電気使いは今日もノリで生きる

歩海

初戦闘の果てに

「え?」


声をかけてくれた人を見る。僕と同じようにぱっとしない人だ。他の人と比べて少しばかり背が高いようだけども・・・他に印象がないな。新入生代表でもないし、僕と同じくモブとして生まれた人なのかな。


「初っ端からひどいな。まったく、初対面のやつに話す内容じゃねえよ」


気さくに返してくれる・・・そういえば初めてかもしれない。僕は心で考えていることを口に出してしまう性格らしい。だからせっかく僕に話しかけにきてくれた人も僕から離れていく。僕が思ったことを口に出してしまうのは僕が弱い人間だから。「優しい嘘」なんて言葉があるが、僕はそういったことが苦手だ。


「はは、馬鹿正直というかなんというか・・・お前、珍しいな」
「え?」
「自分の性格をそこまでわかっているのに変えようとしないなんてな」


変えようとしないんじゃなくて変えられないんだよ。変えられるならとっくに変えているっていうの。なんだよこいつ。初対面のくせして失礼なやつだな。


「うん、盛大なブーメランをありがとう」
「・・・」


打てば響くように軽口が帰ってくる。こういった風に軽口をたたき合うのは友人になってからだと思っていたけども例外はあるもんなんだな。


「ん?あったらもう友人だ・・・と言いたいがあいにく俺はそこまでお人好しじゃない。あ、俺の名前は角先。角先達也だ」
「紅美頼」
「よろしく、紅」


気さくな人なんだな。こんな性格ならわざわざ僕に声をかけなくっても他に友人なんてできるだろうに。なんで僕に声をかけてきたんだろう。


「それは、お前面白そうだからだよ」


面白そう?


今まで聞いたことのない評価だ、僕をみて面白そうだなんて、頭大丈夫なんだろうか。自分で言っていて悲しくなってくるけど、こんななんの取り柄のない僕になんの面白みがあるんだろう。


「頭は大丈夫だっつーの。正常だよ。お前言っていたじゃないか。『変わりたい』って」


聞かれていたのか・・・別に人に聞かれたら・・・恥ずかしいやつじゃないか。高校デビューって笑われてしまう。


「心配するな。笑はしないよ」
「え?」
「別にいいと思うぜ?そんなことを素直に口にしないだけでみんな思っていることだし。みんなバカにするのはな、自分には言えないのになんで言えるんだ・・・っていう嫉妬の裏返しなんだよ」


そんなことを思って見たことがなかった。それを聞けば僕の気持ちは少しだけ穏やかになった気がする。


「だから面白いって思ったんだよ。珍しいからな。今時変わりたいなんて口に出すやつ」


やっぱりこいつ楽しんでいるんじゃないか。まったく入学早々変なやつに絡まれてしまったな。・・・でも


こいつとなら、何か変われるんじゃないかな


そう、思っていた。
















「でも実際のところは・・・やっぱり変われなかったな」


変わったのは上辺だけ。上辺だけ取り作ろって、角先のおけげで他の人と話すことができるようになったけれど・・・結局は角先が要所要所でサポートしてくれていただけで僕は何も変わっていない。


「僕はいつまでたっても・・・弱いままだ」


涙が溢れる。ずっと抑えていたんだろう。それが一気に溢れてきた。


「結局・・・僕は、変われてない。何もできない・・・自分から動けない」


苦しい・・・現実を突きつけられるのは・・・辛いよ。


なんで僕だけやられなかったんだろう。僕だけがやられたらよかったのに。少しばかり調子に乗っていた。高校に入った時も、今も。高校に入った時はまだ良かった。角先という友人ができた。でも今は?電気というスキルを手に入れて、有頂天になっていた。僕にはなんでもできるんだって思っていた。でも・・・現実は・・・実際は・・・


「僕なんて・・・僕なんていなくなれば・・・」


だめだ否定的な思いが後を絶たない。ネガティブな感情に埋め尽くされる。一度悪い方向に傾きだしたらもう止まれない。自分自身では止めることはできない。


「そうだよ・・・こんな僕なんて・・・」


「「こんなじゃないだろ」」


自分自身では止めることができなくても・・・誰かの言葉で救われることがある


「そりゃお前は変なやつだけどさ。ずけずけ言ってくるけどさ、それはお前が周りの人をよく見ているってことだろ」


そんな風に考えたことはなかった。僕が周りの人をよく見ているなんて・・・


「そうだよ。それに仕方がないよ。戦えないのは」


それは僕が弱いから・・・弱いから仕方がないんだよな


「そうじゃない」


じゃあ・・・


「じゃあなんだって言うんだよ!」


自分でも思っていたよりも大きな声が出た。自分の中にある暗い感情。それに比例して溜まっていたどす黒い感情。それが堰を切って溢れ出したみたいだ。


「俺たちが戦えたのは俺たちが目的を『覚悟』を持っていたから」
「だから」
「最後まで聞けって」


そう言われてしまえば黙るしかない。でも、こいつらが持てていた『覚悟』というやつを僕はまったく持てていない。それは僕が弱いことに他ならないのではないのだろうか。


「人が『覚悟』を決める時が早いか遅いかの話だろう。そこに強いも弱いもないよ。それに紅、お前は変わりたいと願っていた。そして足掻いていた。俺はずっと見てきたからな」


ー最初に出会ってからー


「え?」


角先の顔を見る・・・ずっとうつむいていたから気が付かなかったけど、角先は、笑っていた。


「お前が頑張っていたこと、変えようとしていたこと、俺は知っている。なにも変わらない自分にイラついていたこともな」
「そんなことは・・・」
「いいんだよ。俺が『勝手に』思っているんだけなんだから」


心に突き刺さる。でも、麒麟の時とは違う。どこか、暖かい。自分が認められた気がする。優しく受け止められた気がする。


もしかして・・・変われたのかな?変われていたのかな?でも・・・・


「僕にはその自信がない」
「・・・はあ堂々巡りか」


なんと言われようとも、僕自信の考えは変わることはない。もしかしたら自分で自分自身に殻を被せているのかもしれないけど、それでもどうしようもない


ーあなたはこの世界で何をしたいですか?


昨日の夜に四万十さんに言われた言葉。あの時はなにも答えることができなかったけど・・・


ー人が『覚悟』を決める時が早いか遅いかの話だろう


さっきの角先の言葉。早いか、遅いか。でも、もしかしたら・・・僕が覚悟を持てるのは「今」かもしれない。敗北を知って成長すると聞く。今僕は打ちのめされている。成長できるチャンスかもしれない。


僕にできるのかな・・・


「「紅なら大丈夫だって」」


すぐに即答してくれる。こんな友人がいるとは幸運かもな。でも、


「悪いけど・・・僕はまだ自分に自信が持てない」


今僕が君たちに話していられるのは、君たちが信じた『僕』でいたいから


だから、その思いを大切にしよう


「だから、まずは僕は『僕に自信が持てるようになりたい』」


『自分に自信を持ちたい』そのために変わる環境が整っている。異世界というまったく新しい場所だ。高校デビューだなんて結局は新しい場所で新しい自分を見つけたいそれだけの話。


そしてそれが高校ではなく、異世界になっただけだ






僕は、僕の目的を果たすために・・・・この世界を生きる!

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