電気使いは今日もノリで生きる

歩海

異世界を生きる意味



「おい、起きろよ」


ぐっすりと寝れていたのだろう。多分ここしばらくで一番寝ていた気がする。だからこそ、急に叩き起こされた時に若干機嫌が悪かった。


「なんだよ角先・・・角先?」


あれ、なんで角先の声がするんだ?お泊まり会とかそんなイベントをしたっけ?少なくとも僕は普通に家で寝ていたはずじゃなかったっけ。


「おい、寝ぼけてるのか?しっかりしろよ。。ここはどこかわかるか?」


ここ?僕が寝ている場所?地球の・・・角先がいるってことは僕の家か?あいつなんやかんやと理由をつけて家にあげさせてくれなかったしな。幼い妹がいるとか親がいないとかで。まあ、クラスに一人いるようなタイプだよ。まあ高校生にもなって友人の家に遊びに行くなんてそんなことなかなかしないよな。


「いや、私は普通に友人の家に遊びにいくよ?」
「え?」
「むしろ紅くん友達の家に行ったことないの?」
「ぐっ」


痛い。何かがどこかにぐさっときたぞ。こ、これがリア充というやつなのか。山胡桃さんがリア充なのかどうかは置いといて「うるさいわね」


バチン


「お、おいさすがにやりすぎじゃないか?」
「・・・別に”殺そうとした”わけじゃないしいいじゃない」


どうやら頬にビンタをされたようだ。もう一発くるかもしれないから身構えておこう。今の一撃によってしっかりと目が覚めてしまった。僕はあいにく信心深い方ではないので右の頬を打たれたら左の頬をなんて精神を持ち合わせていない。それよりも・・・やっぱり気にしていたか。


「ちょ、山胡桃・・・さすがにその言い方は・・・」
「だからなに?こいつは私たちを殺そうとしたのよ?事実を言ってなにが悪いのよ」
「だからって「いいんだ角先」紅・・・」


必死に弁解しようとしてくれている角先の気持ちは嬉しい。だからこそ、僕は自分のしたことにきちんと向き合わなければならない。それに・・・きちんと謝罪をしておきたかったしな。


「それについてはすまないと思ってる・・・弁解できることではないけれでも」
「・・・そうね。今はそういうことにしておくわ」


そのまま誰とも目を合わせずに眠ってしまった。元からすぐに誤解を解くことができるとは思っていなかったけど・・・それでもきついな。


「すまんな紅。山胡桃のやつ、危うく死にそうになったことが大分恐怖だったみたいで」


それでもこうして角先が気にかけてくれる方が辛い。その優しさが逆に辛いってやつだな。「そういう冗談が言えるってことは大丈夫だろ。ま、元から心配してないけどな。んじゃ俺は寝るんで見張りよろしく」
「あ、ああ」


角先も寝たようだ。そりゃ僕もぐっすり寝てたんだしあいつも疲れているはずだしな。おまけにあいつはなれないリーダーのポジションまでやって。精神的にも疲労しているだろうに。


「・・・あの」


そういえば見張りって一人じゃなかったー。もしかしてもしかしてですよ・・・これは、女子と二人っきりな展開ですかそうですよね。ちょっと暗い気分だったけどもこの事実に気がつくことができたから一気にテンションが上がった気がする・・・と、声かけられていたな。返事しなきゃな。


「あの。”殺そうとした”ってのはどういう意味ですか?」


一気に夢から現実に突き落とされた気がした。女子から話しかけられたテンション上がっていたけど聞いてくる内容が一番避けてほしい話題だとは。そりゃ確かに『殺す』だなんて物騒だよな。気になって仕方がないよ


「も、もちろん無理にとは言いません。でも・・・」


黙ってしまった僕に気を使ってかそんなことを言ってくれる。四万十さんは本当に優しいなぁ。どっかの誰かさんとは大違いだ。まったく爪のアカでも煎じて飲ませてあげたいよ。


「大したことではない・・・と言っていいのかわからないんだけど、いわゆる僕の不注意だね」


今日あった出来事についてかいつまんで話す。四万十さんたちは少し離れたところにいたから知らないんだな。


「なるほど。そんなことがあったんだね」
「え?納得できるの?自分でいうのもなんだけど一歩間違えれば僕は彼らを殺してたんだよ?」


返ってきた返答は僕を混乱させるのに十分だった。クラスメイトが人殺しになりかけたってのにかなり落ち着いていられる。そんな高校生は一体何人いるというのか。


「すぐに納得したわけではないですよ。ずっと考えていたんです。ここが地球でないならば、不思議な力を手に入れたのなら・・・きっと人を殺す、それが当たり前に起きたとしてもおかしくないって」
「それは・・・」
「だって現に紅くんは友恵ちゃんたちを危うく殺すところだったんでしょう。地球と比べて私たちは互いに・・・互いを・・・簡単に・・・殺せる・・・世界に来てしまったんです。それを受け入れないと・・・いつかきっと取り返しのつかないことになる。そう思っているんです」


簡単に死んでしまうかもしれない。これは昼頃に思ったことだ。でもそれだけじゃなかった。いるでも僕たちは他人を殺す側に回ってしまう。地球でも同じことは言えると思う。包丁は大体の家庭においてあるだろうからそれを使うことで人を殺せる。だが、実際にそんなことを実行する奴なんていない。倫理観とか正義感とかとにかくそういうものがあるから実際に人殺しなんてそんなにいない・・・まあ殺人事件とか起きてるから多少はいるのかもだけどね。でもこの世界ではそんな常識なんて通用しない。異世界なんだ。この世界に生きている人を実際に見たわけではないからなんとも言えないけど異世界に行った人はみんな生き物を殺すことに抵抗がなくなっている。全ての人がそうではないが、僕もきちんと覚悟しておくべきだろう。


「だからこそ、ちゃんと覚悟・・を決めておくべきだと思うんです・・・紅くん。教えてくれませんか。あなたはこの世界で何をしたいですか?」


その問いは僕をずっと苦しめることになる。四万十さんは特になにかを意識したわけではないのだろう。純粋に興味を持っただけだ。これからこの世界で生きていくためにはただなんとなく生きるのではきっとすぐに死んでしまう。だからこそ、ちゃんとした目標が必要なんだ。そして彼女はそういった知識がない。少しでも知識を持っている僕に聞いてきたんだろう。


「すみません。すぐに答えなんて出ませんよね」
「そうだね・・・急すぎて考える暇もなかった。考えておくよ。それよりもどうして僕にこんな話を?」


四万十さんってこんなに話す人だったっけ。も、もしかして僕に気があるとか・・・


「なんでって・・・単に話す相手があなたしかいないからですけど」


ですよねー。でもまあ僕に対して変な恐怖心を持っていないようで安心かな。せっかくだし、もう少し会話でもしてみるか。


「そ、そっか。でも不思議だよね。念じるだけで超能力が使えるなんて」
「そうですね。・・・あ。他に何がありますか?」
「?」
「えっと。皆さんこういうのに詳しそうですし。『聖』スキルってどんなものが他にあるのかなって」


聖属性ね。これを説明するのってなかなか厄介だよな。世界によってまちまちだし。いいや。時間は結構ありそう「そういえば、どれくらい見張りをしてればいいの?」「さあ、時間は適当でいいからまあそこら変は各自の判断に任せる、と」なるほど、じゃあそれなりに時間はあるわけで、それならきちんと話しておくべきか。


聖属性は主に二種類存在していると思う。まず一つ目が悪を祓う勇者専用のスキル。僕の電気や天衣の風といった基本属性のスキルよりも強い力を秘めていることが多い。幽霊といった悪霊を祓う力もこれしかない感じかな。二つ目が聖女などが使う回復系。少しの怪我ならたちまち回復し極めていけば失った体の部位までも回復することができるって感じだ。この世界での扱いがどちらなのかはわからないけど、それでも十二分に強いスキルであることは間違いない。


「そうなんですね・・・わかりました。回復魔法の練習をしてみますね」
「お役に立てたのならよかった」


そんな感じで当たり障りのないことを会話しながら異世界生活1日目は終了した

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