電気使いは今日もノリで生きる

歩海

報われた時は突然に

葉月一週目火曜日


さて、というわけで、だ。イヨさんと街を巡ります。でも一つ問題があって


「ねえイヨさん」
「なんですか?」
「街、わかる?」
「あんまり」
「ですよね・・・」


そう、僕は言わずもがなイヨさんもそこまで研究所の外に出たわけではないわけでどこになにがあるのか全く把握していないわけである。かなりまずい。せっかくイフリートが好意で休みにしてくれたっていうのにこのままでは無駄にして終わってしまう


『ちょっと!あんたなにしてんのよ。しっかりリードしなさい』


いやリードって言われてもね・・・っておい!結局付いてきたのかよ


『まあだって暇だし』


じゃあなんで休みにしたんですか。『だってどっちみち暇だしこうすればなんか面白い者が観れると思ったから』そういうわけですね。でもちょうど良かった。せっかく来てくれたし街とかなにかない?昨日見て回っていたでしょ?


『え?』


え、じゃなくてさ・・・昨日見て回っただろうから少し案内してほしいんだけど


『いいけど、どこ行くの?』


なにがあるんだろう。そういえば普通にこういう時ってどこに行くのがいいんだ?僕がぱっと思いつくのって食事処だけどでもさっき朝ごはん食べたばっかりだからさ。少し昼まで遠いし今すぐに行くわけにもいかないしな。あとはまあカフェとかいいのかな?そういう気軽に時間を潰せる処とかないのかな?


「どこか行きたい所ある?」
「特にありません」


これはどうしたものかなぁ。どうすればいいかな。あーこういう時に自分の経験のなさが悔やまれる。もっと地球にいた時にあちこちに出歩いたほうが良かったか。でも誰もいないし。友達いなかったし・・・うん、これでいいんだよ


「どうして泣いているのですか?」
「え、ああ故郷のことを思い出してね」
「そうなんですね。ミライさんの故郷ってどんな所なんですか?遠い所っていうのは以前聞きましたけど」
「ああ、そうだな」


なんだか少しナイーブな感じになってしまった空気を払拭するように色々な話をするとしようか。でもあんまりおかしなことは言えないから・・・ここは学校のことを話そうか


「うんとねえ、まあ一言で言えば平和、だね」
「平和、ですか」
「でもあんまり魔法が使える人がいないね」
「そうなんですか?じゃあミライさんがすごいのですね」
「う、うん」


なんかこれは心が苦しいな。別に嘘をついているわけではないんだけど真実を言っているわけでもないし・・・ちょっとだけ良心の呵責に苛まれそう。まあもうしょうがないことだと割りきるしかないんだけどさ。


「その代わりに科学・・・というか少し異なる技術が発達してるんだ」
「科学?」
「ごめん忘れて」


あれ?でも科学も結局は魔法となんらかわらないんじゃないか?原理とかがきちんと研究されているけど昔の人から見たら何も変わらない気がする。携帯電話とか普通に素晴らしい技術だもんな。昔からだと考え付かないものがたくさん生まれているしね


「魔法といえばミライさんのは少し特殊というか面白いですよね。もしかして故郷が関係しているんですか?」
「そうだね。故郷では幼いときから学校に通う文化が根付いているからね」
「そんなところがあるんですね。マスターの話では16歳になってから『星』の国の学校に通うだけって聞いていたのですがマスターが知らないとなると本当に遠くから来たんですね」
「そうだね」


あぶねー。そういえばこの世界の人たちって全員があの学校に通うことになっているんだっけ。そこらへんの知識があやふやだから気を引き締めないといけないのかな


「でも、だから私たちを助けてくれたんですね」
「う、うん」
「あの、ありがとうございます」
「・・・」
「まだ、終わっていませんが伝えておきたかったんです。ミライさんのおかげで私たちはいい方向に進むことができました」
「そ、それは・・・」


こういうときになんてかえせばいいんだろう。人生経験がないのが常々悔やまれる。ま、思っていることを素直にいえばそれでいいか。


「お礼の言葉は今は受け取れないよ・・・」


自信がない。結局僕は成り行きに身を任せているにすぎない。もちろん助けたいと切に願っているけれども僕がまだ何かしたわけではない。こうして今この状況になっているのはイフリート、クレア、メイさん、ムツキさんたちの力が大きい。僕がしたことなんて本当にごく僅かだ。だから受け取ることはできない


「でも、ちゃんと終わらせるからそのときに」


ごめん、これが僕の精一杯だ。少し失望させてしまったかな、いやもうすでにされているんだっけ?そう思いながらイヨさんの顔を見る。どんな顔をしているのかな・・・


「はい、わかっています。終わらせると信じているから今、伝えるんです」
「どういうこと?」
「終わらせてくれたことでの感謝じゃなくて、一歩踏み出せたことの感謝を伝えたいから」
「・・・」
『あんたはあんたよ。ほら、いるじゃない。ちゃんとあなたを見てくれる人が・・・ってこのくらいはっきり言わないとわからないのかあんたは』


そうじゃない。そうじゃないけれど・・・でも、自然と僕の目からは涙が流れてくる。ああ、そうだ。それだけ僕は嬉しかったんだ。今の言葉にどれだけすくわれただろう。彼女の言葉は教えてくれた。僕にだってできることがあったって。自分が憧れた、憧れている「なにか」と同じことができるんだって。


「どうして泣いているんですか?もしかしてまた故郷のことを思い出したんですか?」
「・・・いや、違うよ。これは・・・決意の涙、かな」
「そんなものがあるんですね」


まあ、故郷を思い出したってのもあながち間違いではないんだけどさ。こうして僕のことを見てくれていることがわかる人が現れて嬉しいって話だから。うん、昔もそうだったんだろう。きっと僕がもっと色々と動いていたらきっと変わっていたはずだ。だれからも見られなかった自分を変えることができたはずだ。だから、


初めて出会ったこの少女の思いを必ず成し遂げよう。


「でもこれが知識欲ですか」
「うん?」
「知りたいことがたくさん出てきます」
「それは本来自然なことなんだよ」
「そうなんですね。・・・なら、また感謝しないといけませんね。あ、感謝する気持ちもわかりました。きっとこれが私が今あなたに感じている思いが感謝なんですね」


・・・ん?なんかキャラが違う?もしかして別の人と入れ替わっているとかそういうことはないよな?この電磁気は間違いなくイヨさんだ。なんだか大分明るくなったように思われるけどなんかあったんだろうか


「マスターに言われました。もっと明るく振舞うことって。こういう感じであっていますか?」
「そ、そうだね」


なるほどメイさんの差し金か。その方がこちらとしても助かる・・・いや助かるのか?なんだか追い詰められているようで落ち着かない。うんぐいぐい来られるのが苦手なのかな。


「じゃあというわけで「ここにいたのか」・・・あ」
「お前は」
『メイを呼んでくる』


さっきと一転して明るくなった空気をまた暗いものにするがの如く僕らの前に現れたのは・・・研究所にいるはずのスルトだった。ちっルドーの方だったら確実に勝てるのに。こいついったい何の用なんだ?

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