忍者　滝川総兵衛からの通達

　「勝ってきたよ、メイドちゃん」

　控室に帰ってきた、ノアはメイドリーに対してガッツポーズを見せる。

　だが、「ノアさま！」と抱きつかれ、そのまま倒される。

　「ちょ……こんな所で、人が見てるよ！」

　「すぐに横になって安静にしてください。簡単な回復魔法をかけますね」

　「あー、わかっちゃう？」

　「私にやせ我慢が通じると思ってますか？」

　「うん、ちょっと蹴られ過ぎちゃった。実は気持ち悪い」

　「おそらく、脳が膨らんでいます。間違ってお酒とか、飲んだら死にますよ」

　「むむ……どうして隠れて飲酒してるってバレているのだろ？」

　「私がずっとノア様を見ているからじゃないですか？」とシレっとした顔で言うメイドリー。

　「まぁ、精神年齢が30後半だし！　この世界、飲酒の法律ゆるゆるだし！」

　「……ノアさま、興奮しないよう。今はおやすみなさい」

　「ん～　寝技とかで失神すると1日徹夜しないと失神しやすくなるって言うけど……」

　「大丈夫ですから、どうかご自愛を……」

　「わかったよ、おやすみ」

　ノアは瞳を閉じて、意識をゆっくりと閉じていった。

　それを見遂げるとメイドリーは――――

　「いつまで隠れているつもりですか？　出歯亀は許しませんよ」

　いつの間にか周囲に人はなし。　しかし、メイドリーは、ある一点に視線を揺るがさず、何者かに言い放った。

　「これは驚いたでござる。　警戒すべきは、闘技者ではなく使用人の方でござったか！」

　空間が歪み、男が現れた。　その男は――――異常に派手だった。

　深紅の忍び衣装。　金で施された刺繍があちらこちらに見える。

　明らかに不審者！　圧倒的な不審者が出現した。

　しかし、メイドリーは狼狽えもせず、氷のように冷たい声を投げかける。

　「何者ですか？　ご主人様に害する者ならば……」

　「へぇ、年端のいかぬ少女にしては堂に入っているでござるな。にんにん！」

　「ふざけていますか？」

　「おっと、殺気を向けないでくだされ、拙者はメッセンジャーでござるよ」

　「メッセンジャー？」

　「ある方が近い内に闘技者トーナメントを行うでござる。その方がノア殿に是非……と」

　「ノアさまを？　随分と目をつけるのが早いのですね」

　「えぇ、うちの主人は強者を見る目はあるので」

　「……それで？」

　「それで？　とは、要件は終わったでござるよ」

　「そう……じゃ、言い方を変えるわ。　貴方の名前は？」

　「まるで宿敵に同士でござるな」

　「そうよ、私の直感が近い将来……殺し合う存在だと告げているわ」

　「奇遇でござるな。拙者もでござるよ」

　「私の名前はメイドリー……バッドリッチ家が使用人にて、暗殺者」

　「拙者は滝川総兵衛……今は1人の忍びにすぎぬでござるよ」

　互いに殺意を込めた視線を送り合い……惣兵衛は霧のように消えた。

　何か人払いの結界でも施されていたのだろうか？　徐々に人の気配が戻ってきた。

　「ノアさま……私も戦いますよ」とノアの髪を優しくなでるメイドリー。

　きっと彼女は知らない。

　滝川総兵衛。　ここではない世界にいた忍びの名前。

　織田信長の寵愛を受け、忍者でありながら初めて大名まで上り詰めた男がいる。

　しかし、その男は滝川惣兵衛ではない。

　彼の父親の……弟であった。

　弟が大名になった。ならば、その兄は？　
　
　家を継ぐべき教育され、それが奪われた。

　その者は幼い長男　惣兵衛を連れて姿を消した。　修行の旅に出たとも言われているが、真相は不明だ。

　だが、この滝川惣兵衛が歴史の表舞台に再び現れた時、

　前田家の養子となり、名前を前田慶次郎と改める。　

　天下御免の傾奇者と後世に名前を残す彼であるが……今は、まだ遠い未来の話。