電気使いは今日もノリで生きる

歩海

失敗から学び成長するのが新人の特権

???


爆音が収まったのを確認した後ゆっくりと目を開ける。てかさっきから必殺技の応酬でインフレがすさまじいんだけど。これ僕のレベルに本気で見合っていないんだけどどうすればいいんだ?いや生き残るための手段なんて限られているけどさ


「お前ら無事か?」
「なんとか」
「ならよかった。ただ悪いがまだドラゴンは死んでない。追い打ちをかけるぞ。動けるのは?」
「僕は大丈夫です」


電気鎧armor第三形態third』を発動しているからなんとか体は動く。まだ僕は戦える。心が死なない・・・・・・限りこの魔法があれば戦い続けられる。


「お前なんでそこまで動けるんだよ・・・悪い、俺はもう少し時間がかかる」
「私もだ。すまない隊長」
「了解。俺は動けるからミライのサポートをするいってこい『転移』」


ユンさんの魔法で一気にドラゴンの近くまで移動する。そこで初めて周りの様子を確認することができた。


「なんだよ・・・これ」


さきほどまで大地を埋め尽くさんばかりにいたキメラアントたち。それが今や全てが屍と化していた。炎に焼かれ、潰され死屍累々となっている。


「それがドラゴンのやばい技『流星火山』」
「!」


近くで声がしたからどうしたのかと思えばユンさんも一緒に転移していたのか。「そりゃサポートをするっていったからね」でもそれは遠距離からじゃないんですか?


「距離が離れればその分魔力を消費してしまう。だからできる限り少なくするために近づく必要があるんだよ」


それなら納得です。さて、きたはいいけどどうしよう。何も策がない。残り少ない魔力でどこまでやれるか。いや、僕がやらなくても時間さえ稼いでいれば他の人たちが復活してなんとかなるんじゃないか?


「いや全力で畳み掛ける。今あのドラゴンは対魔力がかなり低下しているこのチャンスを逃すわけにはいかない」
「どういうことですか?」
「ああ、お前は知らないのか。さっきのはドラゴンの切り札というべき魔法『流星火山』。使えば超広範囲に超強力な攻撃をするんだけどその代わり使えばしばらくの間対魔力が減少するというものなんだ。ほぼ全ての魔力を消費するからだと言われているけど実際のところはわからん。・・・ここまでは予定通りに進んでいる。さっきのでキメラアントはほぼ壊滅した。そしてドラゴンも弱っているから・・・『空間切断』」


そこまで戦闘の流れを読んでいたのか。ユンさんの魔法が今度は弾かれることなくドラゴンの足に展開され、その足を切り取る。


「グルルラアア」


バランスを崩して倒れる。だが、翼があるので飛ぶことができる。


「飛ばすかよ」


もう一度ユンさんの魔法が発動し、翼の片方を消し飛ばす。これで飛ぶこともできなくなった。本当に普通の魔法が効くんだな。なら僕も、『電気鎧armor第三形態third』で足を強化して飛び上がり上を取る。そして


「『放電thunder』『電気の領域field』」


電撃を放ちついでとばかりに地面に叩きつける(吹き飛ばす)。おお、僕の魔法もきちんと届いた。ユンさんの魔法は効くけれど僕のは効きませんでしたとかなったらショックのあまり心が折れたかもしれないな。


翼と足を失い、さらには魔法も普通に効く状態にまで追い込まれたドラゴンを前にして僕は少しだけ油断していた。これなら大丈夫だと。これならすぐに倒すことができると。そう、僕はここにいる敵が他に何がいたのかをすっかり失念していたのだ


「ミライ!」
「!あっ」


突然よこから何かに突っ込まれ地面に叩きつけられた。飛びそうな意識の中上空を見れば、そこにはもう一匹の龍がいた。・・・え?あいつがここにいるってことは、クレアたちは?


「ミライ!」
「あ・・・クレア」
「さっきかなり大きな火の玉が見えたと思ったら急にあのドラゴンが飛び去っていったんだ。慌てて追っかけてきてみれば」
「そっか・・・」


つまり傷ついた雌の龍を心配して駆けつけたと。もしかしてつがいだったのかな。それでなくても普通に同じ種族のものが瀕死に陥っていたら手助けもするか。足音からケイさんとユリさんも近くにきていることがわかる。さっきまで三人で抑えていたとはいえさすがに戦況が怪しい。だから僕も向かわないと。・・・あれ?


慌てて立ち上がろうとするけれど立ち上がれない?いや、別に足が怪我したとかそういうわけではないんだけどな?それに他に特に痛みもないし・・・・・・


「ミライ・・・腕が?」
「腕?」


クレアに言われて自分の腕を見る。視界に入るのは一本の腕。・・・一本?


「な・・・!」
「さっきあのドラゴンに喰われたな」


ああ、上空にいた時に。あそこで喰われてしまったのか。痛みを感じなかったからまったく気がつかなかったよ。でもこれで立ち上がれなかった原因がはっきりした。なら片腕で立ち上がればいいだけさ


「あれ?」


立ち上がったはいいもののふらつく。あーこれあれか貧血だ。確かに血を失いすぎているからな


「動かないでください!本当に死にますよ『回復』」
「あ、ありがとうございます」


ユリさんが駆け寄ってきてくれて魔法をかけてくれる。?、どうしてそこで不思議そうな顔をしているのですか?


「ミライくん・・・痛みを感じてないのですか!その怪我を負って」
「え、ああ。これですか。大丈夫です『電気鎧armor第三形態third』発動中は痛みを忘れることができるので。それよりも、今はドラゴンに集中しましょう。二匹いるのにケイさんとユンさんだけでは厳しいです」
「いえ、先ほど雌の龍はヤマトさんがとどめを刺してくれました。ツキちゃんとハルくんも前線に戻っています。なのであなたは休んでいてください」
「でも、」
「休んでいてください」
「・・・はい」


動こうとしたけれどここまで念を押されてしまったら仕方がない。諦めておとなしく過ごすとしよう。


「私が見てますのでクレアくんは」
「はい」


クレアはまた前線へと走って向かう。くっ、あいつはまだ戦えるっていうのに僕は・・・僕は一体何をしているんだ。さっきどうして油断した。油断せずに周囲の警戒をしていれば、いやそもそも調子に乗って緊急時以外でどうして『領域』を発動したんだ・・・。甘い、甘かった。片腕だけで済んで良かった。普通にさっき僕は死んでもおかしくなかったのに。悔しい。


「どうして泣くのですか」
「え?」


ユリさんの指摘で僕は自分が泣いていることに気がついた。ああ、そんなことに気がつかなくなるくらい感情を殺していたのか。


「まあ、確かにさっきの行動は褒められたものではありません・・・ですが、そもそも私たちがきちんと抑えていなかったのも原因なんです」
「でも・・・僕が弱かったから・・・」
「ええ、あなたは弱い。だから生き延びたことを感謝してこれから先たくさん戦いなさい」
「そうだな。ミライ。お前はまだまだ若いし聞けばこの世界に来てまだ5ヶ月ぐらいだと言うんじゃないか。5ヶ月であのクラスの龍を前にしてあそこまで戦えるなんて大したものだ」
「ユリさん・・・ハルさん・・・」
「はあ、それにお前は一番先に向かって行っただろ?僕もそこは見習わなくちゃな」


二人の言葉を聞いて少しだけ、落ち着くことができた。そうだな・・・今回のことを教訓にしてこれからもっと強くなればいい。ー1人で倒せるぐらいに


落ち着いてきた僕の耳次に届いてきた言葉はユンさんの慌てた声だった


「まずい!もう一度『流星火山』がくる!防御魔法も間に合わない!全員逃げろ!」

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