電気使いは今日もノリで生きる

歩海

閑話もとい第1章プロローグ



まことたちが転移した先は見知らぬ場所であった。突然のことで戸惑っているクラスメイトたち。いきなりのことでなにがなにやらわからなくなっているようだ。


「みんな、落ち着け!落ち着いて周りをよく見るんだ。あの時教室にいた人でいまいない人とかの確認をするんだ」


こういう時にやはり頼りになるのが一ノ瀬 裕也。イケメンと言われるだけあって女子たちは素直に聞いてくれることが多く、本人の社交的な性格から男子の中心人物でもある


「だいたいみんないるかな」
「そうだな・・・少し少ない気もしないでもないけどそもそもあの時教室にいなかったのかな」


中心人物であるということはそれだけクラスの人の顔や名前を覚えているということでもある。つまり、いまいない人を把握することができるだ。


「あれ?みーくんたちがいない」
「それに聖奈ちゃんや友恵ちゃん、茜ちゃんも」
「なんだって?」


そしてクラスメイトの協力によっていまいない人物が徐々に明らかになってくる


「いまいないのは全部で8人か・・・しかも全員あの時教室にいた・・・一体どういうことなんだ?」
「ふむ、そろそろいいかな?」


少し謎があるもののだいたい落ち着いてきた頃に声がかかった。一ノ瀬たちが声が聞こえてきた方向を見ると、


「さて、こちらの方を向いたところで、話させてもらおう。まずは、よく我の召喚に応じてくれた。礼をいう」


みんながイメージする、王様の姿があった。歳は中年・・・50代くらいだろうか。少しばかり太っている感じがして、それでも王様だとわかるのは頭の上についている王冠のおかげ。上から目線で話しているのはこれまで押さえつけられて育ったことがないからだろうか。


「召喚だって?」
「どういうことだ?」


当然、いきなりそんなことを言われたところで反発が出てくるのは当たり前の話だ。一ノ瀬が抑えようとしてもみんなからの不満は止まりそうにない。


「ええい、せっかくの王の言葉だ。静まれい」


しかしそれも、王の横に控えている老人の一声によって押さえつけられる。ずっと、人を叱っていたことがあるからなのか叱り慣れている感じがする。そんな声を聞いたのなら、まだ高校二年生の彼らは反発することができない


「静かにしてくれたこと、感謝する」
「もったいなきお言葉」


「さて・・・簡潔に言えば諸君らには我々を助けてほしい」


王の言っていることを簡潔にまとめると、いま、この世界ーグラシアーは大いに荒れているらしい。一部の国同士で戦争が行われているのだ。もちろん、それを何とかしてほしいから召喚の儀を行ったわけではない。ある預言者から一つの予言、それもこの世界を揺るがすほどの予言がが発せられたのだ。


そう、この世界に魔王が生まれるというもの。この世界には人間をはじめとして様々な種族が生きて暮らしている。しかし、昔は少し違った。滅びてしまった種族がいるのだ。魔族と呼ばれるものたちだ。彼らは他の種族よりも優れた力を持っていた。そして彼らは自分たちがこの世界の主であると豪語し、他の種族を制圧しに戦争をふっかけてきた。このままでは滅びると危惧した当時の各種族の王たちは互いに手を取り合うことにした。その結果、それぞれの種族から選りすぐりのものたちで結成された最強の集団によって魔族を窮地に追いやった。しかし、魔族は最後の抵抗として、最強の魔族である、魔王を生み出した。今度は逆に劣勢になった連合軍であったが、人間の王が使用した禁断魔術『召喚の儀』によって召喚された異世界の勇者たちによって魔王は無事に討伐された。


「しかし、その時には魔族を完全に滅ぼすことはできなかった。何度も何度も彼らは魔王を祭り上げ、我々の国に侵攻してきた」


それでも最初の頃に比べると連合軍の者共は強くなっていたし、逆に魔族の力は弱くなっていった。だからこそ、何度も何度も侵攻に耐えそして、最後には彼らを殲滅することができた。


「そして我々は平和に過ごしてきた。だがしかし、今その均衡が壊れようとしている・・・だから私はもう一度召喚の儀を行った」


本来、異世界から来た人々はこの世界の人よりも強い力・・・スキルを持っている


「スキルだと?」
「ああ、そうだ。ステータスと唱えてみよ」


「「「「「ステータス」」」」」


それを聞いて全てのクラスメイトがステータスと唱えた。異世界のことを知っている人は期待に胸を膨らませ、そうでない人はなんともなしに


「・・・・」


喜びにあふれた表情をしたもの、微妙な表情をしたもの、よくわからない表情をしたもの、彼らの反応は様々だった。


「さて、どうだろうか・・・伝承が正しければこの中に『勇者』がいると思うのだが」
「あ、それは俺だな」


そう言って声をあげたのは青目 隆英あおめ たかひで。楠のことをいじめていたうちの一人。


「おお、お主か、ならば他に『聖女』がいると思うのだが。勇者の助けとなるものよ」
「・・・・」


今度は誰も反応しなかった。みんな互いに顔を合わせているだけで声を上げようとしない。


「バカな伝承では勇者とそれを補佐する聖女がいるはずだが・・お主ら、隠しても碌なことにはならぬぞ」
「そんなことを言われても、いないんだから仕方がないだろう。それに「勝手に話をするでない!」」


「陛下!こんな奴らに陛下が下手に出る必要がありませんぞ・・・私にお任せあれ」
「待て、アルバ。いないのならば仕方がない。勇者だけで魔王を討伐してもらおう」


またしても老人によって話を止められてしまった。そしてこの王様とアルバとの間で話がどんどん進んで行く。


「待ってくれよ。俺たちは別に魔王を倒すとは」
「!だから貴様ら「落ち着かんか!」す、すみません」
「すまぬな・・・もうお主らに頼らなければならないんだ」


だから頼む。再度言われてしまった。それを聞いてしまっては基本的にはお人好しな日本人の性格からして断りずらい・・・そんな空気が流れ始めていた。


そんな空気を破ったのは裕也でもなく、アルバでもなく、第三者の声であった。


「そうであるならば、彼らを学校へ入学させるべきです。彼らに知恵と、力を与えるのです。その上で決断させましょう」
「・・・・これはこれは、ようこそ『預言者』『星の使徒』ミラ・ジュリエット」


ミラ・ジュリエットと呼ばれたその少女はーおそらく美頼たちと同じくらいの年齢だろうから少女としておくー簡潔に言うならば非常に美しかった。蜂蜜色の長い髪の毛、パッチリと開いた青い目に透き通った肌、完成されたプロポーション、一目見て、美少女だとわかった。誰もが美少女だと認める、そんな存在がここにいた。実際、男女問わず見惚れていたクラスメイトたちは多くいた。男子だけでなく、女子をも虜にするまでの美貌だ。


「ええ、急に押しかけてごめんなさい」
「いえいえとんでもない。ジュリエット嬢にお越しいただけるとは・・・さて、どんなご用でしょうか?」
「あなたというよりも・・・この方たちへの客人を連れてまいりましたの」


そう言ってジュリエットが見たのは裕也たちの方だった。これには国王はおろか裕也たちも驚いてしまった。初対面のはずなのになぜか客人を伴ってやってきた。それだけで驚きに値する。


「カナデ、連れて来てくださる?」
「すでにこちらに」


だが、それをも上回る衝撃が彼らを襲う。おそらくジュリエットの騎士であろうカナデが連れて来たのは・・・


「あ、みんないる」
「よかった〜」


ここにはいなかったクラスメイト美頼たちだったから

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