電気使いは今日もノリで生きる

歩海

放火の犯人

水無月5週目???


「ミライ!」


声をかけるけどだめだ、何も反応がない。人を殺したことがないと言っていたから初めて人を殺したことによるショックによるものだろう。あのエルフの老人の体から腕を抜き取ってから崩れ落ちてしまった。


「リンナ先輩」


今すぐにでも何か声をかけてあげたいがそれよりも優先しなければならないことがある。先輩もみじかな人を亡くしてしまったショックで動けないとかなり厳しいけどどうなんだろう。


「・・・・ありがとう」


「私は大丈夫よ。それで、どうしたのかしら」
「一つだけ確認したいことができたので」


無理をしている。それがすぐにわかるほど痛々しい表情をしている。僕はまだ人を殺したことはないけれど親しい人間を・・・いやそもそも両親を亡くしているからその悲しみはわかる。僕はまだ幼かったから何が起きたのかすぐにわからなかったし僕の周りには院長様をはじめとして孤児院の仲間たちがいた。それでも両親の死を知ったときにはかなりのショックを受けたしかなり悲しかった。それが直後ともなればかなり大きなものとなるだろう


「なにがあるの?」
「先ほどそのご老人の最期の言葉についてです」


さらに傷口を広げかねないことにはなるけれどこれは聞いておかなければならない。一点だけどうしても不可解なことがあったから。


「そのご老人は僕たちを襲えと神託で言われたってことですよね」
「ええ、そうね。おそらくその演技のためにあんな態度をとったのでしょう」
「つまり犯人が僕らではないと知っていた?」
「・・・」


おかしな点に気がついたみたいだ。先輩は頭の回転は悪くない。すぐに僕の言いたいことをすぐに理解してくれただろう。


この老人は僕らが犯人だと信じていた。演技だと言い切るにはあまりに不自然だ。現にさきほど、この老人は僕らに対して一言も放火魔だと口にしなかった。死の淵に立たされていたとはいえ、僕らの姿は確認できていたはずだ。それなのに一言も追及がないのはおかしい。死にそうになっているときに人間は本当のことをいいやすい・・・って聞いたことがあるから多分嘘は言っていないと思う


「なら少し変ね。まさか操られていた・・・・・・の?」
「その可能性が高いと思います」


考えたくはないけれど。なぜなら人にここまで強力な催眠をかけることができるのはかなり高位の魔法使いである可能性が高い。つまりこの付近に手練れがいるということになる。ミライが欠けている今の状況で戦闘に入るのだけはさけたい。


「なら神託も嘘ということかしら?」
「と、なりますよね」


そもそも神託なんてあやふやだし。神獣が何かを話すなんて普通は滅多にないからね。


そんな風に僕が考えたときだった。そのが聞こえてきたのは


『ひどいなぁ。確かに催眠はかけたけど、神託は本物だよ』
「誰だ!」


上空から声が聞こえたので上を向いてみる。そして見た、その姿を。大きな羽を羽ばたかせながらゆっくりと地上に降りてきたその姿を。


姿は孔雀に近しい。大きさもそこまで大きくなくせいぜい3メートルくらいだろうか。しかし全体的にまとっている焔によって全く別物であると突きつけられる。体の割に翼は大きく、その羽ばたきによって強風を発生させている。目は赤く、クチバシはかなり鋭い。


間違いない。僕が復讐するべき相手、『朱雀』がここにいた。四聖獣の一角にして神獣の一体。火の象徴であり鳳凰や迦楼羅などという異名を持つ存在。それが、なぜこんな森に


『一応名乗ろうか、初めまして。さあ君達、僕を崇め奉りたまえ』
「え・・ああ」


そんなことを言われてもね。僕はお前を崇める気も奉る気も全くないんだけどな!


「『火の玉』」


大量の火の玉を生み出し、『朱雀』めがけて放っていく。


「お前だけは!お前だけは、決して許さない」
『んー?君は誰だ?効かないからいいけど正直腹が立つなぁ』


『朱雀』の体に触れた瞬間、火の玉たちは全部吸収されてしまった。それよりもこいつは今なんて言った。僕のことを覚えていないだと。あんな・・・あんなことをしておいて


「お前は僕のことを覚えていないのか。12年前に殺した夫婦のことを!」
『12年前?えっと、何したっけ?もしかして君と会ってるのかな?でもおかしいな。ならどうして君は生きているんだ?』


生きている理由?そんなの、一つに決まっているだろ


「・・・・両親が僕を逃がしてくれたんだ。お前の攻撃をかばって、かばったことで死んだ」
『ふーん、そうなんだ。でも覚えていないな〜・・・あ、今君両親って言った?』
「そうだ。火の国の外れの話だ」
『ああ!思い出した。あれはまた滑稽だよな〜優秀な夫婦だったから子供を犠牲にすれば生かしてあげるよって言ったのにそれなら自分たちを殺せってさ〜案の定君は弱いし』
「・・・!」


わかっているさ。僕が弱いことなんてさ。そんなことわかりきっている。ミライを見るたびに何度でも何度でも痛感するよ。それに今だって・・・僕の魔法で人を殺すことができるのだろうか。


いや、それよりも・・・


「僕が死ねば父さんと母さんが生き残ることができたのか」
『そうだね〜弱い君を生かすために強い二人が死んだ。君はもう生きているだけで罪なんだよ』
「そんな」


どうして僕を犠牲にするって考えをすることができなかったのだろうか。僕を犠牲にすれば二人とも助かったはずなのに。どうして・・・どうして!


『ほんと無駄死にだよ〜だって気になったからエルフのバカな老人を嗾けたっていうのに君弱すぎだよ。さっきも君は何もしてないじゃん』
「それはそうだけど!」


それでも、僕は・・・お前を倒すために強くなりたいんだ。お前を殺して、復讐を遂げる。


『君が僕に?はははははは、冗談きついなぁ。弱い君がどうして僕に勝てるっていうのさ』
「・・・」


悔しい。何も。言い返せない。何か言い返したらいいんだけど、『朱雀』の言っていることが正論であるために何も言い返すことができない。


「しっかりしなさい」
「リンナ先輩・・・?」


先輩が僕に声をかけてくる。けど、今何言われたって・・・


「ありきたりだけど言わせてもらうわ。両親はあなたが大切・・であ、愛してる・・・・からこそ生きて欲しいと望んだのよ」
『恥ずかしいなら言わなきゃいいのに』
「黙りなさい。こちらはうら若き乙女よ・・・ていうかあんたミライ君に似ているわね」


大切・・・愛しているから・・・


リンナ先輩の言葉が僕の頭を駆け巡る。そういえば。ふと思ってペンダントを手に取る。そこの裏に挟まっていた手紙。今ここに持ってきていないけど、何が書いてあったのかは覚えている。何度も何度も読み返したその紙には一言だけ書かれていた


『クレアへ・・・愛してるわ』


丁寧に描かれた手紙、それが死ぬ直前に書かれたものだということはわかる。なぜなら、この文字は、で書かれていた。『朱雀』の攻撃を受けた後だったのだろう。傷を負いながらも僕に向けたメッセージ。


「『朱雀』」
「うん?」


僕は弱い。今だってお前を殺してやりたいけど・・・今の僕では勝てないことがわかる。でも、でも!


「人間をなめるな!両親の想いを背負うことで・・・僕はもっと強くなる」
『残念だけど・・・今ここで君は死ぬんだ』
「僕は・・・死ぬわけにはいかない。リンナ先輩」
「なに?」
「ありがとうございます」


まだ、完全には吹っ切れることはできていないけどそれでも前を向くことができました。それから・・


「ごめんなさい」
『なんでこんなに復活するのはやいのかなー』


絶望なんて、過去に何度でもしたからね。孤児だったころ、何度自分の人生に絶望したことだろうか。物心ついたころから両親がいなくて生きていくためにはお金を稼がねばならず、そこで自分の容姿で何度いじめを受けたことか。生まれてきたことを恨んだよ。死にたくなったことさえあった。でも、それを許される環境じゃなかった


『君の昔話なんてどうでもいいんだけどー』
「そうだね・・・だからここから逃げる!『fire』」
『は?君正気?狙ったのって』


僕の攻撃は、森を狙った。目的は簡単。


『いや、さすがに放火を実際にするなんてなー。おまけに僕に炎が効かないからって煙で目くらましをするなんてさ』
「リンナ先輩!逃げますよ」
「ええ、ミライ君をお願い」


ミライを担ぎながら逃げる。幸いなことに『朱雀』は追ってくる気配がなかった


『最後に一つだけ言っておくよ。エルフの少女。今までの爆発事件は僕がしたこと。こうすると面白いもんが見れるって言われたからねーいやぁ確かに面白いものが観れたよ』


『あ、でもただで返すのも癪だな。それに、炎の化身たる僕が放火で負けるのもね。というわけで、これで勘弁してあげる「天照アマテラス」』


『朱雀』がいた方向から巨大な火の玉が現れたと思ったら・・・それが爆発した。そしてたくさんの火の玉になって森に降り注ぐ。僕も一部発火したけれども、この攻撃によって、森の全てが燃えることになった。


僕らがエルフの里に帰ってきてから消化活動が行われた。しかし火の手は弱まることなく一晩中燃え続けた。火が全て消えた後、残ったのは一面燃えて、焦げた木々の数々が。あれだけ自然豊かだった森は今や一本の木も残すことなく灰になってしまっていた。


そんな状態だが、ミライが心配なので僕とミライは一旦学校に戻ることにした・・・いや、しばらく戻ることはないだろうな。僕らに対しての印象が今や最悪だ。放火未遂から放火を招いた元凶としてかなり冷たい目で見られていたから。


でも心配なのはそこじゃない。あれからずっと、ミライはどこか憔悴しきってきて返事もろくにしない。食事だってとらないし、もしかしたら寝てさえいないんじゃないだろうか。


大丈夫かな・・・こればっかりは自分で決着をつけないといけないけど・・・この世界を生きるためには

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