電気使いは今日もノリで生きる
展開が急すぎてついていけない
なんやかんやで一旦落ち着くことができた。雨さえ降らなければ当面の衣服と食事は解決したといってもいい。と、なれば出てくるのは当然、今後の方針ーそれもこれからの未来を決定づける方針だ。
「俺はここから移動するべきだと思う。川に沿って進んでいけばいつかはこの森から出られるだろう」
一つはここを拠点とするのではなく移動しながら脱出を図るやりかた。みんなで移動するのでそれなりのペースをもって動くことができる。主に主張しているのは角先で、賛成しているのは僕と麺山と山胡桃さん。
「それは反対ね。まずは安心できる拠点から見つけましょう。あてもなく移動するよりもこちらの方がいいと思うわ」
もう一つが先に拠点を作るというもの。そしてそこを中心に探索を行っていけばいいという考え方だ。拠点があることによって精神的な安定が見込める。ただし、前者と比べるとかなりペースが落ちてしまうのは否めない。主張しているのが五月雨さんで賛成が天衣と米柔と四万十さん。
綺麗に半分に割れてます。この場合どっちが正しいのかわからないからどうすればいいのかわからないって感じかな。
「今は運がいいことに動物にも遭遇してないし、天候にも恵まれている。もしかしたらそのうち病気にかかるかもしれない。だから早くこの森を抜けるべきだ」
「だからってあてもなく彷徨っても埒があかないでしょ。天候に恵まれているからこそ今のうちに悪いときでもなんとかなる場所を探すべきよ。それに動物や病気は私たちのスキルでなんとかすればいいんじゃない?」
なんだろう。僕としてはさっさとこの森を出たい。正確には山胡桃さんとの気まずい空気を早くなんとかしたという気持ちでいっぱいなんだけども気持ちが傾いてきたな。さすがは委員長しっかりとした意見だ。ああ、この森を抜けることと空気の解消にどんな関係があるのかというと、単に町とかにいって、王都とかにいけば学校があるでしょ。もしくはギルド、騎士団でもいい。多分。異世界だし。なかったらそのときはそのときだけど希望は持ったっていいでしょ。さて、そういうのに所属すれば無駄に関わる必要なんて無くなるからね
「うーん、確かにそうなんだけど・・・」
角先が濁した言葉の先はなんとなくわかる。僕を気遣ってくれているんだ。でもそういった私的な理由から、五月雨さんの意見の方がいいという思いになってきている
「・・・なあ」
みんなの気持ちが五月雨案に傾いてきた頃に、天衣が発言する。追い打ちかな
「別に角先の方がいいとは思わないけど、二つのをまとめりゃいいんじゃね」
「「「「「「あ」」」」」」
どのみち、どちらの意見になったって移動することは間違いないのだから、まずは川に沿って進んで行く。その過程で拠点を見つけていけばいいというものだ。具体的には1日移動して三日ぐらい周囲の探索のペースだ。途中で拠点になりそうな場所を見つけられればそこを中心に動けばいいし、結局森を抜けたとしても・・・それはそれでいいしね。
方針が決まったところで、今日は朝から風呂の関係でドタバタしていたというので移動は明日からということにした。まあもう昼は過ぎていそうだしね。魚の丸焼きもこんかいで3食目。少し飽きてきたよ。まあ食べられているだけましなんだろうけど。
つまりは自由行動。まあ自由といってもできることなんてたかが知れてるし、探索か、寝るか、川で遊ぶかぐらいだ。それを聞いて早速川に飛び込んで行ったのが麺山と米柔。あいつらほんと懲りないな。
「まったくだ。もう乾かしてやんないぞ」
「いいよ、次は僕がかわりにしてやるさ」
笑いながら天衣と話している。どうしよっかな。探索は朝やっちゃったし、風呂騒動で少し疲れちゃったし僕は寝ようかな
「紅はどうするよ」
「寝る。疲れた」
「まあ確かにな・・・俺も正直探索は嫌だな」
二人仲良くのんびりと過ごす。でもそんな二人に近づいてくる人が一人。
「天衣と紅、もしよかったら一緒に探索に行かないか・・・頼むよ」
断るつもりだった。角先は朝探索に出かけていなかったから行きたいのだろう事は容易に想像がついた。でも、最後に添えられた「頼むよ」の言葉、これにはおもわず顔を見合わせてしまう。
「仕方がないか。つきやってやるよ」
「・・・まあいいか」
あまりに真剣な表情をしているから結局承諾してしまった。そもそも探索なんて二人いれば事足りるのにわざわざ3人でってのもちゃんとした理由があるんだろう。探索ってのは建前でもしかしたら何か話したいことがあるのかもしてない
しかし、予想に反して何も言ってこなかった。しばらくは無言で進んで行く。誰も何も言わない。静かに進んで行く。どれくらい歩いたのだろう。少し疲れてきた頃に、しびれを切らしたのか、天衣が言葉を発す。
「なあ、俺たちを誘った理由をそろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」
「ああ、そうだな。お前らにはさすがに話しておいたほうがいいと思ってな。止められてはいるんだが・・・」
この言い回しにピンときた。そして選ばれたこの人選、絶対に僕とあのひとの間にある気まずい空気のことに関してだ
「山胡桃のことなんだけど・・・紅には悪いが、誤解しないで聞いて欲しいんだ」
そう言って話し始める内容は昨日の夜、二人で見張りをしていた時の事だ
「ねえ、紅くんってさ」
「うん?」
「いつもあんな感じなの?」
「あんなって・・・いやそうじゃないよ。疲れてたんだよ」
山胡桃さんが言いたい事はわかる。紅の行動だ。あの時は俺がいたからなんとかなったけど、俺がいなかったらあいつクラスメイトを殺した事になってしまうよな
正直な話、あいつが切れてここまでするとは完全に予想外だった。いつものあいつなら切れずに文句の一つでもいうのかなって思ったが・・・詳しい事はわからないが、俺があいつの立場なら間違い無く怒るだろうしその際に同じ行動を取ってしまうのかもな
「実は私ね。昔殺されかけた事があるの」
「え?」
初めて聞く事に驚いた、殺されかける経験、それをした事があるなんて。
「小さい時に、近くで強盗殺人が起きたの知ってる?その犯人がね私を人質にとって逃亡しようとしたらしいの」
その際に自分以外の誰かからの強烈な殺気を受けたそうだ。それ以降同じような出来事に遭遇する事が無かったために忘れる事ができていたが・・・
「昨日のお前が本気で電気を放ったのを見てトラウマが再発しそうになっているみたいだ。お前に対して冷たく接しているのもパニックにならないためだろうと思う。ついでに言えばまだその犯人は捕まってないみたいだ。違うとはわかっていてももしかしたらという疑念が拭えないんだろう」
「それは・・・」
「うーん。難しいな」
角先のいう事が正しいとすれば僕は山胡桃さんのトラウマを抉ったことになる。それを受けてのあの態度なら・・・まあまだ許容範囲という事になるのかな。
「あれは正直事故だし、お前も本気で殺そうとしたとは思ってもいないさ。でもだからちょっとな」
言いたい事はわかる。でもだからってどうしろって言うんだろう。話しかけなければいいのか。それだと他の人に怪しまれるぞ。
「わかった。ここは俺と角先がなんとかするよ・・・というかなんとかするしかないだろ。フォローはしてやるから気負わずに行け。こういうのは当事者がちゃんとしていたら周りの人は気づく事がないんだから」
天衣の言葉にありがたく頷く。聞いたところで僕は山胡桃さんに対して何も思わない。角先も言っていたがあれは事故だ。そりゃ殺したかもしれないからその事は謝るけど僕の行動の理由も考えてくれないとね
「頼むからその態度だけはださないでくれ・・・」
「まあ冗談を言えるから大丈夫かな」
二人に呆れられるも思わず笑みがこぼれる。3人で仲良く笑っていた。笑う事はいい事だ。笑っている事で寿命が延びると聞いた事もあるけど、とにかく笑う事で気分が良くなる。しばらくずっと笑う事に集中していた。そんなに集中し無くても今の空気ならば笑う事はたやすかったけどね。
ーだからこそ、気が付かなかった
「!危ない」
最初に気がついたのは天衣。慌ててその場所から飛び退くと僕がいた場所に爪が振り下ろされた。
「なんだ?」
「マジかよ・・」
この森に転移した時からずっと懸念していた事、今までが都合よすぎた・・・そもそも1日ずっとなんの動物に出会わなかったのはおかしい。姿はともかく、声さえも聞こえなかったのは。
その意味は・・・その理由はおそらく、ここら辺がこいつの縄張りだからだろう。見るからに強そうな・・・凶暴そうな熊がそこにはいた。なぜか電気をまとっているように見えるのは気のせいだろうか?
「どうする?戦うか?」
「戦うって言われても・・・しゃがめ!」
言われ無くてもしゃがんでいるよ、明らかにヤバい動きをしてるもん。熊が腕を横一線に振り抜く、そこから放たれる斬撃!そしてそれは周りの木々を襲う
ドーン、バサバサバサッ
「・・・」
「戦うしかないのか」
爪によって周りの木々が切り倒されて、このあたりが開けた場所になっていた
「グルルルルルル」
何を言っているのかわからないが、多分あれだろ。「逃げられると思うな」ってね
初めての戦闘だがなんとかなるだろうここは僕一人じやない。天衣と角先がいる・・・だからお願い僕の足よ、動いてくれ・・・
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