電気使いは今日もノリで生きる

歩海

第7章エピローグ 旅立ち

長月三週目月曜日


僕は学校内をのんびりと歩いていた。いや訂正するか、あてもなく歩いていた。僕は決めなくてはいけない…いやほとんど決まっている。どんなことがあってもシェミン先輩を助けに行く。この世界に来て先輩には本当にお世話になった…多分、シェミン先輩じゃなくてもサリア先輩でもシオン先輩でも誰だって同じ行動をとったと思う。先輩たちがいなかったら、僕はきっと、今の僕じゃない。先輩たちのおかげで僕は楽しい生活を送ることができた。自分を認めたい…当初の目的もそれなりに成し遂げることができたと思う。では、なんで悩んでいるのかといえば


「クレアのやつ…付いてくるのか…」


クレアの存在だ。いや、本音をいえばあいつが一緒に行くって言ってくれた時、嬉しかった、心強かった。でも、さすがに今回のは少しやばい気がする。今回のはさすがに庇いようがない。「風」の国では裏で手引きしていた『蟲の王』の存在があった。だからあそこまでぶち壊してもまだなんとかなる可能性があった。でも、今回ばかりは無理だ。吸血鬼というこの世界においての悪を僕たちは守るために行くのだから


「あれ?紅くん?」
「四万十さん?」


ふと、呼びかけられたのでその方を向いたら四万十さんが立っていた。前にもこんなことあったな。


「えっと」
「あれ?クレアくんは?」
「あいつは今いないよ…ちょっと考え事をしていて」
「そうなんですか?でもぼーっとしながら歩いていると危ないですよ」
「そうだね…気をつけるよ」


四万十さんは何かを言いたそうな顔でこちらを見ている。何か切り出したいけど切り出しにくいそんな感じだ


「どうしたの?」
「えっと…大切な人だったんですね」
「え?」
「聞きました…シェミンさん…吸血鬼だって」
「そ、そうだね…四万十さんはどう思っているの?吸血鬼のこと」
「私は…よくわかりません。恐怖の存在でしたけど伝説上の生き物でしたので」
「伝説ねぇ」


精霊含めもはや伝説の生き物が乱立しているんですよね。種族で言えば吸血鬼の他にエルフにも会っているし。なんならゴブリンとかスライムとかドラゴンとかも全部それだよね


「ただ…紅くんがあそこまで本気になるとは」
「えっと…どういう」
「天衣くんが教えてくれました。あの時の紅くんの魔法、あれはこの世界を変える可能性があるって」
「あーシルフリードからか」
「そうですね…でも不思議ですね。天衣くんが精霊と契約するなんて」
「そうかな」


たらればを言っても仕方がないけれど僕だって契約する可能性があったわけだしそこはそこまで不思議な話ではないと思うけどね


「そういえば一ノ瀬くん、大丈夫でしょうか」
「え?あいつ…どうかしたの?」
「最近会っていないんですか?」
「う、うん」


だってなんか気まずいし。一度圧倒的な実力差で叩き潰してしまったから会いたくないというか。あいつと本当に会いたくないんだよな。


「一ノ瀬くん、試合で完敗して少しおかしくなっているんです…なんだか嫉妬しているみたいで」
「あ、あーそれは」


まああいつの気持ちもわからなくもないけどさ。そりゃ僕だって自分の力のなさを恨んだことはある。それに一度クレアに全力で嫉妬したことさえある。でも、そうだな


「なら、四万十さんが…いやみんなで支えてあげないとな」
「え?」
「あいつは今苦しんでいるんだろ?ならみんなであいつを助けてやろうぜ…この世界ではあいつの気持ちをわかってやれるのは僕たちクラスメートしかいないんだから」
「はい…そうですね」


でもごめん、その「みんな」の中に僕は入っていないんだ。僕は今から…ここを出て行く。申し訳ない話ではあるんだけどね


「そういえば紅さんは何を考え事をしていたのですか?」
「…別に、大したことじゃない。もう解決したことだし」
「そ、それならいいのですけど」
「…」


まただ。会話が途切れてしまう…いやだって仕方がないよね。だって今僕四万十さんと二人きりなんだから…いやこれ本当にどうするよ。どうすればいんだよ。クラスメートの可愛い人と二人っきりとかこれどんな展開だよ。普通に学校生活を送っていたら絶対にありえなかったであろうシチュエーションだよ。


「どうしました?」
「い、いや…うん、大丈夫。そうだね。ありがとう」
「え?」


僕はそう告げて四万十さんから離れる。うん、久しぶりにゆっくりとクラスメートと話すことができて少しだけ落ち着くことができたよ。おまけに僕はやっぱり地球人だ…この世界の法に従う義理なんてない。僕は…じ分のためにシェミン先輩を救う。そのために…この世界の全てを敵にしても構わない。だから…


「やっぱり、来たか…出発は明日のはずだぞ」
「…なら、その背中にある荷物はなんなんだ?」


誰にも告げずに、校門に来たら、そこにはクレアが居た。しかもご丁寧に二人分の荷物を持って立っていた。なんでこんなにも準備ができているんだよ


「どうせ僕に迷惑をかけないようにって人ひとりで行くつもりだったんだろ?」
「…そうだよ。今回のは今までとは違う。もう、言い訳も挽回もできない」
「別にいいよ」
「お前がよくたってな…」
「ミライ…僕は君に借りがある」
「は?」


僕の言葉を遮るようにクレアが言葉を重ねてくる。借り?そんなものなんてない。むしろ…僕の方こそお前に対して借りがあるんだよ。「命」の国で諦めかけていた時、自暴時期になっていた時、お前は僕を助けてくれたじゃないか


「ダンジョンでお前は僕を助けに来てくれた…その借りをまだ返していない」
「だからって…あれはイフリートに言われたっていうのもあるし」
「それでも、お前は助けに来てくれたんだろ?」
「…」


クレアの言葉に何も言い返せない。それが間違っているのだと、確かにクレアを助けるために行ったのもあるけれども僕は力を求めて行ったんだ。イフリートがいなかったらもっと救出が遅れていたかもしれない


「でも、シェミン先輩とお前は関係ない」
「それは違うよ」


何が違うんだよ。お前とシェミン先輩ってそこまで関わりがなかったと思うけど


「僕も少しお世話になった…それに、僕が目指す国・・・・・・に、シェミン先輩が…吸血鬼が必要だ。差別のない国を僕は目指す」
「何を…言っているんだ?」


僕が目指す国って…それってまるで自分が国を作るみたいな言い草じゃねえか


「イフリートに言われたんだ…僕は『冥』の国を蘇らせる…それが新しい僕の目標。もちろん、朱雀を殺すけどね」
「国を…」
「ああ、僕は王族だ。それを捨てることもできるけど…でもやっぱり自分の血を捨てることなんてできない。なにより、「命」の国の非道な実験や「風」の国みたいな魔族への裏切りをなくすためにはこれがいいかなって思ったのもある。なにより、吸血鬼を差別するなんて僕はしたくない…それができるのは王位継承権を破棄したセリア先輩でも嫁入りが確定しているサリア先輩でもない。僕にしかできないんだ」
「クレア…」
「そのためにも僕は行くよ。ミライ…一緒にシェミンさんを探しに行こう」
「…ああ、わかったよ。これからもよろしくな」


僕はクレアに手を差し出す。クレアも同じように差し出してきて…僕らは固い握手を交わす。もう…引き返せない。でも、最後まで戦い抜いてやる


「まったく、やっぱりこうなりましたか」
「クレア、それにミライ…シェミンを頼む」
「クレアの作る国、見てみたいなー」
「お前らはいつもそうだな…もっと先輩を頼れっての」
「先輩…」


後ろから声をかけられたので振り返れば、先輩たちがそこに立っていた。…どうしてここに


「あえて明日にしたんですよ。どうせ今日中に行くと思ってましたから」
「読まれてたんですね」
『ミライは読みやすいもんね〜』


おいこら、人を単純な人間みたいに言うなよ。でも当てられたから何も言えないけどさ


「ミライ…クレア、二人とも」
「はい」
「「行ってきます」」
「「「「「「「「「「「行ってきます」」」」」」」」」」












さよならは、あえて言わなかった。僕も、クレアも、先輩たちも

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