


 過去にもあったのだろう、『失念していた失念していた』と多少可笑しかったのか、老婆は楽しそうに、そう声を発した。


「それで、ここはどこなんだ? 俺は誰なんだ?」


 龍人はここがどこなのか、自身は誰なのか、今最も知りたい情報を尋ねる。


「そうだね、どこから話そうかね、とりあえずおまえさんの望む『ここはどこか?』から繋げて話してみようかね、」


 老婆は椅子の肘掛けに右肘を付き、右手の薬指をくの字に曲げ下唇の下に当てて話し始めた。


「ここは、いろんな呼び方があるね、『この世の果て』、『魂の集積地』、『カルマ』、『業』『地獄』、絶望の楽園、地獄『テラ・グラウンド』」


「『テラ・グラウンド』? ここは『日本』じゃないのか?」


「あんた自分の名前は覚えてないのに『日本』は覚えているんだね」


「えっ、あ?、」


「まぁ聞きなさいよ、質問は後で受け付けるよ、今は私の話を聞くだけでいい。」


「ああ、わかった」


「ここは『死者の集う最後の場所』、なんだよ、魂の行き着くすべての中心、すなわちあの世だよ」
「ここで魂は浄化され、魂はリセットされ、また現世へと旅立つ、終わりであり、始まりの場所、」
「ここ『テラ・グラウンド』では日々、絶え間なく、時間も空間も関係ない、様々な魂が、『アニマ』が浄化を、『リセット』を求めて訪れる、」


「『恐竜』、おまえさんがいた時代の数々の『動物』たち、そして当然『人』もね、それも時代を問わず、ここは様々な魂が入り組む『混沌の渦』、」
「『恐竜』達の魂はこの世界では『竜』と姿を変えこの世界に産声をあげる、そして『人』を喰らい、『獣』を喰らい、この世界を生きる、」


「『動物』、『獣』達はただ本能に趣、魂を食らう、弱き獣達は魂を狩られ、狩られ、魂ともに記憶を徐々に失い、補填できず、『亡獣』となる、『人』もまた『動物』たちと同じ、時には『人』に狩られ、『亡者』に狩られ、『亡獣』に狩られ、『竜』に狩られ、その魂と記憶を失い、ただ意味もなくアニマを求める『亡者』と成り果てる。そこまで落ちたらねぇ、運良く生者を殺し、アニマを手に入れても記憶は戻らない、身体だけ一部生者に戻るが、結局は亡者さね、あっという間にまた見紛うことのない亡者さね、」


 大事なことだから二回行ったのかと、龍人は突っ込むのを抑え聞くことに、
 理解することに専念している、


「誰かが恣意的しいてきに捧げてもね、もうそこに生者に戻れる『意志』はない、まぁ『例外』はあるかもしれないがね、もちろん亡者にならず『浄化』、『リセット』されるのも多いがね。」


「中にはここに留まることを選択し、仲間を集め、カリスマを持った者は『王』と名乗り城を築くものもいる。」


「だがね、私が見たいのはそうじゃないんだ、まだ見てない物の一つにね、いまだかつて誰も辿り着いたことのない『極致』、『奇跡』があるんだよ、私はそれじゃないかと疑っているんだがね」


「『奇跡』?」


 龍人がオウム返しにその言葉を返すと紅いフードの老婆が不敵に笑う、その様はすこし芝居がかっていて普通に説明できないものかと龍人は想う、


「己の『記憶』と、そして自身と今まで集めてきた『魂』すら賭け、『契約』し戦う、そのことで得られる『至高』のアニマ、『カオスアニマ』、それを複数集めることによって現れるこの世界の神、
『テラ・グラウンド』の『神』。
 名前は何と言ったかの、まぁ今はいいさね、ともかくその『神の試練』を越えられた者だけが起こす『奇跡』、この世界で言う、代表される『奇跡』はこれだね、もちろん私の望む『奇跡』はこれかもしれないし、これじゃないかもしれない、私自身、もうよくわからなくてね…思い出せそうで思い出せない、まぁ気長に思い出すよ」


「ともかくこの世界の『奇跡』の一つ、現世への『帰還』、
記憶を保持したままの『転生』、」


「そしておまえさんは今からそこに行かねばならない、怨嗟まみれるカオスアニマを求めた戦いに身を投じなければならない。」


「なぜ?」


 『なぜ俺がその『カオスアニマ』を得る戦いをする必要があるのか?』、と老婆に問う龍人、


「私の『勘』がそう言ってる、そう言ってるんだよ、」


 紅いフードを、老婆自身の頭を自ら指し、『勘』という曖昧なものが語ると喜々として語る、そして続ける、


「さっき言った『カオスアニマ』はね、『渇望』しない奴には宿らない、作り出せないものなんだ、まぁ長年…100年程度かね、この世界にいる奴でも作り出せはするがね?」


「あんたは剣を取り、『奇跡』を目指して『渇望の果て』を目指す、」


「この世界は『剣』、『鈍器』、『弓』、『魔法』、『魔術』、いろんな攻撃が溢れているよ、」


「気をつけるんだね、この世界は何度でも死ねる。死ぬたびに魂と記憶を失い、魂の欠如は肉体を醜くする、だから他の魂で補充する、だけどね、『記憶』は、これじゃないと補填できない、」


 老婆は懐から右手で取り出した何かを龍人に見せる、


「それは?」
「これはね、『人の石』、と言われるものさ、『人の意志』、とも言われているかね。」


 『人の石』、それは白い石、縦に5cm、横に3・5cm、厚さは1cm程度のトイレの表札程度の造形の石、なんの変哲もない石、


「ここに来たものは例外なく自分の名を忘れている、そして例外なく私がこれを渡す手はずになってる、そして、ここで例外なく記憶と名前を思い出す。それとこの世界は居るだけでも徐々に記憶が浄化されていく恐れがある、なにせ人は忘れっぽいからね、この石はそれを補填する、重要アイテムさね、」


「ともかくこれを持て、日本を知る若者よ、」


 老婆は椅子から身を乗り出し、龍人に受け取るようそれを差し出す、龍人はそれを慎重に右手で受け取り、少し人の石を見つめる。その姿をしかと見届けた老婆は言う、


「たしかに受け取ったね。さあ思うのだ自分の祖国を、自分自身を、誰なのか『渇望』するんだ、自分自身を知りたいと、石に願うんだよ」


 老婆の言われるがまま、目を閉じ龍人は思う、日本という祖国を、名も知らぬ、忘れてしまった、自分自身を『渇望』する、右手に持った龍人の『人の石』は、龍人の手の中で黄金の輝きを放ち始める、


「そしてその石は、あんたの手を伝って、心臓に、魂に、脳に、全身に、その『意志』は響き渡る、」


 老婆がそう告げるとその光は輝きが控えめになり分散する、
 龍人の全身に、染み渡る、響き渡る、
 それは、彼の『記憶』を呼び起こす、欠けていたパーツを埋める、


「「おおおおぉぉぉッッッッッッ」」


 龍人は叫んだ、天井に視線を向け、なぜ自分がここにいるのか、名前を、過去を、すべてを思い出していく、光は止み、龍人は自身の右手と、地面を見ながら佇んでいる、


「どうだい、思い出したかね?」


 そう老婆に尋ねられた龍人は、彼は、老婆に視線をやる、『人の石』が先ほどまで存在していた右拳を握りしめながら、言葉を発さずその狂気に満ちた両目は、その双眸そうぼうは老婆を見つめ続ける、いや、老婆ではない何かに、おそらくその視線は向けられ続けている、
「どうやら思い出したみたいだね、その『鬼』のような顔、いいね、私は好きだよ、」


「あんたに好かれても嬉しくはないな、」


 突然の老婆の好意を表す発言に総てを思い出した龍人は悪態をつく、


「そうかい? まぁいつか好きになっておくれよ、私はいつでもここにいる。」
「……」


 龍人は無言を返事とする、『誰が好きになるか』と、


「さて、質問がなければこれが最後だ、あんたの『名前』と、あんたの『望み』を聞かせておくれ、」


 龍人は老婆の問いに素直に応える、


「俺の名は、『吾妻龍人』、『望む』のは記憶を保持したままの『転生』、」


「その『心』は」


 老婆は楽しそうに尋ねる、


 龍人は目を閉じ、ゆっくりと思いを、想いを込めて、決意表明とも取れる、『その心』を言葉にする、目を開けて言葉にする、




「…『復讐』だ。」




 老婆はほくそ笑む、いいねと笑う、その龍人の『熱量』に笑う、『尋常』でない怒りを感じ笑う、私の『勘』は正しかったと笑う、そんな笑みを浮かべながら老婆は言う、


「最後に質問はあるかね?龍人、」


 説明は以上、聞きたいことがあるなら聞いときな、と老婆はそう思いを込めた声音で言った。
 龍人は少しの黙考の後、考えをまとめ、質問をする、


「…質問は3つ、『カオスアニマ』はいくつ集めればいい?」


 当然の質問、『転生』を目指すのなら、当然の『疑問』、


「それは知らされていないね、3つとも、5つとも、7つとも、9つとも言われているね、
なにせ誰も辿り着いたことのない『極致』、『奇跡』だからね、」


 その老婆の答えを受け止め龍人は言葉を続ける、


「2つ目は、あんたはどうやってその肉体を保っているんだ? 見たところ戦ってるようには見えない、」


 居るだけでも失う可能性のある『記憶』、すべての魂と相対して暇もないはず、その保持力はなんなのか、と龍人は尋ねる。


「私はね、神様に『御役目』をもらっている『案内役』だよ、現世に上がることも、浄化されることも望まない、私の望みはなんらかの『奇跡』を見ることだからね、だから私は選ばれたんだよ、『案内役』にね、」
「この世界に私の魂はリンクしていてね、常に記憶も魂も供給されているからある意味この世界1番の『不死』、まぁ私の望む『奇跡』が起きて私が満足しない限りの話だがね、」


「最後は、あんたの『名前』だ、『名前』を教えてほしい、」


「『名前』かい? 珍しいね、誰もろくに私の名前なんざ気にもしないのに、
 おかしな子だね、…なんでだい?」


 こんな白髪まみれの老婆の『名前』になんの意味がある、とケタケタ笑いながら老婆は質問を返した、


「質問に質問で返すのか? まぁいいよ、ただ、『なんとなく』だ。特に意味は無い、」 


 右手で頭を掻きながら龍人はそう答える、


「へっへっへっ『なんとなく』かい、なるほど、なるほど、いいね、それでこそだよ」
「?」


 嬉しそうに老婆は応えてなかった質問に答える、


「私の名前は『ビギニング』、『ビギニング』だよ、意味はわかるね? 
『始まり』、だよ。」


「『ビギニング』、…『始まり』、か、」


「さぁ、いってらっしゃい、私はここで見ているよ、私にはそういう『能力』もあるんだ。」
「出口は入ってきた反対側のこの扉だよ、
 武器は壁にかかってるのを一つ、持っていきな、そういうルールだ、
 手ぶらで良いって言うならそれもありだが、貰えるものは貰っておくべきだろう?」


 老婆は左手の親指を指差す、そこにあるのは壁にかかっている武器達、短剣、適当そうな槍、小さな斧、そして入ってきた扉とは違う扉、龍人はそれに目をやると、


「ああ、世話になったな」


 龍人はその壁に向かい歩を向け、少し思慮した後、短剣を手に取る、その背中に、老婆は語る、


「あんたの旅の『終着』が私が望む『奇跡』であることを願ってるよ」


 龍人は老婆に背を向けたまま、口を開き、誓う、言い放つ、


「『誓って』やるよ、あんたに見せてやる、あんたの言う『奇跡』、
 俺が目指す『転生』何なのかは知らないがな、俺は必ず辿り着く、」


 そう言い残すと龍人は老婆に目もくれず、入ってきた扉でない対面の扉から出て行った。入ってきた時の遠慮がちな開閉とは全く違う別の質の開け方と閉め方をして。
 一人残った老婆は、その開閉の少し後、左手でその笑みを隠すように顔を覆い、ほくそ笑みながら言った。


「言うね、『若造』、だが、その意気が心地いいよ、見せてみなよ、
 おまえさんの『奇跡』、期待しないで待ってるよ、期待していると疲れるからね」


 龍人は歩む、その家を出て、足音を立てて、遠目に一人の亡者が前方にいることに龍人は気づく、龍人は笑う、『彼』は笑う、吾妻龍人は想う、『やってやる』と、『やれる』と、
 始まりを越え、歩み続ける復讐に燃える生者、吾妻龍人、
『彼』は短剣を握りしめ、臆することなく前方にいる亡者に勢い良く襲いかかる。
 その双眸そうぼうの瞳は青色の炎よりも濃い、青色せいしょくのサファイヤ。




「さぁ『始まった』ね、ようこそ『吾妻龍人』この『混沌』とした『魂』の集う、
 『地獄』『カルマ』、通称、『テラ・グラウンド』へ。」




 レンガ造りの家に再び一人になった老婆はただ、意味深にそう独り言を呟いた。





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