甘え上手な彼女4 冬編

Joker0808

第58話

「離してください!! 私に何のようが!?」

「安心しろ、俺たちは高志の知り合いだ」

「え? や、八重さんの?」

 走りながら、繁村は高志と自分の関係を説明した。

「え? じゃあ学校のお友達なんですか?」

「あぁ、そうだ! お前に言いたい事があって、こうして屋敷に侵入したんだよ!」

「そ、そうなんですか? ではなぜ、貴方たちは追われているのですか?」

「それは……まぁ置いといて!」

「置くんですか? 私に取っては結構重要な事なのですが?」

「あぁぁぁ!! 高志からお前に伝言預かってるんだよ! 黙って聞いてくれ!」

「そうは言われましても……大体八重さんはどこに行ったんですか?」

「だから!! それも含めて説明してやるから!!」

 繁村は瑞稀と口論しながら、屋敷内を走り回る。
 野球部で鍛えただけあって、体力だけは自身のある繁村は瑞稀を背負っているにも関わらず、まだ余裕があった。
 少し走ると繁村は瑞稀と共に、屋敷の中の一室に隠れた。
 
「はぁ……はぁ……土井とはぐれちまった」

 逃げるのに夢中で、繁村は土井とはぐれてしまった。
 繁村が逃げ込んだのは、客室のようだった。 大きなソファーと大きなテーブルがあり、窓からは屋敷の庭が見えた。

「なんなんですか! 人の事を物みたいに持って!」

「あぁ、それは悪かったけど………ってそんな事を言っている場合じゃない! 俺はお前に高志からの伝言を伝えて、ここからとっとおさらばするんだ!」

「伝言? 八重様に……一体何が?」

「あー、どこから話せば良いか……まず、あいつには彼女が居るんだよ」

「そうなんですか?」

「ん? なんかあっさりした反応だな……」

「えぇ……確かにショックではありますが……あの方であれば納得出来ます……優しくて本当に良いお方ですから……」

「あ……そう?」

 繁村はそんな瑞稀に今までの高志と紗弥の話しをした。
 仲が良かった二人が、今日突然別れてしまった事、その原因が瑞稀の父にあること。

「お父様が……」

「あぁ……でも、別に高志がお前を嫌いって訳じゃねーぞ。あ、嫌いって言っても友達としてだぞ、勘違いすんなよ」

「分かってます、そんなに私は馬鹿じゃありません」

「……そうかよ……そう言うなら……泣くなよ」

「え……」

 瑞稀は自分が泣いている事に繁村に言われて気がついた。
 そんな瑞稀に繁村は声を掛ける。

「……まぁ、アンタは可愛いし……これからも良い出会いがあるよ」

「……私にこれからなんて無いですよ………」

「は? なんでだよ?」

「……私は体が弱くて………来年だってどうなっているか……」

 瑞稀の話しを聞き、繁村は高志から聞いていた話を思い出す。
 体が弱く家からあまり出られず、友人も居ない。
 そんな瑞稀を高志は心の底から心配していた。

「はぁ……あいつのお人好しめ……」

 繁村は高志に対してそんな事を思いながら、ため息を吐く。

「まぁ、そう言うことだ……悪いがあいつは今日はもう戻ってこない」

「そうですか……仕方ありませんね……」

 そう言うと瑞稀はドアの方に向かい始めた。
「おい、どこ行くんだ?」

「皆さんを止めてきます。父の行き過ぎた心配で皆様には大変なご迷惑を……」

「そうしてくれ、外で殴り合ってるお前のとこの執事とうちの優一は、そろそろ限界だろうけど……」

「八重様には……私のせいで大変なご迷惑を掛けてしまいましたね……」

「別にお前のせいじゃないだろ? お前の親父さんが半分、高志が半分くらい悪いと俺は思うけど」

 繁村がそう言うと、瑞稀は繁村の方を向き不思議そうに繁村に尋ねた。

「それは何故ですか? 父はともかく、八重様は何も悪いことなんて……」

「いや、悪いだろ? 一番大事とか言って、彼女放って他の女のところに言っちまう彼氏なんて」

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