異世界転移の覇王譚

夜月空羽

12 突き進む

迷宮ラビリンスを突き進む影士達。それを阻止しようと魔物達は蠢くように襲いかかってくる。そんな魔物達にエルザが動いた。
「ふふふふふ!」
不気味な笑みを浮かばせながら発火の魔眼の力を発動させて魔物達を炎に包み込む。だが、それだけでは終わらない。その炎はまるで意思があるかのように他の魔物にも燃え移っていく。
「さぁさぁさぁ! もっと熱く激しく燃えてくださいまし!」
影士の強化実験によってエルザのステータスは大幅に上昇しただけではなく、影士の時と同じように新しいアビリティも獲得した。
『炎熱操作』。炎や熱を己の意思で操るそのアビリティは発火の魔眼を持つエルザには鬼に金棒。燃え上がる魔物達に跳びかかり赤い剣を振るうその姿は炎の中で踊り狂う淑女レディ
「やれやれ……」
新しい玩具を手に入れた子供のようにはしゃぐエルザを見て肩を竦めながら心配そうに目配りするエルギナは得意の魔法で魔物達を葬っていく。
炎で焼き殺し、風で斬り裂き、岩石で圧殺するエルギナの魔法の手腕は元魔王なだけあってずば抜けて優秀だ。強力な魔法を連発しているにも関わらず、エルギナにはまだまだ余力がある。
そして―――
「オラッ!」
剣もしくは全身に風や炎を纏わせて魔物を攻撃していく影士。剣に魔法を纏わせることで一撃の攻撃力を高めて全身を魔法で防御を固めている。
「喰らえ!」
瞳を見開き、エルザから奪った発火の魔眼を発動させて魔物を発火、否、魔力のステータスが高過ぎる影士の魔眼の威力は発火よりも火柱に近い。エルザのように火力調整をせず、高火力で一気に魔物を焼き尽くす。
影士はエルギナのように遠距離から魔法を放つのは不得意でエルザのように剣と魔眼を使いこなせるわけでもない。だから剣や全身に魔法を纏わせて敵に近づいて攻撃し、遠距離での攻撃は高火力による魔眼の攻撃にする意識を集中させることにした。
それが己の力の使い方を考えて身に付けた影士の戦い方。まだ不慣れではあるもここは迷宮ラビリンス。腐るほど魔物が生息している為に練習するには打ってつけの環境だ。
魔物を蹴散らしながら突き進む三人は既に三十階層のボス部屋も突破して次のボス部屋がある四十階層にまで足を踏み込んでいた。
「開けるぞ」
ボス部屋の扉を開ける。そこには巨大蜘蛛がいた。
体長はざっと五メートル程、ギチギチと牙を鳴らす巨大蜘蛛は口から大量の糸を放出する。
「お任せを」
エルザが前に出て発火の魔眼でその糸を燃やす。三人の視界が炎によって遮られた隙を狙ったかのように巨大蜘蛛は宙にある太い糸を足場にするように乗ると、部屋全体から無数の蜘蛛がぞろぞろと姿を見せる。
巨大蜘蛛よりかは幾分かは小柄だが、数が異常に多い。その数を一つ一つ相手にしていけば確実に体力も魔力も消耗してしまう。
だが、その心配は不要だった。
部屋が一瞬にして炎に支配される。燃え上がる炎に蜘蛛が次々と燃え上がる。
「よくやった。エルギナ」
「うむ。トドメは任せる」
エルギナの魔法によって蜘蛛は燃え、残されたのは宙にいる巨大蜘蛛ただ一匹。その巨大蜘蛛に影士は視線を向けると―――
「死ね」
巨大蜘蛛は火柱に包み込まれて灰も残らず消滅する。
迷宮ラビリンス四十階層のボスでさえも三人に傷一つ負わせることができない。
「あら、旦那様。これは旦那様にお似合いになるのでは?」
ボス部屋にある宝箱を開けて取り出したのは黒に白い線が入ったロングコート。エルザはそれを影士に着せる。
「やはりお似合いですわね」
「うむ。まぁ悪くはなかろう」
ロングコートを着た影士の姿に感想を述べる。影士自身も特に動きを阻害されることもないのでロングコートを着ることにする。
新しい装備を身に付けて次の階層に突き進む三人。
「それにしてもなかなかレベルが上がらねえな」
ステータスを確認してレベルが上がらないことに愚痴を溢す。
「それは仕方がなかろう。レベルが高ければその分上がりにくくもなる」
「そうですわね。レベル上げは根気が必要ですから」
ここまで来てかなりの魔物を倒したにも関わらず、影士のレベルは一つしか上がっていない。
やはりゲームと同じようにレベルが高いと経験値を溜めるには数がいる。
「……………そういえばこの世界の人間のレベルの基準はどれぐらいなんだ?」
「そうですわね。冒険者でよろしければ20~30ですわ。高い方でも40あればいい方ですし、騎士の方もそれぐらいですわね」
「低いな……いや、そんなもんか」
レベル、魔法、スキル。ゲームのような世界でもこの世界は本当のゲームではない。死んだら終わりの世界。生きていくだけなら危険を避けて通るのは当たり前だ。
命をかけて強くなる理由がない限りはレベルの基準はそれぐらいが妥当。影士達のレベルの高さが異常なのだ。
「そうなると、エルザほどレベルの高い奴に会える確率はかなり低いな」
逆にエルザのような高レベルの者と出会えたのは奇跡に等しい。高レベルの者を仲間げぼくにして行こうと一考していたが、それは無理だろうと断念する。
「なら、俺のアビリティとアルガの能力の組み合わせでステータスを上げるしかないか」
問題はその際の激痛に耐え切れるだけの強靭の精神力を持っているかどうか。その辺は賭けでしかない。かつてアルガを持つエルギナを封印した女神。少なくとも影士はその女神よりも強くならなければエルギナの二の舞になってしまう。
自分自身が強くなるのは当然として強い仲間げぼくも必要だ。
「「「「「シャァァアア!!」」」」」
「ん?」
強い仲間げぼく集めにどうしようか悩んでいるとティラノサウルスのような魔物が複数姿を見せる。獲物が来たことに喜んでいるのか鋭い牙が並んだその口からは涎が流れている。
「まぁ、それは迷宮ラビリンスを攻略してから考えるか」
剣に風を纏わせて一瞬で一体のティラノサウルスの首を両断する影士に驚くティラノサウルスはようやく気付いた。こいつらは餌ではない。自分達を捕食する捕食者であり、その捕食者の餌が自分達であると。
そして風を纏う剣がティラノサウルスを斬り裂いて迷宮ラビリンス攻略は続く。
階層を進みながら魔物を撃退し、ボス部屋にいる魔物も倒して次の階層に進む。その脚は止まることなく突き進む。
「死ね!」
五十階層のボス部屋にいた身体は獅子、尻尾が蛇のキメラをアルガで両断して倒して次の階層に降りては魔物を倒しながら次のボス部屋に向かう。
六十階層、七十階層、八十階層、九十階層と突き進む三人は少しずつだが確実にレベルを上げて強くなっていく。そして…………。

唯我影士 年齢:17歳 性別:男
Lv:99
体力:9700(+500)
筋力:9270(+500)
耐久:9650(+500)
敏捷:9810(+500)
器用:8980(+500)
魔力:19600(+500)
魔法:呪詛魔法 炎魔法 風魔法 土魔法 闇魔法 変身魔法 複合魔法 水魔法 回復魔法
スキル:物理耐性8/10 苦痛耐性9/10 逃走1/10 脚力強化7/10 夜目8/10 状態異常耐性5/10 恐怖耐性4/10 悪食6/10 剣技3/10
アビリティ:魂縛 魔食 魔眼(発火)
ギフト:冥府神の寵愛 

影士は百階層。ボス部屋の前でついにレベルが99となった。そしてエルギナはレベル98。エルザが95までレベルを上げてここまで辿り着いた影士は百階層のボス部屋の扉を開けると――
そこは黄金の世界だった。
見渡す限り金。壁も天井も柱も全てが黄金でできているかのように金色に輝くその部屋に圧巻されてしまう三人は取りあえずその部屋に入る。
「これはまた………まるで異界だな」
「ああ」
「そうですわね」
周囲を見渡しながら思った事を口にするエルギナに二人は同意するが、一つだけ不可解なことがある。
「この部屋の魔物はどこだ?」
ここまでボス部屋は扉を開ければ部屋の中心で待ち構えていたが、このボス部屋ではそれがなく魔物の姿が見当たらない。隠れているのかと思って周囲を注意深く見渡すもそれらしい姿もない。
黄金のボス部屋。存在しない魔物。これまでにない展開に誰もが首を傾げていると、それは現れた。
「影士――――――――――――――――ッ!!」
上から自分の名前を呼ばれて思わず見上げるとそこには少女がいた。
長い黒髪と目をした幼い少女はまるで長年会えなかった恋人に再開したかのような笑顔で影士に向かって落下するも、影士はそれを避ける。
「ふべ!?」
影士がいた場所に落下した少女はそのまま地面にダイブした。
「……………影士。知り合いか?」
「知らん」
地面に倒れる少女を指して影士の知り合いか尋ねるエルギナだったけど、影士自身も少女と面識はない。そもそもこの世界で知り合いなどいない筈なのに少女は確かに影士の名を口にした。
「影士、酷い! せっかく会いにきたのに受け止めてよ! 愛情を持って!」
起き上がる少女は自身を受け止めなかった影士にぷんすかと怒るも影士にとっては知ったことではない。
「知るか。そもそもお前はどうして俺の名前を知ってんだ?」
「そんなの私が影士をこの世界に召喚したからに決まっているからだよ!」
「あぁ?」
自信満々にない胸を張って告げる少女は名乗る。
「私の名前はイシス! 冥府神のイシス! 影士をこの世界に召喚してギフトを与えた女神様だよ!」
影士をこの異世界に召喚してギフトを与えた女神が現れた。


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