電気使いは今日もノリで生きる

歩海

挑戦しろそれが若者の権利だ

???


もう一匹の『流星火山』。あれの威力がどれだけやばいかなんてさっきよく見た。そこそこ距離が離れていたと思っていたけれどそれでも爆風と爆発による閃光がかなり襲ってきたから。おまけにユンさんとユキさんの防御魔法を使っていたにもかかわらず、だ。


「とりあえずユキのところまで避難するぞ『転移』」


ユンさんの魔法でユキさんのところ、クレーターの縁のところまですぐさま移動する。これで少し距離が稼げた。さっきと同じようにすれば防ぐことができるんじゃないか?


「雄の方が威力は高いらしいしさっきと同じだと防げない・・・ミライ、クレアタイミングよく『領域』は使えるか?」
「ええ」
「すみません。まだ回復してないです」
「さっきのか・・・」


悔やまれる。まさかここまで響いてくるなんて。何事もなく終われたらそれで次から気をつけようって言えたのに次がない可能性があるなんて・・・


「私も今度は動ける」
「俺もいける。だからそう悲観すんなって」
「はい・・・」


雄のドラゴンの頭上にかなり大きな火の玉が形成され始めている。普通に大きい。雌のやつよりもひとまわりもふたまわりも大きんですけど。


「あーこれあれだ。雌のドラゴンが殺られてブチ切れてる。その分力を込めているんだろうな」
「なら今は多少の攻撃が通るんじゃないか?」
「戻る間に隕石が降ってきてしまうって。間に合わない」


ここで僕は何ができるんだ・・・何もできない。さっき腕を食われてしまったから『全力放電burst』で何個か吹き飛ばすこともできやしない。


「おいユン、あいつこっちの方を見てきてないか?」
「え?ああ、まさか!やべえあいつあのままこっちに撃つつもりだぞ」
「はあ!」


え、あのまま直接叩き込めるの?それしたら全員吹き飛ぶよ。こっちも構えているけど・・・実際のところどうなんだろう


「わかったユン、転移魔法で逃がせるだけ逃がせ。俺を選ばなくても文句は言わん」
「ヤマトさん!何を言い出すんですか」
「ハル、お前は生きろ・・・まあ、なんやかんや俺があれを吹き飛ばしたらまた会おう」
「それしか・・・ないのか」


苦渋の表情をしているユンさん。その表情からして全員を運ぶことは不可能なのだろう。連続で使用できるほどいや、そもそもそれだけの人数を運ぶほどの魔力が残っていないのだろう。ユンさんだけじゃないこの階層に来てずっと戦い詰めだからみんなも魔力がほとんど切れかかっている。


「俺の残り魔力で運べるのは全部で4人・・・悪いが俺は国を背負っている立場だから俺とケイ、あと昔のよしみだ、ハル。あと一人誰にする?」


僕が選ばれることはないだろうな。生きたいか生きたくないかって言われたら生きたいけど、もう充分だ。ここで死ぬのも悪くない。だから片腕でも最後まで足掻こう。さっきヤマトさんも言っていたじゃないか。あれを吹き飛ばせばいいだけの話だって


「はあ、ミライは強情だね」
「クレア」
「付き合うよ」


僕の横に並ぶようにクレアも立つ。いや、僕お前を助けるためにこのダンジョンに来たんだけど「だからこれから頑張るんでしょ」そうだけどさ・・・


「まったく、あなたたちなら譲ってもいいと思っていたんですよ。『強化エンチャント』」
「まったくだ『菊雨』」
「というわけだ、決まりだなユン。お前とハル、ユキを連れて逃げろ」
「まって僕も」
「・・・」


何も言わずにハルさんを引きずるユンさん。それにユキさんとケイさんがついていく。振り返らないのは彼らなりの敬意だろう。さあて生き残るために頑張りますか


「せめてここから何かしら魔法でできないか?」
「無理ですよ。全員構えていますし、それにもうセットされていない限り発動しません」
「だよなぁ」


着々とドラゴンの作り出す火の玉にエネルギーが集まっていく。あれに対抗するだけの力を僕らは出せるのだろうか・・・片腕だけどやるしかない。『全力放電burst』でできる限りのことをしよう。


「クレアさん、あの玉の軌道を感知することができますか?」
「え?できますけど」
「正面から受けるのではなく、斜めから受けましょう。そうすればより少ない力でもなんとかなります」


そうなのか!知らなかったけど、それなら希望が見えてきたぞ0%から0.2%ぐらい


「わかりました『火の領域fire・field』・・・あれ?」
「どうした?」
「いや、ドラゴンの腹の中に高音を放っている物質があってね」
「それ普通に何か喰ったとかじゃないの?」
「うーん。なんていうかそう。今のミライの腕ぐらい」


僕の腕?いや確かに食われたけどさ。それが今の『全力放電burst』を構えている状態と同じだって?


「もしかしたら、消化されていなくてまだミライさんの腕が残っているのかもしれません。たとえ体から切り離されてもミライさんの腕であることは変わりませんし・・・ミライさん!あの腕に意識を集めて何かできませんか?」
「ええ?」


確かに今ドラゴンの対魔力は少しだが弱まっているのだろう。それにそういうのは大抵外に展開されていることが多いのか内側からは弱いって傾向もあるしね。とはいえ、何ができるかな・・・


「ミライの腕を起点に電気を暴走させたら?」
「・・・!クレアそれだ!」


イメージするのは『閃光《flash』。あれを自分の腕から発動させる。今ドラゴンの腹の中にあるのが僕の腕だというのなら、遠隔軌道できるはずだ。電気といえば、遠隔軌道と切っても切れない関係があるもんな。そもそも遠くのものを操作するのに使われているし。


見えない自分の腕を探る・・・ドラゴンの影響で見つけにくいけど・・・あった!あとは僕の喰われていない方の腕に集めた電気を移す感じで・・・


「『全力放電burst』」


自分の残っている腕に電気を集中。全ての魔力を電気に変換する。


「うぐっ、ぐぎぎ」


電気鎧armor第三形態third』が解除されたことによって今まで消していた痛覚などが蘇ってくる。まずい、これ本気で意識を失いそうだ。


「クレア・・・あとは頼む、『転送warp』『閃光flash』」


自分の腕から腕へと貯めた電気を移動させる。これ以外と初めてなのにうまくいったな。ああ、いつもいつも電気を足に集めたり腕に集めたりとしていたからコツ自体はつかめていたのかな。そしてその貯めた電気を全て爆発させる。魔法がきちんと発動した感覚があるけどどうなったのかな・・・


「ミライありがとう。あとは僕らに任せておいてくれ」


クレアの声が聞こえる。でもなんて言ったのかな。ああ、この状況をくぐり抜けたら教えてくれよ・・・まあ、どうせあいつのことだし「あとは任せろ」とかそういったことなんだろうけどな。あれ?でも今の自分の状況的に僕死ぬんじゃね?


貧血+これまでの戦闘のダメージ+押さえつけていた痛みが全て一度に襲いかかってきて僕は意識を削り取られた。死ぬかもしれないと思った僕が最後に見たのは、不思議なことに。ここにいるはずのないシェミン先輩の姿だった。

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