異世界転移の覇王譚

夜月空羽

19 要塞都市

沙織を新たな仲間げぼくにした影士は己の力を制御する為に、そして絶対的な強者となる為に真っ直ぐ南に向かって旅をしている。
「妾の時のように神が直接手を下すのはまずなかろう」
その道中で休憩を取っている際にエルギナがそう言った。
「もし、神が直接手を下すのならそれは世界の均衡が崩れる時か、神達に取って都合の悪い時のみと考えてよいだろう。妾の時もそうだったように恐らくは極力は人間かそれ以外の種族にギフトを与えて対処する可能性は高い」
「なるほどな……。流石の神も下界に直接干渉するのにはリスクがあるのかもな」
「うむ。妾を殺害ではなく封印したのにも理由があったかもしれぬ」
今後、戦うべきであろう神への対処について影士は神によって封印されていたエルギナと話をしていた。
「グッ!」
「ぎゃ!!」
「なら暫くは神と戦うことはないか……。それまでに今の俺自身の力を制御できるようにしねえとな」
「それと戦力も必要であろう」
「た、助け―――」
「こ、殺さないでくれ、頼――」
「取りあえず急ぐ旅でもねえし、神とすぐに戦うこともないのなら力の制御も兼ねて普通の冒険者として活動してみるのも一興か」
「それがよかろう。まずはS級冒険者を目指すのも悪くはなかろう」
「てめえ等!! なに暢気にくちゃべっていやがる!!」
暢気に座りながら今後のことについて話していた二人に一人の大柄の男性が剣を振り下ろすも影士はそれを片手で掴む。所謂、片手真剣白刃取りだ。だがおかしいのはその白刃取りが刃の部分を指先で摘まむという形で行われており、男性が押しても引いても剣は微動だにしなかった。
「おい、沙織。レベル上げの獲物を逃がしてんじゃねえよ」
「うるさい。すぐに殺すわよ」
「ガッ!」
剣身が伸びて男性の喉を貫通する。処女雪のように白い髪は所々血で赤く染まり、銀色に輝く剣身は元のサイズへと戻る。そして沙織の足元には血塗れで倒れている男性達が転がっている。
男性達の正体は山賊。略奪を生業とする彼等は影士達から金銭を奪い、エルギナ達を慰め者にした後で奴隷商に売ろうとしたのだが、狙った相手が悪かったといわんばかりに見事に返り討ちにされた。それも沙織一人によって。
魔具アーティファクトの使い心地はどうだ?」
「まだ難しいけどだいぶ馴染んだわ。変幻自在の剣ってやっぱり扱いが難しいものなのね」
沙織が持つ銀色の輝きを放つ剣は魔具アーティファクト。契約者の意のままにその姿を変える。沙織はその魔具アーティファクトを使って山賊を皆殺しにしてレベル上げの糧にした。
「しかし、剣技も多少は様になっているのではないか? エルザの指導も良いのだろうが、沙織自身、剣技の才があるのかもしれぬ」
「あらあら、エルギナ様。沙織さんはこの程度では満足しませんわよ?」
「……ええ、多少じゃダメよ。私はもっと強くならないといけないのだから」
復讐に全てを捧げて復讐姫となった沙織は貪欲なまでに力を求めている。この程度では到底満足することなどできない。
「まぁ、山賊だろうが魔物だろうが殺せばレベルは上がるんだ。精々沙織の経験値稼ぎにでもなってもらうとしよう」
この中で一番弱いのは沙織である。だから少しでも早くレベルを上げる為に沙織一人に戦わせている。それでもしも死ねばそれは沙織が弱かっただけの話だ。
(だけどそれでもチマチマレベル上げするのも時間がかかる……)
影士達のレベルが高いのは魔窟ダンジョン迷宮ラビリンスで魔物を殺しまくったからだ。それこそ一種の暴力とも思える数の魔物を殺してレベルを上げてきた。しかし、これから仲間げぼくを増やしていくたびにレベルを上げていたら時間がかかる。
(ステータスを上げるのはアルガや装備などでどうとでもなるが、レベルはそうはいかねぇ……)
仲間げぼくを強くするためにも効率よく経験値を稼げる方法も模索しないといけない。
(その辺の情報も集めねえとな……)
「ねぇ、そういえばギフトの隷属神の加護ってどんな効果があるの?」
山賊を倒してステータスを確認していた沙織がそう尋ねてきた。
「異世界転生・転移モノで奴隷に奴隷紋を刻んで主人に逆らえなくするもしくは命令に絶対服従のがあっただろ? そういう能力ギフトだ」
と言いつつも誰でも強制的に隷属できるというわけではない。何かしらの方法で対象を主人だと認めさせる必要がある。勝負に勝って敗北を与えるでも、恐怖を心身に沁み込ませて主人だと認めさせるでも手段は問われない。とにかく対象に主人だと認めさせれば隷属神の加護の力が働いて対象を隷属させることができる。その証として隷属した者は身体のどこかに紋様が浮かび上がり、与えられるギフトの強さによってその紋様の強度や隷属させる力も増す。
「戦闘には役に立たない能力ギフトね……」
あくまで隷属に特化したギフトなので戦闘力が上がるというわけではない。沙織の言う通り、戦闘に役に立つ能力ギフトではないのだ。
「まぁな」
それに関しては影士も否定しない。戦闘ではアルガはあまり役には立たないのは影士が一番理解している。
「だが、忠実な駒を増やすという意味では役に立つ。いずれ俺が覇王となれば兵士も必要だからな。最悪、肉壁ぐらいにはなるだろう」
決して逆らわない、裏切らない駒を作る。それにはアルガ、隷属神の力は有用である。
「それもそうね……」
何か言いたそうにする沙織だけどそれを口にすることなくただ肯定した。何か思うことでもあるのだろうが影士にとってはどうでもいいことなので放置して四人は足を動かすと一つの都市が見えてきた。
「見えてきましたわ、旦那様。あれが要塞都市ナルメスですわ」
四人の視線の先に見えるのはまさに要塞。堅牢な壁に覆われた都市の姿はエルザの言う通り要塞都市に相応しい都市だ。エルザ曰く、この地域では凶暴なモンスターが多く生息している為にそのモンスターから都市を守る為に建てられたのが都市全体を囲む巨大な壁だ。
「……巨人でも出てきそうね」
「ファンタジー世界だからそれはないとは言えねえな」
沙織の言葉に影士は苦笑交じりにそう答える。本当にそう思えるぐらいの壁だ。
「しかし、何故人はこのような場所に都市を築く? 危険であろうに」
「確かにそうですわね。しかし、このような地域だからこそ得るものもありますわ。冒険者にとってはレベル上げに最適ですし、依頼に困ることもありません。商人からしてもこの地域でしかない貴重な商品の売買もありますから。それにあの都市はモンスターの大量発生が起こった際の防衛基地でもありますわ」
「なるほど。万が一にそのような事態が起きても最悪あの都市で時間稼ぎができるというわけか。そしてその間に迎撃準備に備えられると」
エルザとエルギナで眼前に映る都市のことについて話しているも影士はそんなこと知ったことかと言わんばかりに都市に向かって足を動かす。
「そんなことどうでもいいからさっさと行くぞ」
そのような異常事態が起きたとしてもそれで死ねばそれは弱い方が悪いだけの話だ。強ければ生き残れるただそれだけ。だからこそ要塞都市の事情など影士にはどうでもよかった。
それは復讐姫ではる沙織も同様。復讐以外全てを捨てた沙織にとって都市の事情などどうでもいいことだった。そんな二人にエルギナは呆れ、エルザは『あらあら』と微笑む。
そうして影士達は要塞都市ナルメスへと向かった。

コメント

  • ノベルバユーザー385074

    続きがとても楽しみです

    0
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