電気使いは今日もノリで生きる

歩海

覚醒・中編

長月二週目日曜日


「ミライ!」
「紅!!」
「紅君!!!」


叫びながらも、僕は目の前の現実が信じられなかった。今一瞬のうちにミライは落下して、そして、その穴を潰されてしまった。


「ふう、さて、これで終わりました…それでは吸血鬼退治に行きましょう」
「おおおおおおおおお」
「うおおおおおおおおおおお」


ハジキさんはそう勝利宣言で締め括る。殺したことに関して何も思っていないような口ぶりだ


「すみません!」
「ん?何だい君は?」
「なぜ、殺す必要があったんですか?」
「なぜって…ねえ、吸血鬼が出たんだよ?早く殺さなくちゃ」
「だからって…ミライを殺す必要がどこにあったんですか」
「うるさいよ君…僕の勝利にケチつけないでくれるかな」
「そうだぞ…早く行こうぜ」
「ガキはすっこんでろ」


僕に向けてどんどん悪口が投げかけられてくる。まあ彼らの気持ちはわからないでもない。僕はミライと違う。この世界で生まれ、この世界で生きてきた。だから吸血鬼という存在については知っている。でも…今までのシェミンさんと今のこいつらをみて、どちらの味方をするのか、それはもう、決まっていた


「いいえ、悪いですが、邪魔させてもらいます」
「はぁ?」
「みなさんは早くシェミン先輩を探しに行きたいんですよね…でも申し訳ないですけどこの僕、クレアを倒してからにしてください」
「何を言っているんだよ、このガキが」
「クレア!あなたまでなにをしているんです…それに私たちは」
「はい、わかっています」


『精霊の契約』はかなり重い契約だ。だから僕がこうして立ちふさがるということはあの時契約をした人たちと戦わなければいけないということになる。


「へえ、会長たちと知り合いなんだ…なら丁度いい。その知り合いを殺してみてよ。そうすればみんな信じると思うよ。会長たちがあれを殺すのを手伝ってくれるって」
「くっ」


悔しそうな顔をしている先輩たちがこちらに向かってくる。でもみんな覚悟を決めた顔をしている。ああ、多分だけど先輩たちは僕と戦わないな。契約を破ろうとしている。まったく、これだから


「そんなことをしてもミライは喜びませんよ」
「ですが…私たちは決めました」
「はぁ」


予想通りの言葉が返ってきてちょっとだけため息をつきたくなる。ま、それだけ先輩たちの覚悟が重いっていうことなんだけど


「なんですかそのため息は」
「いや…先輩たちはミライを信じたんですよね?だから『精霊の契約』までした」
「え、ええ」
「ならもう少し、信じてあげましょうよ」
「は?」


僕の言葉になにを言っているんだって顔をしている。まあそりゃそうか。先輩たちでも難しいのかな。それからミライをクレナイって呼んでいた人たちも…あれはミライのクラスメートとかいうやつだっけ?そんな彼らもみんなミライが死んでしまったと思っている。僕だけが気がつくことができたんだな


「ねえ、イフリートもういいかな?」
『ええ、もう充分よ。お疲れ様』
「イフリート?まさか君は」
「後ろ、ダメじゃないですか、対戦相手・・・・から目をそらしたら」
「は?」


次の瞬間、地面から巨大な電気の柱が立ち上がる。まったく、時間を稼いだ僕の身にもなってくれよ








《ミライ視点》


なにも見えない。でも、どこに行けばいいのかはわかる。上だ。上に行けば問題ない。地上を目指して突き進めばいい。進んでいるのかさえよくわからない。もしかしたらかなり時間が経っているのかもしれない。僕が負けたとおもってもう、さきに進んでいるかもしれない…いや、それは絶対にないな。ありえない。僕が…諦めるのと同じくらい、ありえない…だって、そうだろ


「お前がいるからな、クレア」
『まったく、ヒーローは遅れてやってくるって?感謝しなさいよ、一人で戦ってくれたんだから』
「そっか、助かった」
「礼はいらないからさっさと勝ってこい」
「わかったよ」


僕はハジキさんを探す。ああ、いた。あんまり離れていなかった。クレアが頑張ってくれたんだな。ほとんど動いていない


「ミライ…」
「大丈夫です…僕は、負けませんから」
「へえ、その状況でよく無事だったね…まさか自分の全てを電気に変えて・・・・・・這い上がってくるなんてね」
「意外となんとかなるものだな」


自分でもここまで体を電気に変えることができるとは思わなかったけどね。おかげで体のあちこちが痛い。体を電気に変えてそしてもう一度再構築したわけだし体のあちらこちらが不具合を起こしていても不思議じゃないよな


『それは後で全部教えてあげるわよ…だから、勝ちなさい』
「わかってるよ『電気鎧armor第三形態third』」


電気鎧armor第三形態third』を身にまとう。さあ、戦いの続きを始めようか


「ちっ」
「『放電thunder』」
「『避雷針』」
「これも防がれるのか」
「不意打ちなんて聞かないよ」


うーん、どのタイミングならば相手の不意を突くことができるのだろうか。まあそんな手段は諦めたほうがいいのかもしれないけどさ


「はぁ、君さ」
「なに?」
「もう少しさ周りの声を聞いてみなよ」


ハジキさんに促されて僕は観客たちが騒いでいるのに気がついた。いや、みんな口々に何かを言っている?


「ああ、あのガキ生きてやがった」
「ハジキー頑張れ」
「くそっ惜しかった」
「…」
「ほら、みんな君が負けることを願っている」
「…うるせぇ」


聞くんじゃなかった。完全にアウェーになっている感じかよ。ま、別にいいか。嫌われていたとしても…僕には、仲間がいるし。戦う姿勢を崩さない僕をみてハジキさんは笑う


「まだ戦うんだ…今なら降参しても追い打ちはしないつもりだったのに」
「余計なお世話ですよ」


頭を切り替えてハジキさんに殴りに向かう。でも、それでも戦いに集中しようと思っても外野の声が響いてくる。シャットアウトしたと思っていても僕の耳は周りの声を拾ってしまう


「なんであいつあんなに必死に戦っているんだ?」
「あの吸血鬼に義理立てる必要なんてないのに」
「おいガキ、お前が負けたらあれを殺せるんだ」
「ハジキさん…頑張ってください」


聞くな。周りの声なんて聞かなくてもいい。僕の悪口なら…僕に対しての言葉なら聞かなくたっていいじゃないか。どうせこの世界に来てからずっと言われ続けているんだ


「にしても吸血鬼か…確かに変な奴だと思っていたけどよ」
「会長もなー。あんあクズな生き物、放っておけばいいのになんで肩入れするかな」
「信じられないのもわかるけど…副会長、そんなに自分の失態を受け入れたくないのかしら」
「…」
「おや?どうしたんだ?」


僕はいつの間にか、立ち止まっていた。走ることを止めてしまっていた。だって…だって、聞こえてくる言葉が僕を非難する言葉だけじゃない、先輩たちを非難する言葉に変わってしまっていたから


「ふふっ、君が従順ならちゃんとフォローしてあげるよ。悪い吸血鬼一味・・に騙されていたってね『大地の鉄槌・横薙ぎ』」


砂の巨人が生まれ、手を振り下ろすのではなくそれを横になぎ倒す。僕はそれを防ぐことができずに、後ろに思いっきり飛ばされてしまう。


「ミライお前…」
『落ち着きなさい、クレア』
「でも…」
『手を出しちゃダメ…これからがミライの選択だから』


何を考えているのか自分でもわからないけど、ただ、立たないといけないからという思いだけで僕は立ち上がる。背中を思いっきり打ち付けてしまった。多分だけどこれ骨が折れてしまっているな。骨折を経験したことがないからよくわからないけど


「なんで立ち上がるんだ?今倒れていればよかったのに」
「おい、あいつまだ戦うのかよ」
「早く負けろー。お前が粘るとそれだけあいつを殺す時間が遅くなってしまう」




ああ、うるさい




「ん?どうしたんだい?」
「…」


ハジキさんが問いかけてくるけれども僕はなにも答えなかった。いや答えられなかった。僕の中で何かが…変わろうとしている


「あいつなにボケっとしているんだよ」
「あ、思い出した。あいつってたしか転移者の一人だよ」
「まじか…だから吸血鬼になんかと関わっていたんだな」


あいつらは、なにを言っているんだよ。僕が転移者だからシェミン先輩と関わった?そんなわけあるか


「ふざけるな」
「え?」
「僕が転移者だからシェミン先輩と関わったわけじゃない」
「なにを言っているんだ?…君はこの世界を知らないからあれを庇っているんだよ」
「そういうわけじゃ…ないんだよ」


確かに僕はこの世界を知らない。この世界に来たばっかりだ。でも、この世界に来て間もないから


「僕が知っているこの世界は、クレアと、この学校で知り合った先輩たちと、クラスメートと、『月』や『命』の国で出会った人たち、それだけなんだよ」


そう、そしてシェミン先輩はその世界の中にちゃんといる。その中でちゃんと存在している。だから、


「だから、僕は認めない、シェミン先輩はこうして大勢の人間から忌み嫌われることを」
「それがこの世界の常識だ…諦めてくれ」
「ふざけんな」


この世界の常識?それが…この世界の常識ならば…それがこの世界ならば、


「僕が、世界を創る」
「はぁ?」


シェミン先輩が普通に生きていられる世界を…僕たちと、先輩たちと笑って過ごすことができるような世界を、


「そのために、僕はお前に勝つ!『電気のfie』」


いつものように『領域』を使おうとした…でも違う。そうじゃない。僕は、わかった。今、叫ぶ名前はそれじゃない。僕がこれから使う魔法は…


「『電気の世界world』」

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