甘え上手な彼女4 冬編

Joker0808

第57話

「紗弥……悪い……」

 そう言った高志の顔を紗弥は悲しそうな表情で見ていた。
 高志は続く言葉が思いつかず、言葉を詰まらせてしまった。
 何を言ったら良いのだろう……何を言えば許して貰えるのだろう……そんな事ばかりを高志は考えていた。
 しかし、高志は考えるうちに気がついてしまった。
 許して貰うんじゃ無い、許して貰おうと思ってはいけない。
 ただ、今までの事を謝罪したい。
 高志はもう一度紗弥の顔を見て頭を下げる。
「何を言っても……許してなんてくれないと思う……でも……俺はただ紗弥に謝りたかったんだ……ごめん」

「………」

 そう言う高志を紗弥はただ見つめていた。
 
「ねぇ……」

「はい……」

「なんで……あんなこと……言ったの?」

 紗弥は今にも泣き出してしまいそうな表情で高志に尋ねた。

「それは……」

 高志は何があったのかを静かに話し始めた。 
「それで……俺は紗弥に別れて欲しいって言ったんだ……」

「………」

「悪い……もっと早くに誰かに相談するべきだったよ……」

「……本当だよ……」

「………ごめん」

 高志は再び頭を下げた。
 関係を元に戻したいとも、何も言わずに高志はただ謝罪した。
 そんな高志に紗弥は近づく。

「紗弥……」

 近づいてきた事に気がつき、高志は顔を上げる。
 するとその瞬間、高志は左の頬に激しい痛みを感じた。
 バチィン!!
 大きな何かを叩くような音が高志の耳に響いた。
 高志は左の頬を抑えながら、紗弥の方を見る。
 紗弥の目には涙が浮かび、高志の方を睨んでいた。

「なんで……なんで私に何も言ってくれなかったの!」

「さ、紗弥……」

「私は……高志のなんだったの? 恋人じゃなかったの!」

「そ、それは……」

「じゃあなんで……なんで私に何も言ってくれなかったの!!」

「………すまない……」

「相談だって出来たはずでしょ!!」

 紗弥は泣きながらそう言い、高志の体をどんどんと叩き続ける。
 振られた事を怒っている訳ではなかった。
 ただ、自分を信じて一番に相談してくれなかったことに、紗弥は怒っていた。
 高志は何も言えず、ただ紗弥にされるがままでいた。

「ごめん……」

「ごめんって……なんでそれだけしか……言ってくれないの……」

「………ごめん」

「っ!! 馬鹿!」

「うっ……」

 高志はまたしても頬を叩かれる。
 いつも冷静な紗弥がここまで感情を表に出すのは珍しい。
 高志はどれだけ紗弥が怒っているのかを肌で感じていた。
 紗弥は高志を叩き、そのまま家の中に戻ってしまった。
 




「君!!」

「きゃぁぁ! 不審者!!」

「まて! 話しを聞いてくれ!」

「は、離してください!! 人の家に勝手に入る人なんて信じられません!」

「あぁ、それはごもっとも……」

「土井! お前まで何を言ってるんだ! まずは信用して貰わないと!」

「じゃあ、お前はその手をまず離せ」

 瑞稀を発見した土井と繁村は、瑞稀に話しを聞いて貰おうと瑞稀を足止めしていた。
 しかし、瑞稀が声を出したせいで人が集まってきていた。

「居たぞ!!」

「お嬢様が捕まっている! 早くお嬢様を!!」

「おい! やべーぞ!! 早く逃げないと!! 繁村いくぞ!!」

「よし! 行こう!!」

「え?」

 土井にそう言われ、繁村は瑞稀を抱えて逃げ始める。
 
「ちょ! ちょっと! どこを触っているのですか!! やめてください!!」

「お前……普通持ってくるか?」

「こいつをもう一回探すのは面倒だろ? なら、連れて行けば大丈夫だ!」

「いや……だからって……」

 繁村と土井は瑞稀を抱えて持たしても屋敷中を走り始めた。
 

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