電気使いは今日もノリで生きる

歩海

電気使いは今日までをノリで生きる

???


「…そんな」
『だから…ミライが死ぬ前に…殺すんだ、サリア』
「ぐっ」


やっぱりもう永くない、か。わかっている。でも、もう少し、もう少しでいい。持ってくれ僕の体


「『電気の世界world』」
「また…」
「『鎌鼬』」
「天衣!?なぜ」
『精霊使いとそれから…大罪持ちは使えるのよ』


そういえば大罪スキルについて意味を説明してもらっていなかったな。でもまあいいや。ほとんど関係ないし。となれば、『世界』を展開中に気を付けなければいけないのはサリア先輩、セリア先輩、天衣だけかな?楠は…


「『夢の世界へ』」
「魔法を発動できるのかよ」


でもまあ『電気鎧armor第三形態third』を発動しているから効かないんだけどね。でもまさか楠も魔法を使えるとはな…さすがチート持ち。


「『鎌鼬』」
「『精霊の槍』」
「くっ」


減らしたと思ったけれどそれでも大人数を相手にするのは辛い。おまけに一人一人がかなり手練れだ。普通に苦しいんだけど


「『電気鎧armor複合mix第三形態third第五形態fifth』」


ちっ、体があちこち悲鳴をあげ始めている。この状態なのに痛みを感じるなんてな。それならば、


「空を飛んでも無駄だよ『風の舞』」
「『放電thunder』」


そしてついでに僕は高く飛ぶ。空からなら…いや、これくらいの人数なら、いける


「『thundervolt』『接続connect』」


電撃を一度空に放ち、それをまた一点に集約させる。


「なんですか、この魔法は」
「『阿修羅』」


剣が飛んでくるがそれらは全て僕の周りにある電撃によって防ぐことができた。この魔法を使えば…誰か死ぬかもしれない。でも、先輩たちなら


「俺のことを無視するな『灼熱の陽』」
「え!?」


突然現れた大きな火の玉、それが僕に直撃する。え?ちょっと待ってこれって一ノ瀬の魔法?なんであいつは『世界』発動中に魔法を使えるんだ?って、あ


「がはっ」
「…」


集めた電撃が暴走した。あと少し遅かったら僕の手が爆発していただろう。なんとか全身にダメージを移すことができた。それでも苦しくて…血を吐いてしまった


「『炎』」
「うぐっ」


地面から現れた炎に焼かれる。『電気鎧armor第三形態third』を使っているからなんとか呼吸とかもできるけど…


「行きますよ、リル『精霊の息吹』」
「『遠隔起動remote』」


自分自身を爆発させて強制的に吹き飛ばし、『精霊の息吹』の軌道から避ける。予知能力がなかったら直撃していた…


『こいつ…まさか未来が視えているのか』
「なんですって?」
「『針金needle』」
「『風操作』」
「紅くん、止まって!『現鏡裏うつつきょうり』」


全員の足元に砂鉄の槍で突き出そうとしたけど天衣の魔法で全員が空を飛び、そして楠の魔法で解除されてしまった。そして同時に僕にかけていた魔法も。幸い、『世界』は消されなかったけど…


「が…」
「『氷結』」
「『風切』」


サリア先輩とセリア先輩の魔法が飛んでくる。容赦ない


「くそっ『電気鎧armor第三形態third』」


なんとか『電気鎧armor第三形態third』を発動して体を動かす。ギリギリ間に合った。これ以上動かなかったら…


「あいつらの魔法も受けていた」


僕のクラスメートたちを見る。あいつらは僕が倒れている時に狙ってこなかった。まだまだ甘いな。こいつらの攻撃を受けていたら…多分死んでいたな。


『なぜ攻撃しないのテンイ!』
「だって…」
『早くしないと…ミライの覚悟が』
「覚悟?」
「余計なことは言わなくてもいいシルフリード」
『そうね、テンイ』
「あああああ『精霊召喚・シルフリード』」


天衣は叫んでシルフリードを召喚した。


「紅、お前を…『精霊の吐息』」
「『電磁砲レールガン』…がっ」


砂鉄の塊を出して突き飛ばした時に肩に痛みが走る。天衣の魔法と僕の魔法がぶつかり合う。で、当然他の人がじっとしているわけがないので


「『thundervolt』…『metamorphose』」
「外れたか」


電撃を打ち上げようとしたら剣が飛んでくる。もう避けきれないと思ったから体を電気に変化させて全部無力化する。


すぐに体を戻したけど…それでも元に戻るのに時間がかかってしまった。


「『精霊の槍』」
「サリア、助かった」


放った電撃はサリア先輩の魔法によって相殺されてしまった。


「ミライ…お前」
「まだ…倒れるわけには。いかない『thundervolt』」


もう一度手のひらを空に向け、電撃を放つ。さっきは邪魔されたけど…今度はもう、失敗しない


「『電気鎧armor第五形態fifth』」
「させない…『風の舞』」
「『麻痺paralysis』」
「『世界』を解除した?」
「『接続connect』」
「その魔法は受けないって言ったよね?『灼熱の陽』」
「ああああああ『命の乖離』」


一ノ瀬の魔法を全身に受けて焼けながらも、僕は魔法を発動する。全身が焼けるようだ。熱い、熱い。でも…まだ、まだだ


電撃を一点に集約して地上に叩きつける。その攻撃は…一ノ瀬に向かう


「一ノ瀬くん」
「一ノ瀬!」


天衣と楠が庇うように一ノ瀬の前に立つ。そしてかばって二人が魔法を受ける。電撃を受けた二人は倒れる。さっき『麻痺paralysis』を使ったことで痺れていたにもかかわらずさらに無理をしたからだろう。楠の現実を変える魔法を使われなくてよかった。


「天衣、楠!紅お前」
「殺す気でこいよ、一ノ瀬…僕を殺す気で!」
「わかってるよ…お前はいつもそうだ。俺の先にいる…」
「イチノセ」
「先輩…俺は…紅が羨ましかった。嫉妬した。でも、だから、俺はお前に勝ちたい。お前がすごいやつだから…『嫉妬の炎envy』」
「な!」


一ノ瀬から放たれた炎、それは意思を持ったかのように僕に向かって突っ込んでくる。避けなくちゃ…でも、足が動かない


「はぁ…はぁ…一ノ瀬…それ」
「紅、これが俺の新しい力…『嫉妬』」


ここにきて強化とかまじかよ。やってられないんだけど。でも、だからさっき一ノ瀬は『世界』の中でも発動することができたんだな。それよりも…


「『精霊の吐息』」
「『阿修羅』」


先輩たちの魔法によって僕は追いつめられる。立ち上がろうとしても立ち上がれない。足が思うように動かない。正真正銘、限界だ


「ミライ…あなた足が」
「まだ…動けますよ」


手は動く。だから地面を蹴る代わりに強く手で叩く。そしてそれによって発生した爆発で僕は上空へと身をおどらせる。空中なら足が使えなくても、問題ない


「逃がさない…『雷』」
「『氷結』」
「『灼熱の陽』」
「『電気の世界world』…がはっ」


『世界』を発動させたが、すぐに消えてしまう。魔法の相殺で精一杯かよ。使った後に定着させることができなかった。魔力ももう限界だ…それに、さっき4回目の『metamorphose』も使った。体が悲鳴をあげ続けている。


「それでも、僕は…僕は!」
「まだ戦いますか…もう楽になってもいいですのに」
「ミライ…お前はこの短期間で何を知った…そこまで本気になるために、何を聞いたんだ」
「…全部精霊から聞けばいいでしょう…教えてくれるかわかりませんが…けほっ」


空中に飛び出したということは地面に落下する瞬間が訪れるということ。その衝撃によって僕は意識を失いかける。地面に叩きつけられたっていうのに、僕は満足に受け身を取ることができなかった


「まだ…僕は…『電気鎧armor第三形態third』」


それでも、なんとかしながら僕は立ち上がる。痛みをできる限り感じないようにして…動けと脳で強制的に命令して…そして、なんとかして僕は立ち上がる。そんな僕に立ちふさがる影が一つ


「ごめん、紅」
「いいよ…まさかお前が最後だとはね」


目の前に立った一ノ瀬に…僕は斬られた。一ノ瀬…お前はすごいよ。僕はお前に二回も勝ったけどさ。それでもお前は僕と戦おうとするんだな。その心の強さが羨ましいよ。僕に嫉妬しただろうにそれでも僕を認め、立ち上がった…お前は本当にすごいやつだよ。ああ、ごめん


ごめん、クレア…お前の前に立つの、僕じゃないかも…でも、


「クレアを倒してくれよ、一ノ瀬」
「え?」


その言葉を吐いて、僕は斬られた力そのままにゆっくりと倒れ込んでいく。地面につくのかなって思っていたけど…一ノ瀬の足元が見えた瞬間にわかった。ああ、僕は、崖から落ちているのだな。


魔力も全て使い果たし、魔法が全て切れた。ごまかしていた痛みが全て自分に返ってくる。ああ、あまりに痛すぎるともう、涙すら出ないんだな。痛みで泣くこともなく…むしろ痛みすぎて痛みという感覚がなくなっていきながらも…僕はゆっくりと崖から落ちていった


最後に見たのが一ノ瀬でよかったよ…そりゃ、最後もう一度シェミン先輩に会いたかった…でもそれは会ったらきっと、心に迷いが生まれてしまうんだろうな。じゃなきゃこうしたエンドを迎えることなんて、なかっただろう。


「くれないーーーーー」
「ミライ!」
「ミライ!」


ああ、声が聞こえる…ああ、こんな終わりだけど、こうして誰かの心に残ったから、僕の異世界生活は満足だよ。ああ、満足だった







……さよならクレア、先に逝くよ


ただ…ふと、声が聞こえた気がした


『あなたにお願いがあります』

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