電気使いは今日もノリで生きる

歩海

久しぶりのまともな食事



美味しそうな夕飯が目の前にある。それだけのことなのに、嬉しすぎて涙が出そうになる。


「紅?どうしたんだ?」


並べられご飯を見て感動のあまり震えている僕を一ノ瀬はすごく不思議そうに見ている。お前らにはわからないんだよ。こうやってちゃんとした食事が出てくることのありがたさを。命の心配をしなくても・・・あれ?これは変わんなくね?なんか腹黒そうな王様だったし一服持ってある可能性もありそうだ。


「こちらへどうぞ」


指定された席につく。どうやらだいたい部屋割り通りの席順になりそうだ。角先たちと話したかったんだけど仕方がないな。


「隣いいですか?」
「え?いいよ。・・・あ、四万十さん」


やったぞ!隣が四万十さんでまだ話せる人が来てくれて。それに少し気になっていたしちょうどいいかな。


「ふふっ」
「どうしたの?急に笑って」
「いえ、久しぶりだなと思いまして」


やっぱりみんな思うことは同じなようだ。一ヶ月魚だけの生活だなんて、それも品数があるわけでもなく毎回毎回焼き魚のみ。おまけに気をぬいていたら焦げてしまう。ガンになるには毎日丸焦げのイワシを三匹、それを一年間続けなければならないらしいから心配はいらないんだけど、それでもいつ終わるのかわからないからあんまり焦がしたくなかったんだよね。


「どれも美味しそうだよね・・・あ、でもあの焼き魚はさすがにいらないかな」
「そうですね。しばらく魚は食べたくないですよ」


同じ経験をすれば同じようなことを思うんだな。特に今みたいに危険な経験をして一息をつける今は。あーあ、一ノ瀬たちを悪く言う気はないけど角先たちと話していたら多分楽しいんだろうな。


「紅って四万十とそんなに仲良かったっけ?」
「まあさすがに一ヶ月も一緒にいましたので」


仲よさそうに話しているのがそんなに不思議なのだろうか。あ、確かに地球では僕はあまり人と話すタイプじゃなかったし、ましてや女子なんて上原くらいしか話したことなんてなかったかも。


「そっか。お前ら森にいたって言っていたな。どんな感じなんだ?異世界って」


どんなって言われても・・・一言で言うなら危険だな。準備もなしにいきなり放り込まれるなんてもう二度とやりたくないよ。


「それじゃあそろそろ食べましょうか。いただきます」
「「「「いただきます」」」」


五月雨さんの号令でみんな一斉に食べ始める。こういう時も日本人は大人しくて誰一人フライングして食べ始めるような人はいないんだよな。まあ今はお互いのスキルのことを話したりしているからそれどころではないのだろう。


「う、うまい」


思わず感想が飛び出す。本当に美味しい。ちゃんと手の込んだ料理ってここまで美味しいんだな。本来は毒とか気にしなければならないんだけどそれすら気にならないくらい美味しい


「大丈夫ですよ。実はこそっと料理の全てを『浄化』しておきましたから」


そうなのか、気が付かなかった。どうやら魔法は練習すれば誰にも気付かれることなく使えるようになるみたいだ。それをしれっと使いこなせている四万十さんに驚くけどもそのおかげで美味しくご飯を食べられるしいいか。


それにしても本当に美味しい。どうやら過去に地球からこの世界に渡ってきた人はいるみたいで少し地球の食事と似ている気がする。米と野菜炒めと焼き魚と味噌汁みたいなもの。どれも少し違う感じだけどもそれは全く気にならない。


気がつけば、僕は夕飯をたらふく食べてしまっていた。しょうがないでしょ久しぶりだったんだし。こんなに美味しいのはいつぶりか。これからは心配ないと思うと嬉しさがこみ上げてくるよ。


「さて、そろそろ帰りましょうか。魔術学校に行くとなるとそうとう朝早いみたいだし、行かなくてもしばらくクラスメイトと会えなくなるのよ。お別れくらいちゃんとしときましょ」


そうか朝早いのか。ならばさっさと戻って寝るとするか。


「いや、五月雨。それならみんなの考えを聞いておきたい」
「どういうこと?」


帰る空気だっているのに何言い出すんだよ一ノ瀬。あ、心配しなくても何も言わないよ。女子たちが怖いし。だからお前らこっちを見ないでくれ。大人しくしとくから。


「紅くんの大人しくしとくからって意外と安心できませんからね」


なんかものすごいひどいことを言われたんだけど。


「今日何回それをしたんですか。カナデさんの時しかり、王広間の時しかり」


そんな具体的なことを言われたら反論できないんですが。というか僕が口開いたら悪口だけが出てくると思ってるの?それはさすがにひどくないか


「思ったんだけど、みんなで一緒に行動したほうがいいと思ったんだ。それで、青目、紅、楠に聞いたらみんな学校に行くみたいだ。だから聞きたいんだけど、ここに残ろうと思っている人はいないか?」


お願いだから僕をそこのメンバーにいれないでくれ。恥ずかしいから。それにこの状況だと城に残ろうと思っていてもなかなか言い出せないと思うんだけど


「別に怒ったり無理やり変えようとは思わないさ。それでもやっぱり紅たちが別行動していたって話を聞いて思ったんだ。もしかしたら俺の知らない間に誰か死ぬんじゃないかって。それは嫌だからさ」
「それもそうだな・・・といっても強制はできないが。まあでもひとまずみんな一ノ瀬の意見に賛成でいいか?出来る限り俺たちは一緒に行動すると」
「俺も賛成だぜ。やっぱりみんな一緒がいいもんな」


あーあーあー。一ノ瀬だけでなく二宮にのみや三在さんざいまでもが言いだしちゃったよ。これじゃあクラスの女子たちはほとんど学校に行くことが決定したな。イケメンは正義。許さん


「紅くんはもう少し相手を思いやる心を持ちましょう」


あの、誰もが思うことを言っただけなんですけど「誰もが口にしないことを言ったんですよ。幸い私以外に聞こえてないからいいものを」


そりゃ近くにいる人にしか聞こえないよ。僕は声の小さい人間なんだもん。


「それを自覚している分余計にたちが悪いです」
「そう言われてもな」


「そういや聞いてなかったけど、四万十はどうするんだ?」
「え?ま、まあ私も学校に行こうかな」


そして四万十さんで男子も学校に行くように誘導すると、なかなか策士だな。えっと、すでに日暮さんも参加を表明しているからクラスの美少女たちも参加するんだね。やっぱり顔がいいと色々と便利だねぇ


「紅くん色々と最低です」
「すみません」


さすがに今のは失言だったな。素直に謝ろう。暗にほかの人は顔がよくないといっているようなものだしな。一応フォローすると悪くはないからな。比較対象がおかしいだけで普通に可愛い人はいっぱいいるんだよ


案の定クラスは学校に行くこと一色になっていた。さすがにチョロ過ぎて心配になってくるんだけども。まあしばらくゆっくりできると思えばそれもまた一興か。


「でも部屋割りの感じだと紅くん巻き込まれ体質っぽいですけどね」
「それは言わないで欲しかったな」


フラグが完全に立った瞬間だよ。意識しないようにしていたのにな。僕は自分のことを巻き込まれ体質だなんて思っていないから。今回のはたまたまぼっt・・・今回たまたま巻き込まれただけだよ。うん、偶然偶然。


話は終わりっていうことで各自解散ということになった。部屋に戻るだけだけどね。お腹いっぱいになって眠たくなってきたな。ここなら特に危険な動物もいるわけないし・・・気になるのは王様たちの動向だけどここで変に僕らを殺してしまったら大問題だろうし大丈夫だよね。明日寝坊しないようにだけ気をつけていよう

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