電気使いは今日もノリで生きる

歩海

少し展開が甘すぎるんじゃないか?

???


目が覚めた。ああ、ここはいつものところなのかな。そして・・・これは一体どういうことだ?僕のからだがベットに固定されている。今までこんなことなかったのになんで?


「あ、起きた?」


クレアがいる!そっか。今回は相打ちというか一緒に気絶したわけじゃないもんね。


「なにが起きたの?」
「いやそれはこっちの言葉。どうしたっていうのさ」


どうしたって言われてもね・・・。記憶も曖昧だし


「どこまで覚えてる?」
「あー楠と戦っていて・・それで、相手を殴らなきゃって思いだけで」


あの時の状態を説明しろって言われても、自分でもよくわからないんだよね。ただただ相手を殴らなきゃ倒さなきゃっていうのだけは覚えているんだけど


「なにをしたんだ?」
「『電気鎧armor第三形態third』。『電気鎧armor』の電気を体の内側に発生させる魔法だよ」


反射やら反応やら電気信号やら色々と説明してあげたいところだけど今はそれよりも


「それで?試合は」


あれ?なんか急に視線をそらしてきたぞ。もしかして・・・僕負けてしまったのかな。まあ負けてしまったのなら負けてしまったでしょうがないことだけどね。でもそれだとなんで視線をそらすのかはわからないな。すぐに「負けたよ」って一言いえばそれで済むのに。僕が負けたくらいで落ち込むと思われているのならそれは心外とだけ言っておこうか。


「一応ミライの勝ちってことになっているけど」
「けど?」


どうやらあの試合に関して僕がしたことはスポーツマンシップに反するというかやりすぎてしまったみたいなんだよね。もう意識を失っている楠にまだ殴りかかろうとしたことはさすがにひどいのではないか。反則行為として負けでいいじゃないかと。うわぁここでみんなから嫌われていることが響いてくるのか


「サリア先輩が一応フォローしてくれてる。これはスキルの暴走だって」


聞いたことないんだけど。あれ?前に一度聞いたっけ?確か『感知《feel》』の魔法の練習をしている時に起きたことだっけ?


「まあそうなんだけど、要は反動のことらしい」
「反動」


反動かぁ、それだとするならなんだ?何か暴走するトリガーってあったっけ?うーん。


「はあ」
「どうしたんだよ」


さすがに目の前でため息吐かれると僕も凹むからね。なんでそんなに蔑んだ目で僕を見てくるんだよ


「さすがに今回のは僕も怒っているよ」
「え?」
「倒れるのはいいんだけどさ、限界まで諦めてないってことだから。でも今回のって下手したらクスノキを殺してしまうかもしれないんだよ。ミライの手に入れたいことって友を殺してまで得たいものなの?」
「それは・・・」


言葉に詰まってしまう。ここで楠とは友達なんかじゃないって言ったらそれはそれで問題だしなぁ。どうすればいいのかな・・・でもそうか。僕はあのままだと楠を殺してしまうところだったのか。実際止められたからはどうなっていたのかはわからないのだろうけどそれを危惧してしまうくらいあの時の僕は異常だったということなのか


「はあ、少しは頭が冷えた?」


それはそうだね。もう少し考えないといけない・・・のかな。強くなることが僕のしたかったこと?まあブレッブレなのは感じているけど根幹は変わっていないはずだ。殺す・・・か。わからない。こればっかしだけれどもわからいんだよね。


「悩むのもわかるよ。でも」


ー今のミライは間違っていると思う


クレアから突きつけられる言葉。僕がしてきたことは間違いだったのだろうか。確かに僕は人を殺すことを望んでなんかいない。だから、でも。じゃあ、どこで間違えてしまったのだろうか


「大丈夫だよ。ミライが間違えている時は、僕がいや、僕らが止めるから」


ほら、あっちをみて。そういうクレアの指差す方向を見ればシェミン先輩を初めとする先輩たちの姿が。みんな怒っているようだけど、それでも


ー僕を見ててくれていた


「・・・心配・・・だから・・・先輩として・・・見守っててあげる」
「まあもうあんなことはいやだからな」
「今ならまだ間に合うもんねー」
「・・・ミライなら問題ない」
「ええ、大丈夫です。私たちはもう間違えたりしませんから」
「うん」


色々と聞きたいことがあるんですけど、まあいいか。今はそんなこと大事じゃないし。


「ほら、ミライ」


せかさなくたってもわかっているって。僕がこれからするべきこと、だろ?


「みなさんすみ「違うよ」」


・・・もう一度顔を見渡す。みんな笑顔を向けてくれていた。


「ありがとうございます」


今度は正しい言葉を選ぶことができたみたいだ。まあなんでこんなに僕に甘いのかはよくわからないけど・・・深く考えることはやめておこうか


「まあ、甘いのは事実ですが、思いつめないでくださいね」
「そうだね〜ま、こういう時は好きにやんなよ〜」
「好きにしろ、お前なら大丈夫だから」
「・・・大丈夫」
「後輩が何かした時にこその先輩だっつーの」


温かい言葉をかけてくれる。それはとても嬉しいことで、どうしてそこまでしてくれるのかはわからないんだけどね。そしてみんな慌ただしく出て行った。やっぱり忙しい中来てくれたんだな毎回毎回本当にご苦労様ですってね。こんなこと言ったらまたどやされそうだけど


















先輩達の後をついていく。少し気になることがあるから僕も残らなかったんだ。


「サリア先輩」
「どうしたんですか?」
「あの、少し聞きたいことがありまして」


本当は少しじゃないんだけどね、山ほどだよ。それでも物事には優先順位ってものがあるし一番聞きたいことだけを確認する


また・・ってことは誰か昔暴走を起こしてしまったことがあるんですか?」


先ほどの先輩達の言葉。それが一番引っかかっていた。そしてそれに対して先輩達はどこかしら後悔しているようにも見えた。だからこそミライにあのような態度をとったのだろう


「そうですね・・・。わかりました。これだけは伝えておきます。昔、セリアが暴走しました」
「え・・・」
「私たちはそれを後悔しています。止めることができたのにそれを防げなかった自分が」
「ま、だからミライに対して余裕をもって接することができるんだけどな」
「そうだね〜」


そのあと、少しばかり話をして、聞きたいことを聞き終えたので僕は先輩達と離れて一人歩く。まさかセリア先輩も暴走をしていたとは思わなかった。


「それにしても、暴走、ね」


暴走について少しばかり聞いたことがある。ほとんど知られていない事実だけど、『冥』の国に伝わる話だからと日記に記されていた。


暴走とは、スキルの限界を超える力。だが、同時に暴走を引き起こした人間はその負荷に耐えることができずに最悪の場合死んでしまう。限界を超えるということは分かりやすく言うならばセーブを外すということ。だか反動が怖い。でも、稀にそれを耐え生き残る者がいることも知っている。そしてその人達は皆、人智を超える力を手に入れることができることも知っている。


「セリア先輩のあの魔法、やっぱりあの系統の力か」


でも、どれなんだろう。わからない。というかどれでもいいけどあれなんなの?ミライの時間を完全に止めていたんだけど。どんな『時間』系の魔法でも対象を完全に時間に閉じ込めるとかもう人の力を超えてる。


「棄権、か」


それよりも今気にしなければいけないことは、ミライの次の試合だ。ミライに対して悪いイメージが付いていることもそれによって反則負けだと言われていることも、結局は外野が勝手に言っているにすぎない。どうせ明日・・には全て片がつく。


「試合に、間に合うのかな・・・」


今日は水無月4週目の風曜日、つまりは明日、ミライはイチノセと戦う予定になっている。そしてそのミライは今クスノキとの戦いの反動とかで負傷中。


「まあシェミン先輩が治療してくれるって言うし大丈夫かな」


負けてしまった僕に何も言う資格はない。だからこそ第三者視点で冷静に物事を見よう。そして、ないとは言えないが、これ以上、暴走が進むのなら、友人としてミライを止めよう

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