魂狩りのダンジョンマスター ~慈悲も容赦も持ち合わせておりません!~

カルディ

幕間 篠宮 努という男の過去②

 
 この人間社会にいるのは【俺】であり、僕じゃない。
 高校二年生のある日、人格を作って普通を演じさせて以来僕の中でずっと燻り続け、否定しようとしていた考えが頭の中を巡る。
 どこかで間違えたのだろうか?
 分からない。
 僕が悪かったのだろうか?
 分からない。
 正解なんてものはありはしない。
 分かるのは、僕は失敗したんだろうということだけ。

 勇気を出して僕で在り続けるべきだったのかもしれない。
 が、そんなのは無意味なタラレバ論だ。
 本来の僕は家族にすら愛されなかったのに、他の誰かが僕を孤独から救ってくれるという保証がどこにあるというのか。

 ともかく、僕はこんな虚しいことは終わりにしていいんじゃないかと思ったんだ。
 【俺】がしていること、されていることをぼーっと裏側で眺めているだけで、結局のところ孤独なままのこの人生を。

 手っ取り早く学校で飛び降りて死のうかなと考え、放課後、学校の屋上へと向かう。
 しかし、屋上には先客がいた。
 様子を見ると男女混合の5人の集団が、女子1人を囲んで罵声を浴びせたり暴行を加えたりしている。
 いじめというやつだろうか。
 いじめている側の目を見て、僕は一瞬硬直する。
 あれは‥‥‥他の感情も多々混ざっているものの、かつて僕が向けられていたのと同じ目だったから。
 それに気づいたとき、何故か僕は彼女を助けたいと思ったんだ。
 最後の日なのだし、欲望に対して遠慮することもないだろう。
 僕は彼らに近づき、いじめっ子の1人を思いっきり殴り飛ばした。

「テメェ!いきなり何しやがる!」
「どうなるか分かってんだろうな!?アァ!」

 激しい怒号が僕に飛んでくる。
 怖いなあ。
 だが上っ面だけなのがバレバレだ。
 さては1人容赦なく殴り飛ばされて若干びびってるな?
 あともう一押しといったところか。

「失せろ‥‥‥聞こえないのか?失せろって言ってるんだよ」

 僕はニコニコ微笑みながらドスを聞かせた声でそう言ってやった。
 場違いな笑顔は中々に恐ろしいからね。
 効果てきめんだったらしく、いじめっ子共はそそくさと校舎の中に帰っていった。

 しかしどうして助けたいだなんて思ったんだろう。
 自分でもよく分からない。
 同情か?
 【俺】はともかく僕がそんなものでは動かないということはよく分かってる。
 死ぬ前に善行をしようとでも思ったか?
 そんな余裕があったならそもそも自殺なんて考えない。
 ‥‥‥ああ、そういうことか。
 これはかつて僕を苦しめたくそったれな人間の本能だ。
 自分と同じ者を優遇し、違う者を恐れ嫌うという本能。
 僕は彼女がかつての僕と同じだと認識したから助けようとしたんだ。

「あの‥‥‥ありがとう、ございます」
「礼なんていりませんよ。ただのきまぐれですから」

 いじめられていた女子が遠慮がちに礼を言ってきた。
 僕としては本当にただ自分の突発的な最後の欲望を叶えただけなので礼はいらないのだが。

「‥‥‥帰らないんですか?」
「あなたこそ帰らないんですか?」
「僕は屋上でやることがあるので。早く帰らないと日が暮れてきますよ」

 僕は彼女がいなくなるのを待っているのだが、何故か帰ろうとしない。
 帰るよう促したところでしばらく沈黙した後、彼女は再び口を開いた。

「自殺なんてしないでください」
「え?」

 思わず間抜けな声が出る。
 どうしてバレたんだ?
 「今から自殺します」みたいな表情でもしていただろうか。
 そんな僕の疑問を察したかのように、彼女は喋り始めた。

「私は何故だか生まれつき異常なほど観察眼に優れていました。だからちょっとした仕草や表情、目の色を観察すればその人が何を考えているか分かるんです。まあこの能力を気味悪がられてあんなことをされていたんですけど‥‥‥」
「‥‥‥分かるんだったら止めないで欲しいですね」
「私には、あなたが本当に望んでいるものが死には見えません」
「じゃあなんだっていうんですか!僕にはもう、生きる理由がないんですよ!」

 そう彼女に向かって怒鳴ると、何故か僕は正面から彼女に抱きつかれた。
 一気に頭が冷える。
 なんだろう、この感情は。
 今までに感じたことのない、温かい感情だ。

「私があなたを孤独にはさせません。私が生きる理由を作ります。だから‥‥‥生きてぐだざいっ」

 最後、彼女は涙声になっていた。
 ずっと凍り付いていた僕の心が解けていくのを感じる。
 なんで僕のためにこんなことまでするんだろうか。
 分からない。
 分からないけど‥‥‥今は、十数年ぶりに、感情の赴くままに思いっきり泣くことにした。
 情けない話だ。
 最初に助けたのは僕だったはずなのに、いつの間にか助けられる側になっていた。

 結局、僕が泣き止むまで、彼女は僕を抱きしめ続けていてくれた。

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