追放された魔法使いは、実は剣聖でした~憧れの父を越えるために、少年は成り上がる~

異端の雀

001 「魔法使いと騒がしいギルドハウス」

「とは言ってみたけども、なんだかなぁ……」

 ガイラックから追放された――というかされてもらった僕は、気分一新してギルドへと来ていた。
 それはなぜかと言うと、パーティーを抜けたことをギルドへ報告しなければならない義務があるのと、割のいい仕事がないかなーと思ったからだ。
 だけど、今まで一応お世話になったパーティーだから、なんか寂しい気持ちもある。
 まぁ、昨日の態度を思い出せばそれも消え失せるけどね。

「人が多い……っていうか、混みすぎじゃないかな?」

 そう、そうなんだ。
 まだ早朝だし、人の少ない内に早く脱退手続きを終わらせたかったんだけど、よく分からないぐらいにギルドハウスの中が人で溢れかえってる。
 それも、みんな我先にとカウンターへと押し合って。

「あ、あのー」

 入り口から入ってきた人に声をかける。
 なにがあるのかと誰かに聞きたいのに、話しかけようとするとさっさと行ってしまう。
 そんなに急ぐものなのかなぁ。

「ちょっとすみません!」

 今度は、カウンターから出口へと向かう青髪の女性を選んだ。
 彼女の肩を掴んでどこかに行かれないようにする。
 意は伝わったようで、彼女はゆっくり振り向いた。
 少ない間で、なにを言うのかを形にする。
 えーと、主語から初めて……。

「皆さんものすごく急いでカウンターへと向かっているのですが、一体なにがあるのでしょう? できれば教えていただきたいのですが」

 すると、彼女は顔中にはてなマークを浮かべて呆然とした。
 あれ、やっぱり変だったのかな。
 もう少しフレンドリーにいくべきだったのかもしれない。
 だけど、今さら言い直せないし、堂々としていよう。
 僕の方が気づいていないふりをすれば、彼女も言ってくることはないだろうし。
 そんな思惑に気づいているのかいないのか、彼女は首をかしげた。

「あなた、ダンジョンはご存知ですの?」

「え、ええ」

 ダンジョンというのは、地下に向かって伸びている魔物の巣みたいなものだ。
 人工的になにかを守るために作られることもあるが、基本的には魔力が溜まりやすい所に超自然的に発生して、その中で魔物を増やしていく。
 だけど、発生する条件は色々厳しいようで、そんなに数多くあるものではないみたいだ。
 そういう事情もあってか、ここら辺ではこのネイロンの街にしかない。

「実は、この近くのダンジョンの最下層に、伝説の剣が眠っているとのことですのよ。誰でしたか……名前は存じませんが、行商人の方がおっしゃっていましたわ。それで、家を抜け出して……ゴホンッ、家から大急ぎで飛び出てきた次第なんですわ」

「なるほど、つまりここにいる皆さんは最下層に行かれるほど実力があるのですか?」

 そもそも、ダンジョンというのは魔物の溜まり場となっているのは理解できるだろう。
 なにせ、ダンジョン内であればどこででも魔物が沸いてくる、魔物の巣のようなものなのだから。
 そのため、冒険者になって間もない駆け出し冒険者などが死亡する、という事故も発生している。
 さらに、ダンジョン内ではその階層を守る階層ボスなるものが存在していて、その力は他の魔物と比べても段違いだ。
 こちらの方は復活することはないが、別の魔物が成り代わるようになっているので、結果的に階層ボスはいなくならない。

 それを考えると、ここにいる人達は強くなければないはず……なのだけど、どう考えてもレザー防具や安物のフルメタル防具を装備している人が多いため、実力が高いとは思えなかった。
 見かけで人を判断するなとは言うけども、流石にこれは見かけが中身だろう。

「いいえ、いらっしゃらないからこのようになっているのですわ。ここにいるのは、そのような実力をもつお方が現れたらついていこうとしている方達だけですの」

「まあ、そうですよね」

 普通に考えれば分かったことなのに、好奇心が勝って失礼な質問をしてしまった。
 これからは気を付けないと。

「ということは、それなりの実力を持つ方達はもうここを出たのでしょうか?」

「多分、そうでしょうわね。私もそのようなお方にお供をして、その戦い方などを学びたかったのですが、このような様子ではもう……」

 彼女は、よほど楽しみにここへ来たのか、がっくりと肩を落とす。 
 見たところ剣士のようで、体もほどよく鍛えられているから魔法使いのみのパーティーなんかからは引く手あまたではあると思うんだけどな。
 それに、その体に纏う細かな装飾が隅々まで施された鎧は、軽やかささえ感じるほどに薄い。
 急所に近いところや、間接部分のみを保護しているものだから、そこまで厚さは必要としないのかもしれない。

「この鎧がどうかしましたの?」

「あ、いや、なんでもないです」

 僕は、気づかぬ内に彼女の鎧に見いっていたようだ。
 美術品のように美しいから、見てしまうのは仕方がない気もする。
 だけど、女性の体を注視するのもどうかと思うので、直ぐに目線を上にあげた。

「ではさようなら。お元気で、ですわ」

 彼女は、にこやかに笑みを浮かべて去っていこうとした。

「ま、まって!」

 だけど僕は、なんとなく去り行く彼女の手を掴んでしまった。
 寂しいというか、ここでこの手を掴まなければ後悔するような気がしたから。
 彼女の迷惑も考えずに、掴んでしまった。

「ど、どうしましたの?」

「あの……よろしければ、僕と一緒にダンジョンに行きませんか? 戦うときには邪魔になってしまうかもしれませんが、それ以外なら役に立つと思うので」

「え?」

 彼女は硬直した。
 この恥ずかしい感じの勢いなら、プロポーズされると思ったのかもしれない。
 しかし、僕にはそんな度胸も行動力もない。

 それに、ダンジョンに行くのに雑用として連れていってとかよく考えれば馬鹿だろう。
 邪魔になるだけで大きな荷物となるのだから、それなら一人の方が効率がいいかもしれない。
 下手をすれば、死んでしまうのだから。

 しかし、それに対する彼女の反応は、とても温かいものだった。

「もちろんですわ! 誰であろうと、今の私と共に行く方があるのなら、拒むことはありませんわ! 同志として歓迎するのですわ!」

 言うと彼女は、僕が掴んでない方の手を使って、僕の手を包むように握り返した。
 その手はとても温かくて、柔らかかった。

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