電気使いは今日もノリで生きる

歩海

討伐後の村人からの評価

神無月一週目風曜日


あの蛇を討伐して一夜が経過した。僕たちはシバさんに報告したところ、どうやら向こうも向こうで何かを感じていたようで僕たちに手を貸してくれることになった。でも、しばらくは魔物たちが闊歩しているらしく、探知を行うのは今週の土曜日の夜、つまりは明日の夜に決行することになった。つまりはあと二日、この村に滞在することになる。少しだけ考えたけど指標があったほうが探索の速度が一気に減ると思ったので僕たちはそれを受け入れた。そしてそれを待つ間、僕たちはシバさんの館でお世話になることになった。ちなみに夜に行う理由は結界をもう一度に張るのに時間がかかるので結局1日ほど結界のない夜が生まれてしまうからだ。


「起きたか、ミライ」
「おはよ、クレア、イフリート」
『おはよ〜』
「あの蛇は?」
『あいつなら外に出ているわ…あいつガイアとそりが合わないのよね』
「ふうん」
「お待たせいたしました。朝ごはんの用意ができましたので皆様食事をなさってください」
「はい、ソニアさん」


部屋にノックの音が響いてソニアさんが顔をだす。僕らのお世話を任されているみたいだ。言われるままに僕らは食堂に下りていく。ここは二階建てで僕たちは二階の一室を使わせてもらっている


「おはようございます、シバさん」
「おはよう…ふふ、ここに私とソニア以外の人間が食事をするなんていつぶりかねぇ」
「そうなんですね」


準備されたご飯を見る。パンに生野菜のサラダにスクランブルエッグと盛りだくさんな食事が並んでいる。これ全部ソニアさんが作ったのだろうか


「こうして暖かい食事にありつけるという点でも止まってよかったかもな」
「あー確かにそうかも」


もちろん宿とかに泊まることはある。でも野宿することも珍しくなかった。その度にクレアの炎で適当な木の実やら薬草やらをーイフリートが食べられるかどうかだけを教えてくれたから困ることはなかったー焼いて食べていた。物理的に暖かな食事だったけれども精神的にはかなり冷たかった


「おいしかったです。ご馳走様でした」
「いえ、仕事ですので」


お礼を言うとソニアさんは表情を変えずに一礼してそのままどこかに行ってしまった。あれ?もしかして僕嫌われていないか?気のせい?


『あんたに完敗したことを少し根に持っているのよ…あの子、この村では負け無しだったんだから』
「そんな理由で」
『あんたもクレアに八つ当たりしてた時期あったでしょ』
「それは言わないでくれよ」
「ふふふ、皆さんは今日はどうするつもりですか?」
「うーん」
「まあこの村を散策かなぁ」
『ちょうどいいじゃない。「姫」の故郷を探索しましょうよ』


それもそうか。せっかくの機会だし、僕たちは村を歩き回ることにした。夕方頃に帰ってくるようにという言葉を聞きながら僕たちは外に出る。


「おー昨日の兄ちゃんたち、いやー昨日は悪かったな」
「は、はぁ」


突然気の良さそうな男性に話しかけられる。その横には奥さんと思わしき女性と二人の娘であろう少女がいた。さっきの言葉からして昨日クレアが叩き潰した男たちの中の一人だろう


「いや、お前の電撃で倒れたやつじゃないか?」
「あれ?そうだっけ?」
「ははは、倒したやつには興味ないってか?別にいいけどよ。昨日は急に襲ってしまって悪かったな。つい俺たちの村を襲いに来たのかと勘違いしてしまった」
「まあ、別にいいですけど」


僕らが勝ったし、それにシバさんからちゃんと説明は受けている。この世界の厳しい現実を考えれば外部からくる存在に対して恐怖の感情を抱くのも無理はない。


「それでもな!お前らあの大蛇を倒してくれたんだろ?ソニアの嬢ちゃんから聞いたぜ」
「あら、あなたたちだったの?」
「パパーこの人たちがたおしてくれたの?」
「そ、そうですね」


へ、へぇどうやら僕たちのことが大分噂になっているみたいだ。おまけにこの男性、そこそこ声が大きいらしく彼方此方から視線を感じる。まあ視線の内容が好奇の視線とかがメインだからそこまできにする必要ないんだけど


「「『!』」」
「あ?どうした?」
「いや…なんでもないです」


急に謎の視線を感じた。好奇の視線じゃない…これは、どちらかといえば僕たちを値踏みする視線。どこからか監視されているのか?


『でも、すぐになくなったわ…”あえて”私たちに気付かせたってところかしら』


一体誰が…いや、まあ考えられるのはこの近くにいるという『水』の王だろうけどさ。それでも僕たちの存在を認知されたってこと?向こうにはわかるのか?


『いや…私に気がついた可能性が高いわね』


それにしては僕の方に強く視線を感じたんだけど…まあたまたまか。たまたまイフリートの近くにいたからとかそんなところだろうな。


「ま、そのお礼をしたいんだけど…お前ら昼御飯の予定はあるか?」
「いえ、特にないですけど」
「ならうちに来ないか?」
「あら、いいわね…腕によりをかけて作るわ」
「わたしもーお兄ちゃんたちとお話したい」
「わ、わかりました」


というわけで僕たちはこの家族の元で昼を食べることになった。正直本音を言えば三人で話し合いたかったけど怪しまれるような行動はできる限りしたくない。


「ここだぜ…俺たちは家で宿屋を経営しているんだ…といっても最近じゃほとんど客なんて入ってこないけどさ」
「そ、そうなんですね」
「ま、といってもこれからはあの大蛇がいなくなったから森で狩りができるようになるし問題ないぜ」


それなら心配ないかな。そして案内された宿屋。この村では唯一の宿泊施設らしい。まあ田舎の村だしそこまで繁盛していなくてもいいのかな?


「それに…」
「あ、もう昼なんですね」
「あ、こんにちは」


上から一人の少年が降りてきた。僕と同じくらいの年齢で…そして僕と同じ黒目黒髪。この世界ではかなり珍しい容姿を見て思わずその少年を見つめてしまった


「あー同郷の人間を見て驚いたのか?こいつはな『剣』の国の出身なんだとよお前もだろ?その黒目黒髪、すぐにピンときたぜ」
「は、はは」


僕は曖昧な態度をとってごまかす。うん、そういうことにしておくとするか。故郷のことを突っ込まれたら…その時はその時っていうことで。というか今思い出したけど葉杜さんって『剣』の国出身だったんだ。そう学校にいた先輩のことを思い出す


「そうなんですね…あ、自己紹介がまだでしたね。僕はイナガ。よろしく」
「あ、ミライです」
「僕はクレア、よろしく」


お互いに自己紹介を行う。そんな感じでファーストコンタクトを終える。でもまあこれで終わりというのも味気ないし…人見知りを発動するわけにもいかないしちょっとはコミュニケーションをとってもいいかもしれない


「それで…イナガは何をしにここに来たの?」
「僕?僕はね…獣を見に来たんだ」
「獣?」
「そうだよ…君達は知っているのかな?『天災の獣』っていうんだけどさ」
「「『天災の獣』?」」


どこかで聞いた名前だな…でもどこだっけ?


「そういえば『黒龍』が言ってたよ。もうすぐ目覚めるって」
「へえ、君達『黒龍』にあって生きていたんだ。やっぱり強いんだね」
「それで…イナガはその獣にあってどうするの?」
「どうもできないよ…もう殺されちゃったし」
「え?」
「君達倒したんじゃないの?あの大蛇だよ」
「そ、そうだったんだ」


え?あの大蛇?天災の獣とか言われていたからもっと強いのかと思っていたけど…いや確かに強かったけどさ、それでも弱すぎない?


『まあ…私もいたし、「領域」を二人とも大分使いこなせるようになってた、おまけに戦闘経験も積んでる…というかミライの認識が少し違うわ』


どういうこと?


『天災って意味は、要は神獣絡みってことよ。あの蛇の中にあいつがいた…そういうことよ』


そんなもんなのか。まあなんかどうでもいいところで忘れていた約束を果たすことができたわけだし、これでいいか。でも…どうしてイナガはこの獣のことを知っていたのかな?

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