挫折した召喚勇者は転生勇者の師匠になりました (タイトル変更)

チョーカー

アイル 彼女は転生者だった

 
 「私の場合は転生? ってバージョンなんだけどね」

 「転生者? いや、それって? お前、日本人なのか?」


 「えぇそうよ。召喚勇者の早風教雅さん」とニコリと笑って見せた。


 転生者を名乗る子供は、マントを脱いだ。

 その姿には違和感があった。

 子供が背伸びをしたような、派手めな服。

 小学生の読モにいそうな感じで、よく見れば目が死んでいる。

 確かに、現代異世界にはない服装だ。

 
 「それでお前……いや、その前に名前は? 何て呼べばいい?」

 「そうね、こっちの名前はアイル。日本名は秘密って事にしておくわ」

 「そうか。じゃ、アイルちゃん?」

 「初対面の癖に馴れ馴れしすぎて殴るわよ? ちゃん付けはやめて。別に呼び捨てでもいいわ」

 「そうか、それじゃアイル」

 「なによ?」

 「う~ん」と俺は話に詰まった。 何から話せばいいのだろうか?

 どうやって、この世界に来た? 今まで、どうやって生活していた?

 聞きたい事はいろいろあるが、まず最初に聞くとしたら……


「おまえ、どうして俺を探していた?」


「……そうね」とアイルは俺の胸倉を捕まれた。

 あまりにも自然な動作で反応できなかった。 
 
 こんなにも簡単に隙をつかれたのは久しぶりだった。

 
「あんたはどうして……どうして、最強の冒険者でありながら、帰還と諦めたのかって聞きたかったのよ」

「――――ッッッ!?」と俺は声を出せなかった。

「私がこの世界に生れ落ちて12年間、貴方の話を聞いて、私は育ったわ」

「俺の……話を……」

「そうよ。田舎じゃ勇者さまの英雄譚くらいしか娯楽がないのよね。みんな、アンタの事を話していたわ」

 アイルは顔を近づけ、俺の顔を見上げるような体制になった。

「ねぇ? その時の私の気持ちがわかるかしら? 私と同じで異世界から召喚された勇者の活躍を聞かされて育った私の気持ちが?」

 彼女の瞳には危うい光が灯っていた。

 けれども、俺も―――― 

 脳裏に浮かんだのは、俺の挫折を決定付けた出来事。

 精神に刻まれた敗北心と恐怖心。 

 失ったものは戻ってこない。 そんな当たり前の事をまじまじと思い知らされた。

 
 彼女は―――― 

 もう―――― 

 戻ってこない――――
 

 それを、その事実を振り払うため、気づけば怒号をあげていた。

「そんなのは俺に言うな。勝手に期待して、勝手に失望して、だったらお前らが自分でやれ!」

 気がつけば、怒りを込めて言っていた。 見た目は子供であり、初めて会った――――そして10年ぶりに会った同郷の人間に対して怒りを隠さなかった。

「やるわよ」

 彼女は短く言った。 

 冷静さが欠けた俺に対して、真っ直ぐに睨みつけるような強い視線を送り返してくる。


「私はやる。あんたができなかった事を私はやり遂げて見せる。だから――――」

「だから? なんだ?」

「だから、アンタは私を鍛えなさい」


「……はぁ?」と虚をつかれて、間抜けな声を出してしまった。


「アンタ、私の師匠になって私を鍛えなさい。 気が向いたら、私がアンタも元の世界に連れ戻してあげるわよ」


 その表情は自信に溢れていて、爽やかさすら感じさせられた。

 彼女は手を差し出していた。 いつの間にか、俺は――――

 無意識に差し出されていた手を握り返していた。 
  

 


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