挫折した召喚勇者は転生勇者の師匠になりました (タイトル変更)

チョーカー

狙撃エルフの攻撃

 音を置き去りにして、破壊が起きる。

 狙撃。

 出入り口の窓とドアには弾道が通っている。狙撃ラインってやつだ。

 俺たち全員は狙撃ラインに入らないように低い体勢になっている。


「この窓より高い場所って何があった?」とメイドに聞いてみる。

「……2キロほど先に時計塔があります」

「あー 2キロか」と声を出したのは、そんな長距離でも狙える狙撃手に心当たりがあるからだ。
  
 
「彼女が犯人だとして、なんで攻撃をしかけてくる?」

「今までほっておいて、困った時だけ……私、そんなに都合のいい女じゃない! 激オコ! ぷんぷん! って事だと察しますが?」

「いやいやいや」と乾いた笑いを浮かべる。

「そんな陽気なヤンデレキャラでもないだろ。アイツは」

「どうでしょうかね……」とメイドの言葉は意味深だ。

そんな会話にアイルとインターも加わってきた。

「ちょっと、アンタ達、2人とも誰に攻撃されているのか、わかってるの?」

「攻撃を受けても和やか雰囲気を出しているのは、相手とは友好関係……いや、矛盾してますね」

「……たぶん、狙撃手は昔の仲間だ」と答える。


「え?」と大きな声を出したのはアイルだった。 そして、その反応も意外なものだった。

「そ、狙撃エルフ! 対階層主に特化した華麗なスペシャリストの!」


「知っているのですか? アイル」とインター。


「そりゃ、もうずば抜けた集中力と冷静さ。クールビューティの代名詞で女の子の憧れよ」

「……」

「……」

普段なら「お前にないものを持ってるからな」と言ってる所だったが……
 
狙撃エルフの実態を知ってる俺とメイドは沈黙した。


「さて、問題は、そのくーるびゅーてぃな狙撃エルフさんに狙われているんだが……どうしたらいいと思う?」

「どうせ、アンタが怒らせる事したんだから、白旗振ってごめんなさいしたら?」

「うむ……」と唸ったのは一理あると思ったからだ。

しかし、彼女の性格的に白旗振っても許してくれない可能性がある。

「ギブアップするにしても最低限の安全が確保できてからだ…… ところで、お前ら武器は持ってるか?」

「まさか、家の中まで長剣背負ってうろついていたら、いろんなもの壊して回るわよ」とアイル。

「僕は、まだ武器という物を持っていません」とインター。

「……」と無言でメイドは首を左右に振った。

「だとすると……」と俺は部屋に飾っている模造刀をみた。

おそらく、俺たちが使える唯一の武器とも言える。 

模造刀……本物の剣ではなく、ただのインテリアだ。 

しかし、切れ味を有していないだけで、素材は鉄で作られていてる。

最悪、これで狙撃エルフの一撃を受ければ致命傷にはならない……とは思う。

「狙撃手相手の戦いは持久戦だ。 あいつらは同じ体勢を維持して1日くらいなら余裕で動かない」

ゴクリと誰かが喉を鳴らした。 それは自分かもしれない。

「だが、弱点がないわけでもない。例えば……」と説明の途中でアイルが手を上げた。

「……なんだ?」

「……トイレに行きたい」

「……なんだ……と?」

アイルという少女は無茶をする。 目的のために俺の予想外の行動を何度も行っている。

そんな彼女が、このタイミングで…… このタイミングでトイレだと!?


「大丈夫よアイルちゃん、いざとなればご主人さまの目と鼓膜を破壊すれば!」

錯乱したメイドがヤバイ事を言い始めた!

「大丈夫ですよ、アイルさん。僕の肉体はスライムです。いざとなれば体の9割を水分に変化させて吸収する事ができる」

インターが、別方向で危険なことを言い始めた!

俺はアイルと目が合う。

「……」と俺は無言で視線を逸らした。

「だぁぁぁ! わかったわよ。 狙撃を無効化して私はトイレに行く!」

アイルは飾ってある模造刀を手にして魔力を流し始めた。

『武具強化』の魔法だ。




 

 

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