異世界転移の覇王譚

夜月空羽

11 強化実験

エルザを仲間げぼくに加えることにした影士はそのまま迷宮ラビリンスの階層を降りつつ魔物相手に新しい力の実験を繰り返している。
新しく手に入れたアビリティである魔眼。
エルザの持つ発火の魔眼を手に入れた影士は早速魔物相手にその力を発動させているのだが、意外にも扱いが難しい。
火力調整は勿論のこと、狙いを定めるのにも僅かに時間がいる。動きが襲い魔物相手ならともかく素早い魔物相手には当てにくい。
せっかく魔眼が手に入ったというのになかなかかっこよく使いこなせないことに肩を落とす。
「ふふふ。そう焦らずとも練習相手は沢山ありますからゆっくりと使いこなせて参りましょう。私も手取り足取り教えて差し上げますので」
腕に抱き着いているエルザは落ち込む影士を励ます。
抱いたことによってスキンシップも過剰になり、基本的にべったりと影士にくっついている。
「あん」
気紛れに胸や尻などを揉めば艶のある声を出して発情した雌犬のように腰を振ってくるも、影士は先程やりまくったせいもあっても今は賢者モードの為にその気はない。
「お主等、少しは真面目に戦え」
そんな二人に呆れながら魔法で魔物を倒していくエルギナなのだが、エルザはエルギナに言う。
「あらあら、エルギナ様。私は三人一緒でもよろしくてよ?」
「あのような痛い思いをするのは一度で十分だ!」
「痛いのは最初だけですわ。二回目からはふふふふふふ、シテからのお楽しみということで」
「痴女か!? お主は!」
「旦那様がお望みとあれば痴女でも構いませんわ」
「少しそこに正座せよ! 淑女としての嗜みを妾が一から教えてやる!」
「何やってんだ、お前等………」
くどくどと説教を始めるエルギナに正座したまま笑みを崩すことなくそれを聞き流す。それを呆れながらも止めることなく影士は己の力を確認する。
これまでただ我武者羅に強くなることだけを意識してレベルを上げてきた。だが、その強さを影士は存分に使いこなせていないことをエルザとの戦闘で理解した。
今以上に強くなる為にもまずは己の力を使いこなさなければいけない。
(魔法は発想力とイメージ力………これはエルギナの言う通り場数で慣らしていくしかない。アビリティの魔食はどのような能力なのか理解できたから問題ないし、魔眼も後は練習次第だからいいが、一番わからねえのがこの魂縛だ)
後に得た魔食や魔眼と違って魂縛はこの世界に来てから影士が元から持っていたアビリティだが、その能力をどう活用すればいいのか影士には見当もつかなかった。
(漫画で出てくる死者に魂を送り込み操る死霊魔術師ネクロマンサーの能力か? 死者を操るという点は便利だが、その場合は生者より弱い場合が多い。よほど強い死体と魂を容易しないと使い物にはならねえし、戦闘に役立つ能力とは思えねえ………)
そもそも魂を縛ってどうなるんだよ、と内心で愚痴を溢す。
すると、ふとあることを閃いた。
(いや待て。別に魂を縛る力なら何も死者でなくてもいいんじゃねえか? 降霊術とかそういう能力じゃねえし、仮にこの仮説が正しければそこにアルガの力を加えることが出来れば………)
確認の為にアルガに尋ねる。
「おい、アルガ。お前は以前に俺に因子を流し込んでステータスを上げたよな?」
『そうだ。我が力で貴様を強化した。だが、それは貴様がギフトを持っていたからできた荒業だ。貴様でなければまず死ぬであろう。エルギナでさえしなかった強化方法なのでな』
肉体の変化はその副作用だ。と語るアルガに影士は顎に手を当てて考える。
「……………おい、エルザ。死ぬかもしれないが、実験させてくれ」
「はい、喜んで」
「お主! いきなり何を言っておる!? そしてエルザ! お主も断れ! 死ぬかもしれないと影士が言っておるだろう!」
死ぬかもしれない実験に躊躇うことなく了承するエルザにエルギナは声を荒げて止めようとするもエルザは止まらなかった。
「エルギナ様。止めないでくださいまし。愛する旦那様のお役に立てるというのでしたら喜んで全てを捧げるのが妻の務めなのですから」
「影士はお主の旦那でもなかろうが! 影士もせっかくできた仲間になんてことを言う!?」
仲間で実験をしようとする影士に憤りを見せるエルギナだが、影士はなんてこともないように言う。
「上手く行けばエルザのステータスを上げることができるかもしれねぇ。それに運が良ければ新しいアビリティも出てくる可能性もある。言ってしまえばこれは強化実験だ。強ければ生き残れるが、そこで死ねばこいつもそれまでだっただけの話だ」
実験を行い生き残るだけの強さがあれば生き残れる。けど、弱ければエルザはそこまでの奴だったと見限る。
「だがそれでも――」
「それにこの実験はお前よりエルザの方が成功率は高い。既に狂っているからこれ以上狂うこともないだろうしな」
「それなら妾が先に―――」
「エルギナ様。私の事はどうかお構いなく」
エルザより先にその実験に志願しようとするエルギナに制止の声を投げた。
「これは試練なのですわ。私の旦那様を愛する想いがどこまで強いのか。これはそれを試される試練なのです。さぁ、旦那様。私の愛が死よりも強いことを旦那様の前で証明致しましょう」
「ああ。魂縛」
アビリティである魂縛を発動させてエルザの魂を肉体に縛り付ける。そしてエルザの体内にあるアルガの因子を作動させる。
「――――――――ッ」
するとエルザに想像を絶するほどの激痛が走る。
常に笑みを絶やさないエルザが苦痛に歪んだ顔でその場で蹲る。
「エルザ! 影士、今すぐにやめさせろ! このままではエルザが!」
エルザの身を案じて中断させようと影士に訴えるも影士は止めない。ただ実験の経過を観察するかのような無感情の瞳でエルザを見下ろしている。
「ぁ………うぅ………」
痛みに悶える声を溢しながらもエルザは激痛と共に己の身体が内側から破壊され、凄い勢いで新しい身体へと再構築されていくのがわかる。
痛い、痛い、痛いと小さい子供のように喚きたいエルザ。あまりの激痛で何度も意識が失い、再び激痛で意識を取り戻す。それが無限ループのように繰り返すもエルザはまだ生きている。
いや、生かされているが正しいのかもしれない。
影士はギフトの力があったおかげで死ぬことなくアルガの力によって強化することができた。だが、それは影士が冥府神の寵愛というギフトがあったからこそできたこと。
しかし、影士は思った。
生きた人間の魂を肉体に縛り付ければ死ぬことはないのではないかと?
そして成功すれば自分と同じようにステータスが上がり、アビリティが手に入るのかもしれない。そう思った影士はエルザでそれができるか実験をした。
現段階ではその実験は成功している。けど、実験は最後までしないとわからない。
これでステータスも上がらなければ強化実験の意味そのものがなくなってしまう。
影士は膝を折ってエルザに言う。
「エルザ。それは俺が通った道だ。俺に惚れてんなら強くなりやがれ。俺は弱い女に用はない」
弱ければ斬り捨てる、と言外に告げる影士の言葉にエルギナは思わず手をあげそうになるが、それより速くエルザが顔を上げた。
脂汗を流し、表情は苦痛に歪められてもエルザは笑みを見せながら影士に言う。
「もち、ろん………ですわ………必ずや、強くなります………わ………」
その言葉を聞いた影士は嗤う。
「それでこそ俺の女だ」
影士のその言葉がエルザにとっては励ましとなり、エルザはその激痛に耐えようとする。
「……………………影士よ。お主の弱肉強食はアルガの元主である妾も理解はできる。そして強くならなければ妾とアルガを封印した女神の二の舞になることもわかっているつもりでいる。その為には強くなる必要も、強くならればならぬ気持ちもわかるし、これはエルザが望んだことだとでもある」
「ああ、で?」
「……………お主を心より慕うエルザのことを少しは信用せよ。そして二度とエルザにこのような実験を行わないと誓え」
「……………………」
影士は仲間を持たない。誰も信用していないからだ。だから自分にとって都合のいい下僕としてエルギナとエルザを連れているに過ぎない。アルガの力で二人の命を握っていなければ影士はこの二人を己が強者となる為だけの糧にしている。
誰にも従うことも奪われることもない最強の存在になる為に必要であるのなら影士はエルギナもエルザも斬り捨てる。二人はそれだけの存在だ。
だから影士は…………。
「断る。お前等をどう扱おうが俺の勝手だ。俺の所有物が俺に意見するな」
「―――っ」
我が道を進む影士の言葉に悔しそうに手を強く握りしめるのだが。
「けどまぁ、エルザにこんなことはもう二度としないことは誓ってやる」
「…………え?」
「二度も同じ強化方法ができるとは思えねえからな。その程度なら誓ってやるよ」
「……………………本当か?」
「ああ」
猜疑の眼差しで確認を取るエルギナに影士は頷いた。
それが本当かどうかはエルギナには確かめる術はないが、今は言葉を信じるしかない。
そして数分後。エルザは激痛に耐え切った。
「ふふふ。旦那様、私、耐え切ってみせましたわ!」
耐え切ったと同時に主人に懐く犬のように寄り添うエルザに影士は笑みを浮かばせる。
「ああ、これからも俺の役に立て。エルザ」
「勿論ですわ! 全ては旦那様の為に!」
愛する人の為に全てを捧げる女、エルザ・ユリシアは満面の笑みで応えた。

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