電気使いは今日もノリで生きる

歩海

覚醒後のミライの実力

神無月一週目土曜日


「『水』の王…」


さすがにタイミングが良すぎる。この村に潜伏していたとしか思えない。つまりこの村に外から来ていた人物…


「どう考えてもイナガしか思い当たらない」
「そうかもしれないけど今は魔物退治が先決でしょ?僕とイフリートが2方向をやるからミライと闘蛇は残りをお願い」
「それもそうだな…闘蛇、案内してくれ」
『…顎で使われるのは癪だがこの際仕方がない、こっちだ電気使い』
「それじゃあ…またあとで」
「おう、またあとで!」


生きて会おう!そういうつもりで僕達は一旦、別れた…でもまさか、これが本当に別れとなるなんて思ってもいなかったな。もし…過去に戻れるのだろしたら、僕はこの時、このタイミングを思うかもしれない。いや、きっとそれはないな。何回繰り返したとしても、結末がわかっていたとしても、僕も、クレアもきっと同じ選択肢をとったであろう。それがわかるから…僕は誇りに思う。僕自身のことを、僕の大切な友人であるクレアのことを


クレアはイフリートに僕は闘蛇に案内される形でそれぞれ魔物の軍勢がいるところへと向かう。っと、普通に走っているんじゃ絶対に間に合わないだろうから…


「『電気鎧armor第五形態fifth』」
『む、強化魔法か』


地面を強く蹴ることで発生する爆発。それを利用して僕は急いで魔物達のところに向かう。そういえばどれくらいの距離に魔物達がいるんだ?


『少し離れている…まるで貴様らへの「試練」みたいだ』
「試練?」
『ああ…貴様らが頑張れば村に一切の被害なく終われるように計算されている』
「まじかよ」


それを聞いて少し驚く。計算されて魔物達を配置した?そんなことができるのか?いや、そりゃあ魔物を集めることぐらいはできるだろうけど…どうやって速度を調整できるんだ?


他のことを考えている余裕はない。今はひたすら前へ進むしかない。僕は無駄なことを考えることなく走り続けた。しばらく走っていると…向こうから気配を感じた。


『ついたぞ』
「ここか」


ああ、ここまでくれば気配でわかる。だから僕は地面を一段と強く踏みつける。そして僕の体は空へと飛んでいく。空中から見下ろしてみれば…


「気持ちわる」
『まさかその感想を持つとはな…』


だってそうでしょ?今僕の真下にいるのは全て同じ個体。見たことあるからわかる。ゴブリンだ。あの緑色をした生物がおおよそ…何人いるんだ?わからないけど同じ速度で歩いている。同じ生き物が大勢いるだけで気分が悪くなるっていうのに…ああ、だから名言人がゴミの『名言を汚すな』はい、すみません。でも気持ち悪いのは間違いない


「まずはどうやって数を減らそうかな『放電thunder』」
『お前鬼か』


上からどんどんと電撃を放ち続ける。落下するまでのほんの少しの間だけどひたすら撃ち続ける。なんかこうしてみるとシューティングゲームをやっているみたいだな。これが殺人鬼の思想か。少し気をつけておかないと僕もそっちの方向に進みそうで怖いな。


『ゴブリンと人は違うのではないのか?貴様らは平気で奪ってきておったが』
「それでも…同じ命にはかわりない」
『ほお…』


あれ?今…なんでそんなことが口から出てきたんだ?ああ、そっか。人以外を区別しちゃったらその瞬間にシェミン先輩も…人間以外と認めてしまうことになるのかな?そして殺すことにためらいを持たないようになってしまうのかな?なんとなくだけど…それはなんか嫌だな?そうだ決めたじゃないか。その人を尊重して殺そうって…だからそれを人間から生けとし生けるもの全てに広げたって問題ないよね


「『電気の世界world』」


気がつけば僕は『領域』ではなく、『世界』を発動していた。どうしてこっちの魔法を使用したのかわからない。でも、発動してしまったものはしょうがない。ならこの状況を利用するしかない


「『串刺しskewer』」


広範囲に攻撃できる魔法はこれだけだ砂鉄を自由自在に操りそれでまとめて敵を串刺しにする…でも僕は砂鉄を集めていない。このままでは魔法を発動できない。それでも僕は導かれるようにこの魔法を唱えた


『…』
「!、これは…」


『世界』発動中でのこの魔法、それは地面から数多の砂鉄が現れて敵を串刺しにしていった。最初に砂鉄を集めておく必要は全くない。地中にある砂鉄が鋭い槍となって範囲内にいる敵を貫いていく


「全部の魔法が強化されているんだな…」


一気に血の匂いが広まってくる。一度にここまで殺したのは初めてかもしれない。自分の近くにいたゴブリン達は全て血に伏せっている。ゴブリン達は急な展開に呆然としていたが仲間を殺されたことで怒りを覚えたのか一斉に僕に襲いかかってくる


「『感知feel』」


これで他の生き物の様子がわかる…それからどれだけの数がいるのか。でも、そんなことは一切関係ない。僕は自分の手を眼の前ではなくて、上に向ける。


「君達に罪はないけど、恨みはないけど…全員殺してやるよ『放電thunder』」


頭上に向けて電撃を放つ。そして…そこから数多の雷となって降り注いでくる。『世界』によって極限まで強化された電撃が落ちてくる。感知魔法を発動しているからどこに敵がいるのかわかる。狙いをつけることはできなかったから意味なかったけど


運良く生き残った個体は恐れをなして逃げ回るか…それでも僕に向かってくる個体もいた。そいつらも、僕はなんなく屠っていく。『電気鎧』を身にまとって強化された肉体でゴブリンをどんどん貫いていく。


それは…蹂躙だった。あっという間に、村に攻めようとしていたゴブリン達は皆、一瞬のうちに殺されてしまった。これが…これが『世界』の力なのか


「ぐっ…」
『…』
「力に…飲み込まれそう」


ここまでだとは思ってもみなかった。こんな力を手に入れてしまったら…この力に酔ってしまいそうだ。でも、だから気を確かに持っておかなければいけない。この力を過信してはいけない。


『電気使い…気をつけろよ。貴様はほぼ、魔王に近くなっておる…このままいけば確実に、魔王と呼ばれる・・・・だろうな』
「やっぱりか…」


闘蛇の言葉に納得するしかない。まあさすがに僕の思考まで変わっている気がするから不思議じゃないんだけどね。にしても侵食というか…なんていうかな。でも、呼ばれるってどういうことだ?


『それが「世界」の力だ…不自然なまでに力を得ることができる。それほどの力。それゆえ、その力を手に入れたものは呼ばれる、「魔王」と』
「…」
『貴様がこのまま魔王と呼ばれるのか楽しみだが…今はそれを議論しておく必要はないな』
「あ!闘蛇、他の箇所を案内してくれよ…この力があれば」
「ダメだよ」
「!」
『!』


唐突に聴こえてくる第三者の声。それを受けて振り向けば…そこにいたのはやはりイナガだった。


「お前が…」
「またあったね。ミライ…それと久しぶりだね闘蛇」
『貴様は…』


闘蛇が見えているということは…やはり、こいつが水の王だったのか。怪しいと思っていたけど…まさかこんな簡単に尻尾を出すというか明らかになるなんて思ってもみなかったな。

「電気使いは今日もノリで生きる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く