電気使いは今日もノリで生きる

歩海

いつになったら初勝利できるんだろう



迸る電気。そもそも電気の速度はかなりはやい。光とまではいかないがそれでもかなりはやいのは間違いない。少なくとも人間の反射神経では到底躱すことはできない。


それが僕の世界地球の常識だった


アニメや漫画でよくある電撃をあるいは音、光を躱す行動、人間はそんなことできない。それが常識、それが当たり前の話。


でもそれはこの世界異世界の常識ではない。わかっていたことなのに・・・まだどこかで認めていない部分があった。


「なんで人間が電気を避けれる・・・」
「まあ、そりゃ、ね。どうした?まさかとは思うけど一発だけで終わりってことはないよね?」
「・・・舐めるなぁ」


自分の手全体・・・からではなく、それぞれのからに変更する。一撃の強さは小さくなるけれどもその分複数の雷撃を放つことができる。例え躱すことができたとしても、広範囲に広げていればどれかは当たるだろう。


「すごいね。器用だな・・・でもまだ甘い・・


シオンは体を回転させ躱す。そしてそのまま指によって空いた隙間・・・・・を器用にすり抜けていく。


「全く当たらない・・・」
「それは基本魔法・・・・だからね。当たらないことは恥じゃないよ」
「基本魔法だと」


確かに電気を放っているだけだからな。直線で撃っているだけで曲がったりしているわけではない・・・あれ?もしかして曲がるのかな?


イメージで魔法が使えるようになったのなら、そこに追加のイメージを入れることで


いつも通りまっすぐに進んで行く


「なんでだ・・・」
「そりゃ基本魔法だからね・・・基本魔法を知らないということはやはり」
「何の話だ」
「こっちの話だよ。それで?もうおしまいかい?」


確かに僕の『放電thunder』はあいつには全く効かないみたいだ。ならば近距離ならばどうだ?魔法使いは総じて近距離戦闘が苦手だと相場が決まっている。この際僕も苦手だということには目をつぶろう。


「『電気鎧armor』」


電気をまとった拳だ。当たったら痺れるような痛みが来るはず。電気だからね。


「とりゃぁ」
「ミライ、君喧嘩したことないのかい?」


な、なんで当たんないんだよ。我武者羅に振り回してもシオンは涼しい顔をして避けていく。こうなったらタックルはどうだ。攻撃の範囲を広げればきっと当たるはず。


「動きが単調だよ。読みやすい」


ぜ、全部ダメなのか。・・・まだだ!


「『放電thunder』!」


手からじゃない。熊に放った電撃のように体全部から解き放つようにしてシオンを吹き飛ばせ!


「これはすごいね。でも、時間切れ」


「『氷の領域アイス・フィールド』」


シオンの足元を中心にして地面が凍っていく。目の錯覚かもしれないがオーラ状のものが広がっているようにも見える。


氷が展開していくにつれて、僕の解き放った電気が消えていく。消されているのか


「これでおしまい。『アイス』」


その声を最後に頭に強い衝撃を受けて・・・僕は気を失った。














僕は負けた・・・それも完膚なきまでに。熊の時とはまた違う。僕は僕の全力を全て叩き潰された。全く通用しなかった。僕は・・・本当に弱い。


「・・・ねえ、大丈夫か?」
「は!・・・え、あシオン先輩?」
「良かった。無事で」


どうやらシオン先輩が介抱してくださっていたみたいだ。


「あの、僕は」
「まあ一応加減しておいたから大丈夫だと思うけど・・・しばらくは安静にしていないとダメだよ」


聞くところによれば僕の上から小さな氷の塊を落としたんだそうだ。これがもしタライだったらひと昔のバラエティ番組か!って突っ込みたいけどそんなことはなかった。


「本当にごめんね?まさか気絶するなんて思わなくて」


多分あれです。長期移動で疲れていただけなんです。


「そっか。よかった〜入学前の新入生をボコったってなったらシズクになんて言われるか」
「・・・」


入学前の新入生をカモってましたけどね。


「はははそれを言われると辛いね。じゃあお詫びも兼ねて夕飯を奢るよ。まだ食べていないよね?」
「はい」


あの、それから賭けのことなんですけど、僕銀貨しか持っていないので払えないんですけど


「今回はいいよ。さすがにここでお金もらうと後が怖い」
「そうですか」
「ここは遠慮しないで先輩におごらr「シオン!こんなところで何をしてらっしゃるのかしら?」げ、シズク」


いつの間にか近づいてきたのこの人がシズクさんなのか。シオン先輩と違って青い綺麗な髪だ。で、目の色は先輩と同じ紫色と。目の色が同じっていうことは同じ国出身かな


「まったくもう、勝手に行かないでくださいまし。残された方のことも考えて欲しいのですの」
「そうは言ってもね・・・でもさ、シズク」
「なんですの?」
異世界人・・・・見つけた」
「・・・もしかして、あなたが」


どうしてバレた。そんなことひとつも口にしてなかったのに


「まあ理由は幾つかあるけどとりあえず先にご飯食べましょう」
「待ってくださいまし。さすがに異世界人を迂闊に行動させるわけにはいけませんの」
「じゃあどうするの?」
「・・・」


考え込んでいるシズクさん。シオン先輩の保護者的な存在なのかな


「しょうがないですわね。ルールを破ることになりますけど・・・・私たちのギルドにきてくださいまし」
「いいの?」
「だからしょうがなくと言ってますでしょう。常識を考えてくださいな」
「う、うん」


シオン先輩を丸め込んだ後、シズクさんはこちらを向いた


「名乗りたいところですが・・・先に私たちのギルドに向かいましょう」
「わ、わかりました」


名乗るのをやめるように暗に言われた気がした。シズクさんはきっと色々と考えているだろうからきっと何か考えがあってのことなんだろう。ここはおとなしく従おう。


二人について行くと、少し離れた場所に出てきた。どうやらここらへんにギルドの寮は固まっているらしい。でも、それらしい建物はあまり見えてこない。あるのは扉がひとつだけ


「あの、」
「すみませんがお静かに」
「はい」


言葉を発することもダメらしい。そしてシオン先輩はゆっくりと扉を開けていく。後に続いて扉をくぐると


そこは、ひとつの大きな街だった。


「こ、これは」
「行きましょう。私たちは・・・7番ギルドですわ」


入り口に7と書かれた建物に入っていく。そしてそのうちの一つの部屋に三人で入る。


「さて、まずは無礼をお許しください。シオンのことも含めて」
「い、いえそんな」
「では、まずは最初に確認事項を、あなたは異世界人で間違いありませんの?」
「はい、僕はこことは別の世界から来ました」
「そうですの、シオンの嘘ではないようですわね」
「さすがにひどいよ」


確認されたのはいいけど・・・それがどうして問題なんだろう。そしてなんで僕が異世界からきたとわかったのかも説明して欲しい。


「わかりました。全部説明いたしますわ・・・とはいえ、私が説明できるのは問題点のみ。シオンちゃんと話してくださいましよ」
「大丈夫だって」


そしてまず、問題点だが、『グラシアに危機が訪れる時異邦の地より救世主現れん』という大予言が昔からあるらしい。つまり裏を返せば異世界の人物がいるということはそれすなわちグラシアこの世界に危機が迫っていることの裏返しでもあるということ


「そうだったんですか」
「それで?どうしてこの方が異世界人だと?」
「それは・・・僕が説明するよりも本人に直接行ってもらおう。ミライ、シズクに自己紹介して」


なんでまた?・・・そういえばしてなかったっけ


「紅 美頼です」
「!なるほど」
「え?」
「本来、私たちは名前のみですの。家名があるということはすなわち貴族ということになりまして」


・・・そういえば異世界ってそんなことがあったっけ。すっかり失念していたよ


「これからは名前のみ、ミライとだけ名乗るようにすればいいさ」
「そうですね。そうします」
「あとは、基本魔法について全く知らなかったからな」
「それ戦闘中にも言ってましたね。なんのことですか?」


基本魔法、それはスキルを持つものが一番最初に使うと言われるもっとも簡単でスキルの名前を表した魔法らしい。スキル名からイメージしやすく複雑なことは一切しないので簡単に使うことができる。だが逆に応用力が乏しく、複雑な動きを入れることができない。それは別の魔法として考える必要がある


「そうだったんですね」
「うん、だから少し驚いたんだ。あんな風に複数の使い方なかなかできないからね」


そうは言ってもあれはどうやっているのかわからないからな。イメージしてたらできるようになった感じだし


「なるほどね。まあそのうち色々なことができるようになるよ。というわけで、夕飯にしよう。今日はうちのギルドで食べて行きなよ」


その誘いにありがたく乗ることにする。入学前の新入生をギルドに連れてくることは重大な規則違反なので大っぴらに食事をとることができなかったが、それでもシオン先輩とシズク先輩と三人で食べる夕食は異世界にきて一番美味しいものだった






















「珍しいですわねシオンが考えごとなんて」


ミライが帰ったあと、物思いに耽っていたらシズクにそんなことを言われた


「もしかして、ミライくんのことでしょうか」
「うん、そうだね」


今日戦った新入生のことを思い出す。お世辞にも強いとは言えない。それでも見所はたくさんある新入生だと思う。誰にも教わらずにイメージだけで魔法を習得したからこそ、基本魔法の変形を成し遂げることができた


(そして、気がついていないようだが、ミライ、君はどれだけ電気を放出し続けたと思っているんだ?)


『氷の領域』を発動した時、無意識ながら抵抗しようとしたのだろう。かなりの電撃がミライの体から発せられた。おかげでこちらもかなりの力を使ってしまった。


(特殊な訓練を受けていないのに、このとタメをはるなんてね)


「楽しそうですわね」
「うん、見所のある新入生が見つかったからね」


楽しみだよ。ミライ。願わくは、同じギルドに入って欲しいけど・・・それはミライが決めることだな。


「ミライ、君が敵でも味方でもどちらでも、今年の交流戦は楽しいことになりそうだ」

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