電気使いは今日もノリで生きる

歩海

戦闘相手を探して

長月一週目水曜日


「というわけで、先輩とも模擬戦をしたいのですが」
「なるほど、わかりました」


サリア先輩の許しを得て、僕たちは部屋の中に入った。そこで僕たちはサリア先輩にここにきた目的を話した。僕が楠に負けてしまったこと、そして次に勝つためにたくさん経験を積みたいということ。そのためにサリア先輩と戦いたいということを洗いざらい話した。サリア先輩は僕の話を黙って聞いていた


「本音をいえば戦いたいです…ですが、私はこのギルドのサブマスです。自分のギルドではなく他のギルドの人たちと模擬戦ばかりしているのはさすがにまずいです」
「そうですか…」


しかしながら返事はあんまりよくなかった。ただ、言っている内容はまったくもってして正しいのでなんとも言えない。確かにギルドの代表的な立ち位置にいるわけだから他のギルドの人間の世話をするぐらいなら自分のギルドの人を育てろよって話になるのは至極当然だよな。


「すみません、無理を言って…」
「いえ、構いませんよ…というかまさかここまで直球でくるとは思ってもいませんでした」
「え?」
「クスノキに負けたことは聞いています…だから落ち込んでいるかと思っていましたがそうでもなかったのですね」
「シェミン先輩に言われましたから」
「そうですか」


そう言ってサリア先輩は緩やかに微笑んでいる。ああ、やっぱり先輩も先輩なんだなって思う。


『でも困ったわねー。サリアが厳しいってことは当然セリアも同様よね』
「まあセリア先輩はギルマスだからね」
「ああ、セリアも同じですね」
「となると当然グレン先輩やスバル先輩も同様ですかね」
「そうなりますね」


まじかー。というか当たり前な話だよな。先輩たちがかなりの実力者ってことはわかりきっていることだし、むしろなんでこういうことを想像できなかったのかと猛反省だよな。それだけ周りが見えなくなっていたってことなんだろうけど…もっと冷静に考えることができるようにならなくちゃな


「あ、そういえばシオン先輩とかはどうなんだ?」
「え?あーシオン先輩も忙しそうだよ。先輩は同期や4年生の先輩方との模擬戦をよくしている感じかな。シズク先輩も同様」
「クレアも無理なのか」
「そうだね」


まあすっかり忘れがちだけどクレアも僕も一年生だからね。てかそうなればクレアが対抗戦に出る可能性ってどれくらいなんだろうか。僕は出られないという可能性はまったくないのでのんびりしていられるけどこいつはギルド内での戦いに勝たなくちゃいけないのか


『クレアはギルド内でちょっとハブられているのよね』
「それを言わないでくれよ」
「え?どういうこと?」
「あ、もしかして今イフリートいます?」
「すみません『精霊召喚・イフリート』」


僕はずっと見えていたけどサリア先輩は見えていなかったみたいだ。なのでクレアが召喚してサリア先輩にも見えるようにした。先輩には申し訳ないけどクレアの話を聞きたいな。なんで疎まれているんだ?


『まあシオンのお気に入りってことでねー』
「シオン先輩って何気に人気だよね」
「そうなんだよなー」
「あなたたち…シオンに対して冷たすぎません?まあ別にいですけど」


サリア先輩も似たようなものじゃないですか。もう少し話をしていたかったけれどもこの後どうやらサリア先輩は予定があったようなので僕らは第一ギルドを後にする。


「はぁ、どうしよっか」
「難しいね」
『うーん、先輩に頼るのも悪くないって思ったんだけどなー』


当てが外れてしまって僕らは少しテンション低めでいる。先輩たちと模擬戦をできないということはかなり問題ではあるけれども同時にもっと重要なことがあった。


「となれば、誰に対しても難しいよな」
「最悪恥を忍んでクラスメートを頼ろうかと思ったけどそれも無理だな」


そう、今はみんなが代表の椅子を勝ち取ろうとギルド内で模擬戦をしている。『いや、逆に一年生ならチャンスあるんじゃないかしら?』どうかなー。それなら同じギルド内の先輩を頼ろうって思うんじゃないかな


「いや、僕もイフリートの意見に賛成だ。そうだよ、一年生を探せばいいんだ」
「そんな都合良くいるかな」


ふと、僕の頭に一ノ瀬の顔が浮かぶ。そういえばあいつと戦う約束みたいなのをしていたなー。でも一ノ瀬とだろ…あいつと戦ったら色々と面倒なことになるって気がするんだよな


『あるものは全部使わないとダメじゃない?』
「そうだよな…」


恥を忍んでって決めたのにどうしてあいつにだけは戦うことを拒否してしまうのかな。せっかく向こうが戦ってくれる気になっているっていうのに。でもあいつは今どこにいるんだろうか


「フランさんが言っていたところに行ってみるか?」
「それもそうだな…ってフランさん場所を言っていたっけ?」
「あー」


そういえば言っていなかったような気がするな。でもそんなことなんて関係ないでしょ。


「まあ感知魔法で探せば問題ないと思うな」
「結局そうなるか」


感知魔法の練習とでも思えば問題ないって。そういえば以前この学校内で魔法を使おうとしたらキャパを超えてしまって発狂しかけてしまったんだよな。それだけは気をつけておかないと


「ま、二人いればある程度絞り込めるだろうな『感知feel』」
「見つけれるかな『熱探知』」


自分の周囲にいる人間の位置を把握していく。あの時とは違って大分この魔法にもなれてきた。えっと、第一ギルドのところが後ろにあるからそこにそれなりに人がいるな…でもそれはフランさんが言っていた場所ではない。なら次を探さないと…そして探す時に今チェックしたところの情報を排除して考える。逆方向を考えてみたらいいのかな。えっと…向こうにそこそこ人がいるところがあるな。そこにいるのかな


「クレアー、見つけた?」
「うん、人が集まっているところがぼちぼちあるみたいだね」
「確かに多いね…みんな考えることは同じか」


こういう対抗戦があるから急に模擬戦をしようって感じになるのって要はテスト前だから勉強しようっていうのに似ているな。でもまあ普段から模擬戦をしたりして強くなるための特訓をしている人も多いだろうけどね。でも少なくとも皐月の頃とかはサリア先輩たちが僕らと模擬戦をしてくれていたってことは先輩たちに模擬戦を頼むような人はほとんどいなかったんだろうな。


「虱潰しに探すか」
「そうだねー手当たり次第に当たればそのうち見つかるでしょ」
『それじゃあそこまで走りましょうか』


イフリートの提案に僕もクレアもうなづく。対抗戦の前にできる限り特訓をしておきたいっていうのもあるしね


「それじゃあ行こうか『加速ブースト』」
「そうだね『蓄積charge』」


お互いに高速で移動できる魔法を使い走り出す。一応大体の場所は覚えているけど詳しいところはイフリート案内してほしいな


『ええ、目的地がわかればいいわよ』
「頼んだー」


僕らは学校内を走った。とはいえ、この時期に模擬戦をしている学生はかなり多いみたいでなかなかフランさんを見つけることができない。もしかしたら学校内にいないのではないのだろうか。そんなことを思っていた時に


『あ、向こうにいるわよー』
「お、ありがと」


何回目かはわからないけれど人がいるところに向かう。ああ、確かに魔法がぶつかっている音が聞こえてくるな。そこにいてくれるといいなぁ


そんな風に思いながら近づいてみると見えた光景は、


「おぉ…」
「フランさんもやるなぁ」


フランさんと一ノ瀬、サクヤが戦っている姿だった。いや一ノ瀬お前だれでもいいのかよ。

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