電気使いは今日もノリで生きる
初めての…
葉月一週目火曜日
「イヨさん!!」
時間は同じ速さでずっと進み続けている。そんなことは頭ではわかっているはずなのに僕にはイヨさんが倒れていくのがゆっくりに感じられた。ゆっくりとスローモーションのごとく倒れていくイヨさん。それに比例して全く動かない体。なんでだ。手を伸ばせばすぐに届きそうなのに、僕の体はまったく動く気配がない。動かそうとする意志も虚しくイヨさんの体が地に落ちる。
「『目的は果たした。帰るとするか』」
「お前ら……」
「『我が憎いか?ならば我を殺すがよい。明日待ってる』」
そう言葉を残して去っていくあいつ。あいつだけじゃない。研究者たちも用事が済んだとばかりに去っていく。あ、ルドーをミイさんが担いでる。いや今あいつらのことなんてどうでもいい。
「イヨさん!動け、動いてくれ」
イフリート!頼む、なんとかできないのか?お前、精霊だろ?精霊の不思議な力とかでなんとかならないのか?切断されたところから血がどんどんと流れていくのを見てるだけしかできないのか
『悪いけど無理ね。できるかもしれないけどそれはクレアがいてこそだし』
そんな。イフリートに期待しすぎているのかもしれない。精霊にだってできないことはきっとあるんだ。
『とりあえずメイを呼んでくるわ。間に合うかどうかはイヨ次第ね』
つまりは僕がここでどれだけ応急処置を行うことができるかということだな。だから頼む、頼むよ。動いてくれ。今動かなきゃいつ動くんだよ
「あっ」
無理に動こうとしたツケが回ってきたのだろう僕の体はそのまま前へと倒れる。つまり前に倒れているイヨさんに重なるようにイヨさんの上にそのまま倒れこむ。
「うっ、ミライ、さん」
「イヨさん……ごめん」
「謝らないでください。元はといえば、私がミライさんに勝手に激昂して外に出たのがいけないんです」
「そんなこと……」
幸運なことに僕が倒れたことによる衝撃で意識を取り戻したみたいだ。皮肉なことにね。そして思わず謝罪をしてしまった僕に対してイヨさんもまた僕に謝罪してくる。イヨさんが謝ることなんて何もないのに。記憶を失ったことについてだって僕がイフリートに言われていたにもかかわらず記憶を失う可能性もあると言われていたにも関わらずに魔法を使ってしまったから。
「いいえ、ミライさんはいつも誰かのために最善を尽くそうとしていました。あいつとどんな戦いをしたのかはわかりませんが激戦だったのでしょう?」
「多分、そう」
自惚れるわけではないけどきっとそれなりに戦えていたのだろう。『領域』などを駆使して立ち回ったりすれば防御力はかなり高いし。
「私を逃がすために、私とミライさんの記憶を天秤にかけて私を選んでくれたんですよね」
「それは……」
それはさすがに買いかぶりすぎじゃないか。そんな大層なことを思ったわけじゃないし
「でも、私はそう受け取ります……だからすごく嬉しいんです」
「そうなの?」
それはすごく嬉しい。嬉しいんだけどでも同時に疑問が出てくる。どうしてそこまで思ってくれるのだろうか。そこまで好意的に解釈してくれるのだろうか。そもそも精霊が言っているとはいえどうしてすぐに僕が記憶を失っていると信じてくれているのか
「ふふっ。わかりますよ。短い付き合いですが、こういう嘘をつかないことぐらいわかります」
「………」
「あ、信じていない顔ですね。じゃあもっと説得力のある言葉を。私がミライさんを信じる理由、そこまで好意的に思う理由。それは、」
あなたのことが好きだからですよ、ミライさん
イヨさんの言葉が空気を揺らし、そして溶けていく。溶ける直前にその揺れた空気は僕の耳の鼓膜を揺らし脳内に正しく伝える。え、あ、ちょっと待って。イヨさん?今あなた………
イヨさんを見れば夜中でも月明かりぐらいしか光源がないけれどもそれでもわかるぐらい赤くなっているのがわかる。でも今はそんなことを指摘するような無粋さを僕は持っていない。それに僕自身かなり動揺しているからそんなことを指摘できないってのもある
「あ、あの……」
「最初はなんだこの人って思ったんですけど、考え方や人となりを知って興味が出てきました。それに私たちをきちんと『人』として扱ってくれて私たちのために死ぬことも厭わないで戦ってくれて……気がついたらあなたのことが気になって仕方がなかった」
それに、意識していなかったみたいですけど私をお姫様抱っこしてくれてたでしょ?その時顔がかなり近くで、ずっとドキドキしていたんですよ?それに今も
どんどんとイヨさんの口から語られる僕への感情。それを受けてなんて返せばいいのかわからない。女の子に告白されたことなんてこれが初めてっていうのもあるけど僕にはイヨさんのこの気持ちに応えるだけの何かを持っているとは思えない。それに……頭の片隅で冷静に反論する声がする。ドキドキしていたって単に吊り橋効果ってやつじゃないのか?僕がたまたま最初にイヨさんを人として扱ったから好意的に思う、いわゆる鳥が孵化して初めて見たものを親だと思う現象みたいな……
「イヨさん…僕は……っむぐ!?」
心の中で止まらずに口に出そうとした瞬間、僕はそれからの言葉を紡ぐことができなかった。言葉を放とうとした口が覆われていたからだ。何にか。それは簡単。イヨさんの唇に、だ
僕が倒れたことでイヨさんと僕の顔の距離がかなり近くになっていた。だからお互いに息も絶え絶えな状態でも小さいささやきに近い声でもお互いに声を届けさせることができていた。だからイヨさんが少しだけ顔をあげるだけで僕らの距離は0になる。
「んっ…」
柔らかい。ありきたりな感想なんだろうけどそんなことしか考えられない。やっぱり女の子の唇って柔らかいんだな。そして僕の眼の前でゆっくりとイヨさんの瞳が閉じていく。そして……僕が硬直している間にイヨさんは顔を下ろし、僕らは離れる。またしても時間の感覚がおかしくなったみたいにきっと一瞬のうちに全て終わっていたのだろうけど僕にはかなり長い時間口づけを交わしていたように思った
「最期だと思ったらつい抑えきれませんでした」
「最期?……どういう」
「別にかばったことだけじゃないですよ。そもそもルドーさんの魔法に貫かれていたんです」
「そんな」
言われてみればあいつが『目的を果たした』って最初に言ったタイミング明らかにおかしかったもんな。僕の電撃がルドーさんに届いたのと同じくらいの時にルドーさんも準備ができて魔法を呪いをかけていたのか。
「だからこれは私なりの恩返しです」
「そんな恩返しだなんて」
こんな形で恩返しなんてしてほしくない。どうせならば生きることで恩返しをしてほしいって思った。でもそれは叶わないのだろう。さっきまであんなに赤かったイヨさんの顔が顔色が今度はかなり青白くなっている。それに温かかった体も少しだけ冷たくなってきている。さすがにわかる。もう、永くない
「そんな泣きそうな顔をしないでください」
「でも……」
「ミライさん、あなたのおかげで私は人間として死ぬことができたんですよ……だから、ありがとうございます」
「そんな……」
僕の目からはずっと涙が流れ続けている。お礼を言われても結局僕のせいで死ぬ時間が早まってしまったのは間違いないのに
「あ、じゃあ最期に私の我儘を聞いてもらえますか?」
「なに?」
今度はミライさんから私にキスをしてください
そう紡いだイヨさんはもうほとんど聞き取れないくらいの声量で、間もなく死期が訪れるのだとわかった。でもそんなことはどうでもいい。大切なのはそれがイヨさんの最期の望みということだ。だから
今度は僕からイヨさんとの距離を0にする。その時だった。かすかにイヨさんの口が動いたような気がしたけど、疑問に思う間もなく僕らは重なった……!、もう一度重なった時に僕の頭に電流が走った。やっぱりイヨさんが何かしたのだろうか
「何度でも…言います…あなたのことが…好きです…ミライさん…最期…我儘を聞いて…くれて…ありが…と…」
もう一度イヨさんの瞳が閉じられる。でも今度は…もう二度と開くことがないのだろう。
その後、イフリートがメイさんとクレアを連れてくるまで僕はずっとイヨさんの亡骸の上で涙を流し続けていた。
「イヨさん!!」
時間は同じ速さでずっと進み続けている。そんなことは頭ではわかっているはずなのに僕にはイヨさんが倒れていくのがゆっくりに感じられた。ゆっくりとスローモーションのごとく倒れていくイヨさん。それに比例して全く動かない体。なんでだ。手を伸ばせばすぐに届きそうなのに、僕の体はまったく動く気配がない。動かそうとする意志も虚しくイヨさんの体が地に落ちる。
「『目的は果たした。帰るとするか』」
「お前ら……」
「『我が憎いか?ならば我を殺すがよい。明日待ってる』」
そう言葉を残して去っていくあいつ。あいつだけじゃない。研究者たちも用事が済んだとばかりに去っていく。あ、ルドーをミイさんが担いでる。いや今あいつらのことなんてどうでもいい。
「イヨさん!動け、動いてくれ」
イフリート!頼む、なんとかできないのか?お前、精霊だろ?精霊の不思議な力とかでなんとかならないのか?切断されたところから血がどんどんと流れていくのを見てるだけしかできないのか
『悪いけど無理ね。できるかもしれないけどそれはクレアがいてこそだし』
そんな。イフリートに期待しすぎているのかもしれない。精霊にだってできないことはきっとあるんだ。
『とりあえずメイを呼んでくるわ。間に合うかどうかはイヨ次第ね』
つまりは僕がここでどれだけ応急処置を行うことができるかということだな。だから頼む、頼むよ。動いてくれ。今動かなきゃいつ動くんだよ
「あっ」
無理に動こうとしたツケが回ってきたのだろう僕の体はそのまま前へと倒れる。つまり前に倒れているイヨさんに重なるようにイヨさんの上にそのまま倒れこむ。
「うっ、ミライ、さん」
「イヨさん……ごめん」
「謝らないでください。元はといえば、私がミライさんに勝手に激昂して外に出たのがいけないんです」
「そんなこと……」
幸運なことに僕が倒れたことによる衝撃で意識を取り戻したみたいだ。皮肉なことにね。そして思わず謝罪をしてしまった僕に対してイヨさんもまた僕に謝罪してくる。イヨさんが謝ることなんて何もないのに。記憶を失ったことについてだって僕がイフリートに言われていたにもかかわらず記憶を失う可能性もあると言われていたにも関わらずに魔法を使ってしまったから。
「いいえ、ミライさんはいつも誰かのために最善を尽くそうとしていました。あいつとどんな戦いをしたのかはわかりませんが激戦だったのでしょう?」
「多分、そう」
自惚れるわけではないけどきっとそれなりに戦えていたのだろう。『領域』などを駆使して立ち回ったりすれば防御力はかなり高いし。
「私を逃がすために、私とミライさんの記憶を天秤にかけて私を選んでくれたんですよね」
「それは……」
それはさすがに買いかぶりすぎじゃないか。そんな大層なことを思ったわけじゃないし
「でも、私はそう受け取ります……だからすごく嬉しいんです」
「そうなの?」
それはすごく嬉しい。嬉しいんだけどでも同時に疑問が出てくる。どうしてそこまで思ってくれるのだろうか。そこまで好意的に解釈してくれるのだろうか。そもそも精霊が言っているとはいえどうしてすぐに僕が記憶を失っていると信じてくれているのか
「ふふっ。わかりますよ。短い付き合いですが、こういう嘘をつかないことぐらいわかります」
「………」
「あ、信じていない顔ですね。じゃあもっと説得力のある言葉を。私がミライさんを信じる理由、そこまで好意的に思う理由。それは、」
あなたのことが好きだからですよ、ミライさん
イヨさんの言葉が空気を揺らし、そして溶けていく。溶ける直前にその揺れた空気は僕の耳の鼓膜を揺らし脳内に正しく伝える。え、あ、ちょっと待って。イヨさん?今あなた………
イヨさんを見れば夜中でも月明かりぐらいしか光源がないけれどもそれでもわかるぐらい赤くなっているのがわかる。でも今はそんなことを指摘するような無粋さを僕は持っていない。それに僕自身かなり動揺しているからそんなことを指摘できないってのもある
「あ、あの……」
「最初はなんだこの人って思ったんですけど、考え方や人となりを知って興味が出てきました。それに私たちをきちんと『人』として扱ってくれて私たちのために死ぬことも厭わないで戦ってくれて……気がついたらあなたのことが気になって仕方がなかった」
それに、意識していなかったみたいですけど私をお姫様抱っこしてくれてたでしょ?その時顔がかなり近くで、ずっとドキドキしていたんですよ?それに今も
どんどんとイヨさんの口から語られる僕への感情。それを受けてなんて返せばいいのかわからない。女の子に告白されたことなんてこれが初めてっていうのもあるけど僕にはイヨさんのこの気持ちに応えるだけの何かを持っているとは思えない。それに……頭の片隅で冷静に反論する声がする。ドキドキしていたって単に吊り橋効果ってやつじゃないのか?僕がたまたま最初にイヨさんを人として扱ったから好意的に思う、いわゆる鳥が孵化して初めて見たものを親だと思う現象みたいな……
「イヨさん…僕は……っむぐ!?」
心の中で止まらずに口に出そうとした瞬間、僕はそれからの言葉を紡ぐことができなかった。言葉を放とうとした口が覆われていたからだ。何にか。それは簡単。イヨさんの唇に、だ
僕が倒れたことでイヨさんと僕の顔の距離がかなり近くになっていた。だからお互いに息も絶え絶えな状態でも小さいささやきに近い声でもお互いに声を届けさせることができていた。だからイヨさんが少しだけ顔をあげるだけで僕らの距離は0になる。
「んっ…」
柔らかい。ありきたりな感想なんだろうけどそんなことしか考えられない。やっぱり女の子の唇って柔らかいんだな。そして僕の眼の前でゆっくりとイヨさんの瞳が閉じていく。そして……僕が硬直している間にイヨさんは顔を下ろし、僕らは離れる。またしても時間の感覚がおかしくなったみたいにきっと一瞬のうちに全て終わっていたのだろうけど僕にはかなり長い時間口づけを交わしていたように思った
「最期だと思ったらつい抑えきれませんでした」
「最期?……どういう」
「別にかばったことだけじゃないですよ。そもそもルドーさんの魔法に貫かれていたんです」
「そんな」
言われてみればあいつが『目的を果たした』って最初に言ったタイミング明らかにおかしかったもんな。僕の電撃がルドーさんに届いたのと同じくらいの時にルドーさんも準備ができて魔法を呪いをかけていたのか。
「だからこれは私なりの恩返しです」
「そんな恩返しだなんて」
こんな形で恩返しなんてしてほしくない。どうせならば生きることで恩返しをしてほしいって思った。でもそれは叶わないのだろう。さっきまであんなに赤かったイヨさんの顔が顔色が今度はかなり青白くなっている。それに温かかった体も少しだけ冷たくなってきている。さすがにわかる。もう、永くない
「そんな泣きそうな顔をしないでください」
「でも……」
「ミライさん、あなたのおかげで私は人間として死ぬことができたんですよ……だから、ありがとうございます」
「そんな……」
僕の目からはずっと涙が流れ続けている。お礼を言われても結局僕のせいで死ぬ時間が早まってしまったのは間違いないのに
「あ、じゃあ最期に私の我儘を聞いてもらえますか?」
「なに?」
今度はミライさんから私にキスをしてください
そう紡いだイヨさんはもうほとんど聞き取れないくらいの声量で、間もなく死期が訪れるのだとわかった。でもそんなことはどうでもいい。大切なのはそれがイヨさんの最期の望みということだ。だから
今度は僕からイヨさんとの距離を0にする。その時だった。かすかにイヨさんの口が動いたような気がしたけど、疑問に思う間もなく僕らは重なった……!、もう一度重なった時に僕の頭に電流が走った。やっぱりイヨさんが何かしたのだろうか
「何度でも…言います…あなたのことが…好きです…ミライさん…最期…我儘を聞いて…くれて…ありが…と…」
もう一度イヨさんの瞳が閉じられる。でも今度は…もう二度と開くことがないのだろう。
その後、イフリートがメイさんとクレアを連れてくるまで僕はずっとイヨさんの亡骸の上で涙を流し続けていた。
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