甘え上手な彼女4 冬編

Joker0808

第55話

 繁村はそこで気がついてしまった。
 自分が騙されていた事に、そしてその事実に繁村は怒りよりも悲しみが先にきてしまった。

「結局……そう言うことかよ……」

 自分の馬鹿さに、繁村は呆れていた。
 何を浮かれていたのだろうかと思いながら、繁村は涙を流していた。

「あいつ、野球部の中でも馬鹿で有名だからな、女に弱いし、楽勝だったな」

 笑いながら言う先輩の言葉が繁村の胸に突き刺さる。
 先輩の言うとおりだと、繁村が思っていると、またしても誰か別の声が聞こえてきた。

「おい」

「ん? なんだおまごふっ!!」

「先輩!?」

 様子がおかしいことに気がついた繁村は、顔を上げて先輩と女の子の方を見た。

「て、てめぇ……いきなり何をしやがる……」

「いやいや、何かしたのは先輩でしょ……彼女使って、随分ゲスな事してますね」

 先輩を殴り飛ばしたのは、高志だった。
 なんで高志がそんな事をしているのか、繁村にはさっぱり理解出来なかった。

「てめぇ……先輩に対しての礼儀が分かって無いようだな……」

「先輩? 礼儀以前に人として終わってる人を敬う訳ないでしょ? 繁村から借りた金……返してくださいよ」

 高志はそう言いながら、先輩に手を突き出す。
 しかし、そんな高志の手を先輩は自分の手で弾く。

「は? 借りたのはこいつだろ? 俺には関係ねーよ」

「……アンタ……とことんクズだな」

「なんとでも言えよ。大体、お前には関係ねーだろ」

「まぁそうだけど……騙されてるのを黙って見てられるほど、自分は薄情者にはなりたくないだけだよ」

「くっ……この野郎!!」

「うっ……」

「先輩!!」

 淡々と話す高志に先輩が殴り掛かる。
 高志の頬に先輩の拳が当たり、高志はその場に倒れた。
 脇に居た女の子も先輩のそんな姿を見て止めに入る。

「先輩、これ以上は……」

「何言ってんだ、こいつが黙ってればバレねーんだ! こいつの口を封じちまえば!」

「ぐっ……あっ!」

 倒れた高志を先輩が踏みつける。

「あの馬鹿に夢を与えてやったんだ! 金ぐらい貰っても良いだろうがよ!」

「うっ……あいつは……馬鹿じゃ……」

「うるせぇんだよ!」

「あぐっ!!」

 やられるがままの高志を繁村は見ていることしか出来なかった。
 自分が出て行って何が出来るのか分からなかった。
 先輩に勝てるわけだって無い、そもそもなんで高志が自分を庇うのか、繁村は不思議だった。

「なんで……俺なんかの為に……」

「あいつはそういう奴だ」

「え……」

 独り言を呟く繁村の背後から、急に声が聞こえてきた。
 そこにやってきたのが優一だった。

「あーあ、あいつは……また弱いくせに……」

 優一はそう言いながら、ゆっくりと繁村の居る場所から高志の元へ歩いて行った。

「おいおい、先輩。後輩虐めて楽しいか?」

「あ? 今度は誰だ!」

「まぁまぁ、そんなカッカするなよ、少し俺とも……遊ぼうぜ!!」

「がはっ!!」

 優一はそう言いながら、涼しい顔で先輩の顔面にパンチを食らわせた。
 それからは優一の独壇場だった。
 腹、足、顔にパンチを食らわせ、先輩を動けなくし、その姿をスマホで撮影していた。
 そして、倒れている高志に近づき、何かを話すと高志を抱えてその場を後にし、繁村の元にやってきた。

「お前さぁ……女には気を付けろよ? あと、金は返すってあの女の子が言ってたぞ? あの子も命令されてたみたいだし、許してやれよ」

「………なんで……なんで俺を助けるような真似を……」

「ん? あぁ……こいつが助けてやりたいって言うから」

「だから……なんで八重は……俺なんかを……」

「あぁ……こいつはそう言うやつなんだよ」

 そう言って優一は高志を背負って去って行った。
 その後、女の子は俺に謝罪し、お金を返してくれた。
 どうやら、付き合う条件として、先輩にやらされていたらしい。
 当の本人である先輩はその事実が高志と優一によって暴露され、一週間の停学処分を食らった。

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